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ちゃんみな、幸福な場所で終着を迎えた「AREA OF DIAMOND 2」追加公演ファイナル

Rolling Stone Japan / 2024年5月2日 12時50分

ちゃんみな(Photo by 田中聖太郎)

ちゃんみなが2024年4月28日、横浜・ぴあアリーナMMにて、単独公演「AREA OF DIAMOND 2」の追加公演を行った。本公演は、2023年12月17日の宮城・仙台GIGSから始まり2024年1月30日に東京・LINE CUBE SHIBUYAで国内ファイナルを迎え、3月には初となるアジア単独公演(韓国・香港・台湾)を成功させたツアーの追加公演として2daysで開催されたもの。本稿では、2daysのうち2日目のオフィシャルレポートを掲載する。

【画像】ちゃんみな、ツアーファイナルの様子(全10枚)

中央にグランドピアノが設置されたステージにまず現れたのは、白いドレス姿の少女。少女は客席に向かって深くお辞儀をし、サン=サーンスの「白鳥」を弾き始める。ツアー本公演ではこの役をちゃんみなが担っており、楽譜通りではない不穏な旋律で緊張感を高める演出がされていたが、今回はそのように不穏な空気はなく、ピアノの発表会そのものといった雰囲気だ。

少女の可憐な演奏が終わると、幻想的な音楽とともにステージがキラキラと照らされ、ピアノ奥のステージ2階に白い貝殻が出現する。すでに少女とピアノはステージから消えている。貝殻がゆっくりと開くと、中から赤いオフショルダーのドレスに身を包んだ赤真珠のようなちゃんみなが現れ、会場は大歓声に包まれた。まるでボッティチェリの名画《ヴィーナスの誕生》のような登場である。ヴィーナスは愛と美と豊穣をもたらす神であり、帆立貝は豊穣の象徴、そしてボッティチェリの同作品は「愛の誕生」を象徴する絵として知られている。ピアノを弾いていた少女が成長し、人々に愛と美と豊穣を届ける「ちゃんみな」というアーティストが生まれた誕生を改めて表現した冒頭演出なのだろうか? その豊穣の海扇の中で歌う「Baby」からライブはスタートした。

続く「RED」でちゃんみなは貝殻を抜け出し、中央にせり出したセンターステージで激しく踊りながら自身のルーツを歌う。ステージには炎が吹き上がり、その熱に呼応するようにオーディエンスは声を上げる。アリーナから4階まで、フロアを色とりどりのペンライトが埋め尽くし、光が波浪のように揺れる。会場はいきなりものすごい熱気だ。その熱気を「Im a Pop」でさらに盛り上げ、メドレーにアレンジされた「Picky」と「Doctor」では12人のダンサーたちが時に激しく、時にコミカルに踊る。その背後では、内臓を抉るようなグルーヴを奏でるベースとドラム、脳天を突き刺すギター、美しいメロディで心を高揚させるキーボードというおなじみのバンドメンバーが構えている。

「みなさん、ようこそ『AREA OF DIAMOND 2』へお越しくださいました。今日が12月から回ってきたツアーの追加公演最終日。やっとこの日を迎えられることができる喜びと、ついに終わってしまうんだなという寂しい気持ちがあります。楽しんでくださいね。みなさん準備できてますか? わたしも今日は全力で挑んでいきたいと思っているので、みんな、かかってこいよ! それでは、AREA OF DIAMOND 2、スタート!」

そんなちゃんみなの呼びかけに、満員のオーディエンスは大歓声で応える。


ちゃんみな(Photo by 田中聖太郎)

「ルーシー」ではチュチュを着た4人のバレリーナを従えて踊り、「B級」ではMVに登場する”貴族ギャル”でお馴染みの盛り髪とポップでカラフルなミニスカートルックで登場。ダンサーたちと大人気のお尻シェイクでフロアを沸かせる。硬く韻を踏んだ「ピリオド」ではちゃんみなの肖像画が印刷された紙幣(同じデザインのヘアクリップが新グッズとして登場)が何百枚も宙を舞い、「Wake up call」のイントロでは「B級」のMVでお馴染みのクラウチングスタートを披露するなど演出に惜しみがない。

さらに4月26日にリリースされたばかりの新曲「FORGIVE ME」も初披露。事前に発表されていた意味深なタイトルから、いったいどんな曲なんだろうとSNS等で話題になっていたが、「あなたの許しなんかなくても幸せに生きてやる」という前向きな内容で、楽曲的にもドラムンベースがアクセントになったハイパーポップという、これまでのちゃんみなにはない新機軸を打ち出した斬新なものだった。



「BEST BOY FRIEND」と「Like This」のメドレーではダンサーたちと息の合った妖艶な掛け合いを披露し、その際どいやり取りは、再び炎の吹き上がるステージで披露される「FUCK LOVE」でより大胆で直接的なものになり、客席から悲鳴のような声が上がる。

