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「汚名浴びせる道具への悪用防いで」NHKに軍艦島映像で訴え 元島民の中村陽一さん 

産経ニュース / 2025年1月11日 12時0分

1955年に撮影されたNHK番組「緑なき島」の坑内とされる映像を用いて、戦時中の朝鮮人労働者への非人道的待遇を指摘する韓国テレビ局の番組映像

NHKが長崎市の端島炭坑(通称・軍艦島)を巡る番組「緑なき島」について端島炭坑内の映像であるという確認が得られないと昨年12月に東京簡裁の調停で認めたことを受け、元島民らの「真実の歴史を追求する端島島民の会」(島民の会)が9日に東京都内で開いた記者会見。同会がNHKに初めて抗議した2020年11月以降、80代、90代の仲間を鼓舞した幹事長の中村陽一さん(86)は声を詰まらせながら、故郷が不当に貶められた現状に悔しさをにじませた。発言要旨は以下の通り。

朝鮮半島出身者も「一島一家」

軍艦島は15年7月の世界文化遺産登録を期すと韓国に(戦時中に朝鮮半島出身者が強制的に働かされたとして)「地獄島」「監獄島」「強制労働の島」「虐待の島」などと激しいバッシングを受けた。端島と紹介された映像、誹謗(ひぼう)中傷は端島の日常、生活実態とかけ離れており私たち島民は胸を痛めた。これらの映像や誹謗中傷に近い言葉の数々は、そこで暮らした島民、祖先の誇り、尊厳を傷つけるものだった。

黙ってみているわけにはいかない。意を決して17年1月、島民の会を立ち上げた。端島での暮らし、産業活動を後世に正しく伝承すること、自ら体験し史料に基づいて正確に国内外に発信することを目的にしている。現在の会員数は69人。皆さん高齢で(設立当時から)17人が亡くなった。

時間との勝負だ。戦時中の端島は「一島一家(いっとういっか)」、苦楽を共にした。島で暮らした朝鮮半島出身者も同じだと聞く。戦時中、端島炭坑で働いた先輩方は強制労働や虐待は見たことも聞いたこともないと言っている。

島民の会の松本栄・名誉会長(96)は病床のため、今日は来られなかった。彼は戦争中、端島坑内で働いた経験がある。病床から絶えず、われわれに激を飛ばして支えてくれる。

加地英夫さん(享年92)は熱心に会を引っ張ったが、昨年11月18日、調停成立のちょっと前に他界した。無念だったろう。遺影での参加だが、この場を天国から見つめ、「まだ最初の一歩だ。あとは任せた。がんばれ」と励ましてくれている。

「坑内の映像じゃなかばい」

NHKは「緑なき島」を1955年に端島炭坑の実際の坑内を撮影した映像としてテレビ放送した。当時、端島にまだテレビはなく、この時の放送を端島で見た人はいない。多くの島民は世界遺産に登録された後、映像を見た。「これ、坑内の映像じゃなかばい」と怒りの声をあげた。

2020年11月20日付で、NHKに対して抗議書兼要求書を送付した。

韓国の団体やテレビ番組が、戦前の端島炭坑で朝鮮半島出身者に過酷な労働を強いた証拠として使っていることに怒り、二重に苦しんだ。NHKに強く抗議し、四つの項目を要求した。

一つ目はこうなった経緯や原因を調査し、調査結果の公表を。二つ目は世界に向けて徹底した訂正報道を。三つ目は(緑なき島の映像が展示された)釜山・国立日帝強制動員歴史館など韓国で映像を保有している者から当該映像の回収を。四つ目は端島で生活した元島民やその遺族に謝罪を─

抗議から4カ月後、NHKは15年11月に開始した「緑なき島」のDVD販売をやめた。しかし、何回抗議しても、四項目の要求は応じなかった。

かすかな期待を持って放送倫理・番組向上機構(BPO)に苦情を申し立てたが、退けられた。

交渉しても埒はあかない。昨年1月、元島民らで申立人を9人立て、東京簡易裁判所に調停を申し立てた。

「長々と付き合う余裕はない」

調停締結した内容は満足できるようなものではない。不満が残っている。でも、NHKが端島炭坑の映像ではなかったと認めたので、調停締結に応じた。

島民の会は皆、超高齢者で長々とNHKに付き合っていく時間の余裕はない。残された時間は多くない。

本来はNHKがDVD販売をやめたとき、端島の実際の坑内でないことを認めてくれれば、解決することができたはずだ。

抗議文を送って、調停で解決するまで4年もかかった。長々と解決を引き延ばし、われわれが死に絶えるのを待っているようなことは考えたくない。

「おかしな要求をしているか」

NHKは端島炭坑が世界文化遺産に登録された後、(DVD発売に合わせて)60年前に製作された「緑なき島」の坑内映像を慎重にチェックすべきだった。坑内映像の正確性を慎重に確認しなかったことはNHKのミスだ。

端島は「虐待」や「虐殺」という虚構の汚名を世界中から浴びさせられた。

「つらい思いさせて申し訳なかった」「調停成立まで4年もかかって申し訳なかった」と謝罪するのは当然だろう。島民の会はお金など一度も要求していない。ただただ謝罪を要求しただけだ。何かおかしなことを要求しているだろうか。

NHKは世界に支局を持ち、調査力と発信力のある日本最大の報道機関だ。日本人の大半はNHKを信用している。「緑なき島」の坑内映像が悪用されている実態を調査し、悪用を是正するような検証番組を制作できるはずだ。ぜひ制作してもらいたい。われわれも協力する。

今回の調停成立は一里塚だ。NHKは「緑なき島」を終わったものとして扱うのではなく、坑内映像が端島に汚名を浴びせる道具として悪用されることを防ぐべきだとわかってほしい。

NHKはわれわれの謝罪要求を拒否した。残念だ。NHKは国民にも謝罪すべきだ。プロパガンダに翻弄され、国民の名誉も毀損(きそん)されている。

島民の会として海外における端島に対するいわれなき中傷をはね返し、端島の真実と暮らしや海底1000メートルの深さで石炭を掘り、日本の戦後の復興を支え、力強い産業化の歩みを伝えていくために、残り少ない人生をかけて行動していく。(奥原慎平)

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