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indigo la Endツアー「藍衆」総括 かつてない進化を遂げたライブバンドとしての現在地

Rolling Stone Japan / 2024年4月23日 21時0分

Photo by 鳥居洋介

4月21日の沖縄公演を終え、過去最大規模となる全国ツアー「藍衆」を完走したindigo la End。バンド及び川谷絵音を幾度となく取材してきた音楽ライター・金子厚武による、4月3日にNHKホールで開催された東京公演のレポートをお届けする。

【写真ギャラリー】indigo la Endツアー「藍衆」東京公演(全18点)

4月2日、indigo la Endがメジャーデビュー10周年の記念日を迎えた。この10年で彼らが発表してきたオリジナルアルバムは7作。2015年リリースのメジャー1stアルバム『幸せが溢れたら』から2019年の『濡れゆく私小説』までは毎年アルバムを出し続け、2021年2月に発表された『夜行秘密』にしても、おそらくパンデミックの影響がなければ2020年にリリースされていたはずだ。

川谷絵音にとってはゲスの極み乙女との2バンド同時メジャーデビューという異例の状況で、先に目に見える形で結果を残したのはゲスの極み乙女だったわけだが、その背景にはロックフェスの盛り上がりが少なからず関係していたと言えよう。しかし、ストリーミングサービスの浸透によってもともと2015年にリリースされていた「夏夜のマジック」がリバイバルヒットし、インディゴに追い風が吹くと、2023年1月に発表された「名前は片想い」はキャリア最大級のバイラルヒットを記録。もちろんツアーもコンスタントに行なってきたが、何より楽曲そのものの力によって10年間という長きに渡って上昇曲線を描き続けてきたことは特筆に値する。


川谷絵音(Photo by 鳥居洋介)


Photo by 鳥居洋介


Photo by 鳥居洋介

しかし、2年8カ月ぶりのリリースとなった最新アルバム『哀愁演劇』を経て、昨年12月にスタートした全国ツアー「TOUR 2023-2024 藍衆」はここに来て過去最長の全26公演。これは2022年11月に行われた日本武道館公演が影響しているようで、これまで「ツアーごとにキャパを大きくしていく」というバンドにとっての一般的な成功ルートに執着していなかった印象のインディゴが、結成12年目にしてメモリアルな舞台を経験したことにより、改めてライブという現場で音を届けることに意識的になったのだと考えられる。『哀愁演劇』がストリングスや鍵盤を多用せず、バンド4人の音をメインに仕上げられていたのも、このモードの表れと言えるはずだ。

今年は春フェスの「JAPAN JAM」と「VIVA LA ROCK」に続き、意外にも初出演となる「フジロックフェスティバル」(2021年は新型コロナウィルスの影響で直前にキャンセル)、さらには「RISING SUN ROCK FESTIVAL」への出演も決まっていて、12月1日にはバンドにとって過去最大キャパとなる横浜アリーナでのワンマン「トウヤノマジック vol.1」の開催も決定。つまり、現在のインディゴはライブバンドとしてこれまでになく脂が乗った状態にあり、「TOUR 2023-2024 藍衆」はそれを確かめる絶好の機会だった。

4人の集合体としてのインディゴ

僕が観に行ったのはツアー24本目の東京・NHKホール。同会場でインディゴがライブをするのは2015年の「ナツヨのマジック」ツアー以来、約9年ぶりだったという。あいにくの天候で、雨のにおいがする渋谷の街を歩いて会場に到着すると、ライブは『哀愁演劇』の1曲目でもある「カンナ」でスタートした。川谷と長田カーティスによるアルペジオで始まるこの曲は、日本武道館公演の1曲目でひさびさに演奏されたインディーズ時代の楽曲「sweet spider」を彷彿とさせるもの。メジャーデビュー以前のインディゴの音楽性は、端的にいえば「歌ものポストロック」であり、長田のアルペジオはその象徴で、それは同時にスピッツへの敬愛も示していた。


Photo by 鳥居洋介

しかし、2曲目の「夜風とハヤブサ」がファンキーなフュージョン、3曲目の「ラッパーの涙」がジャジーヒップホップであるように、メジャーデビュー以降のインディゴは川谷のリスナー的感性で海外のトレンドとも歩調を合わせ、音楽性を更新していった。最初期メンバーであり、川谷と音楽体験をともにしている長田のギターも徐々にアプローチが変わり、かつては「得意ではない」と話していたカッティングはもはや楽曲の軸を担っていて、原田知世への提供曲のセルフカバーである「ヴァイオレット」をはじめ、トム・ミッシュ以降のネオソウルギターも実にスムースで心地いい。

