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性的少数者を受け入れている国ではGDP上昇も…欧米で進む、多様な家族の形を認める社会がもたらすもの

集英社オンライン / 2023年9月6日 8時1分

子どもを産むか、産まないか――。そんな一人ひとりの選択が積み重なった結果が、現代の少子化社会だ。個人の選択に社会の制度や価値観が与える影響は大きい。今、世界で人口減少にあらがう国の多くは多様な生き方を認め、世の中全体で助け合う寛容な社会をつくろうとしている。『人口と世界』(日経BP 日本経済新聞出版)より一部抜粋・再構成してお届けする。

#1

多様さ認めるデンマーク、家族の形を37種類に分類

デンマークの人口統計では家族の形を37種類に分類する。子どもからみた家族形態は夫婦同居・夫の連れ子同居・妻の連れ子同居など多様だ。配偶関係も異性同士の法律婚だけでなく、同性法律婚・登録パートナーシップなど5種類ある。


コペンハーゲン在住の看護師クリスティーネさんは、警察官の夫、子ども3人と暮らす。子の1人は夫婦の実子で、残る2人は夫婦それぞれの過去のパートナーとの子だ。

夫妻ともに最初のパートナーとは結婚しなかったが「法律婚はさして重要ではなかった」(クリスティーネさん)。子どもに関する手当や保育サービスは家族形態と関係なく受けられるためだ。

パートナーと別れても関係は続く。クリスティーネさんの子、ニコライさんが15歳のとき、教会で信仰を誓う儀式に出席。ニコライさんの実父や配偶者ら多くの「家族」が集まり成長を祝った。夫婦は過去のパートナーと頻繁に連絡し、子どもの教育や進路を話し合う。

夫婦関係を解消しても父母は子どもを扶養する義務を負う。京都ノートルダム女子大の青木加奈子准教授は「ライフスタイルの多様化に対応しつつ、未来を担う子どもの視点で支援制度が見直されてきた」と指摘する。

多様な家族を認める社会は、親子のあり方にも寛容だ。「伝統的家族主義が弱い国ほど出生率が高い」と大妻女子大の阪井裕一郎准教授は分析する。家族の多様化を示す1つの指標は、結婚していない男女から産まれた「婚外子」の割合だ。

事実婚やシングルマザーなど様々な親子がいるが、婚外子の割合が高いほど家族のかたちにかかわらず子どもを産めるといえる。低いほど伝統的な家族観に基づき、結婚と出産の結びつきが強い。

デンマークやフランスの婚外子割合は1960年に10%を下回っていたが、2017年時点で5割を超す。ほとんどの行政サービスは法律婚と男女の同居を区別せず、出生率も1.7超だ。

日本の婚外子割合は2%強と韓国と並び最も低い水準だ。伝統的家族観から多様化が進まず、広がったのは未婚化だった。日本で配偶者がいない50歳代は3割を超す。出生率は回復せず、21年の人口は64万人減った。

性的少数者を受け入れる国、GDP上昇も

6歳の息子と夕食の準備、遊園地に家族旅行―。スウェーデンに住む中村光雄さん(通称みっつん)は、そんな家族の日常を動画投稿サイト「ユーチューブ」発信する。チャンネルの登録数は19万人に達する。

「ふたりぱぱ」として活動中のみっつんさん

人気の背景は中村さん家族にパパが2人いることだ。中村さんのパートナーはスウェーデン出身の男性、リカルド・ブレンバルさん。息子は米国のサロガシー(代理母出産)で授かった。「スウェーデンではどのような家族も平等に生活できる」と中村さんは話す。

性的少数者の国際支援組織ILGAによると、北欧や米英、ドイツなど多くの先進国が同性カップルの養子受け入れを認めている。日本は主要7カ国(G7)で唯一、同性パートナーシップを認める国の制度がなく、特別養子縁組も婚姻関係のある男女に限られる。

同性婚を認めれば少子化がすぐ改善するわけではないが、誰もが住みやすい社会は成長の源だ。

米マサチューセッツ大学アマースト校のリー・バジェット氏らは、性的少数者を受け入れる社会を測る8段階の指標をつくり、132カ国を分類。1ポイント上がると1人あたり国内総生産(GDP)が約2000ドル上昇する関係があったという。

