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ヘンリー・ムーディーが語る、若き大器がメンタルヘルスとノスタルジーを赤裸々に歌う理由

Rolling Stone Japan / 2024年8月29日 18時10分

Photo by Yukitaka Amemiya

SUMMER SONIC 2024では、過去のサマーソニックと同様に多くの新人・若手ミュージシャンが日本での初ライブを披露してくれたが、ロンドン郊外のギルドフォード出身のヘンリー・ムーディー(henry moodie)も然り。2022年にデビューし、この2年間にシングルを積み重ねて着々とファンを増やしてきた、20歳の将来有望な英国人シンガー・ソングライターである。10代前半の頃、まずはカバーソングを発表することから活動を始めているが、今の人気を支えるのは、彼が作るメロディックでセンシティブなベッドルーム・ポップのクオリティであり、自分に正直で、他者にどこまでも優しい目を向ける、リリシストとしてのスタンスも聞き手を惹きつけてやまない。東京会場でのパフォーマンス直後にインタビューに応じてくれたヘンリーに、そんなソングライターとしての自分のモチベーションやこだわりを語ってもらった。




サマーソニック出演時のライブ写真 (C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.


テイラー・スウィフト、コナン・グレイへの共感

―初めての日本でのライブ・パフォーマンスはいかかでしたか?

ヘンリー:オーディエンスが本当に素晴らしかった! ずっと手拍子を送ってくれて、みんな笑顔で。そもそも僕は何年も前から両親に、日本に行きたい! 東京や大阪に行きたい!と言ってたから、ようやく来ることができてうれしくてしょうがないよ。

―「pick up the phone」を歌った時には、ひと際大きな反響がありましたね。

ヘンリー:辛い状況にある人たちに宛てて書いた曲なんだけど、実はあの曲が一番ヒットした国って、日本なんだ。ソングライティングは僕自身のメンタルヘルスにすごくプラスになっているから、ほかの人が聞いてモチベーションを得られるような曲を書きたいなと思っていて。そういう意味で、多くの人の心に響いたことはすごくうれしいし、だからこそさっきも曲の途中で「構うもんか!」と思って、ステージから降りてオーディエンスに囲まれながら歌ったんだよ。



―少し基本的なことを伺いたいんですが、まずはあなたが曲作りを始めた経緯を教えて下さい。

ヘンリー:そうだな、僕の母は心理セラピストで父は医師だし、家族に特に音楽的な才能を持っている人はいない。みんな音楽を愛してはいるけどね。だから全ては僕の内側から湧き出たものなんだろうね。ただ、セラピストであるがゆえに母からは常に、自分のエモーションをオープンに表現するべきだと促されてきたし、僕にとっては、自分の身に起きていることを整理する手段のひとつがソングライティングなんだと思う。セラピーみたいなもので、辛いことを乗り越えるためにやっているんだろうね。子どもの頃から曲を書いていて、12~13歳の時には、プロデューサーたちとセッションをしてソングライティング力を鍛えるために、電車でロンドンに通っていた時期がある。もちろん、歌うことやパフォーマンスをすることも大好きなんだけど。

―その後、音楽の専門学校であるBIMMでソングライティングのコースを専攻したそうですね。学校で学んだことは、実際にプロとして活動するにあたって役立ちましたか?

ヘンリー:そうだな……ソングライティングって教えるのが非常に難しいものなんだよね。僕自身、主にスタジオでの実際の作業を通じてソングライティングを学んだと思っているんだけど、BIMMでは音楽作りに関わる物事の成り立ちや手順を勉強できたし、ほかの生徒との交流を通じて得たことも多い。それから音楽ビジネスの授業があって、あれはすごく役立った。契約に関することとか、全アーティストが学ぶべきだと思うよ。特に若くてナイーブだと、「レコード会社と契約できるなんてすごい!」と言って署名をしちゃって、とんでもない条件が付記されていたなんてことが起きるから。


Photo by Yukitaka Amemiya

―では、「この人の音楽を聴いていなかったら今の自分はない」と思うアーティストは?

