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【アルピーヌ A290 海外試乗】日本導入は2026年!初EV「A290」は近未来のホットハッチだった…南陽一浩

レスポンス / 2024年12月26日 12時0分

プラットフォームからパワートレインにボディ外寸、エクステリアとインテリアのデザインにインフォテイメント含むギミックや装備まで、トータルですべてが新しい車であると、どこから説明しようかと迷わされる。そしてそれらの要素のひとつひとつが、素晴らしく磨かれて調和しているとなれば、尚更だ。


いきなり総花論的な言い方になったが、アルピーヌ初のBEVである『A290』が試乗を通じて残した印象は、どの角度からも鮮烈なものだった。


全長3990×全幅1823×全高1512mmというサイズ感は市場セグメントでいえば欧州Bセグとはいえ、高品位な仕上げやパフォーマンス志向の走りは、プレミアム相当であることは間違いない。乗り込むと早々に、通常のBセグハッチバックとはほど遠い存在であることも分かる。サイドシルががっしりと太く、車内にアクセスするにはある程度、しっかり跨いで乗り込む動作が必要なのだ。乗降性に支障をきたすというよりは、並のBセグ離れした高剛性ボディの造りをしているということだ。むしろBEVのホットハッチを標榜する1台ゆえ、歓迎すべきディティールだろう。


とはいえ「A290 GTS」(4仕様あるうちの最上級トリム)のオフホワイト&ネイビーのナッパレザーによる上質なインテリアに身を落ち着けると、これまでのBセグ・ホットハッチ基準を完全に上回る質感の高さに圧倒されつつ、SUVのような視点の高さにも気づく。FFベースの“SUVクロスオーバー”というのはここ数年、それなりに流行った車型でありコンセプトだったが、A290は純粋なハッチバックでもなくSUVクロスオーバーでもない。往年の「ルノー5(サンク)アルピーヌ」に着想を得たエクステリアといい、5ドアで全長4mに満たないコンパクトなボディといい、デジャヴュのようでじつはけっこう新しい車型でもある。


◆新型「ルノー5」と基本を共通するアルピーヌ A290


プラットフォームはルノー・グループの「AmpRスモール」で、欧州でほぼ同時期に発売されるルノー『5 E-TECH』と基本的には共通する。しかしフロントボンネット下でパワートレインを抱き込むサブフレームとホイールハブはアルミニウム製の別物で、ワイドトレッドかつ僅かにショートホイールベース化されており、プロダクト開発リーダーのチャーリー・ビアルドー氏は「スケートボード・プラットフォーム」と説いてみせる。ナロートレッドでロングホイールベースの「ロングボード・プラットフォーム」が直進安定性や乗り心地を重視するのと対照的に、そもそも当初からアジリティとハンドリングのヴィヴィッドさを重視した設計だというのだ。


バッテリー容量は52kWhで最大航続距離はWLTCモードで約380kmほどだが、ホットハッチとしてBEV化の最大の恩恵を受けたポイントは、57:43という前後重量配分の最適化だ。従来的なICEならフロントに約65%が寄っていたほど。ちなみに車両重量は欧州発表値で1479kgとされており、日本の型式認証でも1500kg強に収まることが予想される。BEVのFFとしては相当に軽量、かつ均整のとれた重量配分といえるだろう。


ちなみにタイヤ&ホイールのサイズは225/40R19で、ミシュランと2年をかけて共同開発された“A29”の専用コードをもつ「パイロットスポーツS 5」が装着されている。セッティングを担当したテストドライバーのダヴィッド・プラシュ氏によれば、「BEV向けのタイヤはどうしても転がり抵抗の軽減重視のタイプが多くて、A290の求めるアジリティに応えるもの、つまり横方向グリップを強化したものがなかったから、開発の必要があった」という。


