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モー娘。小田さくら、櫻井梨央が2024年の目線で語る「モーニング娘。」の伝統と革新

Rolling Stone Japan / 2024年8月19日 17時30分

写真左から、モーニング娘。'24の櫻井梨央、小田さくら

Rolling Stone Japanではモーニング娘。の小田さくらに定期的に話を聞いている。前回はそこに小田と同様、モーニング娘。に1人で加入した櫻井梨央も加わり、より広がりのあるトークを展開した。今回は、久しぶりに2人にご登場願い、この1年半の間にあった出来事を振り返ってもらったあと、新曲「なんだかセンチメンタルな時の歌 / 最KIYOU」やこれからのモーニング娘。についてたっぷり語ってもらった。

【写真をすべて見る】小田さくら+櫻井梨央(ソロカットあり)

小田が最近抱えている悩みとは、ハロー!プロジェクト随一の人たらし櫻井の凄さとは――。モーニング娘。の歴史や伝統にも触れるロングインタビューをじっくり味わってほしい。

―前回、2人のインタビューが掲載されたのは昨年2月のことでした。まずは、それ以降から2024年の上半期までの活動を振り返っていただけますか。

小田 去年の2月……。

櫻井 スウィング(「Swing Swing Paradise」)の衣装を着てました。

小田 珍しく思ったより時間が経ってないです。もっと前の記憶です。いつも時間は早く過ぎて感じるタイプなんですけど。ということは、いろいろと起きてたのかな。
櫻井 確かに、濃かった……!

小田 17期はいなかった?

櫻井 まだいないですね。

小田 そうなんだ。 何してたんだろう……。

―何がその濃さの要因になってます?

小田 やっぱり、譜久村(聖)さんの卒業があって自分がサブリーダーという役職をもらったこと、17期が入ったこと、ハロー!プロジェクトの他のグループも人の入れ替わりがあって。

櫻井 はい。

小田 だから、私はそのときにいるメンバーでひと時代を記憶するので、メンバーが変わると時代が変わった感覚になるから、長く感じているのかもしれないです。

―そこで時の流れを感覚的にはかっているんですね。

小田 そうです。誰がいる、誰がいない、が自分にとってはけっこう大きいです。それによって空気感が変わるので、何年に出たフェスとか何年にあった秋ツアーというものではなく、「このメンバーでの秋ツアー」みたいな記憶になります。最近だと、ひと月でハローのメンバーが4人卒業して、その4人がいないハロー!プロジェクトのメンバーに久しぶりに会ったときに、「また時代が変わったな」って感じました。

―もともと、そういう時間感覚があるんですか。

小田 たぶん。田中(れいな)さんがいなくなった時代、道重(さゆみ)さんがリーダーだった時代、道重さんがいなくなってからの時代、みたいな。「14」とかも私的にはメンバーで把握してる感じがします。12期がいるときはもう自分の中ではほぼ「15」のくくり、みたいな認識ですね。

―この1年半、櫻井さんにとってはどんな時間でしたか。

櫻井 前よりグループに馴染めたんじゃないかなっていう実感があります。

―こういう場面でっていう具体例は挙げられますか。

櫻井 私は小田さんと同じように1人でモーニング娘。に加入して、3年ぶりの新メンバーでグループとしての形が出来上がってる状態に入ったから、最初の頃は浮いてるんじゃないかという心配がありました。でも、人と話すのが得意なのが自分の強みでもあるのでそれを活かさないとと思って、たくさん喋りかけた結果が今、メンバーとたくさん仲よくできてることに繋がってると思うし、メンバーと過ごす時間が増えたと思います。一緒に遊びに行くことも増えて、遊園地に行ったり、ゴハンに行くこともしょっちゅうありますし、仕事だけの仲間っていう感じじゃなくなってきたのがうれしいです。

―そういうときは自分から誘うんですか。

櫻井 その場の流れで行くことになったり、自分から「○○さん、ゴハン行きませんか?」みたいに誘ったり。

小田 この子にはハロー!プロジェクトの中でも稀に見る社交性の高さがあって、「そんなわけないじゃん!」ってくらいのスピードで仲よくなるんですよ。ファーストコンタクトの時点でもう、半年ぐらい付き合いがある人みたいな感じで懐に入れるんです。だからいろんな人からすごく愛されてるし、らいりー(櫻井)もすぐ人を好きになっちゃうよね?

