The Lemon Twigsが全アルバムを総括、理想のバンド像も語る「ラトルズはオアシスよりも偉大」
Rolling Stone Japan / 2025年1月17日 17時30分
rockin'on sonic出演のため5年ぶりの来日を果たしたザ・レモン・ツイッグス(The Lemon Twigs)。ブライアンとマイケルのダダリオ兄弟は、60〜70年代に根ざしたメロディとハーモニーに磨きをかけ、再会を待ち望んでいたオーディエンスを大いに沸かせた。
4ADからのデビュー作『Do Hollywood』で、ここ日本でも一躍脚光を浴びた彼ら。2017年2月、今はなきHostess Club Weekenderで初来日した際、マイケルは空高く蹴り上げ、ステージ狭しと飛び回り、ドラムスティックをくるくる回すといった若さ溢れるパフォーマンスを連発。その場にいた誰もがロックンロールの未来を見たはずだ。
しかし、以降の歩みは順風満帆だったわけではない。前回来日した2019年のサマーソニックを経て、再び日本を訪れるまでの空白期間に、彼らは冬の時代を経験していた。そこから互いが歩み寄ることで傑作を勝ち取り、レモン・ツイッグスは見事に復活。今の彼らが新たな「Golden Years」を迎えていることは、直近2作の収録曲がセットリストの大半を占めた来日公演からも明らかだ。そこで今回は、バンドの軌跡を辿り直すために、デビュー作から最新作『A Dream Is All We Know』までのアルバム5枚を振り返ってもらうことにした。
インタビューを行なったのは、渋谷duo MUSIC EXCHANGEで開催された東京公演の出番前。当日はゴダイゴやビッグ・スターのカバーも話題となったが、この取材ではライブの舞台裏についても掘り下げている。「初期の頃は、ブライアンの曲に自分が追いついてないと感じていた」と告白したマイケル。漫才のようにテンポのよい掛け合い、ともに切磋琢磨してきたエピソードの数々に、(キンクスやオアシスとはまた違う)兄弟の絆を垣間見た気がした。
© rockinon sonic
来日の舞台裏、カバーソングから掘り下げる音楽観
―rockin'on sonicでパルプやウィーザーをご覧になっていたという目撃情報を見かけました。
ブライアン:そうそう。パルプ、ウィーザー、プライマル・スクリームと……。
マイケル:ジーザス&メリー・チェインも見た。
ブライアン:個人的ベストはジーザス&メリー・チェイン。実はあんまりちゃんと聴いたことなかったんだけど、気がついたら釘付けになってた。
マイケル:めっちゃいい雰囲気だったよね。
―パルプとのブリットポップ繋がりでいうと、昨年9月のマンチェスター公演で「オアシスの曲をやって」という観客の声に対し、ニール・イネスの「How Sweet to Be an Idiot」を披露したそうですね。実にお二人らしいエピソードだなって。
2人:あははは(笑)。
マイケル:そっちのほうが自分たちには馴染みがあるし……ラトルズのほうがオアシスよりも優れたバンドであることは、どう考えても明白なわけだし。
―言いますね(笑)。
マイケル:少なくともビートルズに影響を受けたバンドの中で、自分の推しは断然ラトルズだよ。というか、ただもう大好き。小さい頃からずっとラトルズの映画を観てきて、それこそ年に一回は必ず観るみたいな。昔からうちの家族の定番だよね。
ブライアン:父親が好きでよく一緒に観てたんだけど、2人とも夢中になって。ちょうどその頃ビートルズのアンソロジー3部作も並行して観たのもあって、ビートルズの秘話も含めて強烈なインパクトとして残ってる。ラトルズのアルバムは折に触れて聴き返しちゃうんだよなあ。
マイケル:あのアルバムってぶっちぎりの名曲揃いだから。説明なんて必要ないくらいに。
オアシス「Whatever」はニール・イネス「How Sweet To Be An Idiot」と酷似しているとして訴訟となり、イネスが同曲の印税と共同作曲クレジットを得た
―最新アルバムのツアーでは様々なカバーを披露しているようですが、 レモン・ツイッグスと音楽的に相性のいい曲ばかりですよね。どういう観点で選んでいったのでしょう?
