Wez Atlasが語る、リリシスト/ポップスターへの挑戦 日本語と英語で韻を踏むスキル
Rolling Stone Japan / 2024年12月19日 17時30分
Wez AtlasがEP『ABOUT TIME』をリリースした。冒頭の「One Life」を聴いてすぐに、変化を感じた人も多いのではないか。日本語詞が大幅に増えた。ラップのアプローチが変わった。Wez、何があった――? これは、彼にとって新たなスタートを告げる作品なのか?
これまでのWez Atlasといえば、いわゆるバイリンガルラッパーとしての華麗なラップスタイルを想起する人が多いだろう。国際的なバックグラウンドを反映しながら繰り出される英語と日本語のシームレスなラップは、トラックも含めてどこか洒落た印象がある。それはジャパニーズ・ヒップホップが継承してきた政治性、あるいはパーティ感覚とは明らかに異なるカラーであって、一方でUSラップとも違う独自の雰囲気をまとっていた。けれども、その独自性に彼は悩んでいたようなのだ。新たなフェーズへ舵を切った、Wez Atlasに話を訊いた。
—EPを聴いてびっくりしました。何があったのか気になっていたんですよ。ひとまず今作の制作がどうやって始まったのか訊いてもいいですか。
Wez Atlas:さかのぼると、今回のEPを出す前に「RUN」というシングルを去年の12月にリリースしたんです。それは自分のバックDJをしてくれているnonomiと(w.a.uの)Kota Matsukawaと作った曲で。その後、次に新曲を出したのが今年の8月でした。けっこう期間が空いたんですよね。制作も止まってたりしてて。再開してからはEPに向けてどんどん進んでいけたんですけど。
—期間が空いて、制作が止まっていた時期は何かあったんでしょうか?
Wez Atlas:何だったんでしょうね……。うーん……状況が変わって、チームも変わって、方向性を見直すタイミングだった。Wez Atlasって何だっけ?ってなったんです。今までやっていた音楽が、このまま日本に住んでいてどこまでいくんだろうなって考えてしまった。それで、日本で勝負してみようかなという結論にはなったんだけど、それもようやく出せた答えというか。ずっと悩んでいて、制作も止まってました。
—なるほど……けっこう悩まれたんですね。
Wez Atlas:けっこうしんどかった。ただ、その間は新しいこともたくさん学べたし、25歳ってそういう時期なのかなと思いました。英語圏だと「クォーターライフクライシス」って言うらしいんですけどね。
—そもそも、昨年リリースされた「RUN」がかなり大きな変化を感じさせる曲でしたよね。今回のEPの方向性は、あの曲の手応えも関係していますか?
Wez Atlas:「RUN」を出した時は、まだはっきり答えがなかったんですよ。あの時は、とりあえずやってみたという感じで。それで、びっくりしてたリスナーも多かった。自分もそれを知って「えっ……」ってなって(苦笑)。今聴き返すと普通にいい曲じゃんって思うんだけど、やっぱり色々考えちゃいました。リリースした後にそういう気持ちになるのは初めてだった。
—そうやって悩まれた結果、今回のEPのような作風になったというのはどういう経緯があったんでしょう。
Wez Atlas:うーん……(しばし考える)。去年と今年、サウスバイサウスウェスト(SXSW)に行ってアメリカでライブをする経験があったんです。アメリカの街を歩いて暮らしを見るじゃないですか。その後日本に戻ってきて、「どっちかに決めなきゃ」と思った。そもそもアメリカもどんどん物価が高くなってるし、俺アメリカ行く!っていうのも無茶なのかなって考えたりして(苦笑)。もちろん今でも諦めてるわけではないけど、いま目の前に日本のお客さんがいて、自分の音楽を好きって言ってくれてるんだったら、そこにちゃんと向き合ってみようと思いました。
—その決断は、Wezさんお一人で決めたんですか? それとも誰かに相談しつつ?
Wez Atlas:チームのメンバーも含めて、色んな人と話しました。その結果、今まで作ってきた音楽に対してもうある程度満足できたな、と思ったんですよね。自分は今まで、シーンのこととか聴く人のこととか特に考えず、本当にやりたいことをやってきたんです。だから、それはもういいかなって。それで……うん、俺は、ポップスターになりたいのかなって思ったんです。もっと大きい規模でやりたい。どうやったらそれができるのか、考えるようになった。
—価値観が変化してきた。
Wez Atlas:自分のやりたいことだけをやって小さい規模で活動していくのももちろんそれはそれで幸せだと思うけど、自分は曲に込めているメッセージをもっと多くの人に届けたいと考えるようになったんです。なぜかというと、今まで思ってたより全然伝わってなかったんだなって気づくことがあったから。Wez Atlasというアーティストの印象が、英語を話せるファンベースと話せないファンベースで全然違うんですよ。日本のリスナーには、表面的にしか伝わってないみたいで。だから、もっと知ってほしいです。
—今回、日本語詞が増えているのはそういう背景があるんですね。日本語が増えたことで、何か新しい発見はありましたか?
