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「わたしの人生、なぜ弟に縛られなきゃいけないの?」障がい者の”きょうだい”に生まれて 弟を溺愛した母の遺品整理で気づいた「ああ、私は傷ついていたんだ」

RKB毎日放送 / 2024年4月12日 16時1分

障がい者のきょうだい悩みは「結婚と親亡き後」

福岡県内に住む太田信介さん(48)は「福岡きょうだい会」を知人と共催。太田さんにも重い自閉症と知的障がいのある7歳年下の弟・宏介さん(41)がいる。きょうだいたちにとって最大の悩みは「自身の結婚」と親亡き後だ。そんな悩みを抱えるきょうだいたちを支えたいと、2018年に立ち上げた「福岡きょうだい会」には十人十色の悩みを持つきょうだいたちが集い、互いに思いを語る。

「色々あったけど仲良くしている」実は、そんな美談ばかりではない。

「弟のせいでいじめに でもそれが当たり前と思っていた」

福岡市に住む会社員の小川洋子さん(54)には軽度の知的障がいがある2歳違いの弟がいる。1980年代、特別支援学級を併設している公立学校は少なかったが、小川さんが育った神戸市の学校は当時制度が充実していて、弟と同じ学校に通わざるを得なかった。「通った」ではなく、洋子さんは「通わざるを得なかった」と話した。

弟には多動傾向があり、友達を叩き暴言を吐く。その仕返しは、全て姉の洋子さんに向かっていたという。

小川洋子さん(54)「社宅でいじめられてケガをしたこともあります。とにかく小学校の時の思い出っていい思い出がほとんどないんです」

いじめのことを母に告げたことは一度もない。

小川洋子さん(54)「自分の目の前にいる家族しか知らないので、これが当たり前なんですね。『周りのきょうだいと自分たちが違う』と初めて自覚したのは小学校の中学年と遅かったんですけど、当時から母は弟にかまいっ切り。私には二言目には『お姉ちゃんだからしっかりしなさい』『弟にやさしくしなさい』でした。でも、それが当たり前だと思って育ってきたから、自分でも何に困っているか分からない、それが小さい頃の私です。」

弟を溺愛する母私には無関心だった

弟は、母の献身的な愛情を受け天真爛漫に育った。一方、洋子さんは母からの愛情をあまり感じられなかったという。

小川洋子さん(54)「母からは『お姉ちゃんだからしっかりしなさい』とよく言われました。一方で『姉であるあなたには、弟の事で迷惑はかけない』とも繰り返し私に言いました。実際私は、高校・短期大学、就職後も青春を謳歌しました。ただ、母は私に無関心でした。趣味の社交ダンスの大会で良い成績を出しても、『あらそう』というような反応でした。でも、自分の目の前にいるこの家族しか知らないので、そういう状況が当たり前なんですね。それが自分にとって当たり前だったから、その当時はさびしいと思うこともなかったです」

母の死後、課せられた責任

その母が、6年前に急逝した。父は14年前すでに亡くなっており小川さんは弟と二人残された。弟の面倒をみてきたはずの母だったが、障害年金の手続きをしていないことが分かった。弟は、申請に必要な「医師による障がいの診断」すら受けておらず、洋子さんは、福祉サービスにつなぐことから始めなければならなかった。

弟のことを周囲に話していなかったため相談できる人がいない。途方に暮れた。

小川洋子さん(54)「今の世の中、インターネットで情報が溢れているんですけど、何から手をつけたらいいか分からない、と言うのが本音だったんですね。相続もどうしたらいいのか。財産管理能力のない弟については無効になるということが書かれてあって、どうしたらいいのと、初めて『きょうだい会』に参加しました。」

きょうだい会で福祉に詳しいメンバーから適切なアドバイスを受け、洋子さんは様々な手続きを行い弟をグループホームに預けることができた。弟は今、グループホームから職場に通い元気に生活しているという。

母の遺品整理で受けた衝撃

子供のころのいい思い出がなかったもののさびしいと思うこともなかった洋子さん。「当たり前の家族感」が覆され、無自覚だった自分の気持ちに気づいたのは、母の遺品整理をした時だった。

小川洋子さん(54)「遺品の中から、子どもたちの思い出グッズ箱みたいなのが出てきたんですよ。蓋を開けたら、その中の9割が弟の成長記録や先生との連絡帳でした。私のは小学校3年生の連絡帳1冊だけだったんです。母の思い出の中で、私と弟の差が歴然としていて、溺愛された弟は天真爛漫に育っている。私は『お姉ちゃんだからしっかりしなさい』と厳しく躾けられ、’親亡き後’の弟のことで途方に暮れている…『この差は何なんだろう』って憤然としました」

思い返すと、褒められたのは当時住んでいた山口県下一の名門高校に入学した一度きり。就職が決まっても、社交ダンスの大会で良い成績を出しても、母に喜んでもらった記憶はない。

