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The Last Dinner Partyが語る過剰の美学、この時代に嘘偽りのないバンドであること

Rolling Stone Japan / 2024年8月15日 17時45分

Photo by Yukitaka Amemiya

南ロンドンから頭角を現し、みるみるうちにUK最注目バンドの座に躍り出たザ・ラスト・ディナー・パーティー(The Last Dinner Party)。先日のフジロックでは堂々たるステージングで2日目のグリーンステージを沸かせた。恵比寿リキッドルームでの単独公演も、初来日とは思えない親密な雰囲気を作り出し、さらなる飛躍を予感させた。デビューアルバム『Prelude to Ecstasy』では、ミニマリズムの逆を行くマキシマリズム(過剰主義)的な美学で過去のロックやポップを貪欲に吸収し、自分たちなりにアウトプット。サウンドはもちろん、ヴィジュアルやファン・コミュニティのありかたも興味深い。単独公演が行なわれる数時間前、5人のメンバーのうちアビゲイル、オーロラ、エミリーの3人に、バンドの現在について聞いた。


—まずは読者に自己紹介をお願いします。

アビゲイル:私はアビゲイル。リードシンガーです。

オーロラ:オーロラ。キーボード奏者でバッキングシンガーです。

エミリー:私はエミリー。リードギターを弾きます。


左からジョージア・デイビーズ(Ba)、オーロラ・二シェヴシ(Key)、アビゲイル・モリス(Vo)、エミリー・ロバーツ(Gt)、リジー・メイランド(Gt)
Photo by Yukitaka Amemiya

—ザ・ラスト・ディナー・パーティーを結成するにあたって、どういった音楽やヴィジョンを思い描いていましたか?

アビゲイル:本当に難しい質問! だいたいのところ何か特定のジャンルを追求しようとか、自分たちが収まる「箱」みたいなものを考えてはいなかったと思う。

オーロラ:ライブがいいバンドにしようとは思ってたよね。

アビゲイル:そう!

オーロラ:みんな楽器を持ってて、その生のフィーリングがある。クラシックロック的で、ある意味ほとんどノスタルジック。1枚目のアルバムはそういう路線。シンセポップではなくて。

エミリー:はじまりはピアノとキーボード寄りだったと思う。初期の曲は全部アビーがマイクに録音して作ってたから。ライブをやり始めるまではギターは大きなパートじゃなかった。商業的な意味でのいわゆるギターバンドにはしたくなかった。だけど、そのうちキーボードとかポップな世界とギターを融合させようとしはじめたの。だからロックなんだけど、クラシックなギターバンドじゃなくて。

アビゲイル:もっと演劇的でマキシマリストな。




2024年7月25日、恵比寿リキッドルームにて(Photo by Elenora Nishevci)

—曲はどんなふうに作っていますか?

アビゲイル:いくつかのやりかたがあるけど、だいたいが私がピアノで曲を書いて、みんなに聴かせて、そこでそれぞれがパートを加えたり変えたりして、演奏して実験してみる。1stアルバムのほとんどの曲はそういうふうにして書かれたんだけど、いまは違うやりかたでやってる。オーロラの家で全員一緒に座って、シンセを弾いて音楽を作りはじめて、そこに歌詞をのせる。いろんなやりかたを試してみてるの。自分たちに挑戦を課して、やる気を保ち続けるためにね。

オーロラ:5人全員で始めるのは難しい。ひとつのキッチンに5人のシェフがいるのは多すぎでしょ。だからたいていはみんなが小さなアイデアを持ち寄って、ひとつの部屋に集まって演奏すると、そこから進化していくというか。一緒に演奏することで曲ができあがっていく感じ。




2024年7月25日、恵比寿リキッドルームにて(Photo by Elenora Nishevci)

—「Nothing Matters」は熱烈な支持を得ています。どうしてだと思いますか?

アビゲイル:わからない。わかってたらその必勝法を売って大金持ちになれる(笑)。思うに、私たちがあれを作ったときの喜びや多幸感、リアルな幸せの場所から出てきたもので、演奏からそれが感じられるからじゃないかな。みんな私たちからそういう幸せを感じとっていて、それは世界が本当に必要としているものだと思う。それで私は「ファック」と言うのが楽しいと知ったわけだし(笑)。

—「The Feminine Urge」の「To nurture the wounds my mother held(私の母が負っていた傷を育てる)」という歌詞が印象的です。この曲はどうやって生まれましたか?

アビゲイル:アルバムでいちばん親密な曲かもしれない。女性であることと、特に女性と母親との関係について語りたかった。子どもから大人になると、急に単なる母と娘じゃなくて、この世界を生きているふたりの女性になる。母親も間違いを犯すもので、かつては小さな女の子で自分の母親とのあいだに傷みを経験してきた……世代を超えるトラウマと歴史、特に母系の。娘がいたらどんな感じだろう? 私は彼女にどんな傷を与えるんだろう? 彼女がこの世界を生きてゆくのに自分はどんな助けができるんだろう、その意味は? 歌詞を書いたときにはそんなことを考えてた。




—アルバニア語の曲「Gjuha」が入っているのは新鮮でした。

オーロラ:私の家族はコソボ出身だから、アルバニア語が私の第一言語なんだけど、イングランドで育ったから即忘れてしまった。私はアルバニア語を書けるし喋れるけどあんまり上手じゃなくて、ときどきそれを恥ずかしく感じる。曲はそのことについて歌ってる。これがアルバニア語で書いた初めての曲。私と自分の文化との関係、特に言語との関係について考えさせられる曲で、すごくカタルシスがある。歌うのはいい気分。



—他に英語以外の言語を話せるメンバーはいますか?