Wez Atlas:日本語での自分の声を見つけるのにすごく苦労しましたね。普通に日本語は話せるけど、英語の方がパーソナリティとして仕上がってるから、最初はちょっと迷いました。英語で長く歌詞を書いていると、自分はメンタルヘルスや内面について語る人なんだ、と色々イメージがつかめてくるんですよ。でも、日本語だとまだあまりつかめない。そこのペースを上げなきゃと思って、最近は日本語のヒップホップをたくさん聴いています。
—例えばどういった作品を聴いていますか?
Wez Atlas:最初にハマったのは5lackさん。日本語の書き方が自分にとってすごくよく分かるというか、シンプルだけどクスッと笑える感じが魅力的。そこからSUMMIITのOMSBさんとかPUNPEEさんとか。他に、藤井風さんも。皆、日本語でこういうこと言う人なのかー!というのが少しずつつかめてきてます。あとね、最近、Wezのラップはめちゃくちゃ聴き取りやすいねってすごく言われるんですよ。
—そう、すごく聴き取りやすいですよね。だからなのか、悩んでいる状態で書いたにしては、歌詞もラップもすごく風通しが良いなと思いました。
Wez Atlas:そうかもしれない。ありがとうございます。
ポップスターになりたいんだけど、でもヒップホップを好きな気持ちはずっと忘れてないよ、というのは言いたかった
—ちなみに今回のラップの変化について、プロデューサー陣はどのような反応でしたか?
Wez Atlas:「Focus」のレコーディングで、書いてきたバースを一度アカペラで歌った時に、Matsukawaの目がキラッとしてたんですよ(笑)。来たんじゃね?ちょっと感動したわ! って言ってくれて。彼はやっぱりプロデューサーだから、ラップのスキルや音色は見るけど、そうじゃない歌詞の内容とかになるとあまり見ないじゃないですか。以前、歌詞とかあまり聴かずに音ばかり聴いてるって言ってたし。でも日本語詞になって、だいぶ内容も入ってくるようになったんじゃないかと思います。
—そもそも今回ラップだけでなく、トラックも方向性を変えていこうという話があったわけですよね?
Wez Atlas:その点についても、もう少しリスナーを意識していこうということを話しましたね。今までセッションしていた時も、自分はMatsukawaに渋いヒップホップのビートばかりを要求してたんですけど。今回はそれとは全然違って、一度彼に任せてみようと思った。もう提案してもらったものでOK、という感じで進めていきましたね。俺はもう、今は言葉に集中しようと。自分の専門はそっちだから。あと、今までは歌詞の内容にあわせてトラックもちょっと暗めだったんだけど、客演はなぜかいつも楽しい感じでやってるんですよね。なぜかというと、自分の作品では良いことを言わなきゃって意気込みすぎちゃうのかもしれない(笑)。だから、自分の作品でも楽しくいこうと思って。そこは変わった点です。
—自分の作品になると、ちょっと構えちゃうと。
Wez Atlas:まあね、ケンドリック・ラマーとか憧れるじゃないですか(笑)。重たくてレイヤーが重ねられてて。でも、自分は客演になるとアイデアが次々に沸いてくるし楽しくやってるし、それを自作でもやればいいじゃんって思いはじめたんですよね。そんな真面目に考え込まなくていいよねと。だから、今回は客演のように作ったEPです。あえて少しふざけてみる、という。
—歌詞も、心なしか原点回帰のようなトーンになっているなと思いました。「One Life」では「ヒップホップミュージックが俺のファーストラブ」と歌っていますね。
Wez Atlas:そうそう。ポップスターになりたいんだけど、でもヒップホップを好きな気持ちはずっと忘れてないよ、というのは言いたかった。
—クレジットでは、「One Life」にはMatsukawaさん以外にもuinさんが、「40°C (colder)」ではMori Zentaroさんも作曲に入られています。
Wez Atlas:uinは、定期的にセッションしてますね。二人でやってたところに途中でMatsukawaが入った感じです。元々過去には自分とVavaOlaがセッションしてたところにMatsukawaが入ってきたことがあって、それが彼との出会いだった。あと、Zenさんは、共通の知り合いに繋いでもらって初めてのセッションで「40°C」が生まれました。その日めちゃくちゃ暑かったからそういうタイトルです。でもEPが出るのはもう冬だから、Matsukawaに「40°C (colder)」ヴァージョンにリミックスしてもらいました。だから、実質……15°Cくらい(笑)。
—今回、日本語詞が増えたことで、韻に気づきやすくなったと思いました。でもそれは恐らく私が日本語話者だからであって、以前の曲を聴き返してみたら英語でも同じくらい綺麗に踏まれていることに気づいた(笑)。やはり、どうしてもそういった言語の壁はありますよね。
