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Emerald・中野陽介と手島将彦が語る、音楽家として追求する「心豊かでいるための音楽」

Rolling Stone Japan / 2021年9月7日 12時0分

中野陽介(左)・手島将彦(右)

2021年に入り、ますます重要性を増している「アーティストのメンタルケア」。日本では2019年、音楽学校教師で産業カウンセラーの手島将彦が、書籍『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』を上梓。洋邦問わず、ミュージシャンたちのエピソードをもとに、カウンセリングやメンタルヘルスに関しての基本を記し、アーティストやその周りのスタッフが活動しやすい環境を作るべきだと示した。そんな手島将彦とともに、アーティストとメンタルヘルスに関して考える対談連載。今回のゲストはバンドEmeraldの中野陽介。

自身や取り巻く環境で起こったトラブルから、以前組んでいたバンド・PaperBagLunchboxの解散などを経て、2011年にナイトアーバンポップスを掲げたEmeraldを結成、聴き手に寄り添う楽曲をリリースしてきた彼に、音楽との向き合い方やミュージシャンとしての生き方を語ってもらった。



ー今回、手島さんの対談や連載、著書を読んで中野さんから直接ご連絡をされたそうですね。率直に、読んでみてどんな感想をお持ちになりましたか?

中野陽介(以下、中野):書籍『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』を僕が手に取るまで、アーティストのメンタルヘルスにフォーカスした本に出会ったことがなかったんですね。僕が東京に出てきた20歳すぎのときに、この本に出会いたかったな、というのが正直なところです。当時は相談できる人もいなかったし、自分の心を守ることにフォーカスする記事もなかったんですよ。根性ひとつですね。アーティストは売れなきゃ地獄、ちょっと売れても地獄みたいな。売れないと存在する価値がないような状況で追い立てられて、歳をとるごとに何者でもなくなっていき、周りが家族なんかを作っていく中、何かになりたい何者でもない人になっていく。26、7歳の時にそういう考えに追い込まれてバンド活動していたんで、その時の自分がこれを読んでいたら涙を流して相談しにいっただろうなって思います。最近は、そういうことを語ってくれる人が出てきたりして、報われるシーンが増えてきて。手島さんに感謝を伝えたいなって思って、ラブレターみたいなものを送ったんですよ。

手島将彦(以下、手島):僕がご連絡いただく前にもTwitterで反応していただいてたのを見ていて。なんで気づいたかというと、中野さんの存在を知っていたからなんです。PaperBagLunchboxもO-nestで見ていたし、CDも持っているんです。Cinraで「音楽を、辞めた人と続けた人」という連載を柏井万作さんとやってらっしゃった時も全部読んでいて。以前『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』という本も出しているんですけど、その時の共著者の本田秀夫先生と僕でCinraでインタビューしてもらったんです。そのとき「あの連載の当事者の人には是非読んでほしいと思ったんですよ」って伝えていて。

中野:そんなことが…… DMしてよかったです本当に。



ー中野さんはPaperBagLunchboxに参加していた当時、自分のつらい思いを相談できる人はいなかったんですか?

中野:僕は音楽以外の仕事をしてる友達が多かったんですよ。当時は姉貴が亡くなっちゃったりもして、身の回りで起きたことに対して対処、相談できる人はほとんどいなかったんですよね。レーベルの人たちも助けてくれてはいたと思うんですけど、姉が死んじゃったのがきっかけで曲が作れなくなっちゃって、リタリンっていうすごい強い薬を飲まないと起きてられない状態になったんですよ。その時期に肝心の曲ができないもんだから、レーベルも温度感が下がっていって徐々に離れていくんですよ。自分でなんとかしなきゃいけないって思い込んでました。

手島:大手のレコード会社の方たちの中でもメンタル大事だよね、という意識を持って動かれる方も出てきていて、それはとても良い傾向だなと思っています。その一方で、まだこんなに基本的な理解がないんだなって思うのも正直なところなんですよ。お医者さんとかカウンセラーとかじゃないから知らなくても当然なことはあるんですけど、世の中の人の生き方のフェイズが変わってきている中で、生き方とかモノを作る時のスタンスがまだ古いんですよ。結局それがメンタルヘルスにも繋がっていて。さっき中野さんは根性って仰ってましたけど、要はそういうところから何も変わってないんですよね。根性論を言える人って色んな意味で恵まれてたり強い立場にいたりするからそれを言える、ということが多いのですが、自分がそういう立場にいるということに気づいていないのでそれが分からない。また、小規模なレーベルやプロダクションのスタッフはもっとミュージシャンと一心同体な人もいるかもしれないけど、一心同体はやり方を間違うと無理心中になっちゃいますよね。