櫻井 はい(笑)。

小田 愛情をもらって与えてっていう。前回のインタビューの頃はまだ分かってなかったこの子の潜在能力がどんどん開花してます。

櫻井 人が好きだし、とにかく喋ることが好きなんです。一昨日からハロー!プロジェクトのコンサート(「Hello! Project 2024 Summer ALL OF US」)が始まったんですけど、私はハローが大好きなのでそこは自分にとって最高の場所でもありますし、楽しみながら毎日過ごしてます。

―じゃあ、このツアー中に全員と仲よくなるぐらい?

櫻井 でも「仲よくなりたいメンバーはいますか?」っていう質問をよくいただくんですけど、ほとんどのメンバーさんとかなり喋れる関係にあるから、今から仲よくなりたいメンバーさんは案外いなくて、今はいろんなメンバーさんともっと深く仲よくなりたいっていう感じなので……怖いですね。

―自分のスキルが怖い?(笑)

小田 そう、仲よくないメンバーがいないんですよ。すごいです。72人ですよ!? 「友達100人できるかな?」を地で行ってる子です。

櫻井 そうですね、特技かもしれない。

―人の顔はけっこう覚えられるタイプですか。

櫻井 人の顔はすごく覚えられます。

―さっきびっくりしたのが、いま僕の隣にいる編集長の顔を見た瞬間に「あっ! お久しぶりです!」という表情をしていたじゃないですか。彼は前回の取材で櫻井さんに会ってるとはいえ、あれから1年以上経っていても覚えているのかと驚きました。

櫻井 そうですね。ファンの方の顔を覚えたりするのも得意です。数字を覚えるのは苦手なんですけど……。

―その能力はいつから自覚しているんですか。

櫻井 記憶力がいいのは中学生の頃から自覚してました。昔の記憶、けっこうある、みたいな。昔から記憶力はいいのかもしれない。


「先に表情ができるようになる子は珍しい」(小田)

―前回のインタビュー時は櫻井さんのコミュ力の高さはまだあんまりファンに知れ渡ってなかったと思うんですけど、そのときに小田さんが「表情をつくるのが上手だから、それを武器にしたほうがいい」ということを話していて、櫻井さんも「そうですよね」みたいなことを言っていて。で、今では櫻井さんの表情づくりの凄さはファンなら皆が知ってますよね。そういう意味では有言実行してるなと思いました。

小田 そうだ! 生写真撮ってるらいりーを見て、当時そう思ったんだ。

櫻井 本当ですか?

小田 そう、スウィング(「Swing Swing Paradise」)の頃。



―ブログの写真とかを見ても、櫻井さんはグループ随一と言ってもいいくらい、いろんな表情をしていて。

櫻井 うれしいです! 最近は、曲に合わせてしっかり表情をつくらないといけないなって考えるようになったので、そういうところでも成長していきたいなって思ってます。

―そうは言いますけど、先日の武道館公演(「モーニング娘。'24 コンサートツアー春 MOTTO MORNING MUSUME。FINAL」)でも櫻井さんがビジョンに抜かれたときの表情にはかなりハッとさせられましたよ。あの日、僕は2階席のかなり上のほうの席で観てましたけど、バシバシ伝わってくるものがありました。

櫻井 本当ですか? うれしいです! 普段、ビジョンを意識するだけじゃなくて奥のほうにいる人の顔をしっかり見るくらいの勢いでやってるので、実際に観ていただいた方にそう言っていただけるとすごくうれしいです。



―最近、何か意識してることはありますか。

櫻井 ずっと意識してるのは、ふとした表情を抜かれないことで、集中してたり気を抜いてると下を見たり口を開いたりしていることがあって、そういう姿がビジョンに映ることで気を抜いてると思われるのが嫌なので、リハーサルでは自分がどこで抜かれてるか絶対確認するし、リハでは映ってなかったところでも本番では映るかもしれないという意識を持つようにしてます。