マイケル:ボーカル3人によるハーモニーってことで選んでる曲もあるし、そこから自分とブライアン、ダニー(・アヤラ)、レザ(・マティン)の4人によるハーモニー体制に発展させることもあるし、ただ基本的には自分たちに扱えそうな曲を基準にして選んでる。「Transparent Day」(ウェスト・コースト・ポップ・アート・エクスペリメンタル・バンド)「I Don't Wanna Cry」(ザ・キーズ)あたりは、ブライアンの12弦ギターや3声ハーモニーと最高に合うし、どれも文句なしの名曲だから、どういうスタイルでカバーしようが失敗しようがない。うちのバンドのレパートリーとして理想的な曲だらけだよ。
ブライアン:「Older Guys」(フライング・ブリトー・ブラザーズ)はナッシュヴィルのライブでぜひ披露したくて練習した曲だし……カントリーっぽいというか、思いっきりカントリー色強めだから(笑)。「Time Will Tell On You」(The Rock Club:父ロニーのバンド)はNYのライブで父と共演するために取り上げた曲。「How Do You Do It?」(ジェリー&ザ・ペースメイカーズ)、「Any Time at All」「Hold Me Tight」(共にビートルズ)あたりは、明らかにリヴァプールを意識してるよね。
マイケル:そうそう。「Gonna Send You Back to Walker」(アニマルズ)はニューカッスルでのライブ用にカバーした曲で、アニマルズの出身地でもあるニューカッスルのウォーカーにちなんだ曲だしね。
ブライアン:「If You Change Your Mind」(ラズベリーズ)はクリーヴランドでラズベリーズが観に来てくれるってことになったから。
マイケル:「I Only Did it 'Cause I Felt So Lonely」(ザ・クワイアー)もそうだよね。
ブライアン:そう、ラズベリーズの前身バンドだから。
マイケル:「Alligator Man」(ジミー・C・ニューマン)はフロリダで演奏したんだけど、フロリダにワニが多いからっていう(笑)。
最新ツアーで披露されたカバー曲のプレイリスト(筆者作成、setlist.fmを参照)。大阪公演では後述のゴダイゴ、ビッグ・スターに加えてザ・キーズ「I Don't Wanna Cry」、ビーチ・ボーイズ「Good Vibrations」の計4曲がプレイされた
―ご当地ネタも多かったと。今夜の東京公演でカバーする曲は決まってるんですか?
ブライアン:ゴダイゴの曲を演ろうと思ってて。映画『ハウス』サウンドトラックの「Cherries Were Made For Eating(君は恋のチェリー)」と、あと「You Get What You Deserve」をやろうかと。
マイケル:ビッグ・スターは絶対に外せないでしょ。今まで一度も披露したことがないし。カリフォルニアのトリビュート・ライブで一回演奏したきりで、バンドとして本格的にカバーしたことないから、今回演奏したら絶対に楽しいはず。
―個人的には、ザ・ムーヴの「I Can Hear the Grass Grow」も聴きたいですけどね。
ブライアン:いいね!(笑)
マイケル:ザ・ムーヴの曲は2人とも大好きなんだけど、どうもウケがよくないんだよなあ……スペインでやったときの反応もイマイチだったし。スペインの観客だったらこのセンスがわかってくれるかなと思ったけど、どうもハマらず……イギリスでやったらウケるかも。
ブライアン:たしかに。ザ・ムーヴの地元のバーミンガムでやったらいいかもね。
マイケル:自分たちにとってはお馴染みの曲で、みんなも当然知ってるだろうと思って演奏したら、実はそんなに知られてなかったってパターンが結構あって(笑)。
ブライアン:どうせカバーをやるなら、みんなが知ってる曲のほうが盛り上がるし。
―あとは来日中に下北沢のバー、ぷあかうで楽しんでいた様子もお見かけしました。ベストソング/アルバムを選んだリストも興味深かったです。
マイケル:もともとドラムのレザが、だいぶ前に行ったことがあるらしくて。シカゴにいる共通の友人もあのバーをお勧めしてて、それで今回遊びに行ったんだよね。あと他に誰から聞いたんだっけ。結構いろんな人からお勧めされてたよね?
