安全神話の「誤解」を教訓に 南海トラフ地震に「日常から備えを」 京大防災研・矢守教授
産経ニュース / 2025年1月17日 7時30分
甚大な被害をもたらした阪神大震災の発生から17日で30年。われわれは震災から何を教訓とし、発生が懸念される南海トラフ地震などにどう備えるべきか。京都大学防災研究所(京都府宇治市)の矢守克也教授に話を聞いた。
--阪神大震災で気付かされたことは
「一つは安全神話の崩壊だ。何千人もの人が亡くなる災害が日本で起きること、そして今後いつ起きても不思議ではないということを認識した。
日本では先の大戦後、約5千人の死者、行方不明者を出した昭和34年の伊勢湾台風以降、防災対策が進み、平成7年の阪神大震災まで毎年平均200~300人程度になっていた。運が良かっただけなのに、私たちは安全が必然だと誤解してしまった。その状態で発生したのが阪神淡路大震災だった」
--大震災はどのような教訓をもたらした
「高速道路の倒壊に象徴されるように、まずハードウエアへの信頼が崩れた。さらに、各地で発生した火災を止められず完璧だと思われていた防災体制が脆弱(ぜいじゃく)だったことに気付かされた。避難所環境が過酷なこと、自治体と自衛隊、国との連携がうまくいかなかったこと、それに対応してボランティアが活躍したこと、全てが教訓になっている」
--教訓は生かされたか
「ハード面では耐震基準の強化や地震観測網の充実など改善されてきた。ソフト面でも被災者の生活再建を促す法律や、これから起こるかもしれない災害への対策を推進する法律も充実した。人と防災未来センターのような研究・啓発の基地ができるなど防災教育も充実している」
--今後懸念される地震は
「一つは南海トラフ地震のような海溝型の地震で、東日本大震災のような大きい津波をもたらす。もう一つは、阪神大震災のように、日本列島の陸地の真下にある活断層が起こす地震で、地表の真下のすぐ近いところで起こるので大きな被害をもたらす」
--どう備えるべきか
「地震対策としてまず家屋を丈夫にすること。津波については、強くて長い揺れがあったら避難することを意識してほしい。東日本大震災を教訓にだいぶ浸透してきているはずだ。津波に限らず、風水害でも『これがあったら避難しよう』という、避難のきっかけとする『避難スイッチ』を意識してほしい」
--日常の生活面では
「日常の暮らしと防災を一体化させて備える『生活防災』を呼び掛けている。省エネ対策で太陽光パネルを付ける際に防災用の蓄電池を加えたりすることを検討してみてはいかがだろうか」
--避難に向けた備えは
「最近特に重視しているのが健康面だ。自分でご飯を食べて歩けるという日常の健康が、そのまま津波発生時に避難所まで逃げる際の防災対策になる。『動ける体が一番の防災グッズ』とのキャッチフレーズで高齢者を対象にした健康体操教室を行うなどしている」
--今年1月と昨年8月の南海トラフ地震臨時情報では、日ごろの備えの大切さに気付かされた
「臨時情報の認知度が上がったことはプラス面だ。ただ、やはり準備不足だ。次に出たときに何をして何をしないのか、シミュレーションすることが大切だ。今回の臨時情報は空振りではなく、本番に備えた素振りだと受け止めてほしい。何の前触れもなく地震に遭うより、少しでも怪しいサインがあったときに改めて備えを見直す機会としてほしい」(聞き手 秋山紀浩)
やもり・かつや 防災庁設置準備アドバイザー会議専門委員。日本災害復興学会理事。「防災気象情報に関する検討会」座長。著書に「避難学『逃げる』ための人間科学」(東京大学出版会)、「防災心理学入門」(ナカニシヤ出版)など。
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