朝晴れエッセーの年間賞に「ドングリゴマ」 思い凝縮、読み手の想像に委ね
産経ニュース / 2024年5月7日 8時0分
朝晴れエッセーの月間賞を受賞した12作品から選ぶ令和5年度の年間賞は、竹之下和幸さん(79)=千葉県我孫子市=の「ドングリゴマ」(昨年11月14日掲載)に決まった。選考委員の作家、玉岡かおるさん、門井慶喜さん、岸本佳子・産経新聞大阪本社夕刊編集長が選び、それぞれ選考委員賞も選定した。年間賞受賞作は、「祖国に帰れるかもしれん」と告げ、小学校の卒業を前に別れた友人を思い起こした作品。物語を読み手の想像に委ねる文章や、大きなテーマをドングリゴマで象徴する描き方が深い印象を残した。
門井 この一年、すっかり新型コロナ関連の作品を見なくなりましたね。
岸本 一時はコロナばかりでした。
玉岡 ほんとうに日常の風景や過去の追憶など、平常のフィールドに戻りましたね。
岸本 12本のうち、「ドングリゴマ」で3人がそろいました。胸に深く染みるお話ですね。
門井 子供の頃のとてもつらい別れで、「祖国」という大きなものと、ドングリゴマという小さな物の対比が、何度読んでも印象に残る。非常に心を打たれます。国名を出さずに「祖国」で通す。読者にはどこの国か想像がつきますが、祖国という一般名詞の強さで複雑さや困難さまで感じさせたのも、いいと思います。なぜ手紙が届かなかったのか、読み手の想像が膨らむラストもいい。
玉岡 月間賞の掲載紙面の「受賞の言葉」に、建ちゃんは「学年が違うのではというほど体が大きくて」とあって、作品を読んで感じた通りのキャラクターでした。会うことのできない幼なじみへの思いが凝縮された切ないエンディング。見事な作品だと思います。
岸本 書き過ぎず、書き足りない部分もなく、思い出に浸り過ぎず、全てのバランスが取れている。短い文字数で、よくこれだけの情報と感情を読み手に与えられるなと感嘆します。受賞の言葉は番外編のようで、作品への理解がより深まりますね。
門井 月間賞の受賞の言葉は私も一人の文章書きとして、いつも面白く読んでいます。筆者が本編であえて何を書かなかったのかが分かる。「ドングリゴマ」の受賞の言葉なら、今も夢に見るという紙テープでの船の別れのシーン。どう考えても書きたくなるじゃないですか。それを落としたのは大したもの。情報の取捨選択がほぼ完璧と言えます。
岸本 門井先生と重なった「三色三足」は、こうして今、改めて読んでも愉快で笑ってしまいます。
門井 ユーモアものでは随一です。靴を一足だけ買うつもりが、だんだんと付け足されていく面白さ。落語的な話術だなと思いました。最後に大きな結論を出したり伏線を回収したりするわけでもなく、「靴ベラは、今でも使っている」というのも、サゲに近いイメージです。
玉岡 くすっと笑える諧謔(かいぎゃく)みたいなものも、エッセーの醍醐味の一つですからね。
岸本 テンポのいい文章の畳みかけ方にやられました。お話の内容とよく合っています。3足目では「もう試し履きはしなかった」に、「そりゃしないでしょ」と言いたくなる。タイトルも面白い。玉岡先生とは「第二の人生」で重なりましたね。
玉岡 高校野球の審判のお話というのが、とても新鮮でした。この作品を読んだことで、テレビで試合を見ていても、選手や勝敗だけでなく、審判にも注目するようになりました。判定の仕方やジェスチャーに、それぞれ個性があるんですね。
岸本 いつも見ているはずなのに、見えていなかったものに気付かせてもらいました。現役の審判に向けて頑張れと言うのではなく、「球児の夢を応援するあなたの一番の応援団になりたい」というのが、たまらない。
玉岡 審判がいないとゲームはできないし、判定や試合の結果で、チームや選手の行く末が変わる。スポットライトは当たりませんが、大変なお仕事ですね。子供の成長を願う「息子のお弁当」も、縁の下の力持ち。軽やかな文体で、台所でお弁当箱に「米、米、米」とご飯を詰めている姿や、「うまかった」と言われて喜ぶ姿が見えるような、ほのぼのエッセーでした。
岸本 私も息子のお弁当を作っているので、気持ちが本当によく分かります。門井先生は「赤坂小町の火の記憶」も選んでいらっしゃいますね。
門井 関東大震災というつらい出来事を話の中心に据えているのに、不思議に色気と気品を感じる。突然入ってくる「こんぴらふねふね」の民謡が、ものすごく効いています。震災と祖母の小粋さをなだらかに結び付けて、現代の都会の風景にもっていく。
玉岡 自分が祖母に似てきたことを、ガラスドアに映る姿を見て「あ、祖母だ」と表現するのも、軽快でお上手でしたね。
岸本 それでは年間賞ですが、3人が選んだ「ドングリゴマ」でしょうか。
玉岡・門井 そうしましょう。
岸本 決定ですね。選考委員賞もそれぞれお願いします。
玉岡 玉岡賞は「第二の人生」に。視野を広げてもらいました。
門井 門井賞は「赤坂小町の火の記憶」。読み応えという点では随一です。
岸本 編集長賞は「三色三足」に。エッセーって面白いなと思わせてくれる作品でした。今年度も、いろんな作品を読むのを楽しみにしています。
受賞の竹之下さん「建ちゃん、元気でいてくれれば」
朝鮮半島から来た建ちゃんも、内地から転校してきた私も、いじめられっ子でした。建ちゃんの本当の年齢は、私より上だったのだと思います。体がすごく大きくて、相撲大会では一番強かった。それでもやり返さずに堪えて、私をかばってもくれました。
建ちゃんと別れてからは、いじめられなくなるよう、一生懸命勉強しました。ドングリゴマをくれたときの「負けんなよ」という言葉には、一人になってしまう私への思いもあったのだと感じています。
中学生のとき、鹿児島の学校に転校しました。この作品の後に我孫子市の「長寿大学」のことを書いたエッセーを掲載していただいたのですが、その鹿児島の同級生が大学を通して連絡してきてくれました。
今は互いに違う場所に住んでいるのに、エッセーでまたつながれてうれしくなりました。でも、建ちゃんが読むことはないでしょう。元気でいてくれればいいですが、80歳ですから、あの国では難しいだろうと思います。
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