自責の念今も…阪神大震災30年 介護福祉士の女性、犠牲の母と面影重ね高齢者介助に尽力
産経ニュース / 2025年1月13日 18時55分
「30年が経とうと母を亡くした悲しみは変わらない」。平成7年の阪神大震災で母の藤井あい子さん=当時(83)=を亡くした神戸市東灘区の寺内和子さん(76)は震災後、40代後半で介護の道へ進み、現在は在宅者向けの介護福祉士として働く。母に何もしてあげられなかった自責の念は今も癒えず、介護を担当する高齢者に母の面影を重ね、ともに過ごせなかった時間と向き合う。
30年前の1月17日早朝、突き上げるような強い揺れで目を覚ました。倒れてきた棚に額をぶつけて切り傷を負ったが、自宅にいた夫や子供は無事を確認した。近所の実家で1人暮らしの母が気にかかり、実家へ駆け付けた。
母がいつも寝ていた1階部分は無残につぶれていた。近所の人らと一緒に捜すと、がれきの下から素足が見えた。「あったかい」と思わず叫んだ。地震の約1時間、助け出したあい子さんにはまだ息があった。
車の後部座席に母を寝かせ、頭は膝の上に載せて病院へ向かった。苦しそうにうめく母に「おかあちゃん、おかあちゃん」と声をかけ続けた。「母は何かを話そうとしたが、疲れてはいけないので『後でゆっくり聞くから』と遮ってしまった。助かったと思い込み、また後で話ができると思っていた」と振り返る。だが、病院で息を引き取った。圧死だった。
子供のころは「いつも寝るとき、手をつないでくれた」というあい子さん。着物好きで和裁が得意だった。母の影響もあって裁縫を習い、縫い上げた洋服を見せると、少しのミスでも「やり直し」とぴしゃりと指摘する厳しい一面もあった。でも、家事や子育てに悩むたびに親身に話を聞いてくれた。大切な、大好きな母だった。
ただ、突然の死で看病すらできなかった。せめて母と同じ年代の高齢者に尽くしたいと、震災後の平成10年ごろ、介護ヘルパーの仕事に就き、29年には介護福祉士の資格も取った。現在も高齢者や障害者の自宅を訪問し、入浴の介助以外の食事や寝返りの補助などに汗を流す。
20年以上の介護の仕事を通じ「すてきな人たちに巡り会えた」と振り返る。担当した中には「旅行に一緒に行くなど、家族同然と思っている」ほどの高齢者もいて、母を失った心を支えてくれた。
あの日から丸30年となる1月17日は、神戸市中央区の東遊園地で行われる「追悼行事」に参加し、大切な母と一人
で向き合う時間を過ごす。母の形見という海外製の腕時計をつけ、母にこう語り掛けるつもりだ。
「生まれ変われるのなら、また母のもとに生まれたいです」(西浦健登)
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