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在日不良ベトナム人「ボドイ」が起こすトラブルの数々。安くて便利な日本社会を維持するために外国人を「現代の奴隷制」のなかで輸入しないと成り立たない理由

集英社オンライン / 2023年3月2日 11時1分

昨年の法務省の在留外国人統計によると、在日ベトナム人は約47万人。これは在日中国人に次いで2番目に多い。この在日ベトナム人による犯罪が、近年多発しているという。

ベトナム人技能実習生たちの逃亡後

群馬・栃木・茨城といった北関東一帯で、「ボドイ」と呼ばれる不良ベトナム人たちが近年、独自のコミュニティーを築きながらさまざまな犯罪行為に手を染めている。「ボドイ」はベトナム語で「兵士」を意味し、その多くは実習先を逃亡して在留資格を失った元技能実習生だ。

こうした知られざるボドイ・コミュニティーを粘り強く取材し、2023年2月に『北関東『移民』アンダーグラウンド ベトナム人不法滞在者たちの青春と犯罪』(文藝春秋)を発表したルポライターの安田峰俊氏に、話を聞いた。本書はベトナム人技能実習生たちが逃亡後にどう道を踏み外していくかを緻密に描いている。


インディカ米の炊飯臭や「金麦」の空き缶

長年、中国関係のルポライターとして活躍している安田氏がベトナムに興味を抱き始めたきっかけは、10年近く前まで遡る。

「習近平時代に入ってしばらく経つと、中国社会の言論統制が明らかに強まり、現地を取材するリスクが高まってきたと感じました。2014年頃から経済界では『チャイナ・プラスワン』が叫ばれ、私も中国の周辺国に目を向けるようになりました。
そのなかで特に関心を抱いたのが、かつては儒教の影響の強い漢字文化圏で、近代においても中国と同じ社会主義国家であるベトナムだったのです」(安田氏、以下同)

日本では2017年頃から技能実習生の雇用環境の劣悪さや逃亡事件が注目されるようになったが、この問題の中心にいたのが、ベトナム人たちだった。

「ヤクザのところで廃品回収したこともあります」と話すのはウーバーイーツで働くベトナム人男性 写真/Soichiro Koriyama

「中国人実習生の逃亡も多少はありますが、中国社会の成熟に伴い、彼らはもはや1990年代〜2000年代のようなアウトローな行為をしなくなっていた。一方、ベトナム人実習生の逃亡者はさまざまな犯罪行為を繰り返しており、明らかに異質な存在として興味を引いたのです」

安田氏は2021年、技能実習生の問題を取材し『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』(KADOKAWA)としてルポした。

「そして今回の本は『「低度」外国人材』に連なる正統な続編という位置付けです。表紙から”アングラ本”みたいに見えますが、中身はまともなノンフィクション。不良ベトナム人にフォーカスしている点で、密度の濃い一冊になりました」

ボドイたちは通常、5〜10人ほどの複数名で集団生活を営んでいる。住居は一見すると普通の一軒家やアパートだが、よく見ると日本人のものとは明らかに異なる特徴がある。インディカ米の炊飯臭や豚骨、豚皮を加工調理した匂いが漂い、周囲にはベトナム式水タバコの竹筒や第三のビール「金麦」の空き缶などがある。衛生的とは言い難く、ゴキブリの幼虫が多数発生していることもある。

安田氏はこうした「ボドイ・ハウス」にベトナム人通訳のチー君とともにおよそ20回にわたって直撃取材を繰り返し、彼らの胸の内に迫った。

ボドイたちにとって不法就労や無免許運転は当たり前で、違法な車両売買、賭博、拉致、家畜や果実の窃盗、薬物乱用、売春などのほか、時にはひき逃げ死亡事故や殺人事件すら起こす。

桃の盗難被害現場。盗まれたのはなぜか熟れきる前の硬くて青い桃だった。犯人には栽培の知識があり、チームで手際よく収穫するスキルもあり、土地勘もある。ただし、「桃の食べごろ」の判断だけが日本人と異なる――。「青い桃」を好む人たち、それがベトナム人だった。 写真/Soichiro Koriyama

常磐線の線路内に自動車で突っ込んで衝突事故を起こしたり、ウーバーイーツ配達員をしていた男性が高速道路に自転車で侵入したりするなど、日本人の想像を上回る悪行の数々には、ただただ驚かされる。