やがてステージは東京の路上を表現したセットに変身。街の喧騒の中、老若男女様々な人々(老人、ベビーカーを引いた母親、制服姿の高校生たち、スーツを着た会社員、交通誘導する警備員、スケボーの少年、スカウト、街ランする女性、作業服姿の男、オタク風の男など)が行き交い、その中にギターとマイクスタンドを手にしたちゃんみなが紛れ、MVと同じように地べたにあぐらをかいて「Biscuit」を歌う。ほとんど目もくれない人々の中で高らかに韓国語の楽曲を叫ぶと、その体勢のまま、バンドメンバーだけを残して「サンフラワー」をしめやかに歌う。

ちゃんみなによれば、今回のツアーは「お前のこと絶対に許さないからな!」というテーマで制作されたのだという。思い返せば、メイク落としパフォーマンスが広く話題になった前回の「AREA OF DIAMOND」は「あなたはありのままで美しい」というテーマであった。しかし彼女には「そんなポジティブなメッセージを自分が伝えていいのか? という気持ちがあった」のだという。というのも、自分にはまだ許せていない人や過去のトラウマがたくさんあることに気づいたからだ。その思いをポジティブなものに変えたい。そうした思いが今回のツアーの原動力になった。

ちゃんみなが過去に負った傷のひとつとして、10代の終わり頃に苦しんでいた恋愛について次のように語る。

「くっついたり離れたり、しょうもない恋愛をしていたんです。その頃は、この人と別れたら自分には何も残らないんじゃないかと思っていたけれど、ある時『今別れる人よりも、これから出会う人たちのほうが多いんだよ』と言われたことで、大人になることとは、何かを得るよりも捨てることなのかなと思ったんです。別れはすごく悲しく痛いけれど、自分のためになる別れもあるんですね」

そんな時に書いた曲として「Never Grow Up」を披露し、「でも私は懲りなかったんだよな」と「ボイスメモ No.5」「ハレンチ」と人気曲を続ける。さらに「これはあなたたちの曲」と紹介された「美人」では、イントロからアウトロまですべてのフレーズでフロア中から大合唱が起き、会場の熱気は最高潮を迎えた。


(Photo by 田中聖太郎)

会場が暗転すると、冒頭で少女が演奏していたサン=サーンスの「白鳥」が再び流れ、ステージ両脇のスクリーンに古いビデオカメラで撮影された映像が映し出される。そこには、ややおぼつかないリズムで「白鳥」を弾く少女の姿(衣装は冒頭でピアノを弾いた少女と同じ白いドレス)や、その少女がハンディカムで撮影したと思われる花や草木、舗装された夏の道路を「行きましょう、まっすぐ」とつぶやきながら歩く姿などが収められている。彼女は小さな草花に「きれい」と感動するような、そしてそのことを素直に言葉にできるような美しい心を持っているようだ。再び映像が「白鳥」を弾く少女に変わると、少女は演奏を終え、深いお辞儀をして拍手に包まれる。その時、正面を向いた少女の顔をカメラが一瞬だけ捉える。それは紛れもなく少女時代のちゃんみなだった。おそらく家族の誰かが撮影したであろう、宝物のような昔の映像だ。

そんなあたたかい映像なのに、直後に流れるのは「ダリア」の悲しいイントロ。ステージには黒いドレスと黒真珠のネックレスを身に纏ったちゃんみなが再び姿を現し、この狂おしい歌を熱唱する。もちろん、この曲順にも意味はある。彼女は今回のツアーを考案した時、「どうしてわたしばっかり」と暗い気持ちになっていたという。そして人生を通してそんなことを感じ続けてきたのではないかと思い至ったというのだ。

「子どもの頃はいじめられて、中学生の頃は両親と対立し、デビューしてからは心無い言葉をたくさん投げかけられて、どうしてこんなことばかりなんだろうと思い続けてきたんです。そう思ううちに、幼い頃の自分がどこかに行ってしまった気がして……。その子を取り戻したくて考えたツアーでした。完走して今、思うのは、あの子がどこかに行ってしまったのはやっぱり間違いなくて、だけれどあの子が乗り越えてくれた数だけ、わたしのこの人生には価値があるんだと気づいたんです」

そして、それはこの場にいるみんなも同じなのではないかと語る。

「みんなも、わたしには想像できないほどの大変なことを乗り越えてきたんだと思います。それは本当にすごいこと。すごいことなんです。だから、これからもその最高な魂を大事にしてほしいんです。みんなの中にもいる小さな子を、どうか追い出さないで抱きしめてあげてください。きっとその子がいつか、あなたを助けてくれるから」