子どもを産みにくくする旧来常識は婚姻だけではない。家事の負担を巡る男女間の不平等、キャリアと子育ての両立、多様な生き方を抑圧する風潮―。当たり前を問い直し、家族観と制度をアップデートしなければ、深刻な少子化から抜け出すヒントはつかめない。

デンマーク 子への義務、制度で厳格に

家族の多様性を認める国は出生率も高いことが知られている。代表例が北欧のデンマークだ。家族の幅広いあり方を認め、それを支える自由と責任が国の制度として確立している。

経済協力開発機構(OECD)によると、デンマークで産まれた子どもに占める婚外子の割合は2017年に54.2%と半数を超す。2.2%の日本とは大きな違いだ。

子どもが生まれてから結婚したり、法律婚によらないパートナーシップを選択したりと、それぞれの事情に合わせて人生を選択する。国の制度もそれを前提に設計されている。合計特殊出生率も17年時点で1.75と日本のを1.43を上回る。

「様々な家族のかたちに対応するため、デンマークでは子どもの養育に対し原則、生物学上の両親が最終責任者であることが明確に決められている」。同国の家族制度に詳しい京都ノートルダム女子大の青木加奈子准教授は指摘する。

結婚しているかどうかにかかわらず、父親には親としての責任がある。結婚していない場合はオンラインで父親登録をする。父母のパートナー関係が終わり、子どもと別居しても親は子どもの生活を支えるため、養育費の支払いや定期的な面会をする。養育費については税金の控除制度のほか、行政機関が代わりに前払いし後に親に請求するといった仕組みもある。

婚外子割合は家族の多様性を示す指標といえる。人口学によると、先進国では婚外子割合と合計特殊出生率に相関がみられる現象が1990年代以降続く。スウェーデンやデンマークなどは婚外子割合が高く、出生率も高い。南欧諸国やドイツ、日本は逆だ。

統計が示す「一生結婚するつもりはない」風潮の高まり

多様な家族を認める社会では婚外子割合が結果的に高く、出生率も高まる可能性がある。逆に社会が想定する家族のかたちが画一的だと、それ以外の子どもを持ったとたんに支援の網をすり抜ける。その結果、子を持つのをためらわせる風潮をつくりかねない。

国立社会保障・人口問題研究所の2021年の調査では、日本の30~34歳の未婚男性の27.2%、同女性の20.4%が「一生結婚するつもりはない」と答えた。同割合は約20年前の02年調査に比べ男性で19.9ポイント、女性で11.9ポイント上昇した。

「いずれ結婚するつもり」は男性で70.8%、女性で77.5%と多数派ではあるが、約20年間で男性は13.0ポイント、女性は7.6ポイント低下した。

日本で「結婚離れ」が広がっているのは経済的要因など様々な背景があるが、多様なニーズやリスクを受け止められない社会と制度がその一因となっている可能性もある。

『人口と世界』(日経BP 日本経済新聞出版)

日本経済新聞社

2023年6月24日

¥1,980

260ページ

ISBN:

978-4-296-11624-9

人類史上初!人口減時代迫る
忍び寄る停滞とデフレ、不安定な年金制度、移民なき時代の到来・・・
危機にあらがう各国の戦略とは?

・「豊かになる前に進む高齢化」苦しむ中進国
・新たな時代の「移民政策」に揺れる 欧州の懊悩
・「おひとりさま」が標準に 孤独との共生
・「縮む中国」 衰退が招く安全保障上の危機
・出生率を上昇させたドイツの「両親手当」
・「多様さ」認め、寛容な社会目指すデンマーク
・人口より「生産性優先」のシンガポール

これまで人口増を頼りに成長を続けてきた世界。
いまも進みつつある人口の減少は、社会に大きなひずみをもたらした。
一方で、独自の視点から問題に立ち向かう政策が功を奏した国も――
日本の進むべき道はどこにあるのか。
いまある危機を直視し、未来を共に考える日経新聞一面連載を加筆のうえ書籍化。

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