ブライアン:The Umbrellasのメンバーが来日中に行ったとか……キース(・フレリクス)とか?
マイケル:え、キースって日本に来たことあるんだ?
ブライアン:うん、たしかそのはず。
The Umbrellasはサンフランシスコのギターポップ・バンド、レモン・ツイッグスのツアーに帯同
マイケル:まあ、とにかくアメリカの友達からお勧めされたんだよね。レコードがいっぱいあって自分の好きなレコードがかけれるよって聞いてたけど、めちゃくちゃ楽しかった。
ブライアン:コレクションの内容がまた最高に素晴らしくて!
マイケル:何枚かレコードをかけて……レコードがない場合もCDがちゃんとあって。マジで見事なラインナップだった! 自分たちのリストを見返して今思うのは「何これ、キンクスやラヴィン・スプーンフルも入ってないじゃん!」っていう。その代わりにランダムで思いつきに色々ブチ込んであるなって感じの印象だなあ……とはいえ、いいじゃん、これはこれで。いくつもあるトップ10のパターンのうちの一つってことで。トップ10リストはいくつあってもいいから。
ブライアン:次また行ったときにリストを作り直さないとね。
マイケル:それ、お店が許可してくれるのかなあ(笑)。
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―単独公演のサポートアクトに、札幌のパワーポップバンドであるThe Choosersを起用した経緯は?
マイケル:それもさっきの話と似たようなパターンで、ドラマーのレザが日本の音楽シーンとかパワーポップに詳しかったり、あとMeanbean Recordsのオーナーがやっぱり日本の音楽に詳しい人で、彼からお勧めの日本バンドのリストをもらったんだけど結構な数でさ、バブルガム・バンドみたいなのもあったし……あとはザ・ハイマーツのメンバーが、わざわざカリフォルニア州のサンタバーバラまで僕達のライブを観に来てくれて、それがきっかけで友達になったりして。その辺みんな繋がってて好みも似てるし、ちょっとしたシーンみたいな感じになってるんだよね。
ブライアン:The Choosersもすごくいいバンドだしね。
マイケル:そう、すごく好きだから。それで今回一緒にやろうよって話になったんだ。
レモン・ツイッグス東京公演に出演したThe Choosers(Photo by Masao Nakagami)
衝撃デビューと「冬の時代」を振り返る
―ここからはバンドの歩みを振り返っていきましょう。2016年に最初のアルバム『Do Hollywood』が出たとき、とんでもない天才兄弟が出てきた!と思ったものです。お二人は当時まだ10代でした。あのアルバムについては今、どんなふうに評価していますか?
ブライアン:まあ、あの年齢にしては上出来だったんじゃないかな。いつか最初の3枚からお気に入りの曲をピックアップして再録音したバージョンを出したいねって2人で話してるんだけどね。あの頃に比べてプロダクションもパフォーマンスもだいぶ進化してるし、趣味も変化してるというか何だろう……もうちょっと自分たちが納得いくものにできるんじゃないかと思うから。
マイケル:プロダクション的な趣味はそんなに変化してないはずだけど、前よりも忍耐力がついたというか。
ブライアン:そう、昔は何テイクか録った中から「これだったらOK」ってレベルのものを出してたけど、今はまるで違うから。ただまあ、あれはあれで普通にいい作品にはなってると思うけど。
マイケル:普通に合格点ではあるよね。ブライアンの曲の中でいいなあって思うのもあるけど、自分としては何だかなあ……。
ブライアン:いや、そんなの言い出したら最近の作品のほうがいいに決まってるし、フェアじゃなくない?
