世界中が歌詞に共感、マーク・アンバーが語るコールドプレイへの憧れと音楽が持つ力
Rolling Stone Japan / 2024年8月21日 18時0分
”君と僕は一緒にいるべき、冷たいアイスティーと暖かい天気のように”と歌われるシングル「Belong Together」で、ブレイク中のマーク・アンバー(Mark Ambor)。2024年2月のリリース以来、同曲は、SpotifyグローバルチャートでTop50にランクインし、月間リスナーは2000万人超え。不確かで暗雲立ち込める時代に、突如として舞い降りた愛の伝道師。笑顔が眩しいシンガー・ソングライターはジェイソン・ムラーズの再来? それともコールドプレイ級のビッグスターの到来なのか。
ニューヨークの州立公園の名が冠されたデビューアルバム『Rockwood』には、フォーク調アンセムが並び、まるでキャンプ場で焚き火を囲みながら、皆で口ずさんでいるかのような情景が脳裏に浮かぶ。アルバムのリリースに先駆けて、全米のラジオ局を巡りミニライブに勤しむ彼をリモートでキャッチ。日本初のインタビューを敢行した。
「Belong Together」が生まれるまで
ーコロナ禍に自作曲を発表したのが、本格的に音楽を始めた、そもそものきっかけだったそうですね。
マーク:そうなんだ、曲を書き始めたのは大学に入った頃で、本気で取り組むようになったのがコロナ禍ぐらい。元々、幼い頃から母親に連れられてピアノのレッスンは受けていたけど、でも歌ったことはなくて……人前で歌うのは、なんだか照れ臭くて。でも、ある時、たまたまピアノの前に座って、自分で曲を書いて歌ってみたんだ。そしたら自分でも「けっこういいんじゃない?」と思える出来だったから、両親も参加するグループチャットに「この曲どう思う?」ってアップしたんだ。そしたら数時間後に母親から返事が来て、「パパもママも大好きよ。何て言うのこのアーティスト?」って、僕が歌ってるとは夢にも思わなかったみたいで。その時から本気で曲作りをしようと思ったんだ。作曲はもちろん、プロデュースや演奏に関しても、少しずつ腕を磨いていった。
ー人前で歌うのが、すごく自然で、天職のように思えるだけに意外ですね。
マーク:嬉しいな、ありがとう(笑)。でも本当にそれがきっかけで、それ以来、必死で音楽に取り組んできたんだ。コネチカット州の大学に入学はしたけど、でも、ほとんど行かないで、音楽への情熱の方がどんどん高まっていった。2020年の卒業のタイミングで両親に打ち明けたんだ。「これから半年間、音楽だけに打ち込んでみたい、挑戦してみたい」って。そしたらコロナ禍になって、自作曲を発表していくうちにSNSやTikTokで話題になったというわけなんだ。
ーこれまでにどのようなアーティストの影響を受けてきましたか?
マーク:コールドプレイがとにかく大好き。彼らの大ファンなんだ。特に初期のアルバムだよね。あとザ・ルミニアーズやマムフォード&サンズも大好きだし、ノア・カーン、ザック・ブライアンなども。ジャンル云々より、心に訴えるものがある音楽かな、僕が愛しているのは。ポップミュージックを広くたくさん聴いてきたし、今言ったような人たちやヴァンス・ジョイのようなフォークミュージックの影響も受けてきた。
マークのお気に入り曲をまとめたプレイリスト
ー「Belong Together」で多くの人に名を知られるようになりました。この曲の成功でプロとしてやっていく自信や覚悟がいっそう強くなったのでは?
マーク:そうなんだ。実際この曲のおかげで自信がついたし、音楽家としてやっていけるんじゃないかって、考えると嬉しくなるよ。以前に出した「Good To Be」(アルバムにも収録)に対するリアクションも、それまでに発表した曲より全然良かったんだけど、でもこの「Belong Together」に対しては、更にビックリするほどの反響で、とにかくすごく嬉しい状況なんだ。ニューヨークの自分のベッドルームでひとりで作った曲が、こんなふうに世界中に広がるなんて。さまざまな人々、異なる文化をもった人々に受け入れられている事実に、すごく感動しているし、やりがいを感じている。
ーこの曲が、これほど広く多くの人々に受け入れられた理由を、どんなふうに自己分析していますか?
マーク:上手くは言えないけれど、”君と僕は一緒にいるべき”という歌詞はけっこう直接的だから、人々がすぐに反応して共感してもらえたんじゃないのかな。フィールグッドな曲だし、共同体意識や繋がりを感じて、温かい気持ちに包まれる。でも本当のところは、よく分からないんだ。改めて「なぜ?」って考えると、さまざまな人生を歩んできた人々が、人生のどこかで同じような体験をしていて、共感してもらえたんじゃないのかな。
ーこの曲が生まれた背景というのは?
