Tyla衝撃の初来日を振り返る 南アフリカ文化を背負う次世代スター、サマーソニックで躍動
Rolling Stone Japan / 2024年8月26日 17時50分
8月17日・18日のサマーソニックで初来日を果たした南アフリカの次世代シンガー、タイラ(Tyla)。大絶賛された18日・東京公演の模様を、音楽ライター・小松香里と、南アフリカ発祥「アマピアノ」をみずから制作しているaudiot909のクロスレビューで振り返る。
【写真ギャラリー】タイラ@サマーソニック ライブ写真
◎音と歌と体が一体化した「しなやかさ」
小松香里
第66回グラミー賞で「Water」が最優秀アフリカンミュージック・パフォーマンス賞を受賞したタイラ。今年5月に開催されたメットガラ2024ではBALMAINによる砂の彫刻のようなカスタムドレスをまとい、初参加にもかかわらず、大きな話題を呼んだことも記憶に新しい新世代のポップアイコンだ。初のサマーソニックのステージであり、記念すべき初の日本でのステージを楽しみにしていた人は多いだろう。
MONTAIN STAGEエリアのステージ上には、前日に行われたサマーソニック大阪と同じく巨大な虎が置かれている。ちなみにタイラのファンダム名はTigersだ。一体これからどんなステージが展開されるのかと、期待感が高まっていく。
「Safer」の涼し気なイントロが響くと、虎の上にステージのようなスペースがあり、座りながら歌うタイラの姿が目に入った。故郷・南アフリカのダンスミュージックであるアマピアノに乗せて、くるくると表情を変えながら歌唱する姿がとてもチャーミング且つ艶やかだ。「Tokyo!」と叫ぶとフロアから大きな歓声が上がった。続いてはベッキー・Gと組んだ「On My Body」。メインステージ上に設けられた複数のお立ち台の上でダンサーが踊る。LEDビジョンには南アフリカを想起させる海が映っている。1番を歌い、メインステージに降り立ったタイラ。後ろを向いて、ダンサーたちと呼応するように腰を突き出し、タイラと言えば!のバカルディと呼ばれる腰を振るダンスを披露して、喝采を浴びる。
「こんにちは!」と日本語で挨拶をした後、日本での初ライブに喜びを露わにするタイラ。満面の笑顔で「You guys are very loud!!」と口にした。先ほどのセクシーなパフォーマンスから一転、無邪気な笑顔を浮かべながらハートマークを掲げる姿はあどけなさすら感じる。この振れ幅もまた魅力だ。「This is my tiger everyone !」と言って虎を撫でる姿がキュート。
この投稿をInstagramで見る Tyla(@tyla)がシェアした投稿 「You guys are very loud!!」とMCで語るシーン(動画)
「Thata Ahh」ではウィスパー気味に「Thata Ahh」と歌いながらダンサーと絡み合う。ヘルシーな色香を振り撒きながらオーディエンスに投げキッスを送る。続けて、同じく今年のサマーソニック/ソニックマニアに出演していたメジャー・レイザーと南アフリカのMajor League DJzのコラボアルバム『Piano Republik』に収録され、タイラの名を広げた「Ke Shy」を披露。ダンサーたちと一緒にバカルディを披露し、躍動感を高めていく。
タイラがステージ前方に腰掛けると、フロアから絶叫が上がった。「On and On」だ。しかも、アリーヤの「Rock the Boat」とのマッシュアップ。すべての動きが流麗で計算し尽くされたようなのに、動物のような野性味が随所に輝いている。今目の前で繰り広げられているのは故郷・南アフリカのカルチャーを背負ってグローバルシーンの最前線に立つという覚悟を決めた眩いポップスターによるステージなのだ。
Photo by @eyeattracti0n
「ART」では額のようなものをそれぞれが持ったダンサーたちとタイラが共にステージ上を移動し、フォーメーションを変化させながら、何度も「I'll be your piece」と悩まし気に歌う。かと思ったら、茶目っ気たっぷりにピースマークを掲げた。ナイジェリア出身のTemsをフィーチャリングした「No.1」から「Truth or Dare」に雪崩れ込むと、大きな歓声が上がった。タイラはダンサーたちと共に踊り、すべての音と歌と体が一体化しているようなしなやかさを見せつける。