マイケル:これは1stに限らずだけど、初期の作品ではブライアンの曲に全然自分が追いついてないって感じてたんだよね。それが今では一応、対等といっていいレベルにまでなってると思う。
『Do Hollywood』収録曲→単独公演では「I Wanna Prove to You」のみ披露
―当時のお2人はビザールなセンスやファッションでも注目されていましたよね。
2人:間違いない!(笑)
―自分もそこに惹かれた一人ですが、今思うとバンドの本質は別のところにあったのかなと。それについてはどう思いますか?
ブライアン:昔から自分たちが心からいいと思う曲を、丹念に作り込んだうえで的確に表現したいっていう意志の元でやってたとは思う。時代が経っても色褪せないようにという想いから。成長しながら実験を繰り返してという、その一環というか……少なくとも自分に関して言えば、最初の何枚かに関しては相当実験してたよね。
マイケル:ヴィジュアル面でもサウンド面でもね。あのビザールなルックスにしても、何なんだろう……あの時期にあのヘンテコなことをやっといてよかった、っていうか。今のスタイルだって、他の人からしたら相当変わったスタイルに映ってるのかもしれないけどさ(笑)。ただ、さすがにあそこまでぶっ飛んではないし(笑)。あの頃はまだ本当に子供だったからね。若者のうちにクレイジーなことをやっとかないと。ああいうビザールなスタイルが本来の自分自身を反映してる場合は別にして。年齢関係なくずっとああいうスタイルの人もいるからね。
―あのアルバムの中で、今でも手応えを感じている曲というと?
ブライアン:「How Lucky Am I?」とか良かったよね。さっき言った再録の候補としてふさわしいと思う。録音も全然なってないし、サウンド的にももっと良い作品にできたはず。
マイケル:「Frank」はいい線いってるんじゃないの? まあ、あのタイトルはもう少しどうにかできたんじゃないかと思うけど(笑)。当時はいかにもティーンエイジャーって感じのノリで、ガレージバンド的な演奏で、タイトルも「Frank」っていう、ある意味、ラッパーっぽい(笑)! というか、あの頃の自分たちは10代だったけど、30代になっても現役でそれやってるラッパーもいるぐらいだからね。「Untitled(タイトル未定)」をそのままタイトルにして出しちゃうノリというかさ。アホっぽい(笑)。
ブライアン:たしかに何も考えてなさそう(笑)
マイケル:でも、あの時代のあのカルチャ―の中では、ああいうのがイケてたわけで。自分たちでもそれにハマってた時期だったんだよね。曲自体はよくできてると思うよ、それは本当に! ブライアンの曲だけどね。イントロもめっちゃいい感じだしさ。クオリティに関しても、再録しなくてもあれはあれで味わいがある気がするんだけどなあ。
―2018年の2作目『Go To School』は、高校に通うチンパンジーがプロムクイーンとデートし、いじめられ、最終的に校舎に火を放つ……という筋書きのロックオペラでした。華やかにデビューを飾ったお二人が、なぜあのタイミングでそういった作品を作ろうと考えたのでしょうか?
マイケル:たぶん、友達のフォクシジェンにインスパイアされたとこもあったんじゃないかな。彼らも動きが読めないし、そのときどきに自分たちのやりたいことに従って予想外のことをやるし。あとは一旦、自分たちらしさを放棄したいっていう衝動に駆られたのもあるかな(笑)。実際それをやったわけで、再び自分たちらしさに立ち返ることができて、それも込みで良い経験になったし。離れてみて初めてわかることだってあるからね。これもまた単に若気の至りで片付けたくないし、然るべき理由があってそうしてるわけで……まさにブライアンが言った通り実験してたわけだよね。自分たちは何が得意で、何ができるのかを試してたっていう。
ブライアン:実際、あのアルバムが好きな人もいるわけで、それに対して意見を言うつもりはないし。
マイケル:ただ、自分たちはそうでもないってだけの話で……だから、あのアルバムが良かったって言われると、こっちのリアクションとしては「今作ってる音楽のほうがだいぶ自分たち好みだし、自信もあるんだけどなあ」みたいな……あ! でも、あのアルバムにも名曲があったじゃん! 何だっけ、あのラストの曲?
ブライアン:「If You Give Enough」のこと?
