コストと性能のバランス『リムスピニング製法』のアルミホイールに注目~カスタムHOW TO~
レスポンス / 2023年10月31日 6時30分
アルミをドロドロと流し込む鋳造。アルミをプレスで押し潰す鍛造。そのいいとこ取りのようなホイールがリムスピニングと呼ばれるもの。どんな長所があるのだろうか。
アルミホイールは大きく分けると2種類の製法がある。鋳造製法は型にドロドロに溶けたアルミを流し込んで固める方法。南部鉄器などと同じで古来からある製法でもある。
特徴は型に流し込んで作るので、細かい造形もできること。デザイン性の高さがある。また、型さえ作ってしまえばどんどんアルミを流し込んで作れるので大量生産向きで、製造コストが下げられるのがメリット。純正アルミホイールの多くはこの鋳造で作られていて、アフターパーツのホイールでもリーズナブルなものはほとんどこの鋳造製法で製作されている。
鍛造製法はアルミ素材をプレスで潰して成形していく製法。熱した鉄を叩きながら成形していく刀の作り方に近いのがこちら。
アルミ素材を熱した上で5000~1万2000tもの力で押し潰す。この時にアルミの素材が潰されてそこには鍛流線と呼ばれるものができる。これは筋肉に入る筋のようなもので、素材同士の結びつきを強くしてくれる。それによって素材が強くなるので、薄くしても剛性や強度が保つことができ、結果として軽量なホイールを作ることができる。
レースでは鍛造製法のホイールが使われることが多い。それはやはり剛性の高さからハンドリングに優れることや、軽さが得られること。強い衝撃を受けても割れにくいことなどが理由である。ちなみにF1では鍛造製法だが素材はマグネシウムが使われ、2022年からは全チームが富山県のBBSジャパンで製造されている鍛造マグネシウムホイールを使用している。
鍛造製法の問題としては型で押し潰すので細かい造形はできない。例えばスポークのサイドをくびれさせるような造形は型で押し潰すので無理。たいやきや人形焼きのようなイメージなのだ。
もしくはそもそもスポークなどを成形せず、貝柱のような素材を潰してお煎餅のようにして、そこからNC旋盤と呼ばれるドリル的なもので掘ってスポークを作っていくこともある。レース用などの少量生産ではこのお煎餅をあとから切削していく製法を使うことが多い。
いずれにせよ1本ずつ高額なプレス機で時間を掛けてプレスして、それから切削加工などを施さなければならず、大幅にコストが掛かる。鋳造製法の2倍以上の価格になることも珍しくないのだ。
どちらにも一長一短があるが、その間の美味しいところを狙っているのがリムスピニング製法のホイールだ。まずベースとなるホイールは鋳造製法で作る。リーズナブルに製作できる鋳造でホイールを大まかに作り、そこからリムなどをローラーで押しつぶして伸ばしていく。
リムだけ鍛造製法にしているようなイメージである。ホイールの外周部であるリムを強くすることで、薄くすることができ、外周部を薄く軽く強くすることでホイールの基本性能を高めることができる。それでいて鍛造製法ほど手が掛からないのでコストも抑えられる。軽くて強くてそして安いというのがリムスピニング製法のホイールの特徴なのだ。
ホイールの性能は軽さだけではない。軽いほうが路面追従性も良くなり運動性能が高まる。サスペンションのスプリングよりも下側のタイヤに近い部分の重さのことをバネ下重量というが、このバネ下重量は軽いほど運動性能が高まる。その軽さの効果はバネ上の5倍や10倍も効くと言われている。
また、軽いホイールは回転慣性も減るので加速も鋭くなり、ブレーキも効きやすくなる。加減速の性能も向上させることができる。しかし、現代ではクルマは衝突安全に対する考えからどんどん大きく重くなっている。それに合わせてエンジンパワーも増え、モーターと併用することで大きなトルクが発生しているハイブリッド車も多い。
そこでホイールにはこれまで以上に強さが求められている。10年前は軽さが重要だったが、現在は軽さと同時に剛性と強度も高くないとホイールがたわんでしまってハンドリングが曖昧になったりしてしまう。各メーカーでも最新車両に合わせてホイールのリニューアルが進められていて、若干重くなりつつも高強度、高剛性にしてデビューしているホイールも増えているのだ。
そんなホイールに求められる性能が高くなっている昨今、そういった性能を実現しつつもコストが抑えられるリムスピニング製法のホイールはこれからも増えていくであろう注目の存在なのだ。
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