オマー・アポロが語る坂本龍一への深い敬意、「新しい音楽」を作るためのヴィジョン
Rolling Stone Japan / 2024年8月15日 17時30分
米インディアナ出身、メキシコ人の両親をもつシンガーソングライター、オマー・アポロ(Omar Apollo)がフジロック初日の夕方、GREEN STAGEに登場。「最高傑作」を自負するニューアルバム『God Said No』からの収録曲を中心に、華やかなスター性を振り撒きつつ、情感豊かな歌声とグルーヴで観客を魅了した。
このインタビューは本番の数時間前、会場の苗場スキー場で実施したもの。自身のルーツ、日本文化に対する関心、実験精神も覗かせる音楽観など時間の許すかぎり尋ねてみた。
―ミュージシャンになろうと思ったのはいつ頃、どんなきっかけがあったのでしょう?
オマー:子供の頃からミュージシャンに憧れていたんだ。歌うことが好きだったからさ。そこから作曲したり、レコーディングするようになっていった。
―メキシコ系移民の両親を持つアメリカ人とのことですが、ご自身のルーツがパーソナリティや考え方、音楽観などにどのような影響を与えているとお考えですか?
オマー:ああ。父と母の影響、アメリカの文化を背景に育った。アメリカとメキシコのカルチャーのフュージョンは確実に音楽に影響しているよ。メキシコはもちろんだけど、特にアメリカのカルチャーの影響が強いかな。
Photo by Masato Yokoyama
―前作の『Ivory』に引き続き、最新アルバム『God Said No』の中にもスペイン語で歌われている楽曲がありますが、スペイン語で歌うときと英語で歌うときで感覚的に違いはありますか?
オマー:もちろん。音楽そのものがすでにパフォーマティブだけど、最近はスペイン語で歌うことがパフォーマティブに感じるんだ。普段は英語で話してるけど、スペイン語は自分の内にいつもあって。例えば家族と話すときみたいに、スペイン語がふさわしいと思ったときはスペイン語で話してる。
―あなたにとってどちらがメインでしょうか?
オマー: 英語だね。でも、自分の中でスペイン語は母語だよ。
Photo by Masato Yokoyama
―『God Said No』は去年ロンドンで過ごした3カ月の間の経験から生まれたと聞きました。ロンドン滞在中のエピソードや、どのような出来事が今作のインスピレーションとなったのか教えてください。
オマー:坂本龍一やクラフトワークの影響はすごく大きい。それから80年代のUKインダストリアルミュージック。自分にとって音楽はイメージと一対で、作曲では映像的なアプローチをとっている。そうだな……映画みたいな感じ。
―どうしてロンドンを選んだんでしょうか?
オマー: ロサンゼルスは居心地がよすぎたんだ。だから、あえて不自由な状況に身を置きたかった。
―坂本龍一の名前が挙がりましたが、具体的にどんなところからインスピレーションを得たのでしょう? 好きな作品や楽曲があれば、あわせて教えてください。
オマー: 数えきれないな……アルヴァ・ノトとの作品は大好きだし、どのリミックスもいい。もちろんYMOの作品も。1stアルバム『Thousand Knives(千のナイフ)』もすごく好き。後期のピアノ作品もすばらしい。特に『12』はすごく好きで、収録曲を弾こうとレッスンを受けたこともある。「Merry Christmas Mr. Lawrence」はもちろん、「Kizuna」はお気に入りの一曲。それから数々のサウンドトラック。『レヴェナント:蘇えりし者』は鼓動を感じる。そうだ……『async』も最高だよね。すごく耳障りなサウンドでさ。あのアルバムの要点は同時に重なり合うすべてのノイズ、まさに”async(非同期)”を体現してる。彼の音楽、歩んできたキャリア、ポップバンドから偉大な作曲家への移り変わりーー彼の生涯すべてが納得できる。
―ミーガン・ザ・スタリオンの「Mamushi」、チャイルディッシュ・ガンビーノの「Yoshinoya」、ビリー・アイリッシュの「CHIHIRO」など、2024年は日本語をタイトルにした楽曲が世界的に目立つ印象があります。あなたもこれまで「Kamikaze」や「Tamagotchi 」といった楽曲を発表していますが、日本語という言語や日本の文化についてどう捉えてらっしゃるか教えてください。
オマー: 音楽やアニメを通して日本の文化を知った。ちなみに兄は「ZANDOR」っていう名でアニメーターとして活動してるんだ。幼い頃は『ONE PIECE』『呪術廻戦』『僕のヒーローアカデミア』『ブラッククローバー』とかをよく観てた……『ユーリ!!! on ICE』も好きだったな。とにかく日本の音楽とアニメが好きだったんだ。たまごっちは、いつも遊んでた。タイトルのチョイスについて、ただ日本語の響きが気に入ってるんだ。英語よりカッコよく聞こえる言葉があるなって。例えば、日本でアメリカの国旗のマークがついたコットンTシャツが売ってたら、なんか買う気になっちゃうじゃん。それと一緒。例えば、日本製のギターはアメリカ製のギターより性能がいいし、日本製って聞いたら「やべーっ!」ってなっちゃう、あの感じだよ。
フランク・オーシャンとの接点、歌とサウンドを通じて表現するもの
―今作『God Said No』は失恋をテーマにした楽曲が多く収録されていて、怒りや悲しみといった感情が歌声からも強く伝わってきます。これまで以上にボーカルが強く印象に残る作品だと思いますが、歌い方や表現の仕方の変化についてご自身ではどうお考えですか?