―小田さんから見て、櫻井さんはどうですか。

小田 先に表情ができるようになる子って珍しいんですよ。大体、歌とダンスが苦手だからそっちを先にやって、最後に「これでちゃんと表情がつけば完璧だね」という感じなのに、らいりーには「バストアップのショットの意識が強いから、もっと下を意識した方がいいよ」っていうアドバイスをしたんです。私にとって初めてでした、そんなことを言うのが。OCAH NORMAもそうなんですけど、TikTokというバストショットで自分を表現するツールがある時代だから、最近は表情ができる人に対する憧れを持つ子が多いんです。これは時代的なものなんでしょうね。昔は見られるのは全身というのが当たり前という認識だったし、私は「めっちゃダンスがキレイ」とか「足の動きがいい」っていうところを見てたんですけど、今はバストアップショットなんだっていうのをすごく感じます。それができる子は時代に上手くハマって、人から見つけてもらいやすいんだと思うんですけど、やっぱり自分は引きから見る目が抜けてないので、珍しいアドバイスをしてるなって思いました。

@morningmusume_uf 最近好きな曲、踊ってみました @櫻坂46(sakurazaka46) さん #櫻坂46 さん #何歳の頃に戻りたいのか #モーニング娘 #モーニング娘24 #櫻井梨央 #らいりー ♬ Ikutsunokoronimodoritainoka? - Sakurazaka46

―さっき言っていた「下の意識」というのは足元ってことですか。

小田  そうです。あと、顔に意識が行くと全体的な動きが変わってくるというか、らいりーはそれでもめっちゃ動いてるんですけど、らいりーには姿勢とか、階段の降り方……魅せる降り方と普通の降り方の違いを教えたことがあると思います。「骨盤から歩いて」とか、足の動きが軽やかだとすごく華やかだったり、デキる人に見えるんですよ。あと、モーニング娘。はリズムを大事にしているから、常にリズムをとりながら身体を浮かせるような感覚を持ってほしいというか、そういうことも話したりします。

―TikTokの影響でバストアップの表現にみんなが注目する中、小田さんはどう対応しようとしていますか。

小田 私は表情を頑張ってます。ライブでは下から抜かれることと、目線の高さから抜かれることがあるんですけど、下から抜いていただくカメラに対してはリアクションしないです。下からのカメラにはお客さんを見てる自分を抜いてもらってると思ってるし、でも正面の画は自分が今つくってる表情を多くの人に伝わりやすくしてもらえるものという認識で、それはすごくありがたいので、この曲に対する表現はこうだっていうところをしっかり映していただけるようにしてます。でも、私はそもそも三白眼で、相当な失敗をしない限りは映ったときに記憶に残りやすい目をしてると思うんですよ。私はライブで抜かれる回数は決して多いほうではなくて、歌割り以外の場面では抜かれないんです。ユニゾンでも絶対に私以外が抜かれてて、私はソロでしか抜かれないので割合的にはかなり少ないんですけど、だからこそコンプレックスだった三白眼を思いっきり活かさなきゃと思いながらやってます。

―抜かれてない印象はなかったです。

小田 曲の終わりとか、ユニゾンとか、その曲のキメのフレーズでは絶対に私は抜かれないですね。その代わりにソロでは抜かれてるので、そうなるのはわかるんですけど、たまには曲の最後で映りたいなって思います。すごく憧れます。

―そんな想いがあったとは。

小田 私で終わってるイメージ全然ないでしょ?

櫻井 確かに全然ない……。この前のツアー(「モーニング娘。'24 コンサートツアー春 MOTTO MORNING MUSUME。」)で「怪傑ポジティブA」っていうユニット曲をやってらっしゃったんですけど、その時は曲の最後に小田さんがけっこう映ってて。その時に小田さんがウインクしてて打ち抜かれました。

小田 本当? 私、ウインクできないからした記憶もないんだよね。

櫻井 若干目を細めた感じだったのかわからないですけど、めっちゃ印象に残ってて。(少し声を落として)だから、もっと見たいです、私。

―今の「もっと見たいです、私」って言う感じ、すごく自然ですね。天然の人たらしですよ。

小田 そうなんですよね。これが櫻井梨央。

櫻井 人が好きなんですよね。好奇心旺盛、ってことにしといてください(笑)。


「時代に合わせることも必要ですけど、守るべきことは続けていかないといけない」(櫻井)

―武道館公演でラストを飾ったのは「ここにいるぜぇ!」でした。僕としては懐かしい曲が聴けたというシンプルな喜びもありつつ、当時のメンバーがいない中でもモーニング娘。の伝統を受け継いで、今もモーニング娘。24として表現している姿に感動してしまって。世界的に見ても、こういうスタイルで何十年も続いているグループってないじゃないですか。あらためてすごいグループだなと感じました。