マイケル:それそれ! あとは「Wonderin' Ways」とかさ。録音のクオリティもまあまあ良かったんじゃないかなあ。そりゃ、手離しで素晴らしいってレベルではないにしても、十分良かったと思うし、今挙げた2曲に関してはかなり優秀だったんじゃないかな。ブライアンが書いたストリングスのアレンジメントも最高だったし! ただ、それをあえて心もとない感じでプレイしてもらってるという。
『Go To School』収録曲→今回の来日では披露されなかった
フォクシジェンが前年(2017年)にリリースした「Avalon」。メンバーのジョナサン・ラドーは、レモン・ツイッグス『Do Hollywood』『Songs for the General Public』のプロデュースに携わった
―『Go to School』の数カ月にシングルとしてリリースされた「Foolin Around」は、前後のアルバムよりも最新作のモードに近いシンプルなロックンロールで、最近のライブでも頻繁にプレイしていますよね。この曲は自分たちのなかでどう位置付けていますか?
ブライアン:当時の自分たちが向かう方向性の先として面白い展開だと思いつつ、置きどころが見当たらなくて。とはいえ、『Go to School』に入ってるいくつかの曲よりも遥かに気に入ってるのはたしかで……。ちょうどつい最近、あの曲がライブでの演奏回数がぶっちぎりに多いってことを発見して。
マイケル:そう、setlist.fmによると、ここ何年かで一番演奏してる曲らしい……ってことは、かなり良い線いってるってことだよね。
ブライアン:あの曲はぜひともライブ・バージョンを出してあげたいよね。今ライブで演奏してるバージョンのほうがはるかに良いから。
マイケル:自分も今まさにそれを言おうと思ってた! ライブのほうが断然良い! 音源のほうは何っていうか、ちょっと変化球っぽくて……あれもまたいいんだけどね、楽しくて。
―2020年の3作目『Songs for the General Public』は、いい曲ばかりで過小評価されているように思います。前回のインタビューで「自分がシンセサイザー寄りの音楽に興味が向いてて、マイケルがハードなロック寄りの音に心酔してた」とブライアンが評していたように、お二人の作風がもっとも乖離したアルバムでもあったのかなと。
ブライアン:うんうん。個人的には結構気に入ってるんだけどね、自分が書いた曲もマイケルが書いた曲も。あのアルバムでは隙があれば普段の自分とは違う歌い方を試してて、というのも当時キャット・スティーヴンスにドはまりしてる時期で、あのラフな歌い方というか、キャット・スティーブヴンスの歌のなかでもソフト路線じゃない、むしろヘヴィ寄りの曲調にあるようなしゃがれた歌い方を意識してたりして。クールっていうよりもヘンなアルバムだとは思うけど、逆にヘンなところが好きかも。
マイケル:わかる。アレンジも相当良くない? 録音の仕上がりも良いし。楽器の使い方にしろ何にしろさ。とりあえず最初の2枚よりは遥かに気に入ってるのは間違いないよ。
ブライアン:そりゃそうに決まってるよね。2人のカラーがはっきりと出てたけど、気持ちは同じ方向を向いてたし。自分の歌い方に関しては相当ぶっ飛んでたけど。
マイケル:あれはあれで個人的には好きだけどなー。
ブライアン:いや、自分もそう思う。2人してボウイだのイギー・ポップだのにハマってて、そっち系の歌い方に果敢に挑んだバージョンで、今となっては希少かもしれない。
『Songs for the General Public』収録曲→単独公演では「Live in Favor of Tomorrow」「The One」を披露。本作は当初2020年5月リリース予定だったが、コロナの影響で8月に延期となった
―3作目を最後に4ADを離れ、次作からCaptured Tracksに移籍したわけですが、その頃の状況や心境についても聞かせてください。
ブライアン:たしかコロナの時期だよね?
マイケル:そう、それで予定されていたショウも全部キャンセルになって……それから4ADに契約を切られたっていうか、契約満了になり。
ブライアン:最初からアルバム3枚の契約だったからね。そこから更新の話がなく……。
マイケル:それって切られたってことじゃない?
