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「ツタロックDIG LIVE Vol.10」開催、次世代を担う10組のバンドが生み出した熱気

Rolling Stone Japan / 2022年8月26日 17時0分

「ツタロックDIG LIVE Vol.10」トリをつとめたThis is Last(photo by 大橋祐希)

2022年8月3日、Spotify O-EASTにて「ツタロックDIG LIVE Vol.10」が開催された。2021年には2年ぶりとなる「ツタロックDIG LIVE Vol.8」が開催され、コロナ禍の影響を受けながらも大きく賑わい、今年5月29日には初の大阪開催として心斎橋BIGCATにて「ツタロックDIG LIVE Vol.9―OSAKA―」が催されたばかりだ。

平日とはいえ夏休み真っ盛り、午後2時半ごろの東京・Spotify O-EASTには多くのファンが押し寄せていた。その中心には若い女性の姿がある。

関連記事:「ツタロック DIG」大阪初開催、個性豊かな若き才能9バンドが集結

「気鋭のロックバンドを集める」という軸をよりブラッシュアップし、これまでのライブシーンで経験を積み重ねているバンド群に加え、InstagramやTikTokなどで支持を受けているバンド群をも集めようと試みた「Vol.8」。筆者はその日にライブレポを書かせてもらったが、前回に引き続く「Vol.10」の大賑わいを見ると、「いま誰にバンドが求められているか」が鮮明にみえた気がした。

【写真gallery】「ツタロックDIG LIVE Vol.10」



さて、そんなイベントのトップバッターを務めたのは、インディーズバンド&アーティストの音楽配信サイトEggsのオーディションを勝ち上がったマリースメックだ。COSMIC STAGEの小さなステージで、出演時間はわずか15分ほど。だがタイプの違った3曲を揃え、ベースとギターの冴えた音作りとテクニカルにフレージングしていく姿は、とても「オープニングアクト」とは思えぬほどに力あるバンドであった。


マリースメック(Photo by 大橋祐希)

MASSIVE STAGEとCOSMIC STAGEはフロアの構造上ほぼ隣に位置していることもあり、1バンドが終われば10分と経たずに次のバンドがスタートしていく。持ち時間はどのバンドも30分。まさに10バンドによる大型対バンライブといっても過言ではない。



MASSIVE STAGEの一番手に登場したのは、オレンジスパイニクラブである。音楽配信ストリーミングサイトの総再生回数が1.5億回以上を超えるヒットソング「キンモクセイ」で注目を集める彼らだが、それもまだここ数年の話でもある。1曲目で早くも「キンモクセイ」を披露すると、そこからは朗らかなイメージとは違った声色のスズキユウスケのボーカルが軸となってライブを支配していく。


オレンジスパイニクラブ(Photo by 大橋祐希)

柄シャツ、黒のパンツ、片足をあげてギターをかき鳴らしては歌っていくスズキユウスケの姿は、バンドマン然としたムードを漂わせる。とはいえ決して野蛮で攻撃的なわけではなく、スムースかつ朗らかに歌い上げることもできるあたりに、このバンドの懐深さを見ることができる。

「今度ワンマンツアーをやります。いいなと思った人はぜひ来てください。カッコいいんで、俺たち」と語った言葉には、どこにも女々しさなどはない。これからを見据える男の覚悟が垣間見えた。筆者は福島県いわき市出身、北茨城やいわきとも縁深い彼らにはやはり期待したい。

ドラムの前で拳を合わせ、一気にドンッと音を合わせて「さよならロングヘアー」からスタートしたペルシカリア。


ペルシカリア(Photo by 大橋祐希)

彼らの中でも最もクールでパンチ力ある1曲でフロアを掴むと、遮二無二になって歌い演奏していく。本来ならキレイで冴えのあるギターサウンドで聞き惚れさせるバンドであろうが、ギターの弦が途中で切れてしまうほどに勢い任せだったのは印象的だった。



前回の東京開催となった「vol.8」から続いての出演となったヤングスキニー。「前回やった時はあっちでさ、嬉しかったけど、悔しさもあった。今回はこっちで出れると知って嬉しかった。応援してくれる人のおかげです、ありがとう」と途中のMCで感謝を述べたボーカルのかやゆー。