ちなみにこのタイヤ銘柄、今のところメーカー純正では21インチ展開がおもで、メルセデスAMGやレクサス、ポルシェが使っていると聞けば、19インチで専用開発したアルピーヌA290のこまっしゃくれたホットハッチぶりが窺い知れるだろう。なお、ブレーキは『A110』と共通のモノブロックの4ポッドキャリバーを採用し、ディスク径はフロント320mm、リアは288mmとなっている。A110より重量は増しているがBEVゆえに3段階の回生モード+コースティングを備える以上、容量的に十分という判断だ。


◆往年の名車を彷彿させるエクステリア


これだけドライビング・パフォーマンスにふったBEVであることを思えば、5 E-TECHと似て異なる、やんちゃなエクステリアとライトシグネイチャーも納得いく。


「X」4灯のフロントマスクは、よく見れば内側2灯はバンパー側一体ながら、ブレーキ冷却のみならず駆動輪の外側整流を担うカナード状のフェンダー前端、また積層状にリアディフューザーを兼ねるリアバンパー、そしてリアハッチゲート上のダックテールなど、空力面でかなりの工夫が見られる。ワイドトレッドと19インチ大径ホイールの踏ん張り感といい、じつは無駄にコスメティックなディティールのない、質実剛健なデザインなのだ。


1970~80年代の「5アルピーヌ」や「5ターボ」のシートを少なからず彷彿させる、バケットでこそないがスポーティなシートに腰を落ち着けると、浅いバスタブのような視界の広さと角張ったメーターバイザーが、本当に5に似ていて懐かしささえ覚える。しかし一方で、シフトコンソールのRNDボタンはA110と共通だ。天地がややフラットになった変形オーヴァルの3スポークステアリングには、レベル2のADASやショートカットボタンが配される他、右手親指位置に赤いオーバーテイクボタン、右下と左下にそれぞれ、ドライブモード切替ボタンと回生モード(RCH=RECHARGE)の4段階ダイヤルを備える。


横一列に並んだエアコン操作のトグルボタンバーや、肘元のコンソールボックス、ドライブモードに応じて照明色を変えるアンビエントライトや車名ロゴを配したダッシュボードパネル、そして天井張り地にまでブロックパターンが施されるなど、内装の仕上げは驚くほど高品位だ。リアシートの座り心地だけは、Bセグの伝統ではあるが見切られているところ。足元のフロアが高くて狭く、膝頭がどうしても持ち上がる座り心地だ。


◆申し分のない乗り心地とハンドリング、その気になればテールスライドも


いざ走り出してまず気づくのは、加速フィール。BEVにありがちなドン!と突然トルクが立ち上がるタイプではなく、ストロークの長いアクセルペダルを深々と踏み込んで、リニアに息の長い加速を味あわせる。右手親指で例のオーバーテイクボタンを長押しすると、普段は設定されている出力上限が解かれ、正面のメーター表示でトライアングルのトンネルが明滅し、ワープするように強烈なトップアップ加速が始まる。もちろんバッテリーの電力消費は速まるが、F1マシンを彷彿させるユニークな仕掛けだ。


逆に左下のRCHダイヤルを切り替えると、回生ブレーキをほとんど効かせないコースティングモードに加え、アクセルオフで0.1G程度とICEに近い減速Gを発生する1段目、もう少し強めで下り坂などで便利な2段目、そして3段目の最強回生ではワンペダルに近いドライビングが可能になるが停止時にフットブレーキは要するモードになる。個人的には、ダイヤルよりもパドルで回生の強弱と有無を変化させられたら、走行中にもステアリングから手を離さず切り替えやすいと思ったが、マメに変えるより状況に応じて選んで走るもの、という考え方なのだろう。


乗り心地とハンドリングに関してはさすが、申し分ない。ショートホイールベースなのにどっしりと落ち着いたライド感に、中立付近がきっちりと据わったステアリングフィールで、高速道路ではFFで運転支援機能が付いている分、A110より楽かもしれない。それでいてワインディングやサーキットでは、ドライバーの意図する荷重移動に適切なロールスピードとしなやかなストロークで応じてくれ、どんな速度域でもニュートラルステアを持続する。その気になればテールスライドも誘発できるし、リアの出方はあくまでプログレッシブである点まで、確かにA110そっくりだ。