日本はヤンキーを“輸入”している

だが、その実態は凶悪な犯罪者というより、「何も考えていない人々」だという。

「彼らの行動原理は、90年代の日本の地方に多くいた“昔ながらのリアルなヤンキー”と非常に近似性があります。近年はマイルドヤンキーやギャルがメディアで過度に美化されて語られることが多いため、『根は真っ直ぐ、情に厚い』などのイメージを持つ人もいるでしょう。

でも、往年のリアルなヤンキーの多くは決してそうではなく、ただの『遵法意識が高くない』『後先を考えず行動する人』も多くいました。私自身もやられた経験がありますが、ゲーセンで気弱な中学生から500円をカツアゲして警察に通報されるような『ダメ感』たっぷりのしょぼい行動こそ、リアルなヤンキーの姿だったはずです」

上半身にベトナム風の花や仙女のタトゥーを入れたホアンも元々は技能実習生だった 写真/Soichiro Koriyama

一方、かつての日本のヤンキーやその予備軍には、建設作業や工場など一次産業の現場の重要な働き手を担う人も多かった。だが、少子高齢化の進展に加えて、学校現場で不良が生まれないようしつこく指導がおこなわれた。

結果、日本のブルーカラーの世界から多くの若いヤンキーの姿も消えることになった。すると今度は、ほぼ同じ属性の人々を外国から“輸入”することになったのが、令和ニッポンの現状というわけだ。

では人権保護や犯罪抑止のために技能実習制度をやめてしまえばいいのかというと、そう簡単にはいかない。

「先進国のなかで日本だけが賃金が伸びず、社会全体の貧困化が進んでいます。他の先進国に比べると日本の物価水準はかなり低く、ファミレスやコンビニでは、あり得ないような価格で非常に高い水準の商品やサービスが提供されています。これは技能実習制度によって人件費が抑制されている影響も大きいはずです」

技能実習生なしでは、地方の産業構造を維持できない

もはや「現代の奴隷制」が続かざるを得ないのが現状だという。

「山間部や離島では、農林業や漁業、畜産業の働き手となる日本の若者はほとんどいません。地方の産業が衰退し、空洞化しつつあるのを辛うじて食い止めているのが、技能実習生たちです。
技能実習生は居住や職業選択の自由が事実上ほとんど認められておらず、これは明確に人権侵害なのですが、この『人権侵害』によって日本の地方の産業が守られ、私たち日本人が安くて便利な暮らしを享受できている面は間違いなくある」

技能実習生なしでは、地方の産業構造を維持できないのだ。

岡山県の漁村の路地を行き交う、ノンラー(ベトナム式の編み笠)姿のベトナム人技能実習生たち。現代の日本の地方社会を象徴する光景 写真/Soichiro Koriyama

「そうした現実と『人権侵害』の解決を天秤にかけた時、それでも外国人の人権を守れと言える日本人は、決して多くないはずです。牛丼やハンバーガーが20円、30円値上がりするだけで大騒ぎになるんですから、外国人の人権を守るための値上げを、納得して受け入れられる日本人はあまりいないでしょう」

田植えや稲刈り、野菜や果実の収穫、カツオ漁、イカ釣り漁、鉄筋組み立て、鳶職、左官、食品工場、繊維工場、金属プレス、ビルクリーニング、高齢者介護……。今や日本の一次産業やサービス業の現場は、「外国人技能実習生」抜きには回らなくなっている。

岡山県の漁村にあるカキ加工現場で技能実習生として働く女性 写真/Soichiro Koriyama

「誤解を恐れずに言えば、技能実習制度の構造は、第二次大戦当時の『慰安婦制度』とやや近しい部分もあります。たとえば、日本政府や日本軍が“直接的に”慰安婦を集めたり強制連行したりは、おそらくしていない。実際は人集めを請け負った民間業者が、なかばウソの好条件を餌に人を集めて、ブラックな職場に送っていた。ゆえに一部の民間業者の問題について、政府に責任はない、というズルいロジックを主張する余地が一定程度残されています。

同様に、技能実習制度についても制度設計を行なったのは国なのですが、さまざまな問題を引き起こしているのは民間の業者であり、政府がそれを積極的に推進してきたわけではありません。……まあ、事実上の『黙認』はしていたかもしれませんが」

技能実習制度の建前は「国際貢献」だが、政府の本音としては「安い労働力が欲しい」。本音と建前の矛盾のなかで、一種の鬼子(おにご)として生まれたのが逃亡技能実習生、すなわちボドイである。制度の歪みによって生まれた不穏な人々は、見えないところで増殖を続けている。

取材・文/西谷格

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