Tohji、初のアリーナライブでつくり上げたユースカルチャーの熱狂と爆発:時代を背負う覚悟と責任
Rolling Stone Japan / 2025年2月5日 17時0分
日本のユースカルチャーを代表するアーティストであるTohjiの初のアリーナライブが纏う空気感や匂い、手触り感を感じたくて開場の前の少し早い時間から会場である横浜のぴあアリーナMMへと向かうことにした。アリーナライブの前哨戦でもあった代々木第二体育館での新アルバムのリスニングパーティ「暗黒舞踏会」で味わった興奮と狂気から、このライブがこの時代の日本において持つ意味の大きさを確信し、ライブにおける多くの断面にできるだけ多く触れておきたいと感じたからだ。
2月2日の17時を回った頃。みなとみらいの交差点を渡ると、多くのファンが既に会場の外で列をなしており、当日券の引き換え所前のスペースでは数人の仲間とスピーカーで曲を流すグループがいたり、イヤホンを付けて集中力を高めている若者がいる。その場には爆発寸前のエネルギーや衝動が充満していて、これから起こる圧倒的な何かを予見させるヒリヒリとした緊張感が漂っていた。
暫く会場の外の同じ場所に立っていたが、オーディエンスの服装にも自然と目が行ってしまう。Mall BoyzやTohjiのロゴがプリントされたマーチをエッジィに着こなすグループもいれば、丈の短いトップスにバギーパンツのような極太のダメージの入ったボトムス、厚底のスニーカーをあわせるレイバーのようなセットアップをするユースも多く、ファッションだけをみると、ラップのコンサートというよりは、レイヴ・パーティに来たような感覚にもなり、改めてTohjiが体現するカルチャーのスケールとはラップミュージックといったジャンル以上のものであることを見てとることができた。
みんなのきもちらと共演し、グローバルに大きな話題を呼んだ2023年のBoiler Room以前から、Tohjiは「Platina Ade」や「u-ha」といったDIY精神の高いパーティをウェアハウスをはじめとする都市のさまざまな空間で作り出してきた。昨年チャーリーXCXの「Brat」が大ヒットし、「レイヴ」が時代の精神性として確立されるなか、Tohjiは東京を中心に日本で秘密結社的にその精神性を自分達のアプローチで体現するレイヴィなパーティを開催し、唯一無二のファンベースを広げてきた。だからこそ今回アリーナ規模の会場で何が起こるのかをとても楽しみに感じたし、その場で起きたこと、作り上げられた空気感こそが現在の日本のユースカルチャーの結晶になるという確かな予感があった。
Photo by yokoching
このアリーナライブは「でかい秘密結社」
ライブの開始は定刻から30分ほどの遅れに。Tohjiのオーディエンスが30分間行儀よくじっと待機しているはずがなく、アリーナのスタンディングの各ブロックはまるでお互いの熱量を競い合うようにTohjiの名前をシャウト。ついに暗転が起こると、場内は興奮のるつぼとなり、巨大スクリーンに映し出されるメッセージへのレスポンスが地鳴りのように続く。このアリーナライブは「でかい秘密結社だ」というTohjiの宣言と共に、舞台に設置された飛行機型の巨大オブジェクトが天井へ上がり、オールホワイトの衣装に身を包んだTohjiがセリから登場した。
昨年12月にリリースされた新曲「Tenkasu」からライブがスタートすると、リミッターを解除されたオーディエンスが爆発。圧巻のライブの幕開けとなった。同じくオールホワイトの衣装を着たLootaが現れると「KUUGA」セットが始まり、「Yodaka」へ。荒々しい吐息の音に続いて、まるで会場に隕石が落ちたかのようなベースの爆発音が炸裂すると、IMAXをこえる臨場感でTohjiとLootaのラップにのみ込まれる。「Iron Dick」「Oni」と続き、二人の交わりから生まれる圧倒的な世界観が構築されていく。
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花道を渡ってエンドステージの正面に立つと、4曲目にしてデビュー曲「Im a godzilla duh」。殺気立った視線と孤独な焦燥感が、オーディエンスの意識と集中力を完全に掌握。同じく初期のEP「9.97」に収録された「sugAA」と「mAntle fuck」を連続で披露すると、スタンディングでは、津波のようなモッシュが起こった。
