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Elephant Gymが語る、革新的なライブ演出の秘訣、ライブパフォーマンスの極意

Rolling Stone Japan / 2024年12月20日 18時0分

Elephant Gymのライブパフォーマンスの極意(Elephant Gym提供)

台湾音楽シーンが日本で盛り上がって早数年。コロナ禍などを経てもなおその勢いは増しており、日本でもその存在を確固たるものとしつつある。台湾現地での音楽フェスやライブイベントも年々増えており、日本から参加する人も増えているだろう。

そんな盛り上がる現地のライブシーンを形作るものとして、台湾の舞台照明会社「禾火設計」がある。ライブを成功させる立役者として欠かせない舞台照明、しかし、台湾での舞台照明業界はまだ人材育成の環境が整っておらず、現場で鍛え上げるということが多い。そこで、多くの台湾アーティストの照明を手がける「禾火設計」は舞台照明に関するオンラインセッションをスタートした。ここでは、「禾火設計」の舞台照明家・「伍翔麟(以下、伍哥)」と、日本をはじめ世界を股にかけて活躍する3ピースマスロックバンド「大象體操(Elephant Gym)」から張凱翔(Gt.)と涂嘉欽(Dr.)が対談。ライブの中での舞台照明やもちろん、音楽性についても各々の見方を共有する貴重なセッションの内容をお送りする。

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伍哥:よろしくお願いします。僕は普段からElephant Gymの楽曲を聴いていて、ステージの照明を担当したいと思っていたんです。たまたま知り合いがElephant Gymの2018年のワンマンライブ「水底 Underwater」を手掛けた舞台監督と知り合いだった縁でそのライブから担当させていただいたわけです。

凱翔(Gt.):はじめてバンドとして積極的に舞台照明のデザインをしてもらった時に出会いました。いつもドーム級のライブを手掛けている伍哥が我々の小さなライブをどう彩ってくれるのかとワクワクしました。やはり照明効果があると全然違いますね。

伍哥:嘉欽(Dr.)の叩くドラムは鮮やかな感じもあるから、これに照明を合わせるのはなかなか難しいなと思っていて。そこで舞台監督の劉柏君と話していて思ったことが「僕らがElephant Gymのメンバー間を繋ぐ架け橋なんだ」と。ここに影絵を投影したいとか、曲の表現についてお互いの意見を交換していました。

凱翔:ワンマンツアー「水底Underwater」の台北公演で、監督が”反射”という重要な概念を提案してくれました。アルバム『水底Underwater』自体が、全体を通して水と関係があるコンセプトで、ライブのVJなども水に関連していました。その一環でステージにLEDのバックボードを加えるかどうかなど色々考えたのですが、これらは監督に否定されたんです。その理由として監督が言ったのが、「伍哥を見つけたんだから、全部のリソースを照明に注いで、照明と鏡を使った面白い化学反応を引き起こせばいいじゃないか」ということでした。その結果、台北公演ではバンドメンバーの影絵を投影したり、ステージに置いた鏡に映った背後からメンバーの動きも見えていたと思います。僕らが伍哥と一緒に仕事をしたい理由は、この鏡を使った演出のように斬新なことが好きで。鏡の演出がきっかけで、ライブも比較的小さい会場でジャンルや業界を超えた色々なことを試すきっかけになったと思います。

伍哥:このライブは僕にとってもたくさん思い出があって。ライブの現場で何が起こるか分からない。色々なシミュレーションもできますが、鏡面の感覚を再現することはできなかったので、事前に色々なことを想像しつつ現場で作り上げる感じでしたね。僕は普段大きな会場での照明演出を手掛けることがほとんどですが、自分にとって印象深くて面白いのはやはり小さな会場での照明演出なんです。大きな会場では、1000個以上の照明を同時に使うかもしれないけど、小さな会場では50個程度の照明しか使わないんです。そんな制約がある中で、現場で試行錯誤している中で、鏡面の反射を使うことも思いついたんですよ。その後には、12時間のオンライン・ワールドツアー「12-HOUR DREAMS」もやりましたね。

