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Asian Dub Foundation結成30周年、「音楽よりも政治が先にあった」ボーダーレスなバンドの闘争史

Rolling Stone Japan / 2024年12月18日 17時30分

エイジアン・ダブ・ファウンデイション、2016年撮影(Photo by Andy Sheppard/Redferns)

エイジアン・ダブ・ファウンデイションが結成30周年記念アルバム『94-Now: Collaborations』を携さえ、1月22日に大阪・BANANA HALL、1月23日に東京・WWWXで11年振りの来日ツアーを開催する。ADFの活動を追い続けてきた音楽ライター・吉本秀純に、彼らの歩みとツアーの展望を解説してもらった。


「レベル・ミュージックの旗手」としての地位を確立するまで

「音楽に政治を持ち込むな」といった類のアホな言説が定期的にまかり通る国では永久に理解されないのかもしれないが、結成30周年を迎えたエイジアン・ダブ・ファウンデイションは活動スタート当初から「(ADFの結成だって)音楽よりも政治がまず先にあった」(ディ―ダー・ザマン『Minority Large』日本盤解説内の本人発言より抜粋)グループだった。

大英帝国の植民地だった南アジア諸国の中でもベンガル語を公用語とするインド東部~バングラデシュからの移民のための音楽教育ワークショップ〝コミュニティ・ミュージック〟の講師を務めていたDr. ダス(Ba)、そこの生徒で加入時にはまだ10代前半だったディーダー・ザマン(MC)、人種差別を糾弾する団体に所属していたパンディット-G(ターンテーブル)に、ダブ・バンドで活動していたチャンドラソニック(Gt)、サン-J(プログラミング)が加わって1993年に結成されたADFは、翌年に〝UKエイジアン版パブリック・エナミー〟とも称されたファンダメンタルのアキ・ナワズが主宰するネイション・レコーズからデビュー。細かい話だが、UKエイジアンの中でもベンガル地方にルーツを持つメンバーが多かったことも、インドとパキスタンに跨るパンジャーブ地方の伝統音楽をベースに発展したバングラ・ビートなどの既存のスタイルに収まることのない独自のサウンドを確立していく要因だったと言えるかもしれない。


初期の代表曲「Naxalite」は、インドの西ベンガル州で蜂起した極左過激派組織に由来

とはいえ、90年代半ばの英国のロック・シーンといえばブリット・ポップの全盛期であり、人種差別や国家の欺瞞をストレートな言葉で糾弾し、ダンスホール・レゲエ、ダブ、ドラムンベース、オルタナ・ロック、インドの映画音楽やバングラ・ビートなどの多彩な要素を丸呑みにしながらアグレッシヴに全力疾走するようなADFの音楽は、最初から手放しで賞賛されたワケではなかった。本国のメジャー・レーベル各社が契約するのを躊躇している間に、彼らはヴァージン・フランスから2枚目のアルバム『R.A.F.I.』(97年)を発表して好セールスを記録し、「誰もADFとサインしないなんて、イギリスの音楽業界は未だに人種差別者とクソ野郎の集まりだ!」と発言したボビー・ギレスピー率いるプライマル・スクリームは、フランス公演で彼らをオープニング・アクトに起用。そして、ようやくロンドン・レコード傘下のffrrが契約を結び、『R.A.F.I.』収録曲の再レコーディングに新曲を加えてより強靭さを増した最高傑作『R.A.F.I.s Revenge』(98年)をリリースするに至ったわけだ。



その後は、日本においても現在の苗場に落ち着く前に東京・豊洲で開催された2回目のフジロック(98年)への出演を果たし、圧倒的なエナジーを放つライブ・パフォーマンスによって〝レベル・ミュージック〟の旗手としての立ち位置を不動のものとしてきた彼らだが、ADFほどにロック、パンク、ワールド・ミュージック、クラブ・ミュージックからレゲエやヒップホップに至るまでの広範なジャンルの音楽ファン層から垣根なく支持されてきた存在というのも、実は少ない。そんな彼らの真の意味でボーダーレスな魅力と長いキャリアの中で培ってきた幅広い交友関係を改めてコンパクトに振り返る上でも、30周年を機にコラボレーション曲を中心に選曲されて最新のリマスターやリワークを施した『94-Now:Collaborations』は聴き応えのある内容となっている。