『哀愁演劇』のクリーントーンを生かしたギターワークは現在進行形のネオソウルギターと、ルーツにあるポストロック的な感性が融合した印象で、それは2010年代の海外におけるエモリバイバルを経て、ここ日本でもライブハウスにエモ〜ポストロック系の若手バンドが増えている現状とのリンクを感じさせる。昨年キタニタツヤが発表したコラボEP『LOVE:AMPLIFIED』で、Eve、NEE、ヨルシカのsuisとともにインディゴが迎えられたのは、キタニにとってポストロック系のバンドがルーツのひとつとして大きいことを示し、彼は今年cinema staff主催の「OOPARTS」にも出演していた。2010年代のロックフェスの盛り上がりの一方で、構築的な世界観を追求してきたエモ〜ポストロック系のオルタナバンドは現在活躍するボカロ出身のアーティストにも間違いなく影響を与えていて、それは今後より目に見える形で顕在化していくのではないかと思う。


長田カーティス(Photo by 鳥居洋介)

現在のメンバーの中で長田の次に加入した後鳥亮介は万能型のベーシストで、スラップを効かせてグルーヴを作り上げたり、強烈な歪みでオルタナ感を演出したり、シンプルなルート弾きで歌や他の楽器を引き立てたりと、曲ごとの最適解を見出し、バンドをしっかりと支えている。かと思えば、「名前は片想い」では誰よりも大きなアクションでオーディエンスにクラップを促したり、「瞳のアドリブ」では長田とともにステージ前方まで出て行ったりと、ライブではムードメーカー的な役割を担っていることも見逃せない。メンバー最年長らしく一歩引いて全体を見ながらも、ときに最前へと出て行くこともできるその立ち位置は、彼が敬愛する亀田誠治の東京事変での立ち位置にも通じるものがあると言えるかもしれない。


後鳥亮介(Photo by 鳥居洋介)

2015年に加入し、バンドにとって最後のピースとなった佐藤栄太郎のドラムはもはやインディゴにとって不可欠なもの。後鳥同様に基本的に何でもできて、手数の多いロックドラムも、16分の細やかなプレイも、ヒップホップ的なループの気持ちよさも作り出せるが、あくまでアンサンブルの中で生きる演奏をしている印象。その上で、DJとしても活動しているがゆえのミニマルな感性はバンドのドラマーとして希有なもので、Everything In Its Right Placeなフレージングの美しさは絶品だ。一曲の中でBPMを倍にとり、メロウなミドルバラードに繊細な4つ打ちでダンスフィールを注入する「チューリップ」や、「リファレンスはABBAとメトロノミー」という着眼点からしてユニークな「名前は片想い」のオリジナリティはぜひライブで体感してほしい。


佐藤栄太郎(Photo by 鳥居洋介)

この日の本編ラストで演奏されたのは、「夏夜のマジック」と「インディゴラブストーリー」。「夏夜のマジック」は冒頭でも触れた通りバンドにとっての最重要曲のひとつだが、この曲が長く演奏され続けているのは川谷以外のメンバー3人にそれぞれの見せ場があるからかもしれない。2番のAメロでベース残しになる場面では後鳥と川谷が向かい合ってリズムを取り、間奏では「ギター、長田カーティス」という紹介から長田がメロディアスなソロを弾き、アウトロでは川谷が栄太郎を煽ってアグレッシブなプレイを促すこの曲は、4人の集合体としてのインディゴを象徴する一曲でもある。「インディゴラブストーリー」は川谷と長田のカッティングから始まり、歌が始まるとアルペジオになり、最後にもう一度カッティングで締め括られるという特異な構成が唯一無二。個人的に、インディゴのライブのラストはこの曲が一番しっくり来る。

