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レディ・ブラックバードと盟友が明かす、「ブラック・アシッド・ソウル」誕生秘話

Rolling Stone Japan / 2023年2月14日 18時10分

レディ・ブラックバード、1月26日ビルボードライブ大阪にて(Photo by Kenju Uyama)

今年1月に大阪・東京で初来日公演を行ったLAのシンガー、レディ・ブラックバード(Lady Blackbird)にインタビュー。聞き手はジャズ評論家の柳樂光隆。

レディ・ブラックバードはデビューアルバム『Black Acid Soul』を発表した2021年の時点で、若手とは思えない成熟した歌声と表現力を持ち合わせていた。彼女はもともと別の名義を名乗っていたが、ニーナ・シモンの歌に啓示を受け、ニーナの名曲「Black Bird」から拝借してレディ・ブラックバードと改名。シングルを次々と制作したのち、『Black Acid Soul』を完成させた。

『Black Acid Soul』は優れたオリジナル曲とセンス抜群のカバー曲、ソウルともジャズとも言い切れない独特なサウンドによって、レディ・ブラックバードがもつ特別な声の魅力を的確に浮かび上がらせている。その印象はライブでも変わらない。僕が観た渋谷WWWでの東京公演でも、レディ・ブラックバードはその歌声と、幅広い音楽性を内包しながらも統一感のある表現で、集まった観客を釘付けにした。

クリス・シーフィールドの貢献も見逃せない。来日公演で主にギターを担当していた彼は、トロンボーン・ショーティーからアンドラ・デイまでを手掛けてきた敏腕プロデューサーだ。ヴィンテージ・ソウルを熟知し、幅広いジャンルに深く精通しているクリスの支えがあるからこそ、レディ・ブラックバードは見事な再スタートを切れたに違いない。

東京公演の終演後、レディ・ブラックバードとクリスが楽屋で取材に応じてくれた。短時間での慌ただしいインタビューとなったが、2人の標榜する音楽がソウルなのか、ジャズなのか、サイケなのかという疑問の答えに、少し近づけたような気がする。


2023年1月26日、ビルボードライブ大阪にて(Photo by Kenju Uyama)

レディ・ブラックバード(以下、LB):私、実はすごくシャイなの(笑)。

クリス:みんなビール飲むよね? 君はサッポロとキリンのどっちにする?

―じゃあキリンで(笑)。さっそく最初の質問です。先ほどのライブでも、会場中が歌声に惹き込まれていました。自分の声が特別だと思ったのはいつ頃ですか?

レディ・ブラックバード:才能があるかないかを自分で感じたことはない。歌うということは、ただ、私が大好きなことに過ぎなかった。もしかしたら、むしろ、私がやらなければいけないことだったのかもしれない。自分にとって必要な場所だったというか。歌っていると、自分に居場所があるような気持ちになれたから。

この投稿をInstagramで見る Lady Blackbird(@iamladyblackbird)がシェアした投稿 楽屋での取材の様子

―その特別な声を手にいれるために、何かトレーニングをしたりしているんですか?

LB:そんなの自分にはわからない(笑)。私の人生を振り返ると、最初の記憶は2、3歳の頃のこと。人々が私のところにきて小銭をくれて、歌を歌っていたのを覚えてる。あと、青いレコードプレイヤーを持ってたのも覚えてるわね。物心ついたときから、歌を歌っていなかったことはない。私が自分の声に関していえるのは本当にそれだけ。始めてちゃんと歌ったのは、母や祖母と一緒にだった。教会で「Fill My Cup, Lord」を歌ったの。まだ3、4歳の時だったわね。観客が少なかったのはありがたかった(笑)。

―ボイストレーニングのような訓練はしたことがない?

LB:ないわね。母親がハモリ方を教えてくれたことくらい。

―それはすごいですね。最も憧れているボーカリストは?