中野:最近はその辺りをクレバーに捉えてる若い人たちも増えてきてる気がしますね。僕はメジャーにいくとか、売れて武道館を目指すというようなわかりやすい夢は前のバンドと一緒に一度潰れたんですね。今10年かけて生活ができて、食べるものにも困らず、音楽もでき、仲間もいて、僕は幸せになったんですよ。僕は音楽はそもそも幸せになる、幸せにするためにあると思っているんです。前のバンドで駆け抜けてた頃は、やればやるほど周りも自分も不幸になっていく。そのサイクルを絶対に繰り返さないために、自分たちでその環境を作ろうっていう試みをしてきたバンドが僕にとってのEmeraldなんじゃないかなと思ってるんです。

ーなるほど。

中野:僕は生活を音楽一本に集約できることを目指すのではなくて、パラレルワーカーとして色々なところからお金を引っ張ってきて音楽をやっているんです。音楽が軸にあって、全ての幸せの源ではあるんですけど、そこの収益だけに頼らずに様々な仕事から色々吸収し、できるだけクリエイティブでいられるようにする。音楽をやるために日々仕事もして、そこから得たスキルやナレッジをバンド活動に流用し強固なものにしていくというか。もちろん業界の方との良い出会いを探しつつも、既存の仕組みに大きく依存せずとも、バンドとしての形を維持して作品を作り出せるような状況を皆で作ってきたんです。僕はかっこいいものとか素敵なものを作り続けること、幸せで居続けることが目標で。そこの軸をブラさずに10年やってきたので、自分に頑張ったねって言いたいですね。まだまだギリギリな部分もありますが。



手島:何をやるにしても、それぞれの幸せのためにどうしていくのが良いのかっていうことの解像度を高めていく作業が必要だと思うんですよ。その時によくある問題が、世の中が提示した少ない選択肢の中で決めることですね。本当はもっといっぱい選択肢があるはずなのですが、なんとなく誰かと比較する際に、世の中が提示した3、4つくらいの少ない選択肢の中だけで考えてしまうから無理が生じるんですよね。

中野:皆、自分の軸がない相対評価の中で物事を決めていく節があるなと思っていて。それは生きづらさに繋がっていくような気がしますね。



手島:特にポピュラーミュージックの業界だと、まだ経験も知識も少ないすごく若い時に、既存のシステム側の自分よりも年長の人たちと、誰とも相談できない状況で自分の責任でコミュニケーションしなくちゃいけないことが多くて、そのときになんとなく上の人の話をそのまま聞いちゃいがちなんですよね。聞いた方がいい面ももちろんあるんですけど、提示された少ない選択肢の中に「そういうものなんだろう」と自分を当てはめるべきと思いがちなので、そこで無理が起きやすいかなっていうのは、自分含めいっぱい見てきました。

中野:お金を出してくれている人が一番強い権利を持っている状況になると、その人の言うことを聞かないと作品がリリースできないんですよね。そうするとクリエイティブ全部を出資者に握られてる状態になるんですよ。僕からしたら歌を歌うことって命と同義なんですよね。その生殺与奪の権利を他者に完全に握られてしまっている状態は怖いことだなって思ったんです。

手島:そういう力を持っている立場の方の自覚がなかったりするんですよね。そのくらいの力と責任を持ってるからこそ、無自覚に「こういうもんだ」って当てはめていっちゃうのは結構な暴力になるんだよっていうことには気をつけてほしいですね。

中野:手島さんがよく仰る”大概のことはシステムや社会のせいだ”っていう言葉に救われることもあって。誰かや社会のせいにして自分の責任や頑張りを放棄するって意味ではないんですけど、やっぱりシステムがおかしいなって思うところはあるんですよ。でも、システムのこと批判したところでシステムが変わるのもめちゃくちゃ時間がかかるじゃないですか。でも現状は辛いわけで。その地獄の渦中にいると、システムのこととか考えられなくなっちゃうって思って。だけどこの歳になってやっとバンド10年続けてきて10年間を俯瞰で見た時に、サブスクとかフィットする場所が出てきたりして僕らも活動しやすくなったり、版権を取らずにプロモーションを頑張ってくれるFRIENDSHIP.みたいなところが出てきたりして。そういう流れの中で、僕も仕組みに目が向くようになっていったんですね。