そんな「自分の中にいる小さな自分」が書いてくれた手紙のような曲として「Good」を披露。センターステージにグランドピアノが用意され、ちゃんみなは客席に笑顔で手を振り、歌いながらピアノのほうへ歩み寄る。そうして最初のサビを歌い終わると、いつの間にか奥のステージ2階にもグランドピアノが設置されており、冒頭でピアノを弾いていたあの少女が再び姿を現す。そして2人でこの曲を演奏する。

勘の良い人はおわかりだろうが、この少女はいわば、少女時代のちゃんみなだったのだ。ステージの上で「あの頃の小さな自分」と「大人になった今の自分」が、束の間共演している。そして歌詞が「1人で歩いてく」に差し掛かると、少女は演奏をやめ舞台を去っていく。満足そうな顔で。

このシーンはさまざまな解釈ができるだろうが、ちゃんみなにとっての「許せていない人や過去のトラウマ」との決別、あるいはあの頃の少女を忘れてしまった自分への赦しが行われたと解釈してみてもいいだろう。歌詞カードには収められていない最後の歌詞「Im ok」を力強く歌うちゃんみなの笑顔は感動的だ。



本編ラストは「太陽」。「みんながわたしにとっての太陽で、雨で、風です。離れないでいてください!」と高らかに叫び、頭上から降り注ぐ大量の雨とステージ奥から放たれる虹色の光を全身で浴びながら、透明感のある声で歌う彼女は輝いている。雨に濡れた長い髪をかきあげる様は、冒頭の登場シーンで参照されたルネサンス期の巨匠が描いた《ヴィーナスの誕生》そのものに見える。


ちゃんみな(Photo by 田中聖太郎)

雨はしばしば、物語の中で「神の不在」を意味するものとして描かれてきた。映画やドラマにおいて悲しいことや悪いことが起きる際、そのシーンでは雨が降っていることが多い。しかし一方で、雨は大地を潤し草木を育て、生命を生み出すものでもあり、「恵みの雨」と捉えられることもある。今回の雨の降り方は明らかに後者を表しているだろう。この雨とともに、過去の許せなかったさまざまなことを洗い流し、すべてを赦して、何度でも新たに始めることができる。たとえ神がいないと思えるような日々であっても、わたしたちは自分で自分を祝福することができる。まるでそう伝えているかのような圧巻のステージだ。

アンコールは「花火」からスタート。フロアに色とりどりのペンライトの花火が咲き、「わたしはみんなの涙だってことを忘れないでね」と「Angel」へと繋ぐ。ダンサーやバンドメンバーを紹介したあと、「みんな本当に愛してるよ! いつもありがとう!」とフロアに語りかけ、ラストは「TOKYO 4AM」。世界を飛び回っている時に自分の故郷・日本を思いながら作った曲をみんなで歌い、会場はハッピーなムードでいっぱいだ。

最後にすべてのスタッフに感謝を述べ、このライブを完成させてくれたオーディエンスに再び感謝を伝えると、冒頭に登場した豊穣の象徴である貝殻がステージ2階に再び現れ、ちゃんみなは笑顔でその中へと戻っていった。こうして「AREA OF DIAMOND 2」追加公演は幕を下ろした。

「お前のこと絶対に許さないからな!」というテーマでスタートし、それらとの決別や赦しへと向かっていった本公演は、その始まりの地点からは真逆にあるような幸福な場所で終着を迎えた。この公演の冒頭と結末に、愛と美と豊穣を意味するモチーフが使われたことは興味深い。中盤で語られた「大人になることとは、何かを得るよりも捨てること」という言葉と照らし合わせて考えると、過去の傷への執着を捨てることで人は大人になれるのであり、その過程で生まれるものが愛と呼ばれる何かなのかもしれない。

傷を手放すこと、赦すことは、痛みを伴う。しかし時にそれは豊かで美しいことでもある。そう教えてくれるような、豊かで美しく、そして優しい公演だった。

なお、余談だが、ボッティチェリが描いた名画《ヴィーナスの誕生》には、誕生したヴィーナスだけでなく、女神が風に吹かれて理想郷へと向かう様も描かれている。ちゃんみなは「みんながわたしにとっての風」だと言った。風に吹かれる女神はどんな理想郷へと向かっているのだろうか。その姿を追い続けたい。

文:山田宗太朗

セットリスト
Baby
RED
Im a Pop
Picky〜Doctor(メドレー)
ルーシー
B級
ピリオド
Wake up call
FORGIVE ME
BEST BOY FRIEND〜Like This(メドレー)
FUCK LOVE
Biscuit
サンフラワー
Never Grow Up
ボイスメモNo.5
ハレンチ
美人
ダリア
Good
太陽
En 1. 花火
En 2. Angel
En 3. TOKYO 4AM

ちゃんみな Official Site:https://chanmina.com/

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