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原発事故に翻弄された「震災ポニー」 たどりついた安住の地で〝育ての親〟と過ごす日々

産経ニュース / 2024年4月21日 8時0分

満開のサクラの下で、大好きなリンゴをもらって上機嫌のミント=仙台市泉区(菊池昭光撮影)

仙台市北部にある小さな牧場、このはな牧場。手作りの白い囲い越しに数頭の小さなポニーが子供たちと遊んでいる。そのなかにサラブレッドと見間違えるほど体格のいいポニーがいる。メスの「ミント」。32歳は人間でいえば90歳を超えるが、毛艶もよく若々しい。ただ、その半生は東京電力福島第1原発事故に翻弄された。数奇な出会いをへた老馬は、ようやく安住の地にたどりついた。

ミントが生まれたのは平成4年4月。ポニーと触れ合いながら子供たちを育む公益財団法人「ハーモニィセンター」(本部・東京)の福島県南相馬市にある牧場で生まれた。ミントの調教を初めて担当したのが、このはな牧場を昨年8月に開場した原田晃さん(56)だった。

埼玉県出身の原田さんは専門学校を卒業し、昭和63年にハーモニィセンターに就職。東京・葛飾のポニーセンターに3年間勤務した後、南相馬市の牧場に異動になった。

ポニーは肩までの高さが147センチ以下の馬の総称。オーストラリア出身の両親を持つミントは、「オーストラリアンポニー」と呼ばれ、胴長短足ではない身体が大きいタイプだ。「ビビりで臆病だったが、優秀な血統」(原田さん)。すぐに上級の乗馬技術を持つ子供たちも納得するほど成長していった。

原発事故で各地に避難

ミントと南相馬市で暮らして20年が過ぎようとしていた平成23年3月11日、東日本大震災が起きた。牧場は福島第1原発から北に38キロの距離で、妻と2人の子供と一緒に暮らしていた。避難指示区域ではなかったが、家族が目に見えない恐怖にさらされ、当時牧場で飼われていた26頭の馬たちも気がかりだった。

本部からの指令を待っていたが、12日にはパソコンも携帯電話も通じなくなり、情報から遮断された。5キロ圏内に避難指示が出たことまでは知っていたが、近所の知人は「広がってくる。やばいぞ」と教えてくれた。

家族や仲間のことを考えて避難を決意。馬をすべて放牧場に出してエサをあるだけ放り込んだ。沢が流れていたので飲み水は大丈夫だったが、「よっぽどエサがなくなったら、囲いを破って山に逃げてくれ」と祈った。馬のことを考えすぎて体調を崩しそうになりながら、3月12日夜に仲間や家族とマイクロバスで立ち、13日未明に埼玉県の実家に戻った。

馬のことが心配ですぐに南相馬に戻ろうとしたが、本部は事故の影響を考えて決断できなかった。その後、本部から「荷物を南相馬に運んだ後、何かあったら馬を関東に避難させる」と指示があり、エサや燃料を馬運車3台に詰め込み、15日夜に福島に出発した。

ところが、福島第1原発の水素爆発で状況は一変。急遽(きゅうきょ)、17頭しか乗れない3台の馬運車に26頭を無理に乗せて16日午後3時、南相馬から東京へ向かった。「馬にも相性があるので、けり合いを始めないように仲間がうまく乗せてくれた」。馬たちは、茨城と東京・葛飾、相模原、長野・蓼科に分散して事なきを得た。ミントは葛飾に落ち着いた後、平成28年ごろに茨城・小貝川の牧場に預けられた。

ミントを「看取ってあげたかった」

原田さんは12年でハーモニィセンターを辞め、別の仕事に就いていた。ミントのことを忘れたことはなかった。知人から「仙台市で新しい牧場を作りたい」と誘われ、令和4年7月に運営会社に入社。体力の不安はあったが、「もう一度やってみたい。動物の気持ちを考え、人を思いやる子供たちを育てたい」という気持ちがまさり、同時にミントを牧場に連れてきた。

「馬は犬よりも鼻が利くといわれますが、私のことを覚えていますかね。わかってはほしいですけど」

ミントは年はとったものの、落ち着いたベテランになっていた。子供がいきなり飛び乗っても動じない。動物愛護は大切だが、馬は経済動物。お金を稼げなくなれば、処分の対象にもなりえる。

「看取ってあげたかったんです」。知ってか知らずか、ミントは原田さんに甘えるしぐさを見せた。(菊池昭光)

このはな牧場は、1口1万円(年額)でサポーターを募集している。いつでも、牧場内で乗馬やにわとりとの触れ合いを楽しむことができる。

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