凱翔:このライブはコロナ禍で実施したものでしたね。台湾時間の正午から夜中0時まで、12時間の内容はどれも重複しないように、例えば1時間はアメリカの番組「Audio Tree」を放送したり、その後は日本のフジロック出演時の映像と、世界の12の番組・チャンネルと協力して作り上げたイベントでした。その中で、台北の雲門劇場でのライブもプログラムにあったのですが、本来の舞台のほかに客席、舞台上部の狭い通路の3ステージを用意して面白かったです。

凱翔:当時の最新アルバムが『Dreams』というタイトルだったので、天井からベッドや椅子をぶら下げたりして面白かったです。舞台上部って、普段は舞台照明の人が照明を吊るす場所ですよね。

伍哥:そうです。普段はステージとして使っている場所に照明機材を置いて、普段照明機材を吊るす場所を照らすのが印象的でした。僕は全体の空間のニュアンスを担当していたんですが、本来のステージ上での照明より面白かったです。


Elephant Gym提供

凱翔:このライブで、雲門劇場は面白い使い方ができる場所だなと思って、その年の冬に同じ会場でリアルでもライブをして、皆に実際に会場へ足を運んでもらいました。この写真もご覧ください。伍哥の操る照明はストーリー性がありますね。舞台上で感じたのは、もちろん照明は、演者にとってはその雰囲気をより感じさせるもので。自分たちが想像していたような照明でないとしても、それもさらに面白いんですよ。これは、伍哥が曲を全く新しい角度で曲を解釈しているからですよね。

伍哥:ちょうど昨日、日本の知り合いの照明の方にもこの写真を見せたのですが、要するにライブというのは視覚・聴覚・体感を持つもので、光の数を抑えたり、その明るさを抑えたりすることで、現場の音楽をより感じることができるようにするのだと。この写真はそれを体現するのにぴったりだと思いました。

凱翔:他には小雨が降っているような照明も好きでした。怒りの情緒を表現していると理解しているのですが、この写真の照明のアイディアが大好きで。照明の明かりが少ない状況下でも様々なアイディアを使って全く新しい場景を作り出していますよね。

伍哥:それまでElephant Gymで一番照明を当てるのが難しい曲は「半個」だと思っていたんですが、そのアルバム『Dreams』収録の「巫女」は本当に難しかったです。自分にとって「巫女」は、一つの方向に向かって進んでいくストーリー性がある面白い曲だから、上手く照明を当てたいと思っていたけど本当に難しかった。

嘉欽:「巫女」は繰り返すフレーズがない曲で、頭から尾まで変化し続ける龍のような曲だから、難しいと思います。



伍哥:ところでお二人は、舞台で照明を浴びる時にどう思っていますか? 真っ暗になったと思ったら急に照らされたりして、照明が眩しくないですか?
 
嘉欽:僕は気にならないですね。ドラマーにとって、照明に対する要求は多くないと思います。でも凱翔や凱婷(Ba.)を照らす際には、二人の複雑で細かな動きをする指板上がよく見えるようにしないといけないでしょうね。特に海外ツアーでは自分たちで照明器具を持って行くことも難しいですし、各地の会場にいる照明の方には事前に「演奏中に真っ暗にしないでほしい」と伝えることは忘れないようにしています。真っ暗にすると、二人の演奏ミスにつながるかもしれないので。

凱翔:台湾のライブハウスは日本に似ていますよね。日本のライブハウスには常駐で照明担当の人がいるところが多い印象です。照明の方たちも非常に仕事が細やかで、セットリストを真剣に眺めて、バンドからの照明に関する提案も真剣に叶えようとしてくれる。これは台湾のライブハウスも受けている影響だと思います。欧米のライブハウスでは提案を聞いてもらえないし、自分で照明機材を持って行けないなら恐らくステージ上は全灯か真っ暗の二択になるかも。照明とPAを一人で担当することになるでしょうし、セトリや指示が書いてある紙を持って行ってもちらっと見るだけです。メンバーが現場に到着する、もしくはその場でお金を渡してはじめて向こうも動くので、相手は事前準備もしていなくて、打ち合わせもあまりしてくれない。欧米だと、人気のバンド・ミュージシャンでないとほとんど相手にもしてくれないです。PAも事前に曲を聞いてなくて、ただ基本的な音のバランス感覚を有しているだけのような。

伍哥:欧米のツアーでは、常駐の照明家さんなどいたりしたんですか?