「2020の時代前半の結晶をみんなと作る場所」という事前の宣言通り、デビュー初期の曲から「Oreo」「Agilo e Olio」、「ULTRA RARE」とMCを挟まずに、ノンストップで最大密度を出力。「Super Ocean Man」で、Tohjiが右手の拳を突き上げると、天井を突き破るかのような歓声がおき、大迫力のレーザー、スモークに、ステージの炎が上がる中をオーディエンスが踊り狂う。
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Mall Boyzセットに突入、kzmとElle Teresaも登場
再びスクリーンに3Dのビジュアルが映されると、砂漠の映像に「We Mall Boyz」の文字が。相方のgummyboyが登場し「My life」が始まると「Mall Boyz」セットがキックオフ。「mango run」「Mallin」とステージを走り飛び跳ねながら、会場をブチ上げる。gummyboyがの登場によって、Tohjiの殺気立った全能感と殺傷感に、叙情的な豊かさと安堵感が加わり、ステージにさらなる奥行きが生まれた。オーディエンスの感情が溶け出していく中、「Do u remember me」では「飛び跳ねろ」「ぶち上げろ」のリリックに応えるように観客がジャンプ。
gummyboyに代わって登場したのはkzm。「TEENAGE VIBE」ではkzmの疾走感のあるラップが場内の熱狂をさらに加速させ、Tohjiを追いかけるように、ステージから降り立つとアリーナのフロアを爆走。そして息をつく間も無く、大ヒット曲「Goku Vibes」へ。青紫のレーザーで会場を交差し、大合唱が起こる。大歓声と共にElle Teresaも登場すると、会場のバイブスは極みへ。「Goku Vibes」ではユーロビート調のRemixバージョンを連続でリピートし、オーディエンスは前半ロスタイムに残された体力を剥き出しの踊りで返上していく。
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「適当なフェスと一緒にすんなよ」
場内が再び暗くなり、少しの沈黙を挟んで、漆黒の衣装に着替えたTohjiが再び登場。そのオーラは暗黒界の帝王というような雰囲気だが、見方によっては戦国時代の武将のようでもあり、野盗や妖怪のようでもあるような不気味な殺気を放っていた。
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百戦錬磨のTohjiのファンでも少々戸惑ったのか、「Sapphire Timberlake」「聖闘士星矢」と未発表曲を披露し、再び「Tenkasu」へ向かうもそれまであったような熱量が生まれてこない。「やり直し」というオーディエンスへのメッセージを纏った3回目の「Tenkasu」がかかり、観客席はヒートアップ。
しかしここは秘密結社。オーディエンスが受け身の「お客さん」でいることは許されない。時代の空気をつくり、世界を変えるための仲間であるオーディエンスにTohjiは問いかける。
「これじゃレベル1だろ? レベル100出しに来たんじゃないの? 適当なフェスと一緒にすんなよこれ」
再び「Tenkasu」。Tohjiへのアンサーを示すように、助走をつけてモッシュに飛び込む光景がアリーナを埋め尽くし、尋常ではないエネルギーが生まれると、センターステージがせり上がり、巨大な塔が出現。上空から見下ろすように立つTohjiの振る舞いは、塔の頂上から爆発したオーディエンスを統率する秘密結社の王だった。
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時代を背負う覚悟と責任
「Phenomeno」、「カモメ」では、一転して脆さや振り返りたくなるような寂しさを繊細に表現。「会場にいる両親に捧げます」という言葉から始まった「M78(ma FD)」では静寂と感動が海のように広がり、「oh boy」や「on my own way」が続いた。
照明が落ち、スクリーンに映し出されたのは、キャリア初期にシェアハウスをしていた頃のTohjiやgummyboyの映像。河川敷やモールの風景、何者でも無かった頃のTohjiとgummyboyの日常は、そこにいた当事者ではなくても懐かしさを感じてしまうような情緒的な美しさがあった。再びgummyboyが登場して「Cool running」がスタートすると、デビュー初期の楽曲から構成されたファイナルセットがスタート。「nap」では、gokou kuytとwho28が花道からエネルギーを注入し、「flu」では待望のFuji Taitoが降臨。切れ味鋭いラップで会場を切り裂くと、なんと今日5回目となる「Tenkasu」へ。Fuji Taitoが参加したリミックスバージョン「Tenkasu remix」はFuji Taitoの唯一無二のバースが炸裂するアリーナライブのハイライトに。そして続くサプライズに釈迦坊主が登場し、Sleet Mageも加わった「Black Hole」。初期を象徴するアンセムである「Black Hole」に、会場のボルテージが再びマックスまでアガる。
