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侍ジャパン監督も驚愕! 京大野球部が実践する「圧倒的強者の倒し方」

集英社オンライン / 2022年5月20日 8時1分

最下位が「指定席」だった京大野球部が大改革により変貌を遂げている。関西学生野球の22年春季リーグ開幕節で関大から82年秋以来、40年ぶりの勝ち点を獲得。立命大からも02年秋以来、20年ぶりの勝ち点を挙げ、3年ぶりに最下位脱出を決めた。日本最高峰の秀才軍団が、なぜプロ野球選手も輩出する野球エリートたちに勝てるのか。知られざる秘密に迫った。

大学野球に衝撃を与える「京大旋風」

この春、京大野球部が世間をあっと驚かせている。
4月2日の開幕戦で昨秋優勝の関大に逆転勝ちし、勢いのまま2勝1敗で40年ぶりの勝ち点をつかんだ。5月に入っても勢いは衰えない。立命大には初戦に負けたあと、連勝で20年ぶりに勝ち点獲得。リーグ戦優勝回数最多の近大からも勝利を挙げ、メディアが大きく報じた。4月22日の立命大戦では侍ジャパンの栗山英樹監督が観戦し、「びっくりするくらいレベルが高かった」と言わしめた。



5月10日、3番を打つ伊藤伶真内野手(4年=北野)は3安打で立命大戦の勝利に貢献。最下位脱出を決めた。内野安打でヘッドスライディングするガッツマンは内心、ほくそ笑んでいるはずだ。22年春の野球部パンフレットで「テンションが上がる瞬間は?」と問われ「社会が僕らに注目した時」と答えている。

内野安打で出塁してガッツポーズする伊藤伶真内野手

かつては最下位が「指定席」だった。「どうせ負ける」とレッテルを貼られていた。だが、いまは違う。阪神・村山実や阪急・山口高志らを輩出した関大を倒した。阪神・吉田義男やヤクルト・古田敦也らを生んだ立命大にも競り勝った。履正社、報徳学園、智弁和歌山…。相手校の選手たちの出身校は甲子園常連校がずらりと並ぶ。そんな野球エリート集団にひるまず挑み、互角の戦いを演じる。

京大が試合をすると「何かやるんじゃないか」と期待感に包まれる。弱者に肩入れする、日本人好みの判官びいきだけではない。知恵を振り絞って強者と互角に戦う姿には、ロマンがあふれている。最高学府の頭脳が集めた野球データも要因の1つだろう。だが、もっと大きな変化があった。

彼らは”夢”を語るようになったのだ。

伊藤伶は真顔で言う。「リーグ優勝が目標です。口だけにならないよう、どうすれば勝てるかをチーム全員で考えている」。

実は昨年、忙しくてたまらなかった。「平日は昼の15時から19時までは練習で、朝夜を使って最低6時間勉強していました。しんどかった」。猛勉強と野球を両立させ、超難関の公認会計士試験の合格を勝ち取った。

そんな京大生ならではの「のめりこみ体質」に気づき、野球に生かそうとしたのが、昨年11月に就任した近田怜王監督だった。

若き指揮官は問うた。「勝つために、何をやっているのか?」

「勉強の仕方を聞くと、結構『徹夜でやってます』って言う。集中する能力が高いんです。だから、1つ方針を与えれば、そこに向かってガッとやれる。『守れたら使う』と言えば、打撃ばかりしていた子が、守備をめっちゃ頑張り出す。『これだよ』と方針を出してあげると、一気に入り込めるのが京大生なんです」

京大で指揮を執る近田怜王監督(写真中央でジャンパーを着用)

チーム作りを畑に例えよう。京大生が「種」で、彼らの体質が「土壌」なら、32歳の若い新監督が「水」を与える。近田監督はいろいろな野球を経験してきた。強豪の兵庫・報徳学園で左腕エースとして08年夏に甲子園8強。プロ入り後、ソフトバンクでは1軍登板できなかったが、常勝の空気を吸った。JR西日本を経て、17年に京大でコーチとして指導を始め、20年から助監督としてチームを支えてきた。

選手と接し始めたころ、選手に聞いた。

「勝つための練習って、どんなことをやってるの?」

野球が好きで、チームは楽しんでいる雰囲気に溢れていた。その選手は自信たっぷりに答えた。

「自分が打てるようになったら勝ちに近づきます!」

とにかく個々が技量を上げようとしていた。しかし、違和感があった。これでは勝負にならない。近田監督は当時を振り返った。

「考え方が自分中心だったんです。僕は個々より、チームとして機能している選手を重視します」

そこで勝つための方向性を指し示した。チームプレーをなによりも大切にする。
監督に就くと選手にまず伝えた。

「守れないヤツは使わない」

打ち勝てるチームではない。束になって戦う必要がある。冷静に自分たちの力を見極め、戦略を立てた。全体練習の守備練習でも気を抜いたミスをすれば出番は遠のく。ナインに緊張感を植えつけた。