ブライアン:まあ、実質的にはそうかもしれないけど、一応は契約終了まで続いてたし。契約期間中に解除されたら切られたことになるけどさ。
マイケル:あー、なるほど。
ブライアン:とはいえ、次の契約の意向がなかったってことで……そこで、レコード会社との契約とかないまま自分たちだけでアルバムを作り出して。というか、アルバムとは関係なしに、曲自体は常に書いてはレコーディングしてっていう量産状態なんで。
マイケル:そのうちいくつかの音源をレーベルに送ったりして。
ブライアン:だから順序としては、最初にアルバムの音源を作ってからCaptured Tracksに送った形だね。他にもいくつかのレーベルに打診してたけど、ほぼほぼ反応がなく、それで『Everything Harmony』をCaptured Tracksから出すことになり、直近2作でお世話になってるわけだけど、いい感じのままきてるよね。4ADに比べるとレーベル規模は小さいけど、そのことによって別段支障があるわけでもないし。
マイケル:あのとき、どこのレーベルも関心を示さなかったことに落胆してたし、そのなかでCaptured Tracksだけが関心を示してくれたんだよね。
ブライアン:結果的には良かったじゃないか。
マイケル:そうなんだけど、とはいえガッカリしたのは事実でさ……自分たちとしては相当自信を持ってた作品だったし。ただ、Captured Tracksから出すことになり、しかもレーベル側がすごく力を入れて制作やプロモーションに取り組んでくれたおかげで、あのアルバムがすごくうまくいって。そこからコロナ前よりも注目されるようになった流れで、最新作の『A Dream Is All We Know』を出させてもらって。『Everything Harmony』をきっかけにすごくいい流れができてる。まさに転機になった。
運命の分岐点、復活劇とその先のヴィジョン
―4作目『Everything Harmony』(2023年)について、ブライアンは前回の取材で「『僕が今書いてる曲は、自分史上最強のバラードになりそうな予感がしてる』って伝えたら、マイケルが先陣を切って『だったら次のアルバムはその曲を中心にしよう』って言ってくれたんだ」と話していました。そこで歩み寄ったのがターニングポイントになったと思いますが、マイケルはなぜそうするべきだと判断したのでしょう?
マイケル:昔からブライアンが自信のある曲について語るとき……というか、2人で過去作を振り返ったわけじゃないけど、わざわざそんなことしなくても群を抜いて良い曲があったのは疑いの余地もないわけで。
ブライアン:さっき話した「How Lucky Am I?」「Frank」「If You Give Enough」「Wonderin Ways」辺りのこと?
マイケル:そうそう。どれもメロディが秀逸かつ繊細な感じで、ぶっちぎりの名曲だと思う。ただ、アルバムを作るときはどうしてもアップテンポ寄りの曲を中心にして、そういうソフトで繊細な路線の曲を1〜2曲入れるっていう方向に傾きがちだったんだけど、「最初からこっちを中心に作ってみない?」ってことで主軸を移して作ったのが『Everything Harmony』で、すごく良い案だと思ったんだよね。4作目ということでタイミング的にもちょうど良い気がしたし。
ブライアン:これまでの経験から何が自分たちにとって得意で、一番しっくりくるのかがわかってきたのもあるよね。それとちょうどアーサー・ラッセルの『Iowa Dream』が出た時期で、2人ともめちゃくちゃハマってたんだよね。あれもアコースティック・スタイルの曲が中心だったから。それでよりメロディックなスタイルを開拓する方向に流れに向かったのは確実にある。特にマイケルの曲でそれが顕著に出てる気がする。
マイケル:ああ、たしかに。
ブライアン:柔らかでかつ独特なメロディで、曲の世界に引き込んでいくみたいな構造になってて。
―4作目でアコースティックな音楽性に傾倒した背景について、もう少し詳しく聞かせてください。