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興奮と熱狂にアリーナが包まれるなか、次の曲が最後になることが告げられる。そして、Tohjiが口にしたのはジャンルやシーンをこえてこの時代を背負うことの責任と覚悟だった。
「ずっと街に自分の居場所がないなって感じてて。自分が音楽を始めたのは何となくそういう理由で。自分とか友達とかこんなに面白いのになんで街に居場所がないんだろう、みたいな。でもだったら俺らで作るしかなくない? 自分でやるしかない? パーティも音楽も自分たちでやればよくない?って。映像得意なやつが映像撮って、服得意なやつが服作って。そうやれば、俺らの居場所をこじ開けられなくない?みたいな。そういうやり方でこれまでやってきて、今日のショーで流れてた映像、CG、俺が着てた服とか全部これまで活動してきた中で出会ってきた友達たちが結集してみんなで作れて。今日自分がライブできたってことよりも、こういう大きい場所でやるって、みんなの居場所を作るきっかけになれたってことの方が俺は嬉しくて」
「でも、何となく自分が担うんだっていう自覚みたいなのが芽生えてきて。世代みたいなものを。なんか気づいたら甲子園球児が年下になるみたいに、気づいたら政治家もコンビニの店員も役所の人も、クラブの人もみんな年下になってくのかなって。じゃあその時誰が回すのって? それ俺らじゃん。そういうパワーがあるみんなだから。だからこそこういう大きい場所でやれて嬉しいです。みんな最後に力貸してください」
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神格化するのではなく、新しいカルチャーを共に創り上げる
新時代の幕開けを告げたライブのラストは超名曲「Higher」。「しゃがんで、しゃがんで」と会場にいる観客全員を座らせると、圧縮したエネルギーを一気に爆発させるようにサビで一斉にジャンプ。「誰も見たことのない景色だけを見る」「成し遂げて死ぬ」と、ラストを締めくくる大合唱が起こり、Tohjiはステージを去った。
最後に今回のアリーナライブの映画化の決定と今夏のZeppツアーの開催がサプライズ発表され、ライブは幕を閉じた。映画化されるこの日のライブが、日本のユースカルチャーの歴史に刻まれる出来事として、これから始まる新しい時代の出発点として位置付けられることは間違いない。Tohjiのアート表現は世の中で消費される「わかりやすい音楽」では決してないが、妥協のない表現でアリーナに異次元の熱狂を生み出した。
現代は「バイブス」の時代だ。政治も選挙も「雰囲気」や「テクスチャ」で決まり、アートやカルチャーはオンライン空間を漂うミームとして消費される。しかし、表層的なバイブスや流れる空気感、それっぽい正解の雰囲気に自分を合わせにいくことは、自分の美学やスタイル、信念を見失ってしまうリスクでもある。だからこそ、自分のアートに妥協せず美意識を貫き、現実を変えていくための仲間としてオーディエンスと向きあってきたTohjiが、アリーナの規模で若いオーディエンスを熱狂させたことは、日本のカルチャーシーンと今の時代にとっての絶対的な希望であり、何かに抗おうと闘う全ての表現者やアーティスト、はみ出し者たちを強く勇気づける出来事となったに違いない。レイブやアンダーグラウンドのパーティから始まり、今回アリーナ全体を熱狂させたように、Tohjiなら時代を背負い、都市や国、世界といった大きな次元で、目の前の現実を変えていく場所をつくっていくことができるのではないかと思う。
アーティストを一方的に神格化し、盲信するファンダム的なコミュニティをTohjiは突き放す。リスナーとアーティストの関係ではなく、同じカルチャーをつくる仲間として信念と美学を持つこと。世界を変えていくために、それぞれの持ち場でできること、果たすべき役割がある。この妥協なき踏み込みの一歩が、現実の世界を変えていく。新たな時代は、2月2日のぴあアリーナMMから始まったと振り返られる時が、必ず来る。
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