ヤングスキニー(Photo by 大橋祐希)

今年8月で結成2年目、前回からはその姿も変わったと真っ先に感じた。力みが一気に取れたバンドアンサンブルに、かやゆー。の細めでアクの少ない声がスっと耳に入ってくる。3曲目「コインランドリー」は8月10日にリリースする新曲だが、チルいシティポップな1曲に仕上がっており、そこから「東京」へと繋がっていく流れは、孤独と寂しさに揺らぐ心の機微を丁寧に描き、聴く者を引きずり込んでいった。

「男子、三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ」。まさにその言葉通り、変化した彼らを見た。

COSMIC STAGEの2番手にあがったのは、プッシュプルボットの代役として出演が急遽決まったmoon dropだ。7月末にリリースしたばかりの新曲「ボーイズアンドガールズ」からスタートし、テレキャスターのヌケの良い音と爽やかな歌い口で観客の視線を奪っていく。


moon drop(Photo by 大橋祐希)

三重県伊勢市出身の彼ら、MCをすると若干訛りのある口調で語りかける。「色んな街、色んなバンドと音楽を、ライブをしてきた。それだけのバンドです、今日もそれをするだけです」「時間があったからライブに出るじゃ意味がない、たまたま東京におったからライブに出るだけじゃ意味がない、プッシュプルボットに負けないライブをしにきました!」

今年1月には自身初めてのフルアルバムを発表したばかり。勢いに乗る彼らのライブは、昂ぶる感情を込めつつ、丁寧な手つきで表現される。「アツいけどもクールに」そんな相反性は、このシーンで活躍するバンド陣の質感をそのまま投影するかのようであった。



2022年3月に全員が高校を卒業したばかり、まだ20歳にも満たないという4人組バンド・ケプラ。「Vol.9」から引き続きの出演となった彼ら。「春がすぎたら」を1曲目を鳴らした瞬間から、熱を帯びすぎることなく、涼を取り過ぎることのない、朗らかとした4人の姿がそこにはあった。


ケプラ(Photo by 大橋祐希)

上下ともにダボっとしたオーバーサイズ気味な服、スニーカーやブーツを履いておらず、2人はソックスのまま、もう1人はサンダルでステージの上で音楽を奏でる。ルーズでだらしなく見えるが、それゆえにゆったりとした楽曲がバッチリと映えてくる。

スウィング風なビート、締まった8ビート、どんなビートのなかでも目立つ朗らかな歌い口やメロディラインが会場を魅了していく。16歳のときに作ったという「16」から新曲として披露した「剣」へと移った最後の2曲、そこで描かれた彼らの姿は年齢を重ねてもブレない純真さがあった。

Bye-Bye-Handの方程式は、この日のなかでも最もタイトにロックサウンドを奏でつつ、もっともアクシデントに見舞われたバンドであったと思う。ほどよく歪んだギターサウンドとライトハンドタッピングを挟みこんだギターロック、狭いステージでも左右に動く3人。


Bye-Bye-Handの方程式(Photo by 大橋祐希)

であったが、2曲ほど演奏したところで「スネアドラムが破れました!」とまさかのトラブルで一旦ストップ。MCをうまく回す中で「今日、数日前にギターの茅津がコロナになりまして、別バンド(peeto)のギターが代わりに入っています」と一言。事情を知らないお客さんもさすがに驚きの声を漏らしていた。

「トラブルばっかだけど、これがライブって感じだな!」と声を上げると、そこからは全力疾走で駆け抜けていった。踊る・騒ぐといったフィジカルに訴える以上に、トラブルをもろともしない強い感情で観客を揺らしにいくライブとなった。



ヤングスキニーと同様に「vol.8」に引き続いての登場となったマルシィは4つ打ちビートをもった「プラネタリウム」「最低最悪」の2曲から入ると、ストラトキャスターの伸びやかなクリーントーンをキーにしたギターフレーズや、スモーキーかつ掠れ気味な吉田右京の声色が、会場に染みていくのが伝わってくる。


マルシィ(Photo by 大橋祐希)