ー新しいものが出てくる中で、取り巻く環境にも意識がいったと。

中野:そういう観点から見ていくと、オリンピックとかコロナの喧騒も逆に新しいストレスが生まれてきましたね。何かしらの怒りやステートメントを表明しなくてはいけないような焦りに苛まれるんですよね。僕は昨今のこの状況は正直めちゃくちゃ怒っているし理不尽だと思ってるから表現したいけど、僕に影響力がないことにも対する怒りが優ってしまいますよね。打てば響く状況の中で、クリティカルなものを発言していきたいです。でも、自分のファンとかに間違った印象や情報を拡散してしまうことが怖いので、慎重になるんです。社会に対する視座も軸を持って捉えてるんですけど、でもいくらやってもキリがなくて。最近はそれで悩むことがストレスになってきてて、SNSも見ないようにしたりしています。

手島:SNSは精神的に負担が大きいですね。SNSは今避けて通れないとはいえ、正直面倒くさいところもありますよね。

中野:窓口や発信の方法を変えていこうかなって色々考えてはいますね。やっぱSIRUPとかstarRoさんとかは僕の中ではある種理想のアーティストの形だと思っていて。発信の仕方もそうだし、こういうアーティストが同時代にいることがすごく心強いというか。自分の軸をぶらさずに発信し続けられている人たちで、僕もそうなりたいなっていう新しい目標もできましたね。

手島:そこには社会や政治に対する意見もそのひとつとして含まれますけど、僕はアーティストにもっとその「生き方」を表現して発信してくれればいいなと思ってるんですよ。もうAIが曲を作れて歌も歌える時代です。だからBGM的に気持ち良い心地良い音楽を消費したいのなら、生身の人間が作る必要は無くなってきているんですよね。でもやっぱり人間の音楽を聴きたいというのは残ると思うんですよ。オリンピックとかそうだけど、100mを早く走ったからっていって、絶対チーターの方が早いって分かってる。でも、やっぱり人間がやってるから「すごい」って心が動かされる。なぜ心が動かされるかと言うと、そこには、その人の生き方や人生、そこに至るまでの人間の社会の歴史とかが含まれていて、そうしたもの全部含めてその人から発する何かがあるからだと思うんですよ。そういう意味で、人の生き様とか主張とかは表に出てる方がいいなと思いますね。



中野:なるほど。僕もちょっとずつ出せるようになってきたんですよ。僕が幸せに生きるために日々思ってることとか、色々な気持ちの切り替え方とか含めて強くなったなって。そういうのを発信する切り口を開拓しているっていう感じですね。SNSには、レジスタンス的な感じで同じことに気づいてたり、同じようなものの見方が重なる瞬間を共有してるような気持ちになったりしますね。僕のまわりは、30手前の若い子って結構病んじゃう子が多くて。絶えずSNSでのいいねを集め続けて人から注目されつづけなくてはいけない状況の中で、自分をコンテンツ化しちゃうじゃないですか。だんだん切り売りしていくものの内容もエグくなっていって、自分のコンプレックスに切り込んでいった結果、空洞化していくんですよね。

手島:これは僕の勝手なイメージなんですけど、例えばある人が今持っているものが、ある大きさの塊で存在するとして、その人の成長スピードでその塊が大きくなっていく分には中身が詰まったしっかりとした塊なんです。だけど、急いで大きく見せようとすると膨らませるので空洞部分ができてしまう。そうすればするほど空洞も大きくなっていく。場合によっては割れてしまう。もしくは大きく見せようとして積み木みたいに自分に盛って重ねていくと、やりすぎると崩れて事故が起きるんですよ。人間の現時点での総合力みたいなものはすぐには変わらないし、それぞれの成長スピードはバラバラですから、その中でやりくりしていこうよ、というイメージですよね。

中野:そういう話はアーティストから相談受けた時にもするんですか?

手島:特に最近は意識的に若い人にはするようにしてますね。若いうちに、早いうちにバーンと世の中に出ていきたいとか、アイドルとして活躍したいとか色々あると思うんです。少しくらいは焦ってもいいけど焦りすぎないでほしいですよね。



中野:僕は何かに間に合わせるために曲を作ることがどうしてもできなくて。この曲が10年後に聴いてもかっこいいって思える曲ができた時に、一番心が落ち着くんです。僕はこの業界で生き残りたいじゃなくて、曲を残すことにこだわりがあって、それができた時は本当に心が落ち着いて嬉しくなります。

手島:何に価値を置くのかですよね。ビジネスとしてやるのであればちゃんとビジネスとしてやる方がいいし、ヒットチャート1位を目指すのもいいと思うんです。そこでも、やはり何が自分にとって幸せなのかを解像度高めて見ていくことが大事だと思います。他人が提示したものだけで判断しないというか。