嘉欽:います。アムステルダムで出会った人は良かったですね。

凱翔:オランダの会場は仕事も細かくて気配りもしてくれて。ヨーロッパの中の日本みたいでした。照明の人も真剣にステージを見つめてくれていて。実は、台湾内外のライブハウスでライブをする時には伍哥にやってもらった照明の舞台の写真を見せて、「この曲で照明をこう調整してほしい」と写真を見せてそれを真似してもらったりもします。

嘉欽:欧米だと元々は酒屋かバーの会場が多くて、ステージはあるものの照明設備や吊り下げの設備なんかもなくて、ライブのための空間ではないですね。一方、日本の名古屋のライブハウスには、とても仕事が丁寧で素晴らしい照明の方がいました。

凱翔:長年その場所に構えている350人キャパの小さな会場だったんですけど、照明卓に行った時に彼女のメモを見つけたのですが、ご自分なりの曲の解釈をメモしてそれに合った雰囲気の照明を準備してくれていて。彼女はライブ全体を一つの物語にしようと考えていて、自分なりの当日のライブへの解釈も我々に話してくれて。僕らもステージ上でその物語通りの雰囲気を感じられました。

伍哥:それはすごいですね。

凱翔:次の日本ツアーでは一緒に回って照明をやってほしいとお願いしたのですが、彼女は「このライブハウスが自分にとっては家だからそこからは出ない、そのライブハウスで一つ一つのライブをしっかりやり遂げたい」と言っていて。照明の方ももっと複雑な照明を扱いたいとかそんなことを追求しているんじゃなくて、彼女のように自身にとって故郷のようなライブハウスで最も使いやすい照明を使用して、最も美しいと思えるライブを毎日毎回作り出している人もいるんでしょうね。この職人気質にはとても感動しました。

伍哥:我々みたいな舞台照明家は複雑な音楽のステージがあると興奮するし、同時に怖くもあるのですが、Elephant Gymの音楽のリズムはこれまた複雑ですね。複雑なElephant Gymの曲のリズムについていくのは大変である一方、Elephant Gymの表現は、例えば何拍目でこの演出に切り替えたい!と能動的に思わせてくれるんですよね。Elephant Gymは意図的に複雑な音楽を追求しているんでしょうか?

嘉欽:バンドを組んだ当初は、複雑で変わったリズムを前提に曲を作っていたんですが、最近はそうではないですね。あまり枠にはめ込まないようにしていて、自分たちが良い、面白い曲であればそれでいいと思っています。

凱翔:聞き心地がよい音楽を作るようになったものの、やはり5拍子などリズムが複雑なままなんです。すると、他のミュージシャンと共演すると、コラボの数日前にちょっと練習すれば大丈夫だと思っていても、実際に一緒に練習してみるとリズムが掴めないことが多くて。聞きやすいかもしれないけど、実は楽曲の中にたくさん盛り込んでいるものがあるわけです。

伍哥:リズムは完璧に覚えているんですか?

嘉欽:たくさん歌っていると次の歌詞が自然と出てくるようなもので、長くやっていると身体に染み込んでいます。でも慣れて覚えたからといってぼーっと演奏するとミスしてしまうので、ちゃんと集中して演奏しないといけませんね。かといって、過度に集中しすぎてしまうのもミスを招く気がしています。

伍哥:僕も自分が演出するステージで拍を数えるのはあまり良くないと思うんです。曲全体を聴きながら演出したくて、自分の数える拍に集中しすぎてしまうと逆に制約がかかって楽しくなくなってしまうんです。ライブが与えてくれる衝撃を感じられるように、色々なやり方を試してしまいます。リズムや拍の話だと、初めて一緒に仕事をした「水底 Underwater」のリハーサルの時、例えば「46553」など数字で演奏を始めることがありましたね。