レディ・ブラックバード:ビリー・ホリデイを聴かずには1日が始まらない時期があった。彼女の音楽を、本当に毎日聴いていたの。もう少し若い時は、グラディス・ナイトをたくさん聴いていた。母親が家の書斎を音楽室にしてくれて、スピーカーとモニター、カラオケマシンをセットして、グラディス・ナイトになりきってずっと歌ってたの(笑)。

―では子供の頃から現在まで、音楽性や好きなシンガーはそんなに変わっていないんですね。

LB:そうね。実のところ、私の秘密を暴露すると、私は今風になれなくて悩んだ時期があった。今でも、最近の音楽の質問をされたら、たぶん答えられないと思う。それは、私が「あの時代」から出られないから。私は大好きなものがあると、そこから動かない性格。そこにステイしてしまうの。それって素晴らしいことでもあるんだけどね。



―デビューアルバム『Black Acid Soul』はすごく成功しましたよね。その要因はどんなところにあると思いますか?

LB:それは自分には全くわからない。でも、これは単なる運命ではなかったと思う。私の想いがそういう結果につながったのかもしれないわね。あのアルバムを作ることは、私の大きな目的だった。その過程と想いが、ここまでの成果に導いてくれたんだと思う」

―あなたはクリスとの共同作業で、自分の声が活かせるサウンドを生み出していますよね。そこではどんな工夫をしてきたのでしょう?

LB:まず、とにかくお互いの話を聞くということを意識している。最初のプロジェクトでクリスと出会った時から、彼はずっと私の側にいてくれる。長い活動期間のなかではうまくいかないこともあって、現場に戻ったら誰もいないということもあったけど、彼だけはそこにいてくれた。

クリスがどう思っているかはわからないけれど、私は……私たちは2人ともお互いの価値を理解しているし、周りのみんなのことも理解していると思う。私は彼の才能を意識し、彼は私の才能を意識しているの。 私たちは敢えて何か工夫しようとしてるわけじゃない。ただお互いの話を聞いているだけで、何か特別なものを感じるのよね。お互い出会ったその時から、私たちは一緒に美しく長い旅をしている。私は、彼と一緒にいられて本当に幸せ。

クリス・シーフィールドが語るプロデュース秘話

―ここからはクリスさんに質問です。『Black Acid Soul』のサウンドはかなり個性的だと思います。どんなことを考えながらプロデュースしたのでしょうか?

クリス:彼女とは長いこと一緒に仕事をしてきたら、今回のアルバムはすごくオーガニックに出来上がったんだ。これまでに2人でたくさんのトラックを作ってきたからね。その中でも、印象的だったのが「Nobodys Sweetheart」。あの曲のハーモニーはかなり複雑なのに、彼女は一度聴いただけですぐに「わかった。じゃあレコーディングしましょう」と言ったんだ。あの曲をあんなに素早く理解できるなんてすごいよ。

さっきも話が出たけど、彼女はトレーニングを受けてきたわけじゃない。でも、自分の耳で音楽を聴き、それを吸収して、歌い返すことができる。そんな自然な音楽性をもっているんだ。ビリー・ホリデイだって、音楽を勉強したわけじゃなかった。彼女たちは天性のジャズ・ミュージシャン、生まれながらに高い音楽IQを持ったミュージシャンなんだ。彼女が「Nobodys Sweetheart」を歌った時、それを本当に実感したよ。



―なるほど。

クリス:ポップスのレコーディングって、普通はセクションごとに録音していくんだけど、「Nobodys Sweetheart」はギターと声だけのデモをまず作った。そのデモは完璧にプロデュースされたものとは程遠いけど、彼女の声を聴いた人たちは、とてもエモーショナルになっているようだった。その反応を見て、「これこそ僕たちがやるべきことだ」と思ったんだよ。彼女がいかに天才的なシンガーであるかに焦点を当てることができるサウンドを作るべきだとね。そして、もしリスナーが彼女の声を気に入れば、そこから彼女の声のファンが出来て、その声を軸に、サウンドのジャンルを色々変えて楽しむこともできる。

長い回答になってしまったね(笑)。でも、彼女の声についてもう一つ。彼女は彼女歌うことを止めても、息がずっと続いているんだ。言葉が聴こえなくなっても、息の音がずっと続いている。その音が、リスナーをどこかに連れて行ってくれるんだ。


クリス・シーフィールド(Photo by Kenju Uyama)

―そんな彼女の特徴を活かすために、ドラムが入っていない空間的なサウンドや、ミックスなどでの音作りにこだわったのかなと思いますが、それについてはどうですか?