Daliwongaの「Bana Ba (feat. Tyla & ShaunMusiQ & Ftears)」のトライバルな音像に合わせて、ダンサーたちがブレイクダンスやアクロバティックなパフォーマンスを披露した後、タイラはメインステージ中央で魅惑的に踊り、一層オーディエンスを虜に。虎の上のステージに移動し、手を振りながらご機嫌なムードで「Tokyo!」と口にして「Breathe Me」へ。オーディエンスもタイラの動きに合わせて掲げた腕を心地よさそうに左右に揺らす。ビジョンには燃え盛るような夕日に照らされた海が映り、「Breathe Me」で歌われる情熱的な愛と呼応しているようだ。
ラッパー・Gunnaとジャマイカ出身のSkillibengをフィーチャーした「Jump」。タイラは自らの体に手を這わせながら官能的に踊った。いよいよこのメモラブルなステージがクライマックスに近づいていることを予感させる中、タイラがステージ前方に歩を進めると「Water」のイントロが響いた。「Tokyo! Last Song! Everybody Scream!」という叫びに続いて、「Make me sweat, make me hotter」と歌うオーディエンスの合唱が響き渡った。水の入ったペットボトルを持ってきたタイラ。大歓声を受けニコリと笑った後、SNSでバズったダンスチャレンジ動画「#waterchallenge」のごとく自らに水をかけながらダンサーたちと一緒に踊る。アウトロで一気にビートが早くなり、タイラとダンサーたちはバカルディを踊る。日本語で「ありがとう!」と言って、ハートマークを作り笑顔で去って行ったタイラ。一瞬たりとも目が離せない45分間だった。
◎アマピアノがかつてない音量で鳴り響いたことの意味
audiot909
サマーソニックにおけるタイラのパフォーマンスは、次世代のスーパースターの誕生を告げる事件であった。卓越した歌唱力と華やかなビジュアル、ダンサーたちの圧倒的なパフォーマンス、そして巧みに構成されたセットリストはどれを取っても超一級品だった。
この日のライブは予定通り18時35分に開始。オープニングを飾ったのは「Safer」。この楽曲はアマピアノのトレードマークであるベースサウンド、ログドラムが特徴的な楽曲である。日本でかつてない大音量でログドラムが鳴り響いたことに、この時点で感無量だった。
序盤で驚いたのが3曲目の「Thata Ahh」。これはアルバム未収録の楽曲で、ShaunMusiqらによるタイラをフィーチャリングしたトラック。ShaunMusiqはいわば南アフリカの最先端アーティストで、幕張メッセでこの楽曲を聴けるとは思ってもおらず、信じられない気持ちになった。
その後「Ke Shy」がプレイされ、アルバム以上にアマピアノの要素が強いセットとなるかと思いきや、その後アリーヤの「Rock The Boat」のトラックに合わせてタイラが「On And On」をマッシュアップのような形で歌う。ローカルの最先端のセンスを示した直後に、世界的にヒットしたグローバルなポップスを並列に置く鋭いセンスがあまりに見事だった。
2024年8月17日、サマーソニック大阪会場にて
Photo by @eyeattracti0n
そして注目すべきは、アルバムの中で最も南アフリカのアマピアノに接近した楽曲「To Last」。弧を描くようにグルーヴするログドラムがこの曲の魅力だが、タイラがそれに合わせてダンスすると、会場からは一際高い歓声が上がった。観客がログドラムそのものに反応したというより、タイラのダンスパフォーマンスに湧き上がったのだろうが、ログドラムに合わせてこれほどの歓声が起こる日が来るとは全く想像できていなかった。
アマピアノは元々、南アフリカのハウスミュージックから派生した音楽である。MDU aka TRPというプロデューサーがFL Studioのプリセット『Log Drum』をベースサウンドとして活用することを発見し、ジャンルとしてのアイデンティティを確立した。本来はややチープなパーカッションを模したこのサウンドを、ベースとして活用するとダンスフロアで驚くほど「鳴る」のだ。この発見以後、アマピアノは南アフリカ、そして世界で爆発的に広まった。