マイケル:2人ともさんざん色んなスタイルを試してきた後で、いったん表面を覆ってるものを一切はぎ取って、アコースティックな表現に立ち返って、自分たちの持ってるハーモニーっていう部分にフォーカスしようと思ったんだよね。そうすると必然的にアコースティックな楽器が主体になっていくわけで、ハーモニーを中心軸にして描いていったっていう感じだよね。サイモン&ガーファンクルがそうであったように。
ブライアン:もともと自分の趣味もレナード・コーエンだとか完全にそっち寄りだから。いわゆる王道ギターミュージックというか。
マイケル:まさしく正統派だよね。
ブライアン:だから、自分が何も考えずにギターを手に取って曲を書き出したら、意識してなくても勝手に指がそっちの方向に動き出しちゃうのもある。
『Everything Harmony』収録曲→単独公演では6曲を披露
―そして最新作の『A Dream Is All We Know』について。前回のインタビューでは不在だったマイケルに、どんなアルバムを作りたかったのか、どの点にこだわったのか教えてほしいです。
マイケル:自分たちが小さい頃から影響を受けてきた音楽すべてを包括するようなアルバムを作りたかったんだ。『Do Hollywood』の頃からそこは一貫してるんだけど、今回はそれをより厳格なルールで実現したかったっていうか……すべてのパートが他のパートを強化する機能を果たしてるし、なおかつディテールの一つ一つにも慎重にこだわって……2週間前に録ったボーカルを全部最初から録音し直し、とか普通にしてたし。
ブライアン:だね。
マイケル:ビートルズで言うと『ホワイト・アルバム』的手法で作ったというか。
ブライアン:しかも、その時点で制作中の曲を20曲ぐらい抱えてたし……ほら、レコーディングでサンフランシスコに移動した時点とか、まさにそんな感じだったし。
マイケル:そう、ただひたすら延々とレコーディング作業を続けるみたいな、微調整に微調整を繰り返す作業をしていって……しかも、全部アナログのテープ録音だからね! 微調整といっても、PC上で音をいじるのとはわけが違うから。前日に録音したテープを次の日に聴き返して「うーん、なんか違うかも」「じゃあ、別の方法で録音し直そう!」って感じだから。そういうやり方でレコーディングするのが楽しそうと思って、自分たちも超乗り気だったんだよね。60年代のビートルズのあのスタイルというのか、あるいはテクニックというか手法と呼ぶのか……あのアプローチというか……彫刻を作るプロセスみたいな、まさに彫刻を作り上げていく作業みたいな感じだった(笑)。
『A Dream Is All We Know』収録曲→単独公演では8曲を披露
―その手元にあった20数曲のうち、アルバムに入らなかった曲はいつか発表したりするんでしょうか?
ブライアン:今度出る自分のソロ・アルバムに入ってる曲もあるよ。
―ついに出るんですね!
ブライアン:そう、3月だったかな。あとは全然捨てても構わない曲だったりもあるから。
マイケル:まあ、20年後とかに眠ってた音源を発掘して「おお!」ってなる可能性もなきにしもあらずだし(笑)。普通にYoutubeとかで発表してもいいしね。
ブライアン:結局、ワンフレーズ書いただけで終わりとか、曲は完成したものの歌詞がどうもハマらないままのやつとか。
マイケル:最初は「めっちゃいい!」って盛り上がってたものの、曲が完成する前に興味を失ったってパターンもあるし。
―レモン・ツイッグスの次の作品については? マイケルもソロを出すとか?
マイケル:いや、とりあえず3月にブライアンのソロがありつつも新作に取り掛かる予定で、それこそ来週くらいから作業を開始するみたいな感じかな。とりあえず家に帰って落ち着いてから早速開始するつもり。
ブライアン:その予定だね。
マイケル:ブライアンの今度出るソロ作に関しても、作り方としてはレモン・ツイッグスと何ら変わりなく、ブライアンの曲だけをピックアップして一緒に形にしてるだけなんだよね。そんな感じで、ブライアンのソロが出てる間にレモン・ツイッグスとして新作の準備をするみたいな計画だね。
理想のバンド像、タイムレスなポップソングの条件
―お二人は60年代や70年代のバンドをずっと参照してきたわけですが、この先のキャリア形成に関しては、誰をロールモデルにしていきたいですか?
