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犠牲者の分まで「社会に役立つ」 福知山線脱線事故19年、負傷乗り越え弱者に寄り添う弁護士に

産経ニュース / 2024年4月24日 18時47分

兵庫県尼崎市で平成17年4月、乗客106人と乗員が死亡し、562人が重軽傷を負ったJR福知山線脱線事故は、25日で発生から19年となる。当時同志社大4年で3両目に乗車していた弁護士、藤原正人さん(40)=兵庫県伊丹市=は、自らも負傷した事故によって法曹の道に進む決意を固めた。幸運にも生かされたことに感謝し、法律家として、事故の被害者として、弱者に寄り添った活動を続ける。

あの日、司法試験を目前に控えていた藤原さんは、予備校に向かうため3両目に乗っていた。

ドアにもたれかかり、参考書を読んでいた。電車の速度が速いと感じ揺れも大きかったが、特段気に留めるほどでもなかった。突然、大きな揺れに襲われ、大きく跳ね上がった2両目の車両が目に入った。ほぼ満員だった車内に「ギャー」という大きな悲鳴が響き渡り、前後左右も認識できない。乗客同士がかき混ぜられ、まるで「人間洗濯機」のような状態だった。死を覚悟した。

2両目が線路脇のマンションに直撃し、そこに藤原さんのいた3両目が衝突した。車内では乗客が折り重なって倒れ、藤原さんは左足が別の乗客に挟まれ動けなかった。視線を上げると、顔中が血まみれの女性がいた。悲鳴がこだまする中、誰かが「爆発する」と叫んだ。慌てて挟まれた足を引き抜いて脱出した。

だが、司法試験用の教材などが入ったかばんを忘れたことに気づき、取りに戻った。3両目に入ろうとした直前、大破した車内から偶然、自分のかばんが足元に落ちてきた。当時、同級生らが就職を決めて最後の学生生活を楽しむ姿を尻目に、自身は勉強漬けの日々。弁護士の道を志すことに迷いもあったが、かばんも無事戻ったことで固く決意した。「自分は生きている。頑張ろう」

事故で全身打撲や左足の内出血などのけがをしたが、翌日から予備校へ通った。その年の司法試験は合格できなかったが、その後、法科大学院を経て平成20年に司法試験に合格した。

大阪の法律事務所で8年間勤務後に独立。労働関連訴訟から離婚、相続のトラブル、中小企業の顧問弁護士など幅広い案件を担当してきた。事故の経験は、企業の在り方を考える際や労働問題を担当するときの力にもなっている。

企業の労働問題に関するセミナーで講師として話す機会も多い。脱線事故ではJR西日本が当時行っていた従業員への懲罰的な教育制度「日勤教育」が背景の一つとして問題視された。こうした事故を防ぐためには「従業員のメンタルケアが重要」と藤原さん。セミナーでは、適正な労働環境の整備や、コンプライアンス順守の重要性を訴え、「今後も啓発していきたい」と意気込む。

弁護士活動を通じて感じるのは、どれだけ対策しようとも、人為的な類似の事故はいつか起きるということだ。「社会は企業を過剰に非難せず、改善につなげるため適正に情報開示をしやすい社会になってほしい」と強い口調で語る。

悲惨な事故の被害者だからこそ、相談者に自身の体験を伝え、親身に寄り添ってきたという自負がある。「あの時もしかしたら死んでいたかもしれない。亡くなった人の分まで社会に役立つことをしていきたい」(高田和彦)

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