小田 私は本物感をすごく大事にしています。でも6、7年前、夏(まゆみ:2023年に逝去)先生に観に来ていただいたコンサートで「ここにいるぜぇ!」をやったときに、「ブレイクスルーが足りない。『ここにいるぜぇ!』をこなしてるだけ」って言われて、そのときは「『ブレイクスルーが足りない』って何? どういうこと?」って思ったんですけど、「ここにいるぜぇ!」を噛み砕き直した今、当時の自分たちを見てみると、確かにブレイクスルーが足りないんですよね。よそのアイドルさんがカバーしてるのと大差ないって思われても仕方がないのかもしれないと思いました。

「LOVEマシーン」や「恋愛レボリューション21」をたくさんテレビでやってた昔は中高生のメンバーがメインでしたけど、それらの曲を私たちがやることで「カバー」って言われるのがすごく悔しかったです。「私たちだけが本物のモーニング娘。なのに!」って。でも、自分も最初は表面だけなぞってたんですよね。テレビで見ていたオリジナルの方々がどんなこだわりを持って踊っていたのか知らなかったわけで。だから「カバー」という指摘は自分としても分かるんです。先輩となった今、後輩たちに「もっとリズムを取って」とか「もっと必死になって」とか「上手にやらなくていいから頑張ってほしい」とか思うんですけど、それは最近すごく悩んでいるところでもあって。

―それはどういうことですか。

小田 例えば「上手にできているのに本物っぽくやらなきゃいけない理由を説明してください」って言われても、うまく説明できなくて。「それだとカバーって言われちゃうよ」っていうのは私の気持ちでしかないんです。だからそれは後輩に強要すべきことなのか、すごく悩んでます。ほかにも、私がずっと守ってきた礼儀やマナーも今の人から見たら堅苦しいし古臭いことなのかもしれない。「人に挨拶するときはバッグを肩から下ろしてね」と言っても、「バッグ持ったままの方が効率よくないですか?」って言われたら、「確かに……」って思ってしまうのと同じで、歴史のあるグループだからこそ、これからも守るものと時代に合わせて手放すべきものの選別をしなきゃいけないというのがたくさんあって、それが葛藤でもあるんです。

でも、昔からモーニング娘。を見てくださってる方から「やっぱりモーニング娘。ならではの変わらない良さがあるよね」と言われると、「手放さずにやっててよかったな」とは思う……けど、これからもそれを守って下に伝えていくべきなのかどうかがわからない。つんく♂さんは意外と「その時代に合った生き方をしてください」というタイプの方なんですけど、私は「これまで大切にしてきたものも守りたいけど……」みたいなところもあって、だから葛藤するんです。これはどこまで守るべきなんだろうって。

―確かに難しいですね。

小田 はい。一般社会でも上司と部下の間で起きる「挨拶する・挨拶しない」という話にしても、「挨拶されたら気持ちいいじゃん」って上司の方が思ってても、部下の子が気持ちいいって思わなかったら平行線になるじゃないですか。それと似たようなことがモーニング娘。にも起きてるのかもしれない。

―それはグループの歴史が長くなってきたことで考えるようになったことですか。

小田 はい。上の世代の方々はもっと厳しくて、私の代はまだ緩くなったほうなんです。昔のマネージャーさんは挨拶とかにとっても厳しくて。例えば、リハーサルで私がちょっとぼーっとしてて、名前を2回呼ばれたとします。そうすると、2回目に呼ばれた時点で「1回で返事しなさい」って注意されましたし、体重気にせずにお菓子を食べてたら取り上げられたりしたこともあります。でも、そういうことがグループの歴史が長くなるにつれて時代に合わせて全体的に少しずつ柔らかくなっていって。ただ、お外でお仕事するときは20年前のモーニング娘。を知ってる方が多いので、挨拶をすると「モーニング娘。さんはいつも敬語がしっかりされてますよね」とか、「挨拶がしっかりできますよね」っていうことを、私だけでなく、らいりーも言われます。

―今の話を聞いて、櫻井さんはどう感じますか。

櫻井 他のグループと比べて、モーニング娘。はちょっと違うなというのはすごく思います。それはもちろんいい意味で。時代に合わせることももちろん必要ですけど、守るべきことはちゃんと続けていかないといけないなって私は思います。過去に40人以上モーニング娘。のメンバーがいて、昔の曲をやる機会もすごく多いからこそ、「いつの時代もいいね」って言っていただけるように活動しないといけないなっていう意識は常にあるので、挨拶、礼儀、あと歴史へのリスペクトは忘れちゃいけないなって思いますし、そういう気持ちをメンバーみんな持って活動してるんじゃないかなって私は思います。