Wez Atlas:あぁ、でもそれに気づいてもらえるのは嬉しいです。そうなんですよ。あと、自分で言うことじゃないかもしれないけど、日本語と英語で踏むスキルは自分はトップレベルだと思っています。多い音数で踏むのが好きだから、それをいつも二か国語でやる。最近Abemaの番組でZeebraさんと話す機会があったんですけど、あの方も昔は最初に英語でリリック書いててその後に日本語に変換していく方法をとっていたらしいです。だから自分も、今後日本語としてもリリシストとしてスキルを上げていきたいなって思いました。
—Wezさんが、日本語でリリックを書くことに対して新鮮な気持ちで挑んでいるというのが伝わってきます。それで言うと、「40°C (colder)」の「Cuz we boutta get hot, hot, hot/アげてく体感、感、感/動きは大胆、胆、胆/毎日 毎晩、晩、晩」とか、めちゃくちゃ良いなと思いました(笑)。
Wez Atlas:いや、俺の日本語レベルってマジでそんな感じなんですよ(笑)。
—逆に、日本語をメインにしているラッパーだったら書かないリリックですよね。一周まわってそれが新鮮。
Wez Atlas:日本語って、韻は踏みやすいけど簡単すぎてあまり面白くないじゃないですか。今の「-kan」とか「-tan」とかも、いくらでも踏める。英語の場合は、一つひとつのワードが独特だから踏むこと自体がちょっと難しくて、だからこそ気持ち良さが出る。今、そういうことも考えています。
—これは一応訊いておきたいんですけど、いわゆるジャパニーズヒップホップのリスナーってどのくらい意識されてますか? もちろん、結果的には誰が聴いてもいいよというスタンスだとは思うんですけど。今までだと、そこのリスナーってある意味Wezさんの想定にはあまり入ってなかったように思うんです。
Wez Atlas:基本的には、限定せず日本のリスナーに広く聴いてもらいたいというのが一番ですけど、ジャパニーズヒップホップにも片足入っていたいという気持ちもあります。そうそう、思い出しました、それに近い話をこの前Matsukawaとも話してたんですよ。アメリカだと、ヒップホップのスターこそポップスターなんですよね。ドレイクにしろケンドリックにしろJ.コールにしろ。アルバムでも1位をとるじゃないですか。日本のヒップホップだとその点がちょっと違っていて、よりヒップホップの原点を大事にして聴いている人が多いように思います。自分がアメリカに住んでいた時に見ていたヒップホップの人たちは、めちゃくちゃマスメディアに出ていて、オーバーグラウンドの印象だったから。
—なるほど。そうなってくると、国内にロールモデルとなる人はあまりいない感じですか?
Wez Atlas:サウンドとしてではなく、シーンでの立ち位置やバックグラウンドというところでいうと、KREVAさんのような方が近いかもしれないです。
—確かに、KREVAさんはポップスターでありながらヒップホップを愛している方ですね。すごくしっくりくる。今日お話を聞いて、これからWezさんが日本語をどのように吸収してラップに落としていくのか、進化の可能性が大きく広がっているなと思ってすごくわくわくしました。
Wez Atlas:自分はずっと海外の音楽を聴いてきたからこそ、日本の音楽をさかのぼって勉強していきたいんですよ。ラッキーだなと思うのは、まだディグってない日本の音楽やアートがたくさんあること。俺、そこにまだ全然手をつけてきてないから、今後吸収するのが楽しみで仕方ない。今が、日本のカルチャーに一番目を向けてる。『SLAM DUNK』とか、今さらのように初めて読んでます。
【関連記事】KREVAが語る、揺らぎの最適解
—今回のEPで、Wezさんの第二章の中の、まずは序章が始まったように思います。
Wez Atlas:そうそう、まずは今回のEPは序章って感じですね。新しいWezはちょっと違うなって思う人もいるかもしれないけど、それはそれでいいかなって。自分も好きな人の作品を聴いていてそう感じることはあるし、それはそれでまた合う時がくればいいなって思うし。
—1月24日は東京でワンマンライブ、1月31日は大阪でSkaaiさんを招いてのツーマンライブもされますね。
Wez Atlas:今回のEPはもちろん、過去曲も含めてやります。進化を見せたい。EPについては、変わりましたねっていう意見が多いと思うから、その謎をライブでは解いていきたいです。わくわくしますね。この先に、何かがありそうです。
『ABOUT TIME』
Wez Atlas
配信中
https://lnk.to/JQYaJS
1 Intro
2 One Life
3 Glow
4 Feel It Now
5 40℃ (colder)
6 Focus
Wez Atlas LIVE 2025
”ABOUT TIME”
<東京>
1月24日(金)OPEN 18:00 START 19:00
場所:SHIBUYA WWW
w/ w.a.u
<大阪>
1月31日(金) OPEN 18:30 START 19:00
場所:LIVE SPACE CONPASS
w/ w.a.u
GUEST / Skaai
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