1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「麻酔治療が必要なむし歯は1本もなかった」司法解剖した医師が証言 死亡した2歳女児 背景に過剰治療か

RKB毎日放送 / 2024年4月22日 18時2分

7年前、福岡県内の歯科医院で2歳の女の子がむし歯の治療後に死亡した事件で、当時司法解剖し鑑定書を作成した医師が「麻酔治療が必要なむし歯は1本もなかった」と証言しました。

事件をめぐっては歯科医院の院長が「適切な救命措置を怠った」などとして1審2審とも有罪判決を受け、現在最高裁に上告中です。

判決が確定する前の異例の証言。

医師は「そもそも麻酔を使用した治療が必要だったのか」と疑問を呈し、事件の背景に過剰治療の問題を指摘しています。

死亡翌日にみた叶愛ちゃんの歯「ひとめ見てびっくりした」

九州大学名誉教授・池田典昭医師
「歯をあけて一目見てびっくりしました。歯肉に麻酔薬を打って削る、そういう治療が必要な歯は少なくとも、私と口腔外科の医師、歯科の助手の医師、司法解剖の場にいた3人で見た限りでは疑問だなと思いました」

法医学者として、これまで4500体の遺体を解剖した九州大学名誉教授の池田典昭さん(67)。池田さんは、九州大学医学部の教授だった2017年、福岡県警からの依頼を受け山口叶愛(のあ)ちゃん(当時2)を亡くなった翌日に司法解剖し、死因を局所麻酔薬「急性リドカイン中毒にもとづく低酸素脳症」とする鑑定書を作成しました。

山口叶愛ちゃん 歯科治療のあと体調急変し死亡

山口叶愛ちゃんは2017年7月、福岡県春日市の歯科医院で局所麻酔薬リドカインを使用して歯を削る治療を受けた後体調が急変し、2日後に搬送先の病院で死亡しました。治療後、唇が紫色になるなど娘の異変に気付いた両親が、何度も「様子がおかしい」と訴えたものの、歯科医院の院長は「子供にはよくあること」などと言い救命措置を行わず救急車を呼ぶこともありませんでした。

歯科医院の院長(当時)が起訴された

院長の高田貴被告(58)が業務上過失致死罪で起訴され、裁判では、1審2審とも「適切な救命措置を怠り、局所麻酔・リドカイン中毒による低酸素脳症で死亡させた」と認定。高田被告に禁錮1年6か月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡しました。高田被告は上告しています。

司法解剖した医師「なぜ麻酔を注射をしたのか」

今回、池田さんが証言したのは、死亡直後の叶愛ちゃんの口の中の状態です。

九州大学名誉教授・池田典昭医師
「解剖時、一緒にみた口腔外科の医師も全くおなじことを言いました。叶愛ちゃんの歯には、ほんのちょっとしたつめものがいくつかつけてあった。要するに、ちょっとした削り。その程度の削りだったら神経にまでいかないので麻酔をかける必要がない。むし歯があったとしてもその程度なんですよ。むし歯はなかったんじゃないか。ないところをちょこっと削ってちょっと詰めたという可能性もある。そもそも痛くなるほど深く削っていないので、なんで麻酔を注射をしたのか」

「削ったような痕、ほとんどなかった」

亡くなったあと開示された歯科医院作成のカルテ。両親は、16本のうち14本がむし歯とされていたことを初めて知りました。異変が起きたのは一度に5本の歯を治療した4回目。歯科医師は初めて局所麻酔薬「リドカイン」を使用し、歯を削る治療をしました。

しかし、亡くなったあと叶愛ちゃんを司法解剖した池田典昭医師は、「削ったような痕は、ほとんどなかった」と証言しました。

九州大学名誉教授・池田典昭医師
「麻酔をかけるというのは、深部まで削って神経に触れると痛いので麻酔するわけですよね。乳歯といえども麻酔をかけるほど削るということはある程度、実際に治療した場合には削られていなければいけないんですけど、削ったような痕もほとんどなかったんです」

その上で、過剰な治療だったのではないか、との見方を示しました。

九州大学名誉教授・池田典昭医師
「乳歯なのでそのまま抜けるのを待ってもいいし、他の歯にむし歯が進まないように予防的に治療する、その程度の治療でじゅうぶんだと思います。ですから何も危険性のある麻酔をかけて削る必要がないのではないか。何か所も麻酔の注射をうったということなので、ひとつはそれでびっくりしました」

子供の歯科治療は「過剰治療になりやすい」

実は、小児の歯科治療をめぐっては「過剰治療」になりやすい構造的な問題がかねてから指摘されています。歯科医師の数はこの40年で約2倍に増えました。一方、少子化で子どもの数は減少、さらにむし歯になったことのある3歳児の割合は8分の1に減りました。