クリス:その通り。LAにあるサンセット・サウンドでレコーディングしたんだけど、そこはプリンスの部屋で、彼が多くの作業をしていた場所なんだ。少し専門的な話になるけど、そこにはリヴァーブ・チェンバーというものが2つある。それを使って、アンビエントでより奥行きを感じられるサウンドを作ることができるんだ。そして、彼女のボーカルは全てライブ録音されている。コンピングもチューニングも一切なし。そのスタジオのスタッフは、普段は5テイクくらい録音するのが普通だったから、彼女がボーカルをワンテイクで録音したのを見て、「こんなの初めてだ」と言っていた。彼女が歌うテイクは、いつも信じられないような出来栄えなんだ。だからこそ、リアルな演奏の感動が味わえる。彼女のステージを観たよね? 彼女はあれをそのままレコーディングで実行できるんだ。あの声は神から授かった贈り物だね。

―アルバムには興味深いカバー曲も収録されていましたが、選曲に関してはどうやって決めたんですか?

クリス:彼女がつながりを感じられる曲ならなんでもよかった。だから、自分たちが書いたものも含めて、たくさんのトラックからそういう曲を選んだんだ。そして、その選曲のプロセスの中で、選んでいくうちに曲の歌詞に共通点が見え始め、そこからストーリーが生まれだした。おそらく彼女は、ハートブレイクのラブソングに対する強い衝動に駆られていて、それが自然とある種のテーマになったんだ。このアルバムは、恋愛や人生における失恋を歌っている。一番大切なのは、彼女がその歌を人々に届けられるかどうか。だから、僕がいいなと思っても彼女がノーといえばその曲はボツ(笑)。最終的には、彼女がその曲を届けられるかどうか。それに従うだけだね。



―個人的には、ビル・エヴァンスの「Peace Piece」に歌詞を付けた「Fix It」が特に印象的でした。これは誰のアイディアだったんですか?

クリス:ビル・エヴァンスは多くのカタログであの曲を演奏している。マイルス・デイヴィスとの「Flamenco Sketches」や、トニー・ベネットとの「Some Other Time」の前に演奏したり、自分の別のアルバムでも使っていたりする。彼はきっと、曲のムードを盛り上げるためにそれをやっていたと思うんだ。ちょっとした瞑想のような役割を果たしているというか。

そこで、自分たちも2つのコードを使って曲を作ることにしたんだ。『Black Acid Soul』では最晩年のマイルス・デイヴィスとも共演した(『Doo Bop』『Live Around the World』に参加)、ダレン・ジョンソンがピアノを弾いている。ビル・エヴァンスはマイルスの『Kind of Blue』でも一緒に演奏していたから、ビルについてダレンに話したら、「Peace Piece」の楽譜を調べて、あの2つのコードを同じように演奏してくれたんだ。それで、「これは共同作曲だよね」という話になり、ビルの遺族に「この曲を発表したいんだけど」と相談したんだ。彼らはすごく寛大で許可してくれた。本当に光栄だったよ。

あとこの曲では、彼女ができるだけゆっくり歌えることを意識した。LBの曲は歌うのが難しいんだ。エネルギーを使いすぎてガス欠にならないように、彼女には十分にリラックスしてもらう必要がある。スローな曲や、バラードを演奏するのは本当に難しい。だから、セッションの中でも後ろの方であの曲を録音することにした。そうすることで、彼女やバンド全体が、瞑想的なグルーヴに浸れる状況を作ることができたんだよ。

「ブラック・アシッド・ソウル」のルーツ

―『Black Acid Soul』というタイトルは誰がつけたんですか?