Elephant Gym提供

嘉欽:曲によっては、拍の数を暗号にしているんです。例えば楽曲「夜洋風景」では、5拍、5拍、6拍、6拍のリズムの部分があるので、そこを「5566」と呼んでいます。

凱翔:照明担当の人にとっては聞き慣れない拍に合わせるのは大変ですよね。Elephant Gymは拍を面白いものだと思っていて。僕は前衛的な表現を大事にしています。小さな頃からクラシック、流行のポップス、そしてポストロックなど大好きでしたが、なぜ情感ばかりを求めてアイディア的な表現をしないのだろう?と思っていました。例えば、「金曲奨(中華圏のグラミー賞と称される音楽の式典)」で受賞した人の曲が、どれほど深く、繊細に感情を表現しているかと論じられますけど、僕は「情感を完全に逸脱した表現、もっと革新的なアイディアを主としたスタイルはないか?」と思っていて。そんなことを考えていた頃、大学生の頃に日本のバンド・Toeの曲を聞いたんです。なぜ彼らの音楽はこんなにも新鮮なのか? 実は彼らの曲はとても長いフレーズを5拍で演奏していて。リズム面の制約を打破すれば、他の人が聞いた時に何か異なる感覚があるんじゃないかと気づきました。また、自分自身も情感を表現するより、アイディアや発想を盛り込んだ表現が得意だと思っていたので、マスロックを演奏し始めたんです。

伍哥:以前、滅火器(Fire.Ex,台湾のバンド)が台北市・華山大草原で行ったライブで、はじめて入場時に流れていたElephant Gymの楽曲「青蛙」の映像を見たのが皆さんを意識したきっかけでした。アー写のイメージと違って、実際のライブでは皆さんの動きもアクティブで、見ていて開放的な気持ちになります。

凱翔:当時、僕は多くの流行の台湾華語のポップスが愛情を表現していることに一種の希望とともに失望も感じていて。バンドをやる人間にとって「もっと良くできる方法はないか」と考えることは、前向きな怒りでもあると思うんです。これはElephant Gymの音楽の中にある大きな感情の一つですが、これを言葉で表現するのは難しいことでもあって。なので、今のような(インストを主とする)バンドになったのだと思います。

嘉欽:情感は抽象的なものだから言葉で表そうとすると制約がかかると思っていて。ライブの一幕や楽曲を聞いているとき、歌詞じゃないものに感動することがありますけど、それこそが感動を表現できる最も美しい方法だと思うんです。

伍哥:僕自身も情感を表現するのが得意ではないと思っていて、歌詞や文字にあまり触れてこなかったんです。だからこそリズムを大事にする音楽が好きだし、英語の曲を聞いて歌詞の意味が分からなくても、メロディやリズムを覚えていて。だからこそ、台湾にもElephant Gymのような音楽があるんだと驚きました。



嘉欽:拍やリズムの話だと、前回のライブの時にメンバーと同じイヤモニで同じリズムトラックを聞いてそれを参考にしていましたよね。

伍哥:そう。でもあれは曲直前のサインを聞いたらすぐに外しました。クリック音がないと曲入りの一拍目についていけないですからね。

嘉欽:共演するミュージシャンが拍を掴めずどこから入るか分からないとき、カウントを入れようかと話をするんです。今のところ、9割ほどの曲ではイヤモニでリズムを把握しているんですけど、そのおかげで全部のライブでテンポが一緒になってしまうんです。そういう場合、照明を打つリズムは曲の頭から一定のテンポで自動で打たれるものなんですか?それとも手動で操作するんですか?

伍哥:前回のElephant Gymのライブは手動でやりましたね。でも他で仕事をする場合、自動同期を求められることが多いです。ただ、自分としては必ずしもすべて同期させる必要はなくて。同期させるとしたら、それは自分で操作するものが多い時に正確さを確保したいからなんです。例えば、メンバーがステージに登場するタイミングは正確にキュー出しする必要があるし、当日のライブがパッケージ化するために録音・録画している場合、僕のキュー出しだけ合わなくて、最終的に照明と音がずれる状態になってしまうかもしれないので。

嘉欽:大型ライブだと連日同じ会場で同じセットリストになることもありますよね。そうなると毎日微調整しながらでも自動同期の方がいいんですかね。

伍哥:そうなんです。自動同期は便利だけど、でもたまには自分で操作しないと実力が衰えてしまうので。

凱翔:Elephant Gymは、Toeや透明雑誌など先輩世代のクリック音を聞かないバンドの影響も受けていて。ライブでは曲の途中でクリック音を止めることが多いのですが、我々より下の世代やメジャーなミュージシャンのライブではずっとクリック音を聞いているみたいですね。