―昔の曲をパフォーマンスする上ではどんな気持ちでいますか。

櫻井 細かい振り付けがすごく多いんです。「LOVEマシーン」のイントロの振り付けは、右を向いたときは真顔で、左を向いたときは笑顔っていうのがあって、それは過去の振りのビデオだけをチェックしてもわからないんです。でも先輩方に直接聞けるから、グループがこれまで代々受け継いできたことを細かい点まで実践できるわけですし、私たちも今後モーニング娘。が続いていくためにも、オリジナルの振り付けを踏襲することはかなり気を付けていることのひとつです。

小田 最近はマイクを手に持ってると、手の動きは省略したりするんですけど、「これ、本当はこういう振り付けだから覚えといてね」って言ったりしてますね。

―資料だけでは伝わらない、口伝えによる技術があるんですね。

小田 そうなんです。でも、私たちしか知らないようなことも、ファンの方は当時テレビやライブでチェックしていて、「LOVEマシーン」では顔が向いてる方向で表情が違うことを知ってるんですよ。むしろ新しく入ってきたメンバーが知らなかったりするので。

―そうか、当時はまだ生まれていないメンバーもいますもんね。

小田 はい。この時代、頑張って探せば昔のコンテンツが見れる環境にかなり助けられてます。私は昔の曲をやるにあたって、リハーサルでやるのは振りを揃えることですけど、一人で練習するときはファンの方がこの曲に対して持っているイメージを守ること、再現することをすごく頑張ってます。

―ファンがその楽曲を愛していればいるほど、それがみなさんのパフォーマンスにも反映されていく。

小田 そうです。「I WISH」をやるときは、たとえば受験のときに聴いてた人がいるかもしれないなとか、この曲がどれほどの人の気持ちを救ってきたのか想像するだけで、曲に対して込められる気持ちや表現の丁寧さが変わってくるんですよ。



―櫻井さんはそういう歴史や伝統の重さみたいなものがプレッシャーになることはないですか。

櫻井 プレッシャーは感じてないんですが、歴史の重みは感じてると思います。今こうしてモーニング娘。にいるからこそ、今できるパフォーマンスを見ていただきたいです。それは歴史を背負ってるからこその意識だと思います。
小田 「大事なのは礼儀と挨拶です」っていうアイドルはこの時代に珍しいんだろうなと思います。

―あまり聞かないですよね。

小田 それもモーニング娘。だからなのかなって……ここまで来ると自分たちのグループ名なのに、自分のものじゃない感覚があって。私は「モーニング娘。」という看板を借りて磨いて、最後にそれを返却するっていうイメージです。自分の持ち物にしたら終わりだと思わない?

櫻井 確かに、そうですね。

小田 私はそんなことしないですけど、プライベートで自分がモーニング娘。だと言って周りからちやほやされたりするのは、ちょっとありえないと思ってしまいます。

―では、モーニング娘。は誰のものなんですか。

小田 初期メンバーさん……モーニング娘。の看板を大きくしてくださった時代の先輩方とつんく♂さんのもの、です。もし、らいりーが「小田さんのものですよ」って言ってくれたとしても、「いやいや、私のものじゃないよ」という意識です。現メンバーみんながそう言うと思いますし、誰も「モーニング娘。は私のものです」と言わないのが、今のモーニング娘。なんだと思います。でも一方で、世間で知られる「モー娘。」のイメージを作った先輩方は、「そんなことないよ。現役がやってくれてるからだよ」って言ってくださるので。

