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「私の中にも植松聖はいる」障害者殺傷事件から8年…差別を考える人びと

RKB毎日放送 / 2024年7月30日 19時36分

植松聖死刑囚が障害者施設に侵入し、障害者ら45人を殺傷した「やまゆり園事件」の発生から8年。障害者の親として、面会を続けたRKB毎日放送の神戸金史解説委員長は、事件を風化させないための市民の集まりを取材し、7月30日に出演したRKBラジオ『田畑竜介GrooooowUp』で思いを述べた。8月12日には神戸解説委員長がこの事件をテーマに据えたドキュメンタリー番組がRKBテレビで放送される。

◆社会に大きな衝撃を与えた「やまゆり園事件」

神奈川県相模原市の「津久井やまゆり園」で障害者殺傷事件が起きたのが2016年7月26日でした。8年経ったわけですね。私は当時、RKB毎日放送の東京報道部にいて単身赴任中でした。事件で、ものすごく衝撃を受けました。

私の子供は、知的障害や、先天性の脳の機能障害・自閉症、他にも難聴などいっぱいあり、小さいころはなかなか大変でした。事件当時は17歳でまだ特別支援学校の高等部にいました。

相模原市の障害者施設の元職員・植松聖死刑囚(当時26歳)は、元の勤め先に侵入して、障害者など45人を殺傷。19人が亡くなりました。植松死刑囚は、重度の障害があってコミュニケーションをとりにくい人を「心失者」と名づけ、自首してきて「心失者には生きている価値がない」と供述しました。直前までやまゆり園に勤め、障害者の介助にあたっていた青年ですから、社会にも大きな衝撃がありました。

◆命に価値をつけて選別する「優生思想」

命に価値をつけて選別することを「優生思想」と言います。例えば、日本ではかつて、優生保護法を根拠として、障害者が子孫を残さないように不妊手術を強制した、という、非常に黒い歴史があります。これについては、障害者への差別思想が背景にあるとして、最高裁判所は7月3日、違憲だと判決を下しています。植松被告、まさに優生思想に染まった言動を繰り返し、そして死刑判決を受けています。いまだに考えを変えたということはないようです。

◆繁華街・天神で開かれた追悼集会

事件から8年を迎えた7月26日夕方、福岡市の天神・パルコ前で、市民団体が事件の追悼集会を開くと聞き、行ってみました。若い世代が中心となって、社会運動を考えている市民有志と、旧優生保護法裁判の被害者を支援する会が開いたもので、呼びかけ人の一人、よしひとさんは福岡市の会社で働く30代の男性です。

よしひとさん:2016年7月26日、神奈川県相模原市にある障害者施設に1人の男が押し入り、無抵抗な人たちを襲い、19人の命を奪いました。本日で、事件から8年が経ちました。全体が一つの目的に向かい、個人はそれに従属するという傾向が強まっていく中で、「役立たないものには価値がない」「価値がないものは切り捨てろ」という風潮が広がっています。その流れの中で、やまゆり園の障害者たちは「値打ちのない生命」と勝手に決めつけられ殺されたものだとも言えます。

よしひとさん:2016年7月26日の事件で、排除の対象となったのは障害者でしたが、その対象となりうるのは、セクシュアルマイノリティであったり、非正規労働者であったり、高齢者であったり、在日外国人や難民や女性であったりするわけです。事件を許さず、差別に抗うために、ともに行動を続けましょう。

よしひとさんの言葉にあったように、「役に立たないものには価値がない」と決めつける風潮は、セクシュアルマイノリティだったり、非正規労働者だったり、高齢者だったり、在日の外国人・難民・女性だったりする。それぞれはマイノリティなのかもしれませんが、「女性」と言ったらもう半分を占めますよね。高齢者もかなりの人数です。実は、少数の人たちが、多数の弱い人を差別する考え方でもあるんじゃないか。一つ一つがマイノリティだと思いがちですけど、少数の人たちが私達多くの人間を差別する考えとも言えるのではないかな、という気がしました。

よしひとさんたち若い世代が、入管法改正反対などの勉強会や映画の上映会を開いていることに共鳴した、という50代の女性参加者2人に話を聞きました。

1人目の女性:SNSを通じて何年か前から、BTSのアーミー(ファン)で結構社会的な問題に関心が高い人たちがいて。やっぱりあの事件はショックでしたし、何かできないかなと。

2人目の女性:この事件は本当にショックで、誰もが暮らせる社会・世界になってほしい、と思って今日も参加しました。

神戸:人前でプラカードを持って立つのは、なかなか勇気がいるんじゃないですか?