ヘンリー:テイラー・スウィフトだね。彼女のアルバムの1枚1枚が、僕の人生の異なる時期に大きな助けになった。中学に通い始めるにあたって、自分を奮い立たせてくれるものを必要としていた僕に力をくれたのが『Rreputation』だったし、『Ffolklore』はパンデミック中の僕を支えてくれたし。とにかく、自分の人生の異なるフェーズで起きていたことと見事に呼応し、フィーリングを代弁するアルバムを作ってくれてきた。彼女がいたからこそ音楽にのめり込んだとも言えるね。ほかにも大勢の人がテイラーに惹かれる理由は恐らく、彼女が作るのはキャッチーなポップソングでありながら決してシンプルではなく、逆にものすごく複雑で、特定のフィーリングを的確に捉えているからなんだと思う。現時点で、あらゆる種類のフィーリングに対応する曲があるんじゃないかな。しかも偉大なソングライターであるだけでなくパフォーマーとしても素晴らしくて、The Eras Tourでは3時間半にわたってステージに立ち、セクションごとに衣装や振り付けを変えて、ギターもピアノも弾いて、全てをこなせるオールラウンドなアーティストだよね。そこで見せ付けたように、どのアルバムにもそれぞれに一貫したテイラーならではのサウンドが確立されているし、そうやって長く安定したキャリアを築いているという点にも惹かれるな。

―曲を書くモチベーションは、口では直接言えないことを歌にして伝えるとか、日記代わりに曲を書くとか、様々です。あなたの場合はいかかでしょう?

ヘンリー:コンフェッショナル、日記的、無防備、パーソナルというのが僕のソングライティングのヴァイブだね。僕はテイラーと並んでコナン・グレイが大好きで、彼みたいにどこまでも無防備な曲を書きたい。パーソナルで無防備なストーリーテラーでありたいね。

―テイラーとコナンは共にアメリカ人ですが、地元のアーティストで誰かお手本にしている人はいますか?

ヘンリー:僕はコールドプレイの大ファンなんだ。アンセミックなスタジアム・ポップが大好きだから。アデルの曲も人生を通じて本当にたくさん聞いてきた。彼女こそは英国を代表するアーティストで、みんながインスパイアされているし、特にバラードは最高だよ。あとはサム・スミスかな。英国人アーティストに関してはこの3組が僕のファェイバリットだね。

「ノスタルジアの歌い手」が思い描く未来

―曲を書く時に特に惹かれるテーマはありますか?
 
ヘンリー:やっぱりメンタルヘルスへの意識を喚起するというのが、一番大きいテーマのひとつかな。音楽って時として、言葉にはできないことを可能にする。通常は到達できないフィーリングの領域へと人間を誘ってくれるというか。だから僕はエモーションを重視し、メンタルヘルスについて語って、試練に直面している人たちの力になりたい。

―6月に公開したシングル「bad emotions」も、まさにメンタルヘルスをテーマにした曲でしたね。

ヘンリー:うん。この曲にはちょっとダークな背景があって、今年の1月頃、僕のメンタルヘルスはかなり深刻な状態にあったんだ。途方もない不安感におしつぶされて、繰り返しパニックの発作に襲われて。そんなある日、スタジオに行くために電車に乗っていた時にひどいパニックの発作が起きて、「このままスタジオに辿り着けるのか分からないぞ」って、すっかりうろたえていた。で、母に電話をして「どうしたらいい?」と訊ねたら、「ここで家に戻って来てしまったら、不安感に負けたことになって、余計に気分が落ち込むと思う」と言われてね。そこで僕は覚悟を決めて、そのままスタジオに行って、あの日は人間関係にまつわる全く別の曲を作るつもりだったんだけど、コラボレーターたちに「今日はエモーションに関する曲を書く手助けをしてもらえないかな。ものすごく心が敏感になっているから」と頼んだ。さっきソングライティングがセラピーになるという話をしたけど、この時もまさにメンタルヘルスについて曲を書くことで、危機を切り抜けたんだ。あとで振り返った時、「ああ、生まれるべくして生まれた曲なんだな」って思った。いい曲が完成したし、誰かが聞いて癒しを得られるかもしれないなって。セラピーとしてのソングライティングを語る上で、これ以上なくピュアな例だよね(笑)。



―9月にはニューEP『good old days』がリリースされますが、どんな意図のもとに作った作品なんでしょう?

