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能登支援へ「チャリティー小説」出版 人気作家10人が集結、「長く力になれたら」

産経ニュース / 2025年2月5日 7時0分

『あえのがたり』の表紙

昨年1月に起きた能登半島地震の復興支援につなげようと、人気作家10人によるチャリティー短編小説集『あえのがたり』(講談社、2200円)が先月刊行された。発起人となったアイドルグループ「NEWS」のメンバーで作家の加藤シゲアキさん(37)は、小学1年で阪神大震災を経験。加藤さんは「本は電気がなくても楽しめる娯楽。書籍という形で長く被災地の力になれたら」と語る。

残念会きっかけに

能登半島地震が発生した昨年の元日は、加藤さんにとって2度目のノミネートとなった直木賞の選考会を控えた時期だった。もともと数年前から「地方の書店を盛り上げたい」との思いを抱いていたが、阪神大震災で支援を受けた人間として、「小説で被災地を盛り上げたり、支えたりすることはできないか」と考え始めたという。

あいにく直木賞は落選となったが、選考会当日の「残念会」に作家仲間の小川哲さん(38)と今村翔吾さん(40)が駆けつけ、能登支援への思いを打ち明けた。「本を求める人もいるだろうが、たくさんの書籍を被災地に送るのは、場合によってはとても迷惑なことになる」。3人で相談し、印税相当額と売り上げの一部を寄付するチャリティー小説の発売という形での支援を決めた。

おもてなしテーマ

短編集のタイトルとなった「あえの」は、能登地方に伝わる田の神様へ感謝をささげる伝統儀礼「あえのこと」から採った。「あえ」は「おもてなし」、「こと」は「祭り」を意味するという。

「バラエティーに富んでいた方がいい」と声をかけたのは、エンタメ系小説で活躍する同世代の作家たち。朝井リョウさん(35)ら7人が新たに加わり、「小説でのおもてなし」というテーマで、10人の人気作家たちがそれぞれの考えを巡らせた。

昨年8月下旬に実際に能登半島を訪れた加藤さんは、海底が隆起した輪島港を見て言葉を失った。「想像以上に被害が大きく、打ちのめされる部分もあった。復興には時間がかかるというのを身をもって実感した」という。

「能登の現状をどれだけ直接書いていいのか。書くことで傷つく人もいるかもしれない」。葛藤しながらも、短編集に寄せた「そこをみあげる」では、震災による座礁で新艇の漁船が壊れた漁師の姿を描いた。加藤さんは「発起人の僕が一番真正面から書くべきだろうと感じて。実際に起きた震災から、未来を描く形にした」と振り返る。

民話を語り直して

歴史小説家の今村さんは、中能登町に伝わる民話「夢見の太郎」を題材に選び、飢饉から民衆を救う男の話として語り直した。

「僕は災害の多いこの国で、歴史小説を主戦場にしている。だから能登のものをお借りして、お返しするのがいいだろうなと。今回の地震も歴史になって、未来につながるのではという願いを込めて書いた」

作家デビュー前は、ダンスのインストラクターとして毎年能登半島を訪れ、地域のお祭りにも参加していた今村さん。震災から1年がたち、能登半島のニュースが減りつつある現状を憂えている。「四六時中ずっと能登のことを思うのは難しいが、忘れずにいることは誰でもできる。50年、100年たってもこの本が残っていけば」と願う。

「買って読んで…」

一方で、おもてなしというテーマに「苦労した」と率直に吐露した作家も。重厚な歴史SF小説などで知られる小川さんは「僕はひねくれた性格の持ち主。誰かをもてなすとか、誰かに手を差し伸べるタイプの作品をあまり書いたことがなかった」と振り返る。

小川さんの「エデンの東」は、チャリティー企画の小説執筆に苦悩する小説家の姿を通して、「読者へのおもてなしとは何か」を考える異色の内容だ。

小川さんは「チャリティー小説だからこそ、チャレンジングな作品になった」とした上で、「本を買うことも支援だし、本を読んで能登を考えることも支援になる。一冊でいろんな形の支援ができるんじゃないか」と呼びかけた。(村嶋和樹)

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