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若者たちの思考とざわめき 『その音は泡の音』 <聞きたい。>平沢逸さん(作家)

産経ニュース / 2024年5月5日 10時20分

『その音は泡の音』平沢逸著

『その音は泡の音』平沢逸著(講談社・1870円)

群像新人文学賞を受けて世に出たのが一昨年のこと。2作目となる本書では、夏合宿のために東北地方へ向かうお笑いサークルの大学生たちの10日間を描く。自身が大学時代に所属していたお笑いサークルでの実体験も注ぎ込まれているという。

「僕は基本的に書きたいテーマやメッセージというのが全くない作家。でも、この話は、自分の体験を踏まえて書きたいなあ、と。やっぱり思い出深いし、当時の友人たちに向けて書きたい気持ちがあったんです」

レンタカーに乗り込んだ大学3年生の浅倉とミミ、運転を担当する2年生の三井、1年生のユカリと杉崎。個性的な男女5人は車中でくだらない会話を重ねては笑う。お笑いサークルらしく、上級生たちは、新入生に対して手の込んだ抱腹もののドッキリを仕掛ける。そして、道中の高齢者施設では時代劇風のコントを披露し、もらった報酬を気前よく散財する。

視点人物はたびたび変わり、時には50年以上も先の場面も挿入される。虚実を取り交ぜた逸話の数々と丁寧な自然描写によってすくい上げられるのは、泡のようにはかないけれど、過去の一点には確かに存在した若者たちの思考や感情のざわめきだ。読んでいると、降り積もった時間の厚み、記憶のいとおしさに思いが至る。

「社会に対して何かしら問題提起するというよりも、すぐに忘れてしまうような、なんていうことのない記憶や時間を書きたい。いい音楽を聴いているときって、そこに固有の時間が流れている気がしますよね。それを小説の中でも再現できたら」

漫画喫茶などでのアルバイトをこなしつつ、毎日3時間ほどを創作に充てる。執筆に使うのはスマートフォン。「(画面が小さい)スマホだと原稿の全体を見渡せないから、目の前の文章だけを考えられる。日常の連続で書ける感じがいい」

そう言って笑いながら、理数系出身らしい一面ものぞかせる。「数学や量子物理学といった原理的な学問に結構興味がある。この世界に対する理解を深めるために小説を書いている気がする」

(海老沢類)

ひらさわ・いつ 作家。平成6年、東京都生まれ。早稲田大基幹理工学部数学科卒。令和4年に『点滅するものの革命』で第65回群像新人文学賞を受けてデビュー。

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