小川洋子さん(54)「その時に思いました。『ああ私は、知らず知らずのうちに母親に傷つけられていたんだ』って。母と自分の関係性のおかしさにようやくこの年になって気がつきました。私はいい子過ぎたんだと。」

洋子さんは、母が急逝する直前に初めて親子喧嘩をしたという。きっかけは洋子さんが持ち帰った「きょうだい会」のパンフレットだった。パンフレットに描かれていたのは、親や世間が期待する言葉に押しつぶされそうになっているきょうだい児のイラスト。それを見た途端、母は烈火のごとく怒った。「あなたはこんなこと考えていたの?!」と。

小川洋子さん(54)「今だから思うことですが、よくよく考えたら『私の人生って親亡き後、弟に縛られなきゃいけないの?』『どうして弟にやさしくしなきゃいけないの』っていう気持ちは、心の根底にはありました」

遺品にあった書類から、母が3人目の子どもを授かったにも関わらず中絶せざるを得なかったことも知った。母は生前、洋子さんに「もうひとり弟か妹がいたら一緒に面倒をみてくれるだろうに」と語ったことがあるという。

洋子さん自身はどう思っているのだろうか。

小川洋子さん(54)「いない方が良いです。私と同じ思いをする人が増えることになりますから」

洋子さんは、弟のことを『かわいいとは思えない』と言い切った。

きょうだい児が「ヤングケアラー」になることも

「福岡きょうだい会」の代表・太田信介さん(48)によると、小川さんのように障がいのあるきょうだいを持った事で家族の関係が崩れるケースは少なくないという。

障がい者のきょうだい児が抱える苦悩はヤングケアラーにも通じるという見方を示すのが、児童虐待やヤングケアラーの問題に詳しい元西南学院大学教授の安部計彦さんだ。

ヤングケアラーは、「18歳以下で大人がするようなケアを日常的に担っている子供や若者」と定義とされる。

元西南学院大学教授安部計彦さん「我慢を強いられている、という点で、小川洋子さんのケースもヤングケアラーだったと考えていいと思います。直接介護をしていない場合でも、ただ見守るだけということも、その時間を自分のためではなく障がいを持つきょうだいに合わせて対応している訳ですから」

安部さんは、障がい児のきょうだいを含むヤングケアラーの問題の難しさは、家族だけで抱え込もうとする心理にあると指摘する。

元西南学院大学教授安部計彦さん「ヤングケアラーは、悩みを友人に打ち明けることで『かわいそうな特別な子』と見られたくない、皆と同じでいたい、という心理が働きます。虐待を受けている子もそうですが、決して誇れる話ではないためです。そうやって周囲に隠すことで『助けて』と言えなくなります」

洋子さんも、弟の障がいについて周囲に話したことはほとんどなかった。そのため「親亡き後」の課題に直面し、きょうだい会に繋がるまでたったひとりで思い悩んだ。

また安部さんは、きょうだい児がヤングケアラーになりやすい要因として、子ども自身が自覚していない事にあると指摘する。

元西南学院大学教授安部計彦さん「親に言われてすることが当たり前であり、出来るだけそのことを隠したい。だから例え他人から気づかれても『大丈夫です』と言ってしまいます。」

自分軸で生きる

福岡きょうだい会に参加することで「助けて」と声を上げることができた小川洋子さん。母の遺品整理をきっかけに、以前から興味を持っていた「断捨離」の勉強を始めた。

小川洋子さん(54)「断捨離では自分軸というのが最重要視されるんです。私が選んだ物、私が必要で私が心地よくって、私に適したものって3つの考え方があるんです。最初に遺品整理をした時には心のどこかに『母からもらったから』と、保管しているものも多かった。受け取った私としてはどうなんだろう、そこにフォーカスしたことって一度もなかったんですよ。『よく考えたら私が選んだ物じゃないよね』『これ、私気に入ってるのかしら?』って。私は『弟には優しくしなさい』といわれて育てられ、それに対し反抗したこともなかったけど、それは私が求めていた生き方ではなく、母親が求めていた生き方なんだって気づきました。母に対して『弟の世話が大変だから迷惑をかけないでおこう』と無意識に考えていた部分もあったと思います。
私としては母に、もうちょっと自分の思いを聞いてもらいたかった。
親が子に、こうしなきゃいけない、という価値観を植え付けるのではなく、子どもはどう考えているのか、子どもはどうしたいのかっていう話を聞いたうえで、『お母さんはこう考えているよ』と言う会話ができていれば違ったのかなと思います。」

去年「断捨離トレーナー」の資格を取得した。会社員として勤務する傍ら、家の片付けに悩む人にプロとしてアドバイスしている。
これから第二の人生を見据え活動していくつもりだ。

「福岡きょうだい会」は、2か月に1回、土曜の夕方に開催している。場所は、福岡市中央区の福岡市市民福祉プラザ(ふくふくプラザ)。連絡先は「ふくおかきょうだい会」のHP「問い合わせ」にメールで。

RKB毎日放送 石川恵子

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