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【VW パサート 新型試乗】SUVに真似のできないところを突き詰めて来た…南陽一浩

レスポンス / 2024年12月31日 8時0分

ややあって、ICE版にもPHEV版にも試乗することができた。その分、いずれのパワートレインが本命なのか、いまだ結論に至れずにいる。無論、それはいい意味で、いずれも確たる個性と魅力に満ちて完成度が高いから、乗った後に激しく迷うという現象だ。


というわけでお題はVWの新型『パサート』だが、なんと今次よりボディはステーションワゴンのみ。「ヴァリアント」のサブネームも廃され、パワーユニットのバリエーションを増やす指針を打ち出した。ガソリンPHEVとディーゼルとガソリンMHEVの3種類を揃え、ガソリンはいずれも1.5リットルの「eTSI」がベースだ。


SUVがすっかり標準の車型になって欧州でもカンパニー・フリート需要が落ち込んで久しいが、セダンやステーションワゴンがむしろ数奇者の選択肢となったのはプジョー『508』辺りから。現実にDセグメントのセダン/ステーションワゴンというのは縮小方向にあるマーケットで、ビートルを超えゴルフに次ぐ累計生産台数3400万台を数え、9世代目を迎えたパサートもついに撤退戦を戦うのか…と暗澹たる思いが一瞬よぎった。


ところが実車に触れてみると、湿っぽい悲壮さは意外にもなく、このカタチは残っていくという確信の下、細部まで丁寧に磨き上げてきた執念の方がむしろ伝わって来る。人も荷物も沢山、運ぶ。その目的に対する最適解であるという自信やプライドさえ覗かせるし、それが観念的というより実際主義、実用主義を至上とする、乾いたプラグマティズムに貫かれているのだ。


いわば中国市場よりアメリカ市場に目を配って『カムリ』や『アコード』に牙を剥きつつ、凡百の付加価値グルマでは到底、太刀打ちできない道具性を究めてきた。平たくいって、SUVに真似のできないところを突き詰めて来たのだ。


◆130mm伸びてEセグ級ワゴンに


まずトリム&グレードだが、都会的な「エレガンス」とスポーティな「R-ライン」という2種類の基本仕様&スタイルが用意され、ガソリンMHEVのみエレガンスの「ベーシック」グレードが用意される。両者ともLEDの入ったフロントグリルが、旧型より天地方向に細いタイプに改められ、バンパー側のアンダーグリルはガバッと広く開口し、ボディ内にとり込んだ空力整流で冷熱マネージメントを積極的に行う今どきのタイプであることをうかがわせる。


今回の試乗では、PHEVの「eHybridエレガンス」と、eTSIこと1.5リットルガソリンMHEVの「R-ラインプラスパッケージ」というスポーツトリムにエアロ&スペシャル内外装仕様を走らせた。


トリムに関わらず車検証上の全長は従来モデル比で+130mmもの4915mmと、ひとつ上位のEセグに匹敵するほど長い。ホイールベースは+50mmの2840mmで後席の足元が広くなったのに加え、リアのラゲッジスペースも13cmも伸びている。一方で全高は1500mmと低く、全幅は1850mmに収まっているから、前面投影面積が小さくスタイルは伸びやかで、空力はCd値にして0.25。かくしてオーソドックスなアプローチとはいえステーションワゴンのデザインとして結果は上々だ。


◆PHEVでも十分な荷室のスペース効率と使い勝手


ところでラゲッジルームだが、最大1920リットルもの大容量は従来比+140リットルもの積み増しとなる。ただし床下にバッテリーを積むPHEV仕様は5名乗車時に650リットル、MHEVとディーゼルでは690リットルなのだが、この差はさほど重要ではない。そもそも低床設計の荷室は、スクエアで奥行も深く、積み下ろししやすく長尺物まで出し入れしやすい。


トノカバーで仕切って隠すのもお手のものだが、濡れた上着などをのせておくのに便利なハンモック収納もある。だだっ広い床の上を収納物が転がらないように固定するフロアディバイダ―、さらにDC12V電源の隣に荷物フックや後席の可倒レバーが設けられ、るなど、広いだけでなくスペース効率や使い勝手を追求している。


ちなみに後席中央のシートバックを倒すと、ドリンクホルダーに加えてフリップ状のスマホホルダーも現れ、センターコンソール後端にUSB-Cがある配置も気が利いている。さらにシートバック側で樹脂製のカバーを引くとトランクスルーとなるが、上面がラゲッジスペースとほぼ同じ高さでフロアカーペットと同じ生地張りとなる辺りに、実用性とデリカシーを感じさせる。