ヘンリー:テーマはずばり”成長”だね。例えば、初めての恋や初めてのハートブレイクに関する曲、メンタルヘルスに関する曲、生きることの意味を見失ってしまった時の自分を描いた曲があって、一瞬一瞬を大切にして生きることを自分に促す曲もある。つまり大人になることについて歌っていて、19~20歳くらいの人間がどんな体験をするのかを伝えている作品になっていたらうれしいね。

―EPのタイトルもそうですが、まだすごく若いのに過去に目を向けている曲が多いですよね。何かを後悔していたり、懐かしんでいたり。それはなぜでしょう?

ヘンリー:全くその通りだね(笑)。なんでだろう? まず僕はノスタルジアというフィーリングを愛していて、例えばベッドの上に座り込んで物思いに耽って、何か強い思慕の念を抱くというか、そういう気分に浸るのが大好きなんだ。だから必然的に、そういう感じの曲が多い。この歳でそんな曲ばかり書いていちゃダメなのかもしれないけど(笑)、好きだからどうしようもないな。ノスタルジアについて歌うことが、僕にとっては本当に心地いいんだ。


Photo by Yukitaka Amemiya

―また最新シングルの「right person, wrong time」は、バンド・アンサンブルが活かされたすごくライブ感がある曲で、今日のパフォーマンスでもライブ映えすることを実感したんですが、ツアーの体験は曲の書き方に影響を及ぼしましたか?

ヘンリー:間違いなく影響はあった。「ライブでプレイした時にどんな音になるのかな」って想像しながら書くようになったし、サビはよりアンセミックに響くように意識している。オーディエンスに一緒に歌ってもらうのは本当に楽しいからね。そんなわけで、確かにライブ寄りのサウンドに傾いてはいるんだけど、重要なのは、曲を書く時にそればかり意識するのはよくないってこと。クリエイティブな意味で自分に制限を課してしまうことになりかねない。ライブ映えする必要のない曲だってあるしね。とにかく影響されたのは間違いないし、それがいいことなのか悪いことなのかと問われたら、多分いいことなんだと思う。



―あなたがシングル「you were there for me」でデビューしてから2年程が経ちましたよね。この2年を振り返って、自分が成長する上で転機になった曲はありますか?

ヘンリー:もう2年経ったなんて信じられないけど、多分「you were there for me」が大きかったんじゃないかな。当時はまだインディーで活動していて、あの曲を通じてレーベル契約をしたわけだし、全てが動き始めた。ほかのアーティストのオープニング・アクトに起用されるきっかけでもあったからね。何もかも加速した気がする。



―最後に、1人の若いアーティストとして活動を続ける上で一番のチャレンジは何でしょう?

ヘンリー:僕にとって最大のチャレンジは、まだすごく若いのに、大人として対応することを求められているという点かな。例えばこうして世界中をツアーして、長期間家族から離れて過ごさなくちゃいけなかったり、自分でビジネスを切り盛りしたり、音楽業界をナビゲートするのは簡単なことじゃない。まだ知識も足りていないから実地で色々学ぶ必要があって、眠れなかったり不安に襲われることもよくある。でも、何物にも代えがたい経験をしているからへこたれたりはしない。自分がどうしてもやりたかったことをやれているわけで、辛いことがあろうと、今ここにいられることがうれしくて仕方ないよ。


ヘンリー・ムーディー@サマーソニック セトリプレイリスト
https://smji.lnk.to/HenryMoodieSummerSonic2024TokyoRS


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