アビゲイル:ジョージアは日本語がかなり上手。リジーと私はフランス語をちょっと。フランス語で曲書けるかな……。レーベルがあの曲を歓迎してくれたのは驚いた。ポップやロックのアルバムに他の言語の曲が入っているのは珍しいことだから。

オーロラ:言語についての曲もね。

スパークス、日本のカルチャー、音楽を通じて伝えたいこと

—最近、ライブでスパークスの「This Town Ain't Big Enough for Both of Us」をカバーしていますね。

アビゲイル:「This Town」を演奏するのはワークアウトみたいで大好き。すごく面白い曲。かなり変わってて最高。

オーロラ:私たちは見せびらかすのが好きなの。

エミリー:2年前に学校の友達が「あなたたちスパークスに似てるって気づいてる?」ってメッセージとこの曲を送ってきて。「えっ、これ大好き!」ってなった(笑)。本当にちょっと私たちみたいに聴こえる、いい意味で。しばらく話していて、カバーやってみようかってことになった。そうしたら、何も変える必要がなかった(笑)。

—スパークスのどこがいいと思いますか?

エミリー:最近ドキュメンタリー(『スパークス・ブラザーズ』)を見たんだけどすばらしかった。彼らは進化し続けていて、どんな失敗も成功も彼らにとっては十分に大きすぎるってことはない。前進し続けて、ジャンルを変えて、流行に迎合しない。特に『Kimono My House』には私が音楽で好きなところが最高に詰まってる。クイーンのロックとABBAのポップなフック、反復。

| The Last Dinner Party performing their cover of "This Town Ain't Big Enough for the Both of Us" by Sparks at Liquid Room, in Tokyo.pic.twitter.com/XdOq7zpdgB — The Last Dinner Party Society (@tldpsociety) July 25, 2024 恵比寿リキッドルームの単独公演でスパークス「This Town」をカバーしたときの様子。フジロックではブロンディ「Call Me」のカバーを披露した

—ライブのたびに「ギリシャ神話のミューズ」や「花言葉とヴィクトリア時代」、「グリム童話」などのドレスコードを設定しているのも面白いですね。最近は決めていないとのことですが。

アビゲイル:もう特定のドレスコードを決めなくてよくなったのはいいことだと思う。いま私たちのファンは自然にドレスアップして、自分のアイデンティティを探究してる。ライブを始めた頃は、自分たちの衣装を計画するときにテーマを決めてたから、じゃあ観客にも教えようってことになったの。そうすることでみんなが参加したり作ったりする空間ができるから。ストリートで自分がしたい格好をする自信がない人も、TLDPのライブならできる。他の人たちもやってるし、安全に感じられる空間で、自分自身を表現できるから。いまではみんなただドレスアップしてライブに来るってわかってる。それって本当に本当に美しいしわくわくする。だから今夜のライブもみんながどんな格好で来るのか楽しみ!


2024年7月27日、フジロックにて(Photo by Yuta Kato)

—バンドのDiscordサーバー「The Parlour」も面白い試みですね。どんなふうに運営していますか?

アビゲイル:レーベルと話して、世界中のファンが交流してお互いにつながれる場所がほしいってことになって始めたの。私たちが個人的に運営しているわけじゃないんだけど、ファンアートやちょっとしたメッセージをよく見に行ってる。すごくキュート。

—Discordはゲーム文化と親和性が高いアプリですが、あなたたちはゲーマーですか?

アビゲイル:あんまり。私はゲーマーじゃないな。

オーロラ:ゲームはクリスマスにやる。それ以外の時もやるとゲーム以外何もできなくなっちゃうから。だから特別な期間限定。

エミリー:『Horizon』とか『HALO』とか……。

—初来日ということで、日本のカルチャーで特に関心のあるものは?

アビゲイル:最近本当に漫画にハマってる。伊藤潤二が大好き! ファッション的には『NANA』とか『富江』とか、雑誌「FRUiTS」とか。ああいうルックとか美学とかほんと好き。『新世紀エヴァンゲリオン』も。

オーロラ:スタジオジブリ。小さな妹がいて一緒に観るんだけど、すごくユニークで美しい。あとファッションも、今日ここに来るときにもただ歩いたり車から外を見たりしてるだけで、「うわ! 見て!」って(笑)。

エミリー:これまで出たもの全部。


Photo by Yukitaka Amemiya

—ひとりでやるのではなくバンドでやることの強みはどこにありますか?

アビゲイル:楽しい(笑)。ステージに立つのに加えて、ステージの外で一緒にいるのも本当に重要。私たちは急に大きくなって強烈な体験をしていて、ソロ・アーティストだったらもっとずっと大変だし孤独だったと思う。私たちはまったく同じことを一緒に体験しているから、お互いにお互いの面倒を見て、地に足をつけて、ノーマルでいて、起こっていることに圧倒されずにいることができる。

—音楽を通じて伝えたいことは?

アビゲイル:これは何度も言っているんだけど、嘘偽りなく真面目であることはこの時代に何かをやるにあたって本当に価値ある通貨だと思う。本当に自分自身と自分のコミュニティのために、お互いを引き上げるためにやることが大事。これが流行ってるからとか人気だからとかでやることには本当に反対。本当に自分自身に誠実になることを恐れずにいられたら正しい人々を惹きつける空間を作れるし、私たちはあなたを愛する。それが私たちの音楽に求めるものかな。



ザ・ラスト・ディナー・パーティー
『Prelude to Ecstasy』
発売中
日本盤ボーナストラック収録
再生・購入:https://umj.lnk.to/TLDPPE

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