「前回出させてもらったときは、有観客でやるのが1年ぶりくらいのタイミングで久しぶりだった。とても印象深いライブだった」と語るが、この約1年ほどの間にファーストアルバムを発表し、7月にはワンマンライブツアーを回っているタイミングだった。

前回「Vol.8」とおなじく「絵空」で締めるのは同じ、だがあの時よりも「マルシィ」らしさがよりグッと表現されたライブであった。

ライブも終盤へと差し掛かり、COSMIC STAGEを締めるのは、2020年12月7日に結成してからわずか1年ほどでシーンから注目を集め、平均年齢19歳となんとケプラよりも若いという4人組バンドyutori。メンバーの受験のために本格的なライブ活動は2021年10月以降からというアナウンスもあったほどだ。


yutori(Photo by 大橋祐希)

マイナーキー主体のコード感、寂しさ・やるせなさを露わにした歌詞、紅一点のギター・ボーカル佐藤古都子のハリのある歌声とも相まって、どこかヒリついたムードとなってこの日は表現されていた。「ショートカット」「音信不通」「キミニアワナイ」「スイミー」「煙より」「君と癖」の6曲。そのすべてが真っ新なギターロック、彼女らの純真さに触れた30分だった。



本日最後のアクトとしてMASSIVE STAGEに3ピースバンド・This is Lastが登場した。ドッシリとしたドラムとベースのボトム、エッジがあって太めの声が明瞭な響きをもってフロアに届いていく。赤いセミアコースティックギターをかき鳴らし、ベースラインは歌うようなフレージングも挟みつつ、ボーカルも含めて耳を惹きつけるフックに溢れている。

「ヤバイ! 楽しい! 楽しくない!?」と満面の笑みでMCするギター・ボーカルの菊池陽報、新曲の「もういいの?」からヒットソング「殺文句」「バランス」と立て続けに披露していく。乾いたギターサウンドはシンプルであり、ここまで登場してきたバンドらのようにエフェクターを巧みに使い分けての変幻自在さはない。

だが、菊池のボーカルと声の良さを中心にして、ギター・ベース・ドラムスも含めて「フック」を多くもった楽曲、恋心や孤独など赤裸々な歌詞と、明確な武器を理解しているからこそ、パンチ力をもって観客に届いていくのは、その反応を見ればわかる。

煽るまでもなく手拍子が起こり、曲が終われば割れんばかりの拍手が起き、曲中の振りもバッチリと反応する。10組ものバンドが絡んだイベントにもかかわらず、全員がThis is Lastのファンかのように感じられるほどだ。


This is Last(Photo by 大橋祐希)

「今日は新曲リリース日だし、初めて出るイベントだし、みんなも僕らを初めてみる人もいるでしょう? 初めて尽くしでいいね」

「来月にはツアーが始まるところだったんだけど、いまコロナがまた強くなっているという話もあって、実は心配、不安だった。でもこのステージのバックドロップ幕をみて、ウォーってなってるお客さん見て、嬉しくなったよ。今までのライブハウスに戻ってきてるんだって!」

不安だった胸中を、この日のイベント・観客に勇気づけられたとハッキリと口にする菊池。ほかのバンドらもMC中には「嬉しい」「勇気づけられた」と口々に語っていた。コロナウィルスも2022年のいまが一番感染が拡大している状況にあり、ハードな状況には変わりない。

そんななかにあっても徐々に熱気を取り戻しつつある。ここは渋谷のSpotify O-EAST、名門と謳われるライブハウスに、ほぼ満員に近い観客が自分たちを迎えてくれたのだ。光明以外の何物でもない。

アンコールに披露した「君が言うには」で思いっきり歌詞を飛ばしてしまい、「やばいかもー!」と叫びながら曲を進めていく。「今日があってよかった! そりゃとぶよ! だって楽しいもん!」と曲中に叫んだ、飾り気のない菊池の本音であり、本日出演した全バンドの気持ちを代弁しているかのようであった。


<イベント情報>

「ツタロックDIG LIVE Vol.10」
2022年8月3日(水)渋谷・Spotify O-EAST
出演:オレンジスパイニクラブ / ケプラ / This is LAST / Bye-Bye-Handの方程式 / moon drop / ペルシカリア / マルシィ / ヤングスキニー / yutori

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