―そうですよね。

櫻井 でも、こういう話ができるのって歴史があるからですよね。

小田  すごいよね、ほんとに。

―去年の横アリ公演(『モーニング娘。23 コンサートツアー秋「Neverending Shine Show」SPECIAL』)も震えましたよ。

小田 ですよね! 「すごいとこに立ってる!」って思いました。

櫻井 映像を観るたびに夢かと思います。

―「この『LOVEマシーン』は何?」って思いました。

小田 そうですよね。本当に「この『LOVEマシーン』は何?」ですよね。すごかった。自分が思ってた「LOVEマシーン」は全部不正解だ、みたいな気持ちで挑んでました。ここで先輩方がやっているものこそが「LOVEマシーン」だから、見るだけでは真似できないものをいかに吸収しようかって。「そうだ! Were ALIVE」をやったときに、間奏のバンブーダンスのゾーンについて矢口(真里)さんが「てか、ずっと思ってたけど、このゾーンって何?」って言ったんですよ。「それ、ご本人も思ってたの!?」って。私たちも「これ、なんだろう?」って思ってたし、先輩方もこれだけ時間が経ってもまだそう思ってるんだって。矢口さんたちは「これが正解だ」って信じて踊ってるように見えてたけど、その面白みは私たちも感じてていいんだなと思いました。

―大袈裟な話ではなく、もはや伝統芸能ですよね。

小田 本当にそう思います。宝塚とか歌舞伎とか、そこまでになったら挨拶を守る意味も出てくるなってすごく思いますね。


「私は今まさに考え期です」(小田)

―とても興味深いです。そして、モーニング娘。の歴史に新たな1ページを書き足すような新曲が出ますが、武道館で「なんだかセンチメンタルな時の歌」を初披露したとき、空気が止まるというか、お客さんがみんな息を飲んでる感じが伝わってきました。すごい曲ですよね。

小田 すごい曲だから若い子はどう思って歌ってるんだろうっていうのはすごく気になって。10〜20代のアイドルがこんな生々しいこと歌っちゃうんだって。大人になってしまった自分に対するちょっとした失望とか、みんなが触れられたくないものにアイドルから触りにいくっていう(笑)。自分と周りを比較しやすい時代にぴったりだと思います。この歌詞にあるようなことを感じる人って昔より多いんじゃないかなとか思ったりします。でも、弓桁朱琴ちゃんはまだ高校1年生になったばっかりで、歌詞の意味が半分以上よくわかんないって言ってました。だから朱琴ちゃんはまだ大人になってしまってはいないんだなって。でもらいりーは18歳だし、ギリギリ大人なみたいな年齢の子がどこまで共感してるのか気になります。



―どうなんでしょう?

櫻井 5、6年後とかにこの曲をやることになるときに、そのときのメンバーがどういう反応するのかなって最近すごく思ってて。「『センチメンタル』やるんだ……!」みたいになるのかな、みたいな。

小田 そうだね!

櫻井 私には初めてやる曲がまだ全然あって、「この曲、できるんだ!」みたいな気持ちが何年後かにもあったりするのかなっていう想像を最近するようになって。で、そのときにまだ自分がメンバーでいたら、その曲の歌詞をちゃんと理解した状態でパフォーマンスできるようになってるのかなって。今はまだ歌詞をしっかり理解できてるのか自分ではわからないですけど、言ってることはわかるという感じです。

小田 5年後とかに急にわかるようになったらちょっと悲しくなると思う。「あれ、この曲、前よりすごく共感しちゃうな……」とか思ったら、それはらいりーも大人になったってことだよね。

櫻井 歌詞はポジティブ一辺倒ではないし、「あのときはああだったな……」っていう曲だからこそ、何年後かに深みが出てくるんだろうなって今すごく感じてます。

小田 つんく♂さんってそういう曲をよく作りますよね。時が経ってある日突然、歌詞の意味に気づいてハッとすることがある。ジブリみたいに、初めて見てから何年も経ってから、「これ、そういう意味だったのか」って気づく曲のひとつだと思います。

―サウンドもかなりトリッキーですよね。

小田 びっくりしました。モーニング娘。の曲って音数が多いじゃないですか。この曲はAメロに音が2つしかないんですよ。「J-POPで音が2つなんてことある!?」みたいな。

櫻井 なんなら間奏が一番盛り上がってますよね。

小田 LとRに音が振られてるんですけど、それもすごく楽しいからイヤホンで聴いてほしい。

―ビート感が途中で変わるじゃないですか。歌い方もそれに合わせて変えようという意識はありましたか。

櫻井 振付はそれまで滑らかな動きだったのがいきなり力強くなるけど、歌までは考えてなかったです。

小田 そもそも、これって歌ですか? なんか、喋ってません?