中野:そうですよね。Emeraldは、それを見失わずにもっと広げて伝えていくことができないか? というある種社会実験みたいなバンドとも言えます。だけど、周りを見ていて、バンドである必要は年々なくなっていくなあって思うんです。でもEmeraldはバンドだから、僕はバンドの新しい価値とかやり方を表現できるといいなと思うんです。僕は皆で持ち寄ったものを皆でかっこよくして、色々なレイヤーが詰まった豊かな音楽を作りたくて。それは一人で作れたじゃなくて、皆で作れてすげえだろ、こんな生き方豊かだろって言いたいんです。全員がアイディアを持ち寄ってくるし、全員がレイヤーの中にいる。万華鏡みたいなサイケな音がEmeraldみたいな都市型のバンドでも鳴ったりするのが楽しくてかっこよくて。天然記念物みたいなバンドじゃないかと思ってます。僕自身も心豊かな状態で仲間もいて、家族もいて、かといって大満足でのらりくらりしているわけじゃなくて、乾いてる部分や悔しい部分はもちろんあるし。いい状態で居続けるために音楽をやるという生き方もある。この面白さをもっと伝えたいんですよね。



手島:話を聞いていながら、中野さん自体の本質は何も変わってないのだろうなと思いました。丸くなったわけじゃないけど、刃物の扱い方が上手くなったような(笑)。色々な人がいて、一人でなんでもできる人はやればいいと思うんですけど、でも皆がそうじゃない。それぞれ特性があって、得意なことや不得意なこともあるし。あとは、やっぱり他の人との関わり方って大事だと思うんですよ。本でも書いたんですけど、自立するって全部一人でやるんじゃなくて、頼れるようになるということでもあって。それがバンドというものであればすごく意義があると思います。

中野:今日本で流行っているユニットやソロプロジェクト的な音楽はクラスのヒーローみたいな感覚のものが多いと思っていて。枠の外側に飛び出していく多様なレイヤーをむしろ排除することによって一体感を生むというのが、特に歌モノで多いと思うんです。色々な人のレイヤーが絡んで、この音が鳴って、大きい場所で演奏してるっていうゴージャス感とはある種別ベクトルのものかなと思いますね。でも、僕は今流行りのこの音楽のスタイルについて、フォークミュージックだと思って聴いていると納得できることは多いです。

手島:ほうほう。



中野:トラックメイカー兼ボーカルみたいな音楽を、バンドというよりも詞とかメロディを聴くという意味ではプリミティブなフォークミュージックに近いなと思っていて。最近Momくんのライブを見たんですけど、歌詞がめちゃくちゃいいなと思って。音楽はクラスのヒーロー感はあるけど、歌詞はフィッシュマンズ的なところもあったりしていいなって思って、楽しくなってきましたね。

手島:面白いですね。音楽の話で言うと、例えば都会の音楽、シティ・ポップでも、都市の中でもそれがベッドルームなのか多様な人間が集まっている雑踏なのか、切り口によって変わると思うんですよ。多様な人が同じところにごちゃごちゃと生きている場所なら、サイケ感や場合によってはノイズ感が生まれると思うんですよね。一方でベッドルームなら個人や少人数で、内省的あるいは距離感が近いものになると思います。そしてそれらは混ざったりもする。そうした自分のいる環境が絡み合って表現が生まれているのかもしれないですね。

中野:騒々しい音楽なのにすごくアンビエントに聞こえるサイケデリアもあるんです。音楽を状況に合わせて取り入れていって、自分のメンタルをコントロールしていく作用もあるなあって思っていて。そういうものを作ってるんだっていう自覚は常に持ってますね。もっと皆が当たり前に音楽というものを取り入れていくようになればと思うんです。でも今回のオリンピックでつくづく感じたのは、文化は軽んじられているし、煌びやかな部分だけを搾取され続けてきて、そこに携わる人もないがしろにされてきた歴史があって。怒りを通り越して、単純に僕らも当事者でありながら加担していたことを如実に感じさせられたんです。なので、音楽自体に市民権が欲しい、そして切実なものが切実に響く影響力がほしいんです。