ミズスマシじみた横っ飛び系のアジリティでも、『メガーヌR.S.』のようなピーク・パフォーマンスを目指して尖らせたシャシーでもない。入力が大きくなるほどに反応のレベルが上がるというか、車と濃密なやり取りを交わせて挙動コントロールが楽しめる、そういうシャシー・セッティングの方向だ。


◆ドライビング・プレジャーを支えるサウンドの妙


加えてA290のドライビング・プレジャーの大きな下支え要素となるのが、GTSとプレミアムという上位グレード2仕様では標準装備の「アルピーヌ・ドライブ・サウンド」というシステムだ。これはフランスのハイエンド・オーディオのメーカーであるドゥヴィアレと15年もかけて開発された代物で、A290の車載オーディオ・システムそのものには、かれこれ250もの特許技術が盛り込まれているという。そのひとつが、電気モーターの駆動音を電気信号として拾ってデジタル・プロセッシングし、タービン音にも似た独特のモーター・ハミングに仕立て上げ、車内スピーカーで再生する技術だ。これは外には聞こえず、当然ドライバーの加速や制動操作に応じて音色が変化する。


BEVといえば極端に静か、または高周波音の中で、味気なく力強い加減速が繰り返すドライビングになりやすい。だから喩え話になるが、音や振付もないところで踊ることを、アルピーヌA290は拒否してきた。ICEのエキゾーストノートを疑似的にかぶせるのではなく、本物の電気モーターの回転数の上下動をデジタル/アナログ変換して耳に届けることで、ドライビングに独自のリズム感をもたらすのだ。


伝えづらいのはその音質だが、ICEのエキゾーストと違って回転運動によりトーンが上下するため、車で一番似ているのは「ホーメットTX」とか「ローバーBRM」のような大昔のタービン車だったりする。ただしヒュイーン音ではなく「オルタナティブ」はより低い音域で唸るような、「アルピーヌ」の方はややICEの破擦音に近いニュアンスで、あくまでモーター・ハミングなのだ。


しかも従来のICE的に、低周波域が支配的な環境に合わせた車載オーディオではなく、高周波の音場を制するような音作りで、ドゥヴィアレの再生サウンドは驚くほど広がり感があって解像度が高い。ちょっと車載オーディオ離れしたリッチで均整のとれた音が、先述のモーター・ハミングとほどよく混じりあって聴こえてくる。開発チームは、ドライビングへの没入効果を狙ってのことというが、ドライビング・エクスペリエンスの入口となるのが味覚や嗅覚以外の五感、つまり触覚や視覚だけでなく聴覚をも手がかりとして最大限に活用していることの表れでもある。


もうひとつ、A290のエクスペリエンス重視の造り込みはセンターディスプレイ内、車両テレメトリーのみならず、ドライビングに関するコーチング機能や、アジリティやパワー、耐久といったテーマ別にエクササイズを実行できるチャレンジ機能だ。無論、公道ではないクローズドコースで使うことが前提のプログラムもあるが、ゲーム感覚でリアルにドライビングを向上させる&楽しめる機能で、OTA(オーバー・ジ・エア)によるアップデートが可能という。


◆待望の日本導入は2026年


未来のBEVといえば、自動運転に車内でエンタメ体験、というドライビングと距離を置くチルな方向性もあるが、アルピーヌA290はそれとは真逆のエクスペリエンス・ドリヴンな世界観、つまりエッセンシャルに増幅方向のBEVを、ものの見事に造り込んできた。続くA390や、次世代はBEV化されるA110という、「ドリームガレージ・コンセプト」にも期待がもてる。


ちなみにA290の日本上陸はChaDeMo対応を待ちつつ2026年に予定され、今回試乗した「A290 GTS プルミエール・エディション」は1955台限定で4万6200ユーロ(約762万円)からとなっている。


■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★


南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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