嘉欽:先輩世代だと、イヤモニで舞台監督の指示を聞いていることさえもメジャーのやることだと思われていたんですよね。昨年か一昨年、ライブをした時に隣のステージでちょうど非人物種(台湾のバンド)がライブをしていたんです。小さい頃に彼らのライブを観ていた時はパンクだなあと思っていたのですが、その時のステージではメンバー皆がイヤモニを付けていてとてもギャップを感じて面白かったです。

凱翔:Elephant Gymがクリック音を聞くのはテンポを安定させるためではあるのですが、演奏中のエモーショナルな部分を抑制するものでもあるかもしれないですね。ハイになっている時にはどうしてもテンポが走っちゃうから。Elephant Gymも曲の途中からクリック音を止めて演奏しています。

嘉欽:あるいは、意図的に少し速め或いは遅めにクリックを作ることもあります。そうすることで、曲全体のテンポが一定でなくなるようにできるので。

伍哥:Elephant Gymの音楽ってとても複雑なので、僕はクリックのテンポについていこうとしていなくて。何でもかんでもテンポに合わせようとしないようにしないと、自分でも色々な操作をやりきれなくなりそうで。

凱翔: 日本の照明の方と一緒にやる時、リハーサルの音源をクリック音のあるなしでそれぞれ送るように言われるんです。伍哥が他のミュージシャンと仕事をする時にも同じようなことをしますか?

伍哥:しないですね。

凱翔:どんな資料が必要なんですか?もしくは何もいらない?

伍哥:音源とセットリストだけですね。さっきも話したように音楽の中でクリック音も同時に聞こえてくるのはあまり好きじゃないし、自動同期する場合はLTC信号を使うようにしていて。日本ではほとんどの照明担当はクリックを聞く必要があるみたいです。

凱翔:文化が違うんですね。

伍哥:日本だとあまり自動同期は使わないかもしれないですね、あまりに正確過ぎてしまうから。でもクリック音を聞きたい人ももちろんいます。さっき、曲の途中でクリック音を止めると言っていましたが、楽曲「春雨」では途中で演奏が止まって、嘉欽のドラムから再開する部分がありますよね。舞台監督の劉柏君が「あそこはいつ始まるのかよく騙されるから、嘉欽の手を注意して見て」と言っていたのを覚えています。結果、前回のツアーでは高雄と台北の4公演いずれも騙されました(笑)。



凱翔:これはジャズやToeの真似をしたんですよ。ミュージシャンも、同じ曲を何回も演奏していてもちょっと飽きると思いますし、聴衆と演者が改めて呼吸を合わせられるようにもなると思います。Elephant Gymのライブではよく演奏が止まる場面があるので、舞台上もしくはスタッフなど皆が一斉に、嘉欽がいつ叩き始めるのか見つめることがあります。一種の即興だけど、メンバーもよく騙されます。

嘉欽:今年、高雄で開催された大型音楽フェス「大港開唱(Megaport Festival)」に日本からZAZEN BOYSが出演しました。日本や台北でもZAZEN BOYSのライブを観たことがありますが、彼らも向井秀徳さんを見つめながら、彼の合図でジャン!ジャン!と演奏することがあるんです。これによって、演者の意識は自然と特定の人に向けられる必要があって、観客の視線も同じ方向に向くことになると思うんです。これによって、自然と舞台上の光景に厚みが生まれるのかなと。

伍哥:誰か一人を見つめるという話だと、二ヵ月くらい前に林宥嘉(台湾のシンガー)の中国大陸でのツアーに付いていった時、あるライブでステージ上のイヤモニがほとんどすべて壊れた時があったんです。その時はステージが真っ暗になっても演奏者皆がドラマーを見つめていて。その時のバックバンドは皆経験豊富な方達ばかりだったので、演奏上で特に問題はなさそうでした。

嘉欽:すごいですね。将来的に大規模なコンサートを開催する場合、十分な予算があるなら、一日かけて会場でリハーサルをして色々な問題を一度解決しておいた方がよさそうですね(笑)。そういえば質問なんですけど、お客さんとしてライブに行くと舞台上の特殊演出用のコンピューターランプとかレーザーが観衆を照らして目に当たるととても眩しくて。こういうのは、お客さんの目に焼き付けてやろうと思ってやるんですか?