櫻井 語ってるみたいな。

小田 そうそう。でも、リズムがちゃんとある。私はモーニング娘。だからできるけど、そうじゃなかったらこの曲を突然もらっても歌えないと思います。ダンスに関して先生がおっしゃってたのは、シーンの中心にいる人物がソロを歌っている子で、その周りはアンサンブルという意識でいなさいって。私が”夢に見てた憧れてた”って言ってるときに、私が見てる夢をアンサンブルの人たちが、私の気持ちの延長のようにその夢を追いかける振りをする、みたいな感じなんですよ。

―なるほど。

小田 印象としてはミュージカルに近いです。あと、サビになると音がめっちゃ増えるのに、振り数は逆に減るんですよ。だからこそ私たちに託されるというか、だからこそ、少ない振り数にいかに力を込めるかとか、そういうこと考えながらやってます。

―そして、それとは真逆の「最KIYOU」。

小田 この曲は、その世代の音楽を聴いていた方には懐かしいんだろうなっていう曲です。



―そうなんですよ。ニュージャックスウィングですね。

小田 とってもわかりやすい曲ですけど、歌がすごく難しくて。まだ音程がわかってないところもあります。
櫻井 本当に難しい。何回聴いても正解にたどり着けなくて。なんか、いろんな音程があるじゃないですか。「この音程かな?」と思ったら違う、みたいな。それがこの曲の難しいところだなって思います。

小田 この曲、作るの楽しかっただろうなって思います。

櫻井 確かに。

小田  だから、それにいかに応えるかだよね。

櫻井 本当にそう思います。

―このハネるビートはどうですか。

小田  「これぐらいキレキレで踊ってください」って参考例として言われた曲が、ジャネット・ジャクソンの「Rhythm Nation」なんです。モーニング娘。ってかなりキレッキレに動くほうだと思うんですけど、それでも「足りない」って言われました。「もっと力入れて」みたいな。だから、筋肉をすごく使うんですよ。



―歌詞に関してはいかがですか。

小田 「強く見せてるけど、本当は弱いんです」という女の子の曲はいっぱいあったと思うんですけど、これはそうじゃなくて、普通に「私、ほかの人よりデキるからね」で終わってる曲なんですよ。損することもあるけど、私は一人でもできるし、自分のことが好きだから人一倍頑張るけどねという、あんまりいないタイプ。2番に”苦しい時だけ任されGirl”っていう歌詞があるんですけど、それがこの曲の全てだなって。

―それはどういうことですか。

小田 常に自信があって、パッと見で困ってるようには見えないし、頼めば何でもやってくれるからいつでも任される。「周りから見たら損をしてるのかもしれないけど、私はそんな自分でいることで何も困っていないので」みたいな(笑)。でも、いくらメイクでごまかしても疲れの跡は隠しきれない。

―櫻井さんは”最KIYOUで悪いか?”という歌詞をどういう気持ちで歌っていますか。

櫻井 1番と2番でキメの歌詞が違って、1番は”最KIYOUで悪いか?”で、2番が”最KIYOUでいたいんだ”なんですけど、そこにも差があるのかなと私は思います。私は1番で”機嫌くらい取りにこいよ Boy”っていう歌詞も歌わせていただいてるんですけど、そこも含めて、ちょっとツンとしてるイメージが1番にはすごくあって。だから「最強で悪い?」って言ってるのかなと思いました。でも、2番は”苦しい時だけ任されGirl”みたいな歌詞もあるし、「本当は最強でいたいんだ」って言ってるのかなと思ったりして、この歌詞の主人公ってかわいいですよね。最後は全員パートで”最KIYOUで悪いか?”で歌うっていう。そういう歌詞の変化を理解して楽しんだ上で、1番の”最KIYOUで悪いか?”を歌っていますね。

小田 強いよね。多分、恋愛でも彼氏は何もしてくれないんだろうね。

櫻井 それが2番から伝わってきます。

小田  機嫌も取りに来ないって。しかも”重ねてく ラメパウダー”ってそのせいで泣いてるし、仕事でも恋愛でも主導権を握らされてる。でも”バカにされて撒く愛想はない”とか、人からイジられて「そうなんですよ~、私って○○で~」とかじゃなくて、「馬鹿にされてるのになんであなたに愛想よくしなきゃいけないんですか」みたいな。そんな子、なかなかいないよね。

―でも、最後に”君も さ、行こう”で終わってるところがすごくモーニング娘。でとてもいいなと。

櫻井 ”最高”じゃなくて”さ、行こう”なのがすごく好きです。

小田 そうなんですよね。「行けたらいいな……」っていう感じですけど、「そんなに強く生きられないよ」って思います(笑)。 強くて器用って、そうなれたらすごいですよね。

―これから先、自分たちの在り方についてはどう考えていますか。

小田 私は今まさに考え期で、自分が学んできたことをどれくらい引き継ぐか、どれくらい作り直してもらうかを考えているところです。「もうそういう時代じゃないです」って言われたら素直に「そうなんだ」と受け止めて、無くした方がよければ、無くせばいいと思います。モーニング娘。って全アイドルの中で最後でいいと思うんですよね。

―というと?