マイケル:60年代のバンドは確実に入るし、個人的には70年代のバンドも好きで……70年代の時点で完全に時代遅れになってても、ひたすら60年代の音楽を続けてるバンドのノリとかすごく好きなんだよね。
ブライアン: フレイミン・グルーヴィーズ、ビッグ・スターとか。
マイケル:古風というか何と言うか、いまだに手紙を伝達手段にしてる人たちみたいな(笑)。彼らの音楽が1973年という時代を反映していたのか?って言ったら微妙だけど。
ブライアン:とはいえ、あの時代の音楽には特別な思い入れがあるからね。まさに子供の頃から聴いてきた音楽だから。そこはやっぱり理屈とかじゃない。
―ただキャリア形成という観点でいうと、ビッグ・スターは不幸な結末を迎えていますよね。
マイケル:どういうキャリアを目指すかにもよるけどね。そしたら自分たちの目標としては、ビーチ・ボーイズがあのままずっと作品を作り続けてたらっていう仮定で……とか言って、彼らもキャリア的なロール・モデルとしてはあまり良いお手本とは言えないけど(笑)。
ブライアン:ビーチ・ボーイズ的で、なおかつ「世界一のバンドを目指す」っていう野望を持つメンバーがバンド内にいない、というケースが理想だろうね。
マイケル:商業的にビッグになることを目標にしたがゆえに、本来の良さが失われてしまうのはちょっとね……それが心から望むことであればそうすべきだとは思うけど。いわゆる売れることを人生の目的としてるならさ。
ブライアン:1973年、リッキー・ファタールとブロンディ・チャップリンと一緒に大学で演奏してた頃のビーチ・ボーイズが究極の理想だね。
© rockinon sonic
―最後の質問です。ライブの感想でも「レトロで懐かしい」という声が目立つわけですが、レモン・ツイッグスの魅力はそれだけではない気もします。単にノスタルジックな音楽と、タイムレスな音楽の違いはどこにあると思いますか?
マイケル:それはやっぱり曲の力じゃない? 最初のほうでオアシスを引き合いに出したけど、リアム・ギャラガーの曲で、ほら……。
ブライアン:「Dont Look Back In Anger」?
マイケル:違うよ! なんでそっちいく?
ブライアン:あ、そっかリアム・ギャラガーか。「All Youre Dreaming Of」のこと?
マイケル:そう! 割と最近の……たしか4年前のクリスマス辺りに出た曲。今どきのレコーディング手法というか、間違いなくデジタルで録っていて、ひょっとしたらボーカルもチューニングでいじってるんだけど、真新しいところなんか何もなくて。それでも凄くいいんだよね。
ブライアン:あれは名曲ってやつだよ。
マイケル:僕のなかでは、ああいうのこそが本物なわけ。いろんなスタイルの音に着せ替えできるけど、あくまでも元になる曲の力によって成立してるというね。一人でギター片手に歌っても成り立つっていう。何だったらどんなに素人の下手な演奏だろうと、ビートルズの曲を聴くと「いいなあ」って思うもんね。
ブライアン:レナード・コーエンの最近の作品(2016年の『You Want It Darker』)に入ってる「Treaty」とかにも同じことを思った。あとボブ・ディランの最新作の何曲かにも。
マイケル:あと、モンキーズの「You Bring The Summer」とか。
ブライアン:アンディ・パートリッジ(XTC)の書いた曲ね。
マイケル:で、本題に戻って……ノスタルジックな音楽とタイムレスな音楽との違いは何なのか?
ブライアン:それこそが、まさしくレモン・ツイッグスの音楽だから(笑)。
マイケル:完全に聴く人の主観によるよね。その音楽を聴いてノスタルジックと取るのか、タイムレスと取るのかはその人次第だと思う。
ザ・レモン・ツイッグス
『A Dream Is All We Know』
発売中
日本盤ボーナス・トラック収録
詳細:https://bignothing.net/thelemontwigs.html
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