LB:それはクリス(笑)。

クリス:一緒に作業を始めた時から、僕たちは「ブラック・アシッド・ソウルを作ろう」って話をしていた。で、彼女がセッションをする度に、そのハッシュタグをつけていたんだ。そうするうちに、それが自然と僕ら独特の何かになって、タイトルになっていったんだ。

LB:あなたの頭に、その言葉が強く残ってたんでしょ?(笑)。その言葉をタイトルにしようという話になったとき、私もクールだなと思ったの。

―あのタイトルは、アルバムが成功した理由の一つだと思いますよ。

クリス:スクリーンライターの友人がいるんだけど、彼も同じことを言ってた。サブジャンルみたいに聞こえるから、そのジャンルを買うような気分でアルバムを聴いた人もいるだろうって(笑)。

LB:私たちも、自分たちが作る音楽は完全にサブジャンルだよねって最初から話してたしね。これまでもずっとそう。長いあいだ一緒に作業をして、トラックをたくさん作っていくうえで、私たち独自の音楽が生まれてきたわけだし。自分たちのサウンドを追求してきた結果、ここにたどり着いた。つまり、私たち自身がサブジャンルなわけ(笑)。


Photo by Kenju Uyama

―その「ブラック・アシッド・ソウル」なサウンドに影響を与えた作品はありますか?

クリス:スピリチュアルという面では、『Kind of Blue』や『A Love Supreme』(ジョン・コルトレーン)からインスピレーションを得たと思う。直接的にどうこうというより、古いソウル・チューンを自由で美しく、緩やかな空間に置いてみよう、みたいな感じだね。素晴らしいミュージシャンが素晴らしいスタジオでライブ録音したレコードと同じように、最高な曲のアイディアを見つけて、最高の仲間たちと一緒に、真のパフォーマンスをしたかったから。

―それらのアルバムは、マイルスのトランペットとか、コルトレーンのサックスが主役ですよね。つまり、必ずしもボーカル・アルバム的ではない音作りを心掛けたのでしょうか?

クリス:そうだね、セッティングは似ている。例えば「A Love Supreme」の冒頭みたいにね。ビッグなシンバルから始まるけど、その後、ベースとドラムが入り、コルトレーンが演奏するかわりに、シンガーと歌詞がその空間を埋める。コルトレーンのように、グループの人数自体は少人数というセッティングも同じ。人数が少なくてスペースはたくさんある中で、どのように曲を作り、それを表現するか。コードやハーモニーの選択だったりを、一つ一つ意識して曲を作り上げていく。それから、フォーカスしたものの周りにアンビエントなサウンドが広がっているのもそう。僕らの場合は、レディ・ブラックバードにフォーカスして、その周りに他のサウンドが存在している。そして、彼女の声にフォーカスが当たるのを助けるのがミニマリズムなんだ。



―クリスさんがプロデューサーとして、個人的に一番好きなアルバムは?

クリス:やっぱり『A Love Supreme』かな。ビーチまでドライブに行くときに聴くアルバムだから。早朝にビーチを散歩するんだけど、6時くらいに起きて、レディ・ブラックバードも誘ったりする。それで、歩きながら『A Love Supreme』を聴く。コルトレーンがあのレコードを書いた家が、僕の実家から5分くらいのところにあってね。僕はコルトレーン一家が育った場所のすぐそばに住んでいたんだ。だから、僕にとっては特別な場所なんだよ。今でも母に会おうと実家に帰るたびに、コルトレーンの家にも足を運ぶんだ。

LB:今は2ndアルバムを制作中で、そっちの方が「ブラック・アシッド・ソウル」により近いものになると思う。もちろん1stアルバムも誇りに思っているけど、前回はシングルの曲も集めてアルバムにしていったのに対し、今回は最初からアルバムを作るために作業へと臨んでいる。だから、帰国しないといけないの(笑)。もう少し待っててね。


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