伍哥:そういうこともあるけど……。やはりお客さんは大事だし、分かりやすい派手な演出はコストも高いので。照明をデザインする上でそういった要求があれば、少しトーンを下げたり、観衆の頭の上を通り過ぎるだけのこともありますよ。せっかくライブを目に来たのに、目を傷めて帰ってほしくはないですし。派手な演出をすることもあるけど、ずっとお客さんを攻撃したいわけではないです(笑)。

嘉欽:大きい会場だと一番上の比較的安価なチケットの席から照らしていけば、皆前の方の高めの席からチケットを買うんですかね(笑)?

凱翔:販売戦略だね(笑)。

伍哥:でも一部の大型ライブの時に来るファンの方々は、ずっと照明が眩しいと文句を言うこともありますからね。最も高くて遠い位置、つまり安いチケットを買う人は文句を言う人も多いと思います。我々に仕事を依頼するのはミュージシャンやそのマネージャーなので、彼らがそういう声をとても気にする場合はもちろんその意向に協力しますよ。あまりライトを強くしないようにしたり。

嘉欽:じゃあライブが終わったあと、オーディエンスの意見を集めたりするんです?

伍哥:一回だけとあるライブが終わったあと、舞台監督に呼ばれてミーティングをしたことがあって。そこでパワポ上に集められた意見を見たんですけど、この意見はあのブロックの人だなと推理ゲームみたいになって、コメントを細かく分析して情報を集めたことはありましたね。最終的には、照明の位置を変えるとか色々な結論に達しましたけど。

(会場からの質問):現場で初めて会うようなミュージシャンの場合、照明担当としてはライブの雰囲気を理解するために事前にどのような資料が必要ですか? それとも現場で理解して、照明でより雰囲気を作り上げていくのでしょうか?

凱翔:Elephant Gymとしてはライブのイメージが伝わるパワポ、中文英文併記の基本的なセットリストやMCのタイミングや誰が話すかが記載されたwordファイル、あとは演奏予定の曲と音源リンクが記載されたExcelファイルの3つが1セットです。特にExcelは照明の人に渡すようにしてます。スタジオライブの時は、最新のスタジオ練習の音源も共有してますね。元の音源も共有するけど、クリック音や曲入りのカウントが録音されているものを渡すこともあります。パワポでは、照明の人に向けて、曲によっては照明の方向性や使ってほしい色、スモークを焚くなど、作ってほしい雰囲気を備考欄に記載することもありますね。何秒の時に一番盛り上げる感じにしてほしいとか、基本的な説明は伝えています。写真を渡してイメージを伝えることもあるけど、そこには伍哥の照明で使った写真が使われることも多いです。これが基本的な流れですね。

嘉欽:さっき話題に出てた「巫女」という曲では、強烈な対比の印象を与えたいと思っていたので赤と緑の照明を半分ずつとか事前資料の中で伝えてました。海外ツアーなど初めての地でも同じようなステージを再現できるように事前に伝えていて、それをちゃんと実践してくれるとちゃんとしたスタッフなんだなと思います。

凱翔:今話した「巫女」の赤と緑の組み合わせも伍哥がデザインしたものなんです、色々なものを伍哥から真似していますね。ちょっと宣伝しておきたいのですが、11月8日にZepp New Taipeiでライブをするのですが、当日は伍哥が照明演出をしてくれます。今日来れなかった凱亭の手の怪我も回復しているはずです。もし興味があれば伍哥が「巫女」にどんな照明を当ててくれるか見に来てください(笑)。

伍哥:コロナ禍も明けて忙しくなりましたけど、また今年も一緒に仕事ができるようになったので、何かいつもと違うことをしたいなと思っています。

嘉欽:照明増やしましょう。Zeppなら前回よりも照明多いんじゃないですか?

伍哥:照明の数はそんなに重要じゃないと思うんです。僕もZeppで何か違ったことをやりたいとは思っていますが、照明が多いから必ずしも良いわけではないですね。ただ、もし他に何か追加できる要素があると思うので、ツアーファイナルである本公演によりふさわしいことができたらと思っています。

Official HP:https://www.wordsrecordings.com/elephant-gym
禾火設計オンラインレッスン:https://lighton360.com/

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