手島:それはすごく同感ですね。

中野:そういう世の中にしていくためにできることは何かなと思うと、もちろん声を上げることもそうなのかもしれないけど、あくまで僕個人の言いたいことがあるとすれば、何はさておき「投票」に行って欲しいということがあります。この前の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」が中止になった時も、渋谷(陽一)さんが怒っていらしたじゃないですか。フェスや音楽に限らず、ああいう悔しさを一個人が社会に対してフィードバックする方法があまりにもないなと感じています。これからライブフェスに行く人で投票権を持っている人は、投票済みの証明がないととライブに入れないとかを民間事業からやっていくのはいいと思うんですよ。誰に投票しても問わないので、僕としては選んだ自覚を持って音楽と暮らしたいです。アーティストたちの音楽やアートを娯楽として消費するだけでなく、切実な表現に呼応したり、影響されたり想像を喚起しながらそれを社会にフィードバックとして還元できるようになればと思う。新たな問題も起きるかもしれないのだけど、今の世の中よりは、よっぽどそういう世の中の方がいいなって。



ー最後に、中野さんから手島さんにお伺いしたいことはありますか?

中野:手島さんはジャーナリズム的な観点からも記事やブログを書いていますよね。そういうのを念頭に置いたライナーノーツって書いたりするんですか? 記事を見ると、かなりクリティカルな角度から音楽の情報を受け取ってるなと思っていて。アーティストとかの歌詞、心とか社会模様への感性って古いフォークとか聞いてないと出てこないですよね。大袈裟な言葉じゃないと響かなくなっている世の中で、すごくシンプルな言葉や行間から色々な情報を受け取れるのって、この世代で生きてきてよかったポイントなんですよね。

手島:最近いろんな騒動を発端に1990年代とか1980年代末のカルチャーが取り上げられてるんですけど、僕はそこがどっぷり青春時代で。社会に経済的な余裕があったので、煌びやかなとこや、色々なことができたというのがあの時代の良さなんですよね。僕が音楽を仕事にしていくきっかけとなった出身母体もいわゆる渋谷系界隈でした。でも、なんか好かないなあこの界隈って思うことがたくさんあって、飛び出していったのが1990年代末くらいで。そこから遡っていったんです。何が気にくわないんだろう? 何かを言ってるようで何も言ってない、斜に構えているというよりは単なる冷笑とか傍観みたいな歌詞をオシャレな言葉使いで書くこいつらのメンタリティはどこから来ているんだ、と思いながら、より深く遡って聴き始めたんですよね(笑)。

中野:その話あと1時間くらい聞きたいです(笑)。僕は結局、時代に合わせた、燃料をひたすら回すためのような音楽を作るのはどうしてもできないんだなと思ったんです。そういう人間でも音楽をやって生きていて、たくさんの人に聞いてもらえるというのを証明したくてやってるというのもあるんですよね。「うっせぇわ」とかもそうだけど、目の前に強い言葉が並んで情報量で圧倒するような言葉がメインになって音楽が作られていて。僕はもっと言葉の奥とか、見えないところまで感じさせたい言葉を選んでいくんですけど、そうなると抽象的になっていくじゃないですか。それが受け入れられにくい時代だなというのは感じていて。そういう時代の中にいても、手島さんは抽象的なもの汲み取れる文章を書く人だなと感じているんです。そういう人にEmeraldのライナーノーツとか書いてほしいなと思っていました。



手島:僕で何か書けるようであれば頑張って書きます(笑)。「うっせぇわ」とかも注意引いたら勝ち、情報量多い方が勝ちみたいな感じって、僕がさっき話した1980〜90年代の話と全部じゃないけど同じように感じるんですよね。情報量なのか注意なのか、あるいは逆張りして上手くいったらいいのかみたいな。それがもう一回やってきたなという感じもして。

中野:僕らはブレずに一本筋を通して歌を紡いでいきたいという拘りを伝えたいと思っているんです。だから、色々な音楽が起こっては過ぎ去っていっても、ここに帰ってくればふかふかなベッドがあるなっていう音楽を作りたいなと思うんですよ。その観点でEmeraldのこれまでの音楽を聴くと、すごく落ち着くんですよね。それをこれからもやっていく中で、色々感じることをまたお話できたらと思います。


<リリース情報>


Emerald
シングル『Sunrise Love』
配信中



Emerald
シングル『Re:ふれたい光』

配信日:2021年7月30日(金)
品番:MPLR-0014
配信中

<ライブ情報>



Emerald Pre. 10th Anniversary ONEMAN Party
『TEN』

2022年1月22日(土)渋谷WWW X
時間:open 17:00 / start 17:30
料金:前売 4000円 / 当日 4500円 / アナログ付前売 6000円

プレイガイド:
●e+(チケット先行販売はe+にて)
●ローソンチケット
●チケットぴあ
https://eplus.jp/emerald21-official/

Emerald Official Site:http://emerald-info.tokyo/

<書籍情報>




手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029

本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。

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