南アフリカのアーティストたちは、ハードな環境の中でFL Studioを駆使し、大胆な発想で誰も聴いたことのないサウンドを生み出した。これは現代のTB-303、TR-808、TR-909の神話に匹敵する出来事と言っていい。その世界の覇権を握ったログドラムが幕張メッセで鳴り響き、観客がタイラの動きに合わせてログドラムの音を手で追いかけるような仕草をする。タイラが「ジャンプ!」と促すと、ログドラムに合わせてサマーソニックという巨大フェスの会場全体が揺れた。長年アマピアノを追いかけてきた筆者にとって、まさに衝撃的な光景だった。
Tyla、色々感動したポイントがあって例えばTo Lastという南アフリカ寄りのアマピアノの曲やった時、タイラがログドラムに合わせてダンスしてて、それに合わせて歓声が沸いた所とかヤバかった
ログドラム成立までのストーリーを知ってるから幕張メッセでこんな状況になってることが信じられなかった pic.twitter.com/RIkYJhVOML — audiot909 (@lowtech808) August 18, 2024 ※動画の1:08からログドラムパート
そこから、バックダンサーたちをフィーチャーしたダンスパフォーマンスのセクションへ。タイラが「南アフリカのカルチャーを感じ取って欲しい」と語ったあと、流れたのは「Bana Ba」。これもShaunMusiqらが手がけた極めてディープな質感のトラックだ。
ただポップミュージックとして売り出すのであれば、このような尖った表現をするアーティストの楽曲を扱う必要はない。これはポップミュージックの王道を歩みながらも、自身のアイデンティティである南アフリカの音楽やカルチャーを世界に一緒に連れて行くという意思表明であると筆者は読み取った。
ダンスチームのスキルも素晴らしく、幕張メッセの観客が歓声を上げた事実は、極めて印象的だった。南アフリカの人々が踊りとダンスミュージックを深く愛していることを考えると、アイデンティティが色濃く反映されていることを強く感じる場面だった。
そして、世界の頂点を取った「Water」が披露される。無論この日一番の歓声をもって迎えられたが、ライブ版の「Water」は一味違う。最後に新しいパートが追加され、ダンサーたちと共に素晴らしいパフォーマンスが繰り広げられた。このパートは「Water」のバカルディパートとでも呼ぶべき箇所で、「バカルディ」とは南アフリカのプレトリアで流行した音楽/ダンスジャンルを指す。現代のアマピアノに大きな影響を与えたカルチャーでもあり、タイラ自身もフェイバリットに挙げている。
このように自身が育った環境で得たものを世界に通用するポップミュージックへと反映させるタイラと彼女のチームへ深い敬意を払わずにはいられない。
Bacardi is my favorite dance style pic.twitter.com/0WWu7OWPC7 — Tyla (@Tyllaaaaaaa) July 29, 2023
筆者は以前Rolling Stone Japanに寄稿した記事で、アルバムはアマピアノ、アフロビーツ、R&B、ポップスをクロスオーバーした全く新しい音楽であると紹介した。だが、ライブでの印象は想像よりずっとアマピアノのエッセンスが組み込まれており、何より南アフリカのアーティストであることを強い意志で示されたものであった。
このライブレポートを通じて、タイラの素晴らしいパフォーマンスと、彼女の美学の一端を感じ取っていただければ幸いだ。今回の初来日をきっかけに、南アフリカのカルチャーが日本でも知られるようになり、タイラの再来日公演が行われることを強く願っている。
Photo by @eyeattracti0n
タイラ@サマーソニック2024 セトリプレイリスト
https://tyla.lnk.to/SUMMERSONIC2024SETLISTWL
タイラ
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配信・購入:https://lnk.to/tylatylaRS
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