オマー: そういった感情を音楽で表現したかった。どこか自分の居場所を失っている感じがしていて、だからパフォーマンスではそういうふうに歌いたかった。そもそも、歌うこと自体がすごく好きなんだ。好きなことTOP3に入ってる。歌うこと、食べること、あとは……セクシュアルなことかな(笑)。自分にとって大切なことなんだ。
―ダンサブルなハウスチューン「Less of You」、エモーショナルなバラード「Empty」など、あなたの作る楽曲はさまざまなジャンルを行き交う幅広いサウンドが特徴的ですが、新作は音楽性の面でどのようなテーマがあったのでしょう?
オマー: アルバムの最初の5曲はとてもパーソナルな曲で、いうならオマー・アポロの音楽のすべて。(前作収録の)「Evergreen (You Didn't Deserve Me at All)」以降は、こう歌いたいとか、こう表現したいっていう気持ちを具現化してきた。今回のアルバムはそんな構成にしたかったんだ。サウンドについては、クラフトワークやエクスペリメンタルミュージックにハマっていたし、あとはケイト・ブッシュ。エクスペリメンタルとポップを持ち合わせたような、ジャンルをクロスオーバーしている音楽に惹かれるんだ。型にはまっていない新しい音楽をスタジオで作るのはワクワクする。そんな気持ちで音楽をやっていきたいし、自分にとって音楽との自然な向き合い方なんだ。
―「Lifes Unfair」はフランク・オーシャンの未発表曲「No South Point, Miami」がサンプリングされているという噂ですが、この曲に関して何かエピソードがあれば教えてください。
オマー: ああ、そうだよ。クレジットとして入れたかったんだ。
―つまり、本当なんですね。
オマー: ああ。
―何か裏話はありますか?
オマー: ノーコメントで(笑)。
Photo by Masato Yokoyama
―今作のゲストのムスタファなどと共に、彼の故郷のスーダンやガザの紛争に苦しむ人々への支援を目的としたチャリティーライブに参加されていましたが、どのような思いからライブへの参加を決めたのでしょうか? ムスタファとの楽曲「Plane Trees」に込めた思いもあわせて教えてください。
オマー: ムスタファから連絡を受け取ったんだ。ムスタファとダニエル・シーザーの3人でチャリティーライブをやらないかって。もちろん、やろう!って話が進んでいった。ムスタファはすばらしいアーティストであり、作家であり、一人の人間として尊敬してる。発端は彼のアイディアだった。そういえば、彼らはつい最近もチャリティーライブをやっていたよ。あいにく参加できなかったけど、また実現させるなんてすごいと思ってるし、ラインナップもすごくよかった。
―このあとライブも控えていますが、パフォーマーとして大切にしていることは?
オマー: いろんな要素のバランスをとることが大事だと思ってる。例えば、オーディエンスとのエネルギーの受け渡しかな。つまり、オーディエンス。数は関係ない。二人でも2万人でもオーディエンスとつながりを感じることが大事なんだ。まあ、一番はボーカルパフォーマンス。万全な状態ですべての音域を出せるようにすること……あとは、集中することだ。
Photo by Masato Yokoyama
オマー・アポロ
『God Said No』
再生・購入:https://japan.lnk.to/OMGodSaidNo
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