◆コックピット&内装の質感


もうひとつ、新しいパサートが実用性とデリカシーの好ましいバランスを見せるのは、フロアシフトが廃されコラム側のレバーを回転させるシフトになった分、センターコンソール収納容量が一気に、量と質で深化したことだ。アームレスト下が車検証ケースを収めるのに丁度いい深さを備え、前端の奥まって目立たない場所にUSB-Cを追い込み、ドリンクホルダーやスマホの充電トレイといった必須スペースは手元に近い一等地に配されている。エルゴノミーに優れるだけでなく、2枚のスライドシャッターでキチンと隠すこともできる。つねにLサイズのドリンクを差しておくために空けられた大穴が悪目立ちするような、間抜けなスペース使いではないのだ。


内装は、とくにダッシュボードの助手席側まで、いわゆる柔らかい素材で覆い尽くされた従来的プレミアム風でこそないが、エレガンスもR-ラインも、手元に近い部分だけは横一文字でレザーもしくはスウェード調素材をステッチで張っている。加飾パネルはデジタル調のパターンでアンビエントライトと連動し、デジタルメータークラスターや、ベーシックグレード以外なら標準装備となる15インチ大画面のセンタータッチパネルと調和していることに、納得のいく質感だ。インフォテイメントシステムはもちろん最新世代ながら、この大画面のおかげで走行中でも各表示が読み取り易く、以前の世代とは使い易さに隔世の感がある。


◆大容量バッテリー搭載の副産物


今回の試乗でもっとも頻繁に操作したのは、「DCC Pro」と呼ばれるアダプティブシャシーコントロールだ。ドライブモード選択に応じてステアリングの手応えや特性、さらに足まわりの減衰力を変化させるのだが、今回からKYB製の2ソレノイドバルブ式ショックアブソーバーを採用したことで、伸び側と縮み側を個別に制御できるようになった。PHEVのR-ライン以外ではオプションとなるが、ディーゼルの4モーション以外に乗った今、お勧めできる装備といえる。


というのも、PHEVは25.7kWhというかなりの大容量のリチウムイオンバッテリーを積んでいる。にもかかわらず車両重量1860kgと相対的に軽く、18インチで45扁平の過激すぎないタイヤサイズやロングホイールベースも相まって、EVモードでの最長レンジは142kmもある。それどころか副産物として、フランス車顔負けの穏やかなストローク感と優しい乗り心地さえ作り出しているのだ。


かといって鈍重かといえば全然、峠の下りでもコンフォート・モードのまま走らせて、痛痒や怖さを感じることはなかった。スポーツ・モードにすれば何をかいわんや、横方向の俊敏性と粘りが増し、最高出力150ps、最大トルク250Nmのエンジンを電気モーターの115ps、330Nmが適切に下支えして、走りのスムーズさが損なわれることはない。以前のDCC Proはドライブモードを切り替えると、コンフォートで柔らか過ぎてスポーツで硬過ぎて、まるで別のタイプの車になろうとするような、どっちつかずの嫌いがあった。が、新型ではいずれのモードでもストロークの緩急だけでなく、車体の姿勢制御に一貫性があって断然、操りやすくなったのだ。


◆マイルドハイブリッド(MHEV)最大の武器は


シャシーの一貫性は、ガソリンMHEV仕様にも共通している。こちらは車両重量1580kgと、今どき1.6トンを切ったDセグ車という時点で、けっこう軽い部類だ。やはりというべきか、PHEVの乗り味が上質なモダン・ジャズだとすれば、こちらはパンチラインの効いたニュー・ロマンチック系のリマスター版のよう。


DCC Proにはステアリング特性と電子制御デフロックまで含めシャシー・ダイナミクスを協調制御するヴィークル・ダイナミクス・マネージャーが組み合わされている。ミラーサイクル化と可変ジオメトリーターボ、そして48VのMHEVの恩恵を受けた軽快なエンジン・レスポンスを、7速DSGとスポーツモードのしなやかなハンドリングで操れる経験は、SUVではありえないスッキリ低重心のなせる技だ。


だが、おそらくMHEVパサートの最大の武器は、高速巡航など低負荷時に2気筒を休ませる気筒休止機構と、66リットルの燃料タンクだろう。カタログ燃費のWLTC-Hつまり高速道路モードでは20.2km/リットルとあり、試乗会では試せないものの、理論的には1300km超え、WLTCの目分量補正でー10%しても1200km前後というアシの長さではある。オプションとはいえ19インチのエアロホイールもダテではないな、という。


今回はディーゼルのTDI 4モーション仕様のみ試乗が叶わなかったが、524万8000~679万4000円の価格帯の幅で、いずれのパワートレインにも細大漏らさず手を尽くした新しいパサートは、補助金を受けられるPHEVより結果的にディーゼルの実勢車両価格が大きくなる。それでもDセグ・ステーションワゴンが『マツダ6』以外に実質不在の日本で、並みいるストロング・ハイブリッド勢を向こうに、巨大な荷室をも備えるパサートは、VWの乾坤一擲といえるだけに、要注目といえる。


■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★


南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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