また、今の医療保険制度では、歯を削るほど高い診療報酬が得られるしくみがあります。歯を1本削った場合、歯科医師が得る保険点数は120点(1200円)です。その後に詰め物をする処置まで含むと、315点(3150円)になります。一方、削らずに進行止めの薬を塗った場合は、3本までは一律に46点(460円)なのです。

そして、小児の場合はさらに利益が大きくなる構造があります。6歳未満の場合、歯を削る治療の診療報酬は大人の1・5倍になるのです。「子供の治療は難しい」という理由からです。

「誠実に患者に向き合うほど経営は苦しくなる」

現場の歯科医師は「誠実に患者に向き合うほど経営は苦しくなる」と以前から過剰治療の問題に警鐘をならしていました。

警鐘をならしてきた歯科医師 大崎公司さん
「1200円をとるか、460円をとるか。モラルハザードを起こしたら、『これ削ってやろう』となってしまう」

警鐘をならしてきた歯科医師 内野博行さん
「むし歯が減ってきたため治療の対象を広げすぎているのではないか。以前なら応急処置以外は治療しなかった3歳未満のむし歯や治療可能な年齢であっても昔なら治療しなかったような小さなむし歯が削られている実感があります。子供の歯科治療が、医業収入を上げるための草刈り場になっているのが現実ではないでしょうか」

「過剰な治療」親が気づきにくい

構造的な問題は、さらにあります。少子化対策で子どもの医療費は助成の対象となり、多くの自治体が無料としています。このため、幼い子どもに過剰な歯科治療が行われたとしても、親に治療費が請求されることはありません。「過剰な治療」に親が気づきにくいのです。

判決確定前の異例の証言「再発防止に役立てて」

今回、司法解剖した池田医師が、叶愛ちゃんには「麻酔が必要なむし歯はなかった」と証言しました。叶愛ちゃん死亡の背景に過剰治療の可能性があることを示唆する重要な証言です。

九州大学名誉教授・池田典昭医師
「刑事事件の症例は結審するまで発表しないというのが原則なんですけど、わたしはいっさい聞かずに、ほとんどすべて報告したり論文だしたりしています。啓発をしないといけない。それが死んだ人のためになると思ってやってきた。子供に障害を残したり死亡させたりしたら絶対にだめだというのが私の信念だ。再発防止。このままではまた起きてしまう。また起きるといいましたけど、起きてほしくないなと思っています。今回の事件も再発防止の役に立てばいいなと思います」

歯科治療後に幼い子が死亡 2000年にも

幼い子供の歯科治療をめぐっては2000年にも、福岡市内で当時2歳だった佐々木桃香ちゃんが治療後に死亡する事件が起きていて、池田医師が司法解剖しています。桃香ちゃんのケースでは、16本すべての歯が治療対象になっていて、父親は開示されたカルテで初めて知りました。

桃香ちゃんの父佐々木富雄さん
「1歳6か月の時に保健所で受けた検診では、特別指摘されたことはなかったのに、その数か月後、歯科医院ではすべての歯が治療対象になっていたんです。その時に思いました。『桃香の顔はお札に見えていたんだろうな』って」

過剰治療裁判の争点になっていない

桃香ちゃんの裁判でも、そして今回叶愛ちゃんの裁判でも、過剰治療の有無は争点になっていません。

2人を司法解剖をした法医学者で医師の池田典昭さん。「このままではまた同じことが起きてしまう」という危機感から証言してくれました。

九州大学名誉教授・池田典昭医師
「幼い子供が歯科治療後に亡くなる、そして司法解剖になるケースはめったにあるものではありません。叶愛ちゃんの司法解剖を依頼された時、『またか』と思いました。めったにないことがまた起きてしまった。叶愛ちゃんの事件、私としては検察には、治療の適否にまで踏み込んでほしかったと思っております」

RKBの取材に対し、歯科医院・院長(当時)の代理人弁護士は「係争中の事案なので裁判所外での意見表明は差し控える」としています。

両親の後悔

「あの時歯医者にさえ連れて行かなければ、今も元気でいるはずなのに」両親の後悔が消えることはありません。

叶愛ちゃんの父
「あの時歯医者に行かなければ、叶愛は今も元気でピンピンしているのに。あの時なんで…」

叶愛ちゃんの母
「時間がたつほどさみしくなります。叶愛に会いたくてしかたがない」

「幼い子どもに過剰な治療が行われやすい」という構造的な問題に目をつむっていていいのか。失われた命が問いかけています。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください