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岸田総理がウクライナに持ち込んだ「必勝しゃもじ」は呪物と見られた?宗教への無知が招く無自覚の罪

集英社オンライン / 2024年3月13日 11時1分

宗教的な儀式がふだんの生活に根付いていないと考えている私たち日本人。だが古代ローマ史研究の大家、本村凌二氏と国際事情に精通した神学者・佐藤優氏によると無自覚のうちに宗教的儀式をおこなっているという。岸田文雄総理がウクライナに持ち込んだ「必勝しゃもじ」は、一神教の国においては呪物の類だとみなされる。書籍『宗教と不条理 信仰心はなぜ暴走するのか』より一部抜粋し、日本人が無自覚でおこなっている宗教的儀式を紹介する。

#2

「紅白歌合戦」と初詣は
宗教的な創造儀礼

佐藤 たしかに、貧しい時代の人々から見れば、豊かな社会は堕落したように見えるでしょうね。ただ、いまの日本は命がけの戦争こそしてはいないものの、首都圏では小学校4年生から中学受験という戦いに投げ込まれている子どもたちもいるわけです。



冷静に見れば、あれはほとんど教育に名を借りた虐待ですからね。教師や部活指導者による体罰が減ったと思いきや、そうやって別の形で暴力が振るわれる。社会における暴力の総量は常に一定で、戦争という形で集中的に現れることもあれば、ほかのところで分散的に現れることもあるんだろうと思うんですよ。

本村 たしかに、暴力のエネルギー自体は保存されているのかもしれませんね。そのエネルギーがどこに向けられるのかを決める上で、宗教は何らかの役割を果たしているような気もします。

日本人は一般的に無宗教だとか信仰心が薄いとか言われますが、どうなんでしょうね。そうはいっても、正月には多くの人が初詣に行くわけですし。

佐藤 私は、大晦日のNHK「紅白歌合戦」と初詣は日本人にとってワンセットの宗教的セレモニーだと思っているんですよ。まず「紅白歌合戦」というお祭りによって、人為的にカオスをつくり出す。それが23時45分に終わると「ゆく年くる年」になり、一転して落ち着いた雪景色の中で除夜の鐘がゴーンと鳴り、やがてアナウンサーが静かなトーンで新年の訪れを告げるわけです。新しい秩序の始まりですよね。

いったんカオスを迎えなければ、新しい秩序は生まれません。あれは、「カオスからコスモスへ」という創造儀礼なんです。だから、「紅白歌合戦」を見てから初詣に行くのは、きわめて正しい日本人のあり方なんですよ。

そうじゃなければ、あんなにデキの悪い歌番組が高視聴率を取れるはずがない(笑)。

本村 いまはもう、世代的にわかる歌がないから見なくなりましたねぇ。

佐藤 視聴率が低下傾向で、打ち切り論もときどき聞こえてきますが、もし「紅白歌合戦」がなくなったら、日本人が新鮮な気持ちで正月を迎える感覚が薄れるでしょうね。初詣客も減るかもしれません。

本村 初詣といえば、ある年に出産を控えた私の知人が、正月に3つか4つの神社を回ったそうなんですよ。でも、ちょっと身体の弱い子が産まれた。そうしたら、その人は「あちこちに初詣したからバチが当たったのかもしれない」と言ったんです。

佐藤 神様がヤキモチを焼いたというわけですね。

本村 そうそう。こういう人間の心理が一神教の発生につながったんじゃないか、などと思ってしまいましたけれどね。

佐藤 そういう素朴な信仰心は連綿とありますよね。私が鈴木宗男事件で捕まったとき、ロシア思想史研究家の下里俊行氏(上越教育大学教授)に「佐藤、難しく考えることないよ。こんなことになったのは、厄年だからだよ」と真顔で言われましたからね(笑)。「キリスト教徒だから厄払いとかしてないでしょ?」と。

本村 半ば冗談ではあるんでしょうけれど、まったく信仰心がなかったら、そんなこと思いつきもしないですよね。立派な知識人でもそうなんですから、やはり日本人も信仰と無縁ではいられないということでしょう。

現代日本でも生きている
「丑の刻参り」の伝統

佐藤 場所によっては、信仰心のかたまりみたいなところがありますよ。すごいのは、京都の貴船神社。紅葉がきれいなことでも有名ですけれど、あそこは怖いところですよ。絵馬を見ると、「私の夫と不倫している××××が狂い死にますように」などと実名、住所入りで書いてあったりするんです。逆に「彼が奥さんと別れてくれますように」というのもある。

本村 へえ、そういう神社なんですか?

