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秋の味覚サンマ「安くて当然は時代遅れ」 今季の漁〝活況〟も資源減少で先行き不透明

産経ニュース / 2024年10月26日 11時35分

秋の味覚・サンマの漁獲が今年、やや活況を呈している。ただ、シーズンを通じて最終的には「不漁」が見込まれ、店頭価格も「1匹100円」といった往時の安さはない。環境の変化もあって近年は資源が減少し、先行きが見通せない日本のサンマ漁。識者からは「安くて当然は時代遅れ」とし、資源保護への意識を高めるべきだとの指摘も上がる。

「痩せて(小さく)て高いわ。昔はこんなことなかった。今年は安いって聞いてたけど」。大阪市浪速区のスーパーで、パック詰めのサンマを手にした女性(69)はため息をついた。

総務省の小売物価統計調査によると、大阪市内で販売されるサンマ100グラムの店頭価格は、2015(平成27)年9月に111円だったが、徐々に上昇。昨年9月は212円、今年9月も203円と高止まりの状態だ。

それでも水揚げは昨年を大きく上回る。漁業情報サービスセンター(東京)によると、8月の解禁から10月10日までの全国の漁獲量は約1万6800トンで、前年(約7600トン)の2倍超。「今はまだ旬で、値崩れが起きていない」(漁業関係者)が、1匹150円ほどで販売されているケースもある。

一方で、サンマの分布量を調査する国立研究開発法人水産研究・教育機構(横浜市)は、今季の見通しについて「サンマの来遊は減っていき、水揚げ総量は例年並みの低水準になる」と予測する。

日本のサンマ漁獲量は右肩下がりだ。近年のピークは2008(平成20)年の35万4727トン。昨年は2万5800トンで、2013年に世界1位となった台湾、2012年に公海で漁を始めた中国の後塵(こうじん)を拝する。

日本の食卓にサンマが届きにくい理由は複合的だが、サンマ自体が減少した影響が大きい。同機構によると、北太平洋の分布量は2003(平成15)年に604億匹(597万トン)だったが、今年は280億匹(145万トン)まで減っている。

さらに日本を追い詰めるのが「沖合化」だ。2010(平成22)年以降の海流変化でサンマが道東、三陸、常磐(じょうばん)沖の漁場に寄り付かなくなった。冷水を好むサンマが暖水塊を回避▽餌の動物プランクトンが減少-といった理由が考えられ、漁場を沖合に移さざるを得なくなっている。

資源管理の強化も進む。今年4月の国際会議で決められた今年のサンマの総漁獲枠は加盟国全体で22万5千トン。日本の漁獲枠は前年比6%減の11万911トンで過去最少だ。全国さんま棒受網漁業協同組合(東京)の担当者は「今年の漁も昨年までの大不漁に少し回復の兆しが見える程度」とし、「資源自体が多くない。この調子が続く保証はない」と話した。

世界で進む魚食、日本は魚離れ

日本の漁業・養殖業生産量は1984(昭和59)年の1282万トンをピークに衰退傾向にある。世界的に魚食が進む中、日本の生産量は2022(令和4)年に392万トンにまで落ち込み、日本人の魚離れも進む。

水産庁が発表した22年の世界の漁業・養殖業生産量は2億2322万トン。各国が生産量を伸ばす中、トップは人口14億人を抱える中国だ。生産量8857万トンのうち内水(淡水魚など)が主流の養殖業が7539万トンを占めるが、漁業も1318万トンにのぼる。

日本の漁業が試練を迎えたのは1980年代。世界各国が沿岸200カイリ(約370キロ)の水域で漁や資源開発の権利を有する排他的経済水域(EEZ)を設定したからだ。戦後の食糧難を救った遠洋漁業は、外国の漁場で操業できなくなったことで縮小していった。

すしネタなどとして日本を中心に乱獲が進んだクロマグロは、2015年に国際的な漁業規制枠が導入。クジラは19(令和元)年に商業捕鯨が再開されたが、国内消費の回復には至っていない。

和食を求める訪日外国人の増加や健康ブームで魚のニーズは一部で高まる。だが、国内の1人当たりの魚介類消費量(粗食料ベース)も1980(昭和55)年度の65・5キロから、2020(令和2)年度には41・9キロと4割近く減少している。

安さ求める日本の消費者も意識改変を

勝川俊雄・東京海洋大准教授(水産資源管理)

サンマはカツオと並び季節性が残っている日本人に愛着が深い魚だ。回遊性でタイミングやルートは人間がコントロールできない。人間の側が、サンマの都合に合わせる必要がある。

近年、サンマの繁殖力が低下し、資源が減少している。その原因は特定できていないが、日本を含む漁業国の影響は無視できない。早急に、国際的な枠組みで漁獲にブレーキをかける仕組みを整備して、さらに資源を減らすことがないようにしなくてはいけない。

加えて、消費者の意識改変も不可欠である。「安いが正義」「値上げをしたら買わない」というような発想では、漁業の採算がとれず、サンマの食文化が廃れていくだろう。これからもサンマを食べ続けるには、規制のもとで漁獲されたサンマを適正価格で購入する必要がある。日本がサンマの未来とどう向き合っていくかが問われている。(五十嵐一、秋山紀浩)

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