30年の歩みと交友関係を凝縮した『94-Now: Collaborations』

コミュニティを母体に結成された人たちだけに、他のミュージシャンとの連帯を示すようなコラボにも積極的だったADFだが、本作においてもイギー・ポップ本人を迎えてストゥージーズのデビュー作収録曲を強靭なバングラ・パンクに仕立て上げた冒頭の「No Fun」(2008年作『Punkara』収録)、チャンドラソニックが「僕たちの世代のニーナ・シモンだった」と語るシネイド・オコーナーをボーカルに迎えた「1000 Mirrors」(03年作『Enemy of the Enemy』収録)、パキスタンのスーフィー音楽=カッワーリーの不世出の歌い手として97年に亡くなった後も聴き継がれるヌスラット・ファテ・アリ・ハーンのリミックス・アルバムに収録され、後に彼らのアルバム『Community Music』(2000年)にも再録された「Taa Deem」、そして先にも触れたように彼らの世界的躍進を後押ししたプライマル・スクリームとブレンダン・リンチがミックスで参加した「Free Satpal Ram」(98年作『R.A.F.I.s Revenge』収録)など。過去作のハイライトとなった名曲の数々が網羅されている。




他にも、近年はソウル・フラワー・ユニオンのバックボーカルとしても活躍しているリクル・マイの歌声が強靭なDRY&HEAVYとの「Raj Antique Store」、エイドリアン・シャーウッドを通じて知り合った日本の盟友的存在といえるオーディオ・アクティヴとコラボした「Collective Mode」といった、日本盤にのみボーナス・トラックとして収録されていた楽曲の再録も嬉しいところであるし、フランス南部のトゥールーズを拠点とする北アフリカ(マグレブ)からのアラブ系移民グループであるゼブダが95年に発表したシングルに収録されていた「Toulouse (Asian Dub Foundation Remix)」のリワーク、さらには04年7月にロンドンで行われた公演においてチャック-Dをゲストに迎え、パブリック・エナミ―の2ndアルバム収録曲をカバーした「Black Steel in the Hour of Chaos」も07年に発表されたベストの日本盤には未収録だったので貴重。やや長くなってしまったが、ここまで挙げてきた音楽家の並びから、彼らが一貫して筋の通った共演相手だけを選んできたことがよくわかるだろう。

その一方で、最近のADFのブレないポリティカルな姿勢を示す、アルバム前半に収められた2曲の充実ぶりも聴き落とせない。2曲目の「Comin' Over Here」(20年作『 Access Denied 』収録)は、英国のコメディアンで音楽評論も執筆するスチュワート・リーが移民排斥派の政治家たちを風刺的に批判した喋りを、チャンドラソニックが使われていなかったバッキング・トラックに乗せて曲に仕立て上げたもので、イギリスがEUを離脱したタイミングでリリースされてシングル・ダウンロード・チャートで1位を獲得した。3曲目の「Broken Britain」は本作が初出となる新曲で、24年7月に行われたイギリスの総選挙で労働党が圧勝して政権交代が実現した一方で、反移民政策を掲げる極右政党が5議席を獲得したことに危機感を覚え、彼らの原点であるコミュニティ・ミュージックに戻って制作されたナンバー。音楽的にも、アップリフティングなドラムンベースのビートにラウドなギター、そして扇動的なMCが炸裂する原点回帰的なスタイルで、新旧のADFファンの期待を裏切らない楽曲に仕上がっている。



『94-Now:Collaborations』フル音源

11年ぶりジャパンツアーの展望

そんな30年の歩みを総括しながら健在ぶりを示したコラボ・ベスト盤のリリースを経て、ADFは2025年1月に11年ぶりとなる久々の来日公演を東京と大阪で行う。コンスタントにメンバー交代を繰り返してきたADFではあるが、初期の看板的な存在だったディーダーが脱退した後も、2MC体制の導入やドラマー、タブラ&ドール奏者の新加入などによってライブ・パフォーマーとして強化を図り、むしろサウンド面での間口を広げてきた彼らだけに不安はない。ニア・アーカイヴスらを筆頭にジャングル/ドラムンベースが若い世代の間で再復興する中で、その可能性をハイブリッドに拡張してきたADFの音楽性は改めてフレッシュに響く側面を持っているだろうし、バーミンガムのレストランでレイシストに襲撃されたことに対する〝正当防衛〟だったにも関わらず殺人罪で投獄されたサトパル・ラムを釈放せよと訴えた「Free Satpal Ram」、グローバリゼーションに伴う世界の貧困、戦争の増加、ヨーロッパで高まった移民排斥の動きに警鐘を鳴らした「Fortress Europe」、家庭内暴力で長きにわたって虐待を続けた夫を殺害した罪で終身刑を言い渡されたムスリム女性のズーラ・シャーを題材とした「1000 Mirrors」といった代表曲の数々が提示するメッセージは、今の世の中にこそよりリアルに響くだろう。リアルタイムで衝撃を受けたファンも、後追いで彼らを知った世代も、今回の貴重なアクトをお見逃しなく。






エイジアン・ダブ・ファウンデイション
『94-Now: Collaborations』
発売中
国内盤CD:アーティストによる各曲解説、解説書を封入
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14486


ASIAN DUB FOUNDATION
-30th ANNIVERSARY JAPAN TOUR-
2025年1月22日(水)大阪・BANANA HALL
2025年1月23日(木)東京・WWWX
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14491

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