マーク:この曲も含めたアルバム『Rockwood』の収録曲の全てが、僕の自宅のベッドルームで書かれている。ギターを弾きながら、スマホでボイスメモを録りながら作っていった。窓から外を眺めながら、大抵はメロディを口ずさんでいるうちに、なんとなく浮かんだフレーズや言葉を繋いで曲にするんだ。「Belong Together」も、まさにそんな感じで生まれた曲だった。導入部のフレーズが浮かんで、そこから曲全体を作っていった。
ー「Belong Together」には、”君と僕は一緒にいるべき、冷たいアイスティーと暖かい天気のように”(Belong Together like Cold Iced Tea and Warmer Weather)という印象的なフレーズがあります。どのように生まれたものですか?
マーク:アハハ、実はあのフレーズも、たまたま口から飛び出したもの。全然何も考えてなくて、ギターを弾きながらメロディを歌っていたら、口を突いて出てきたんだ。喉を潤す冷たいアイスティーと夏の暑い日の相性って最高じゃないかと思うし、フィールグッドな曲調にもピッタリだと思ったんだ。でも、なぜこの組み合わせを思いついたのかは、よく分からないんだ(笑)。
ーこの曲をはじめ、マークの曲からはリスナーと繋がりたいという気持ちのみならず、リスナーの全員を繋げたいという気持ちが伝わってきます。大きな共同体を創造したいというような……。
マーク:それこそ僕が常に心掛けていることだよ。さっきも言ったコールドプレイが好きなのも、そういうところ。彼らのライブを観ると、一体感を強烈に感じさせられる。大きな共同体の一部になったかのような安心感かな。そういったアーティストに僕はインスパイアされてきたし、僕もそういうアーティストになって、人々をインスパイアしたいんだ。音楽には人々をフィールグッドにする力が備わっている。きっと世界であまり良いことが起こっていないので、求めるのかもしれないけれど、他の人とひとつになって一体感を味わいたい。少なくとも僕自身はそう感じているんだ。
ー「Our Way」のミュージックビデオでは、実際そんなふうにファンと一体化している姿を観ることができます。あのビデオは、どこで、どんなふうに撮影されたのですか?
マーク:オランダのアムステルダムなんだ。ツアーの最終日に撮影した。その数日前に思いついて「次のシングルのビデオ撮影をするから、会場の外に出てきてくれない?」ってファンに声を掛けたら、みんなが喜んで協力してくれた。2テイク撮ったのかな。その一つがあのMVなんだ。
ーファンのみんなも最高に楽しそう。
マーク:凄く自然に、ありのままの姿が撮れているよね。そこが大好き。凄く気に入っているんだ。
デビューアルバム制作秘話「みんなをフィールグッドにしたい」
ーまもなくリリースされる1stアルバム『Rockwood』には、幼い頃からよく遊んでいた故郷の公園の名が付けられています。なぜそれをタイトルに?
マーク:ロックウッドはニューヨークにある州立公園の名前なんだ。ハドソン川沿いの公園で、幼い頃からよく友達と遊びに行っていた。夕陽を眺めたり、ピクニックをしたり、あてもなくブラブラしたり。そこにいるだけでフィールグッドにしてくれる場所なんだ。世の中の嫌なことを一瞬だけ忘れて、肩の荷を降ろして楽しい気分にしてくれる。僕にとってロックウッドがそうであるように、このアルバムを聴いて、みんなにもフィールグッドな気持ちになってほしいんだ。生まれ故郷ってとても大切な場所だと思うんだ。家族や友人のことを思い出させてくれて、自分のいるべき場所という感じがして。そんな思いを込めて、デビューアルバムにはロックウッドと付けたんだ。
ーロックウッドは、マンハッタンから、どれくらい離れてますか?
マーク:電車で50分、車で1時間少しかな。
ー今でもその近くに住んでいる?
マーク:とりあえずは(笑)。「Belong Together」でブレイクして以来、ずっとツアーを続けているから、ほとんど家には帰れてないけど、今でも近くに住んでいる。ニューヨークが好きだから、最終的にはニューヨークに住みたいと思っているんだ。
ーとなると、いずれはマンハッタンに移住するとか?
マーク:いやいや、そうじゃなくて、僕が住みたいのはニューヨークでも森のそば。木々に囲まれたニューヨークだね(笑)。自然の中で暮らしたいんだ。
ー「Academy Street」という曲のアカデミー・ストリートもロックウッドに?
マーク:そうなんだ、実は初恋の相手が住んでいたストリートの名前だよ。僕は良くないことはサッサと忘れる性格で、良かったことだけ覚えている。だけど、けっこうノスタルジックなところがあるんだよね(笑)。この曲で歌っているのは、最初のガールフレンドのこと。今でも時々思い出したり、懐かしく思うんだよね。そういう気持ちを歌っている。初恋って一度きりのことだし、少し感慨深くもあって……。この曲について尋ねられたのはこれが初めてだよ。訊いてくれてありがとう(笑)。
ーこちらこそ、訊いて良かったです(笑)。ところで、作詞、作曲はもちろん、歌や演奏、プロデュースまで、デビューアルバムなのに、ほぼ全てをマーク自身が行っていますよね。
マーク:基本的には、自分で全て曲を書いて、プロデュースもやっている。Logicって知ってる? あれを使って自宅の地下で制作してるんだ。そこに共同プロデューサーのノエル・ザンカネラ(ワンリパブリック、テイラー・スウィフト)が加わって、パーカッションやドラムを入れて、少しハードにアレンジしてくれる。彼は良き相談役でもあり、僕の将来について一緒に考えたりしてくれるんだ。
ー以前に発表していた楽曲やEP『Hello World』と比べて、トラッド色やアメリカーナな方向性が強くなっていますよね。レコーディングの段階からそういったサウンドを意識していたのですか?
