愛知海苔の復活目指す 商社と生産者、連携本格化
食品新聞 / 2024年9月13日 13時3分
愛知県産海苔の復活を目指す活動が活発になっている。前漁期終了の翌6月から生販の連携を高める会が複数開催され、増産に向けた対策が加速している。
海苔取扱枚数日本一の小淺商事を筆頭に、「てりやき」でおなじみの浜乙女、「ジャバンのり」が好調な永井海苔など、愛知県内に本社を構える海苔商社は多い。
伊勢湾、三河湾に囲まれた愛知では海苔生産が盛んで、最盛期には県内で年間10億枚を生産していた。
しかし、2016年度には3億3840万枚だった生産枚数は、翌17年から5年間で1億枚以上も一気に減少。21~23年は2億枚前後の共販枚数が続いている。
急激な減産の背景にあるのは漁師たちの廃業だ。14年から10年間で海苔を生産する県内の漁業経営体は190から120まで4割近くも減少した。
そうした現状を受けて、愛知県産海苔の復活を目指した動きが活発化している。入札指定商社・生産者らが集まった6月の意見交換会を皮切りに、7月には第1回実務者会議を開催。いずれも初の試みで、9月には同会議の第2回を予定する。
「愛知海苔復活に向けての課題と対策」をテーマに掲げた意見交換会には、商社31社40人と生産者12組合37人に加えて、愛知県水産課や大村知事の関係者、国土交通省、水資源機構からも参加した。
久田和彦理事長(愛知海苔入札指定商組合)開会にあたり愛知海苔入札指定商組合の久田和彦理事長(永井海苔社長)は「海外産に席巻されるのか、それとも盛り返すのか、国産海苔は瀬戸際にある」との危機意識を表明。
また、鬼崎漁業協同組合の鈴木敏且組合長は「海苔の価格が高いことは生産者のモチベーションになるが、海苔離れが懸念される」との見解を示した。
会で俎上に載せられたのは、海の栄養塩不足、後継者不足、食害などで、いずれも深刻な問題だ。
海の栄養塩不足は、生産量の減少だけでなく色落ちにもつながり、商品価値を毀損する。しかし伊勢湾(三河湾含む)は、東京湾・瀬戸内海とともに、国が窒素・リンの含有量を規制する「第9次総量削減」の対象で、その他の地域よりも厳しい排出基準が定められている。
そこで直近の2年間、三河湾では社会実験として国の基準値まで排出規制を緩和した。その結果、色落ちの抑制や品質の向上、生産量の安定が見られたとして、生産者らから行政側へ「基準緩和を継続してほしい」との強い希望が伝えられた。
後継者不足については、共同乾燥所の運営に成功している鬼崎漁協の組合員から「自分は結婚しておらず子どもがいない。家族経営が前提だった従来のあり方であれば、事業を継続できなかった」との意見が出た。
商社側からは「共同出資して加工会社を作るのはどうか」との意見が提出されたが、設置費用の捻出、設置後の効率的な運用など課題が多い。
鈴木敏且組合長(鬼崎漁協)ある漁協では「すでに設置の時期を逃してしまった」という。かつて共同出資の取りまとめを試みたが、漁師たちの独立自尊の気風も壁となって頓挫した。数の減った組合員らが今から費用を負担するには、経営体一つ当たりの費用負担が大きすぎる。「今はおのおのが事業規模を拡大するしかない」(所属組合員)。
食害については、浜によって異なるものの生産量全体の1~3割が被害にあっているのでは、との推測が示された。魚よりもカモによる被害が大きく、駆除のしにくさがネックとなっているようだ。
7月の第1回「『愛知県復活に向けて』の実務者会議」には、買上上位の商社らと一部生産者らが参加し、栄養塩不足、後継者不足を主なテーマに絞って討論した。他産地からの海苔漁師の招聘や、2億5000万枚を直近の生産目標とすることなどが提案され、より具体的な検討が進められた。
9月6日には第2回実務者会議が開かれ、今後は伊勢湾に栄養塩を運び込む長良川の河口堰の視察も予定している。
愛知海苔の復活、そして持続可能な海苔生産体制の構築に向けた歩みが力強さを増している中、まもなく海苔の生産が始まる。増産に向けた取り組みが実を結ぶか、大きな期待がかかる。
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