川谷絵音の進化、バンドと音楽への赤裸々な想い

こうしたメンバーの演奏の中心にあるのが川谷の歌であり、彼のボーカリストとしての進化もまた特筆すべきものがある。デビュー当時から透明感のあるハイトーンボイスが持ち味であったが、トリッキーな転調を乗りこなしながら伸びやかにファルセットを聴かせる現在の技術はかなりのレベル。彼は近年歌い手出身のシンガーとの共演や楽曲提供の機会も増えていて、その経験をボーカリストとしての自分にフィードバックさせている部分もあるかもしれない。ツアー中の2月14日にインディーズ時代の楽曲である「白いマフラー」が配信リリースされ、それは10年以上前の録音なので歌声が若々しいのは当然なのだが、この日のライブ後半で披露され、現在の川谷が歌うと古さは感じさせず、彼のメロディーメーカーとしてのセンスが普遍的であることも伝わってきた。


Photo by 鳥居洋介

さらに、この川谷の歌声をより引き立てるのがえつこ、ささみおという2人のコーラスで、えつこの弾くキーボードも含め、彼女たちがインディゴのライブの完成度をより高めていることも改めて触れておきたい。えつこはDADARAYのメンバーとして活動するとともに、ゲスの極み乙女はもちろん、ジェニーハイや礼賛のライブ・制作にも関わり、川谷の楽曲のことを誰よりも知っている人物。また、ささみおはもともと川谷の大学時代の後輩で、実は川谷との付き合いはステージ上の誰よりも長く、それがゆえに楽曲への理解度も深い。インディゴのライブは基本的にMCが少なく、各曲のイントロにライブならではのアレンジを付け加えることで曲間をシームレスに繋ぎ、それによって映画を見ているような物語性の高さを生んでいるのだが、その部分においても貢献度が高いのはえつことささみおであり、やはりインディゴのライブには絶対に欠かせない存在だ。


Photo by 鳥居洋介


Photo by 鳥居洋介

本編の20曲を終え、アンコールでは4月10日に配信リリースされた新曲「心変わり」を初披露。川谷はこの曲をハンドマイクで歌い上げ、ファルセット主体のサビが印象的な「プルシュカ」とともに、再度シンガーとしての強度を示す。そして、「音楽に明るさは求めていない。暗い曲を聴いて、落ちるところまで落ちたら後は上がっていくしかない。それが人生の解決法だった」「友達にも恋人にも家族にも絶対言えないようなことでも、歌詞にすれば、音楽にすれば美しくなる。12年前に次にやる曲の歌詞を書いて、初めてちゃんと歌を歌えた気がした」と、歌詞への想いを続ける。

「音楽に救われることもあるけど、自分の秘密の部分にある言葉を一個ずつ歌詞にすることで、自分のことが嫌いになったり、苦しいことも増えた」「ずっと出れないトンネルの中にいるような感じがあったけど、武道館の光景を見たときに、バンドを続けてきてよかったと思える瞬間があった」「僕を苦しめる要因でもあるけど、ずっと大切な曲」と話して最後に演奏されたのは、メジャーデビュー直前に発表されたオルタナ〜シューゲイザー系の名曲「幸せな街路樹」だった。延々と轟音が鳴らされるアウトロで川谷がリズム隊に近づき、さらにそこに長田も加わって、メンバー4人が近距離で演奏をする姿は、これまでのライブではなかなか見られなかったもの。来年の結成15周年を控え、極上のライブバンドになっているインディゴの現在地を再確認させる名シーンだった。

【写真ギャラリー】indigo la Endツアー「藍衆」東京公演(全18点)


〈セットリスト〉
01. カンナ
02. 夜風とハヤブサ
03. ラッパーの涙
04. さよならベル
05. 冬夜のマジック
06. 愉楽
07. 芝居
08. 暗愚
09. パロディ
10. 心の実
11. 邦画
12. チューリップ
13. 忘れっぽいんだ
14. ヴァイオレット
15. 名前は片想い
16. 瞳のアドリブ
17. 白いマフラー
18. Gross
19. 夏夜のマジック
20. インディゴラブストーリー
  〈アンコール〉
21. 心変わり(新曲)
22. プルシュカ
23. 幸せな街路樹


indigo la End
最新シングル「心変わり」
配信:https://indigolaend.lnk.to/kokorogawari

「トウヤノマジック vol.1」
2024年12月1日(日)横浜アリーナ
出演:indigo la End

FUJI ROCK FESTIVAL'24
2024年7月26日(金)27日(土)28日(日)新潟県 湯沢町 苗場スキー場
※indigo la Endは7月26日(金)出演
フジロック公式サイト:https://www.fujirockfestival.com/

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