熱き「伏見工DNA」継承し9年ぶりの花園 大島淳史・京都工学院ラグビー部監督 あの日から②
産経ニュース / 2025年1月2日 19時6分
伝統の赤黒ジャージーが9年ぶりに、聖地・花園に帰還した。昭和の高校ラグビー界に旋風を巻き起こしたあの時代から半世紀近く。伏見工の校名も変わったが、そのDNAを受け継いだ令和のフィフティーンが1、2回戦と、あこがれの舞台で躍動した。
「久しぶりの花園。本当に多くの人に応援されているんだな、ということの再確認になりましたね」
昨年11月、全国高校ラグビー大会京都府予選決勝で、京都工学院は8年連続ではね返されてきたライバル、京都成章に勝利し花園行きを決めた。歓喜の輪の中で、監督の大島淳史(あつし)さん(42)は声を上げて泣いた。
平成12年度、3回目の花園優勝時の主将。日本体育大を卒業後、中学校での教員生活を経て、母校にコーチとして戻ったのが31歳のときだった。
「泣き虫先生」こと山口良治さん(81)がすさんだ生徒たちにラグビーへの情熱を吹き込み、全国高校ラグビー大会に初出場したのが昭和54年度。翌年度には初優勝を成し遂げた。熱血漢の教師が「信は力なり」の精神で不良少年たちを率い、高校ラグビーの頂点に立つ奇跡の物語は、テレビドラマ「スクール・ウォーズ」で描かれ、大ヒット。花園制覇は計4度を誇る。
そんな輝かしい伝統を持つ母校も、生徒数の減少などを受けて平成28年に他校と統合され、現在の校名に。これと前後してラグビーでは京都成章が台頭、花園はいつしか遠い存在になっていた。
約6年前に監督に就任。「人生をかける」と意気込んだが、うまくいかないことが多かった。当時はゼネラルマネジャー(GM)とのツートップ体制。組織のトップであるGMと、現場トップの大島さんとの間で意見の相違も少なくなかったという。
転機は監督就任3年目。GMの退任に伴い、すべてを一人で背負うことになった。
そこで自問自答を繰り返した。本当に生徒のために、人生をかけて指導できていたのか。生徒はどんな思いで卒業していったのか。こんなことで赤黒の復活はなるのか。
折からの新型コロナウイルス禍。人流が制限され、スポーツ大会の中止が相次ぎ、部活動も制限された。制約は「もっと練習がしたい」という生徒の渇望を生む。「本気で勝ちたいという彼らの目線がまぶしかった」と振り返る。
それから伏見工時代の後輩、ラグビー経験のあるサッカー部顧問、元トップリーガーらをコーチとして迎え入れた。環境の変化が、チームを前進させると信じた。
令和3年からは日本代表経験のあるOBが定期的に指導を行うプロジェクトも始動。第一線で活躍する先達の言葉は新鮮で発見に満ち、選手らの目線にも変化が表れていた。
チームは少しずつ軌道に乗る。3年前には校名変更後初めて全国選抜大会に出場。「多くの人が喜んでくれた。大きなモチベーションになった」と語る。
悲願の花園へ、あと何が足りないか。フォーカスすべきは京都成章ではなく、自分たち-。大島さん自身、そして選手らがそれぞれ、敵は己の中にありと気づいた。大切なのは自分を信じ、仲間を信じること。「信は力なり」の原点に立ち返った。
京都予選の決勝では京都成章の猛攻に対して泥臭く粘り強く守り、少ないチャンスをものにした。スタンドには山口さんも駆けつけ、優勝が決まると感涙にむせんだ。
「信は力なり。赤黒ジャージーを花園で多くの人が待ってくれている」
大島さんは円陣でそう選手らにハッパをかけた。念願の花園で迎えた初戦の聖光学院戦は圧勝。2回戦も勝利し、元日の3回戦に進んだが、強豪・国学院栃木に敗れた。
試合後、大島さんは3年生に「新しい工学院としての歴史を作ってくれた」と、ねぎらいの言葉をかけた。
「まずはスタートラインに立てた。今後の工学院は花園で勝利し、優勝する、そこを目指すチームにならなければ」
古くて新しい赤黒の歴史を、これから紡いでいく。(渡辺大樹)
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