1人目の女性:もう全然抵抗がなくなりました。慣れました。ふふふ。

参加者は20人ぐらい。繁華街でプラカードを持ち、マイクで話し、物静かに呼びかけるアピールとなっていました。こういう活動はとても大事だと思います。この女性たちが「慣れました」と言っているのに驚いて、「素敵だな」と思いました。

◆植松聖被告が話したこと

死刑判決が出る前の植松聖被告と、私は6回面会し、やまゆり園事件に関係するドキュメンタリーを制作してきました。「認知症が進んでうまくコミュニケーション取れなくなってきた高齢者も、心失者なのですか」と聞いたら、「もちろんです」と。「そうした人たちも殺害の対象なのですか?」と聞いたら「そうです」と言っていました。「ああ、そうか…障害者だから殺したんじゃないんだ。『役に立たないと思った人たちを殺害しようとしているんだ』と理解しました。よしひささんや、女性たちが言っている通りなんです。

「自分と関係ないこと」ではなく、自分たちが年を取り、植松聖のような人が包丁を持って寝室に入ってきて、『話せる奴いないか?話せなければ刺すよ』と言って刺していった…そんな事件です。健常者であっても、びっくりしてしゃべれないと思うのです。血まみれで包丁を持って、もうホラー映画みたいな状況ですから。

※ラジオドキュメンタリー『SCRATCH差別と平成』(2019年)で、植松死刑囚との接見の様子を再現して紹介しています。共同制作したTBSラジオが、ポッドキャストを公開していますので、お聴きください。
https://podcastranking.jp/1512354362

◆新潟の市民団体に呼ばれ

翌日27日は、「津久井やまゆり園障碍者の虐殺を考える新潟の会」に呼ばれ、朝の飛行機で新潟に行って、自分が作ったドキュメンタリーを紹介しました。30人あまりの人が集まっていて、いろいろ意見交換をしてみました。呼びかけ人の医師、黛正さん(佐渡市)の発言です。

黛正さん:津久井やまゆり園の事件の受け止め方が、少しずつ変わってきているし、おそらく10年を機会にしてだんだん報道はされなくなってくるんだろうな、と。ただ、問題の本質は全然議論されないまま、時間だけは経って忘れられているなという気がして、この学習会を続けてきたんですけれども、今年7月のこの事件を境目に、いろいろな面から焦点を当てて、もう一度あの事件を振り返ってみて、これからどうしていったらいいのか考えていけたらなと思っています。

事件の直後、私は長男と妻のことを考えながら、自分がどうやって長男の障害を受け容れようとしてきたのか、障害がなければいいなと思ったこととか、ない方がいいとか、朝起きたら障害がなくなっている夢を何度も見てきたとか、そんなことをFacebookの文章に投稿しました。それがかなり広がっていったという経緯があり、文章を紹介しました。

2016年7月29日にプライベートでFacebookに投稿した文章

新潟では、いろいろな意見が出ました。例えば、私が書いた文章は「ちょっと情緒的に過ぎるのではないか」と、障害を持つ当事者の方から批判を受けました。いろんな意見が出て、非常にいいことだと思いました。私は「またこんな夢を見てしまったごめんね」と謝っていますが、これは当事者からすると、「これを聞かされたら、自分としてはあまりいい気はしないです」と。「それはそうだろうな」と思いました。うちの長男は、この言葉を聞いて全部理解できる状況ではないですが。

私は長男を見ながら、「障害は他人事ではないな」と思うようになっていきました。文章の中に「誰もが、健常で生きることはできない。誰かが、障害を持って生きていかなければならない」などと書いています。

この文章は、ずっと自分が考えてきた過程を書いているものなので、今も「長男が私の代わりに障害を持って生まれてきたんだ、だから大切にしなきゃ」と思っているわけではないんです。ただ、次の部分は、相変わらずそう思っています。

老いて寝たきりになる人は、たくさんいる。事故で、唐突に人生を終わる人もいる。人生の最後は誰も動けなくなる。 誰もが、次第に障害を負いながら生きていくのだね。

不寛容な社会は、障害者だけじゃなくて、役に立たないとされる人が生きにくくなっていく面があると思います。会場では最後にこんな声が出ました。

黛正さん:それでは、いろいろ議論はあるかと思いますが…。

参加者:すみません、一点だけ。今日のお話の中で、すごく重要なポイントはいわゆるイントレランス(不寛容)。みんな自分の中の不寛容があると見えました。お互いに寛容っていうところが求められている。左翼・右翼と、レッテル貼ったりするけど、そういうことじゃなくてやっぱり寛容というところに今日のキーポイントがあるんじゃないかな、という風に思ったのです。

黛正さん:まとめていただいて、ありがとうございます。

様々な議論がありましたが、最後にこの発言が出て、私も「そうだなあ」と思いました。不寛容な社会が広がってるようにも感じられますけども、言葉に出すことを控え、SNSに出すことを控えていくことが僕らにできることなんじゃないか、という気がしました。

【お知らせ】
RKBテレビでは8月12日(月・祝)午後1時55分から、「RKBドキュメンタリーの日」と題して、ドキュメンタリー番組3本を連続で放送します。2本目がやまゆり園事件を描いた『リリアンの揺りかご』で、80分の映画をテレビ用に短縮した1時間番組です。放送開始時間は、午後2時56分です。

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)

1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、長崎支局で雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。ニュース報道やドキュメンタリーの制作にあたってきた。23年から解説委員長。最新の制作ドキュメンタリーは、『リリアンの揺りかご』(映画版、80分)。

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