「選手はなかなか勝てず、いまでもコンプレックスがあると思います。それをどう振り払ってあげるか。だから、守備なんです。打撃は調子の波がある。守れたら勝てる。守備と走塁さえできたら、大差で負けることはないんです」

投手陣は安定している。昨秋、関学大・黒原拓未投手(21年広島ドラフト1位)に投げ勝ったエースの水江日々生投手(3年=洛星)や最速152㌔右腕でプロ注目の水口創太投手(4年=膳所)ら、層が厚くなってきた。

エースとして奮闘する水江日々生投手。関大、立命大などの強豪校に真っ向勝負を挑み、勝ち投手となっている

だからこそ、手堅い守りで泥臭く接戦を拾いにいく。新体制になって、シートノックに走者をつけてタイムを測るなど、新たな練習も取り入れた。実戦に近い形で意識づけを行った結果、守備のイージーミスは少なくなり、引き締まった試合が増えた。成果は出始めている。

「優勝するぞ!」のメッセージに隠された真意

近田監督はこの冬、選手の前で言い切った。

「優勝を獲りに行くぞ。勝負事なのでトップを取らないと楽しくない」

監督は本気だ。練習拠点がある京大の吉田キャンパス近くに引っ越した。普段は自ら打撃投手を務め「打者の特徴を投手目線から見たい」と話す。公式戦のベンチでは外野寄りに立つ。

「自信がなかったり、あまりチームと関われないとき、選手は後ろに行ってしまう。これは違う。みんなで、前のめりにね」

一丸になるためだった。「本当はサインを隠したいんですよ」と苦笑いするが、行動に気を配る。白星はリーダーの器のかたちにしか入らない。アメとムチを使い分け、選手の自主性も重んじている。

「昨年までは走者の『けん制アウト』がタブーで、積極的な走塁がしにくかったんです。しかしキャプテンが、走塁に対する意識を改革してくれた」

戦いの「変化」について伊藤伶はこう説明する。象徴的な試合があった。4月4日、1勝1敗で迎えた関大との3戦目。1点差に迫られた8回1死一、二塁。二塁走者が猛ダッシュし、三盗に成功。次の一ゴロで本塁に突入し、追加点を挙げた。

ランナーは主将の出口諒外野手(4年=栄光学園)だった。盗塁でアウトになれば、勝負の流れが変わりかねないリスクもあったが、自分の判断で仕掛けた。思い切った走塁は今年のチーム方針だ。出口は明かす。

「今年は打てる選手が少ない分だけ、走塁で攻めていこうと話しています。新チームになって、選手から提案させていただき、監督にも認めていただきました」

貧打を脚力でカバーする。関大3連戦だけで10盗塁。思惑通りだった。だが、4月16日の同志社大戦は盗塁死を連発し、けん制でもアウトになった。警戒されるなか、盗塁を決めるのは簡単ではない。惜敗後、近田監督は「チームの作戦。盗塁アウトも計算している。思い切ってトライしてくれているのは評価できる」とうなずいた。壁にぶち当たりながらも前に進んでいる。

京大優勝は夢物語ではない

監督だけでなく、選手も本気だ。優勝するため、成功者をマネすることも始めた。1月、チームは初めてメンタルトレーニングを行った。主将の出口は言う。

「『リーグ優勝、本気で目指せ』と口に出して言うことが大事。優勝の景色を思い浮かべたりしています」

東京六大学で昨年、春秋連覇した慶応大野球部のメンタルコーチを講師に招き、SBT(スーパー・ブレイン・トレーニング)に励んだ。出口は続ける。「慶応さんが『ありがとう』をチーム共通のワードで使う。それを模しています」。この春、京大ベンチは「ありがとう」を連呼している。じっくり球を見極めた打者には「球数を見せてくれてありがとう!」と声が飛ぶ。前のめりに戦い、チームに勢いを与えている。

もちろん、戦いはひたむきなだけでは勝てない。京大ナインは、したたかさも備えていた。関大との3戦目。先発は下手投げの愛沢祐亮(4年=宇都宮)だった。登録は捕手。意表を突く抜てきはハマり、4回無失点。大金星に貢献した。

実は投手として、ひそかにオープン戦でも投げていた。だが、公式SNSに書く試合の登板投手から名前を外していた。「アンダースロー対策は難しいですよね。極力、隠そうと」。そう明かすのは将来、プロ野球球団のアナリストを志望する投手担当学生コーチの三原大知(4年=灘)だ。春の飛翔は秀才たちが知略をめぐらせた日々の成果でもあった。

キャプテンは言う。「野球がヘタでも強いチームに勝つことができる。相手よりしっかり考えて、相手の弱いところを突くことです」。弱さを受け止めながら、前を向いて戦えている。シーズンの最終盤、令和4年度春季リーグ戦の優勝は消えたが、次のチャンスがある。秋季リーグ戦で京大が優勝すれば、戦前の1939年秋以来、83年ぶりとなる。

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