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激増する「カスハラ」 理不尽に屈しない対策を 堀内恭彦の一筆両断

産経ニュース / 2024年6月11日 8時30分

堀内恭彦氏

先日、函館市内の郵便局で59歳の男が職員に暴行を加えたとして現行犯逮捕された。男は「新人職員の対応が悪い」と激高して怒鳴り散らすなどの行為を繰り返し、止めに入った職員の胸を数回押すなどしたということである。

この事件のように、企業や従業員が客から理不尽な要求や言動を浴びせかけられる「カスタマーハラスメント」(カスハラ)が後を絶たず、大きな社会問題となっている。

パワハラ・セクハラと異なり、カスハラにはまだ法律上の定義はないが、厚生労働省の「対策マニュアル」では「顧客等からのクレーム・言動のうち、クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されている。従業員を怒鳴りつける、侮辱的な言葉を浴びせる、土下座を強要する、ミスのおわびに商品を無料で提供せよと要求する、SNSにさらす、などである。過度なカスハラは、脅迫、強要、侮辱、名誉棄損(きそん)、威力業務妨害、暴行、傷害、軽犯罪法違反(侮辱的な言動の禁止)などの犯罪に該当する。

厚労省の実態調査によると、過去3年間で従業員からカスハラの相談があった企業は27・9%で、前回調査よりも大幅に増加。業種別では「医療、福祉」、「宿泊業、飲食サービス業」など客との接触が多い仕事で発生率が高い傾向にある。

政府与党はカスハラの定義の明確化、従業員からの相談体制の構築など必要な対策を企業側に義務付ける法整備の検討に入った。東京都も、全国に先駆けてカスハラ防止条例の制定を進めており、店舗だけでなく役所窓口など公的サービスも対象として、今年度内に条例案を提出することを目指している。福岡県でも、「職員マニュアル」を作成して4月から運用している。窓口でカスハラを行う住民には退去を命じるなど、組織的対応を行うことが明記されている。

民間もカスハラ対策に本腰を入れ始めた。JR西日本は「従業員を守るために毅然(きぜん)とした対応を行う」として厳しく対応する方針を打ち出した。暴言、土下座の強要などに対してはサービス提供の中止や乗車拒否も辞さない構えだ。

また、カスハラ対策の一環として、名札の表記を見直す企業が増えた。大手コンビニ各社では顔写真が入っていない名札に変更する、イニシャルなど本名以外の名前を表記するなど、悪質な客から従業員のプライバシーを保護しようという動きが広がっている。

企業や経営者は、カスハラの激増という現状を直視し、早急に対策を打ち出さなくてはならない。カスハラ対策を怠ると、従業員のモチベーションは下がり、離職者や休職者が相次ぐなど、生産性への悪影響は避けられない。また、カスハラを拒絶できず、従業員を大事にしない企業という評判が広がると、社会的評価は低下する。若者の就職先に選ばれず、人材確保が難しくなる。

カスハラ対策・クレーム対策では何よりも「連携・協力」がポイントだ。人間一人ひとりは「弱い存在」であり、誰でもクレーマーは怖い、大声を出されればパニックになるのは当たり前である。だからこそ、従業員や担当者を孤立させずに、手をつなぐことが大切である。理不尽なカスハラに屈することのないよう、現場での対策と法整備を進めていかなくてはならない。

堀内恭彦(ほりうち・やすひこ) 弁護士。昭和40年、福岡市生まれ。福岡県立修猷館高校、九州大学法学部卒。弁護士法人堀内恭彦法律事務所代表。企業法務を中心に民事介入暴力対策、不当要求対策、企業防衛に詳しい。九州弁護士会連合会民事介入暴力対策委員会委員長などを歴任。九州ラグビーフットボール協会理事(スポーツ・インテグリティ担当)、九州大学ラグビー部監督。

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