マーク:元々そういうタイプの音楽が好きだったから、もちろん意識はしていたよ。アメリカーナなサウンドって、僕にとっては温かく守られている感じかな。すごくしっくり来るんだよね。このアルバムにも、そういう感覚が欲しいと思ったし、ギターやオルガン、ドラムなどオーガニックな音色を活かしたかったんだ。
ー欧米では小さなクラブから大きなフェスまで、さまざまな規模のオーディエンスを前にツアーをされています。どのようなアプローチで臨んでいますか?
マーク:規模にかかわらず、常に100%以上の力を出し切りたいと思っているよ。君の言う大きなフェスというのは、オランダで出演する機会に恵まれたもの。4万人の観客を前に、すごくクレイジーだったよ。アジアにも行きたいと思っているし、もちろん日本にも。とにかくチャンスがあれば、どこにでも行ってみたいと思っている。僕の曲がその国でどれくらい受けているか次第かな。うん、世界中に行けるといいな。
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ーこれまで日本を訪れたことは?
マーク:まだないんだけど、とにかく素晴らしいって話は聞いてるよ。兄が日本に行ったことがあって、日本が大好きなんだ。街がきれいで清潔で、みんなが礼儀正しくて、社会規範が素晴らしいって聞いている。
ー清潔といえば、マークの歯も歌っている時に、いつもキラキラ。笑顔と共に、とても印象的ですが。
マーク:アハハ。いつもフロスしたり、歯磨きは念入りにやってるよ。あと子どもの頃にブレースを付けてたおかげかな。きっとそうだと思うな。
ー自分がZ世代だなと自覚することは?(1997年生まれ) もしくは、自分は当て嵌まらないなと感じることはありますか?
マーク:おそらく僕は、ミレニアル世代とZ世代の中間あたりじゃないかと思うんだ。行動パターンからするとZ世代寄りかな。Z世代の方がミレニアルより冒険心が強いというか、ミレニアルはまだ前世代的な感覚を引きずってる気がするな。あ、でも僕が勝手に思っているだけ。世間一般とは違っているかもだけど。
Photo by Ryan Falcoa
ー先ほど、あまり良くないことが世界で起こっていると仰っていましたが、具体的にはどのようなことを踏まえての発言ですか?
マーク:うん、アメリカの政治的な情勢に関してもそうだし、中東で起こっていることや戦争なども。きっと回避することができると思うんだよね。途方もなく大きな意見の相違があるのは分かるけど、暴力以外の方法で何とか解決できないものかと思うんだ。人生は一度きり。この世に生まれて、地球上に生まれたことって、それこそとても素晴らしいことだと思うんだよね。なのに他の人の人生を台無しにしようとしたり。僕にはとてもネガティブに映るんだ。そこに僕は価値や意義を見出せないんだ。
ーだからこそポジティブにしてくれる音楽をやりたいと?
マーク:そう、フィールグッドに感じることって、とても大切だと思うんだ。世の中には嫌なことが多いし、ニュースを見ても気が滅入ることばかり。でも、そういう世の中だからこそ、現実逃避でもいいから、いい気持ちを思い出すことが大切だと思うんだ。自分に誇りをもって胸を張れたり、友達の幸せを心から一緒に喜ぶことができたり。自身の過去や未来について思いを巡らせたり。そういったことに僕はインスパイアされるし、他の人に対してもインスパイアしたいんだ。
ーマークにとって音楽以外で、そうした役目を果たしてくれることはありますか?
マーク:僕の場合は、屋外にいることや自然かな。友人とよくハイキングに行ったり、焚き火をしたり、そういった野外でのアクティビティが好きなんだ。音楽を作っている時以外は、大抵自然の中で過ごしているよ。
ー最後にアルバムのリリース後の予定と、アーティストとしての今後の目標を教えてください。
マーク:8月16日にアルバムがリリースされて、その後、秋から春にかけてツアーを行う予定。きっと追加の日程もそのうち発表されるんじゃないかな。アーティストとしての目標は、やはりみんなをフィールグッドにしたいってこと。心の拠り所となる心地よい場所をみんなに提供したいんだ。そんな音楽を作って多くの人に伝えたい。やるからには、とことんやりたい。そういう性格なんだ。
ーお忙しいところ、今日はどうもありがとうございました。アルバムの成功も祈っています。
マーク:こちらこそ、どうもありがとう。楽しいインタビューだったよ。次回は日本で。じゃあまた!
マーク・アンバー
『Rockwood』
発売中
再生・購入:https://virginmusic.lnk.to/MA_Rockwood
日本公式ページ:https://www.virginmusic.jp/mark-ambor/
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