東南アジアの選択、中国に傾斜するが…リベラル民主主義と権威主義のどちらを選ぶ?―赤阪清隆・元国連事務次長
Record China / 2024年12月14日 11時0分
他方、アジアは孫文が強調したように従来から覇道の文化を軽視し、仁義道徳の文化、すなわち王道の文化を有している。現実の中国がこのような王道の文化を体現しているとは言い難いが、東南アジアの人々は荒々しい西欧文明よりもむしろこのような東洋の文化に深い愛着を寄せる。それゆえに、同地域には文化的にも米国よりも中国や日本に親近感を持つ人が多いと見受けられる。これは、マレーシアのような国に少し住んでみると、日々肌で感じることができる。この文化、文明的な選好というのを、欧米のメディアは十分理解していないのではないだろうか。
アセアン諸国の外交方針は必ずしも一枚岩ではない。例えば、国連での投票態度についても、アセアン諸国はEUメンバー国のように統一的な対応を示すわけではない。ロシアのウクライナ侵略の即時停止を求める国連総会決議に対しても、マレーシアやシンガポールなど賛成する国とベトナムやラオスのように棄権する国に分かれた。
自国ファーストを唱えるトランプ政権が来年1月に再び発足するのに伴い、ますます多くのアセアンの人々が米国に幻滅を覚えて、中国になびく可能性がある。アセアンに対するアプローチは、アセアン全体に対するものよりも、その個別のメンバー国の状況に配慮したアプローチの方がより効果的だと思われる。
日本としてできることは限られていようが、アイデアの一つは日本がアセアンのいくつかの主要国とリベラルな経済貿易体制の牙城たる経済協力開発機構(OECD)とのつながりを深めるよう橋渡しの努力を強化することだ。数多くのOECDの経済、金融、税制、貿易、開発などのプログラムに引き込むよう、これまで以上に積極的に、かつ戦略的に働きかけを行うことが望まれる。
OECDには、長年ロシアが加盟の意向を示しているが、その政治経済体制のためにこれまで加盟が認められてこなかった。中国は個別分野でOECDとの協力を行っているが、OECD加盟となると遠い将来のことであろう。OECDはその一大特徴であるメンバー国間のピア・レビュー(相互評価・検証制度)によって、ガバナンスや経済、社会制度を西側寄りに近づけることができる。米国は2000年代に入って中東諸国へのこのような働きかけを強めたが、アセアン諸国を相手にした働きかけは長く日本がリードを保ってきた。
アセアンでは最初にタイが2000年代初頭のタクシン政権時代に、2020年までに加盟したいとの意向を表明した。しかし、2006年の軍事クーデターでタクシン首相は解任され、OECD加盟問題は雲散霧消した。その後、インドネシアがOECDとの関係を深め、24年2月にはOECDとインドネシアとの間の加盟協議が開始された。そして、タイも再び加盟の意思を表明した。両国の後にはマレーシア、フィリピンなどが控えている。OECD加盟にこれまで消極的なシンガポールもそのうちに同調するであろう。
アセアン諸国、ひいては日本のような関係国にとって大事なのは、アセアン諸国が米国寄りか中国寄りかの問題ではなく、日本などと肩を並べてリベラル民主主義体制を選ぶのか、それとも中国のような権威主義的で閉鎖的な国家体制を志向するのかの問題だ。回答は自明であろう。
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