小田 たとえば礼儀やマナーに関しては、もしそれが無くなるとするなら、モーニング娘。がアイドル界で最後であってほしい。だから、モーニング娘。以外のすべてのグループで「効率が悪いからやめよう」ってなったらやめるくらいが、ちょうどいいのかなと思ってます。一方で、これがどこまでなら独りよがりにならないかを探っている最中です。

―櫻井さんは?

櫻井 最近思うんですけど、モーニング娘。って楽屋がすごく楽しいんですよ。思いません?

小田 うん、楽しい(笑)。

櫻井 楽屋ってひとりの時間を大切にする場所って思っている方もいらっしゃるかもしれないですけど、モーニング娘。の楽屋はメンバー同士で喋ったり、いろんな趣味について話したり……たとえばヘアアレンジをしたり、蝋を溶かしてシーリングスタンプをやったりしてるんですよ。そういう光景を見て、「モーニング娘。の楽屋っていろんな人がいて楽しいじゃん」って思って。すごく居心地がいいんですよね。挨拶をちゃんとしたり礼儀を大事にしてるけど、だからといって先輩と後輩の間にすごい壁があるわけではなくて。そういう意味では今のグループの形ってすごくいいんじゃないかと私は思ってるので、このままの状態でモーニング娘。がずっと続けばいいなって思いますし、今後また後輩のこともちゃんと受け入れられる態勢をつくっておきたいですね。明るい雰囲気にしていきたいです。

―今年頭、小田さんはフィロソフィーのダンスとライブでコラボされてましたよね。モーニング娘。在籍中に他のグループとコラボをしたって珍しい話だなと思って、ああいう音楽活動はすごくいいなと思いました。

小田 モーニング娘。はおかげさまで長く続いていて、ずっと守っていただいてるグループなので、私が何かを判断することはないからわからないですけど、やっぱりオファーを頂いたお仕事に対して全部応えられてるわけではないんです。会社がすごく考えてくれた上で私を送り出してくれて、フィロソフィーのダンスさんの音楽性の高さがあったからこそ、ああいうコラボが実現したんですけど、本当に勉強になる時間でした。特に、奥津マリリさんみたいな歌い方ができるアーティストってほかに誰かいますか?ってくらい、代わりの利かない超宝物だと思うし、モニターから自分の耳に入ってくる情報がいつもと違ったりするのもすごく楽しくて。あの日のステージの映像、内々で私は持ってますけど、外の人に見ていただくことは多分ないと思うので、自分の中でも伝説と化していて。

―それはどういう意味で?

小田 あの日のチケットは倍率がすごかった上に、当日は近年稀に見る大雪で会場までたどり着くのも大変だったんです。そういういろんなことが重なったことで自分的には伝説の一夜になっていて、「あなたと私だけの記憶ね」っていうくらい大切な記憶です。

―またそういう機会があったらいいですね。

小田 あったらいいですね! モーニング娘。はどこに出しても恥ずかしくない子ばっかりなので。

―個人的には柏木ひなたさんとの共演が観たいです。

小田 ひなちゃーん! できたらいいですね。

櫻井 ああ~、観たーい。

小田 今は普通に仲いいだけなんで(笑)。2人でカラオケに行くとやっぱりすごいなって思います。「この空間、楽しい」って。

櫻井 行きたーい! 隣にいたーい!

小田 柏木ひなた、小湊美和さん、私っていうカラオケがあったんですけど、「なんだここ……?」って思いながら見てました。楽しかったです。

―何らかの形で実現してもらいたいです。

小田 ぜひ!

Edited by Takuro Ueno

<INFORMATION>


【初回生産限定盤A】

「なんだかセンチメンタルな時の歌/最KIYOU」
モーニング娘。24
UP-FRONT WORKS
発売中
http://www.helloproject.com/morningmusume/

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