佐藤 丑の刻参りの発祥地だと言われていますね。だから奥に行くと、御神木に藁人形が五寸釘で打ちつけられていたりするんです。器物損壊罪になりかねないんで、本当はやっちゃいけないんですが、それでも後を絶たないんですから、よほど効くと信じられているんでしょうね。

本村 藁人形って、どこで手に入れるんですかね(笑)。

貴船神社

佐藤 ふつうにアマゾンで売っていますよ。昔はけっこう高くて、4000円ぐらいしたんですが、最近は安くなっていて、1000円以内で買えます。「呪いのロウソク&金槌付き」とか、使い方を教えるDVDとセットとか、バリエーションも豊富です(笑)。

本村 よくそんなことまで知っていますね(笑)。しかしまあ、近代社会といっても、人間の心はそんなに古代と変わっていないのかもしれません。ローマのお墓なんか見ると、「この墓に手をつけた者に災いあれ」などと刻まれていたりします。「小便を引っかけるやつはとんでもない。どうせなら酒を引っかけてくれ」とかね(笑)。

佐藤 要求が具体的で面白いですね(笑)。

本村 中世のキリスト教社会になってからはそういう呪術的なものは少なくなったでしょうけれど、たとえばアヴィニョンに教皇庁をつくったヨハネス22世というローマ教皇(在位1316~1334)は、対立していたミラノ大司教のジョヴァンニ・ヴィスコンティに呪いをかけられそうになりました。

ヨハネス22世の彫像をこしらえて、それを火で焼くよう呪術師に頼んだんですね。結局、呪術師はそれを断ってアヴィニョンに密告したんですけれど。いずれにしろ、そんな聖職者レベルでも本気で呪いの類に手を出していたわけです。世間ではもっと広く行われていたでしょうね。

岸田総理がウクライナに
持ち込んだ「東洋の神秘」

佐藤 そのヴィスコンティと似たようなことを21世紀にやったのが、われらが岸田総理ですよ。2023年3月21日に「電撃訪問」と称してウクライナ入りしたとき、ゼレンスキー大統領に広島の「必勝しゃもじ」をお土産に渡したじゃないですか。

あれ、われわれ日本人には広島の土産物だとわかりますけれど、ウクライナ人から見たら「悪魔の文字みたいなものが書かれた不気味な木のヘラ」ですからね。「これがあれば戦争に勝てます」と言われて、怖かったと思いますよ(笑)。

たとえば海外から魔術師を名乗る人物が日本にやってきて、意味のわからない文字の書かれたお札みたいなものを「あなたの敵を倒すために特別の呪いをかけてある」と言って渡されたら、ちょっと怖いでしょ。

そういう呪術的なものが、日本では総理大臣クラスでも生きているわけです。一神教の世界は基本的にまじない禁止だから、あれには東洋の神秘を感じたと思いますよ、ゼレンスキーたちは。

本村 断ったらどんな祟りがあるかわからないから、とりあえず受け取るしかないですよね(笑)。

佐藤 だって、日本からウクライナへの軍事支援はわずか40億円ですよ。高速道路1キロメートルつくるのに53億円かかるそうですから、40億円は高速道路を800メートル程度しかつくれない額です。ちなみにステルス戦闘機F-35は1機150億円。日本の国力を考えたら、まともに支援しているとは思えない額しか出していないわけです。

ウクライナから見たら、「その足りない分を、この不気味なしゃもじでカバーするのか?」と思うかもしれません。

本村 それでバランスが取れるとしたら、しゃもじの効力は凄まじいですよね(笑)。

佐藤 東洋の神秘おそるべし、ですよ。ロシアと西側諸国が一神教同士の価値観戦争をやっているところに、その宗教性に無自覚なまま、八百万の神を抱えて加勢しに行ったわけです。

本村 近代の限界が露呈しつつあるところに、前近代的な呪術を持ち込んだという意味では、結果的に空気が読めていたのかもしれませんけれどね(笑)。しかし、そんな考えはまず間違いなくなかったでしょう。

やはりキリスト教をはじめとする世界宗教への理解をもっと深めなければ、この戦争を契機に新たな局面を迎えるであろう国際情勢に対応できないのではないかと思います。


写真/shutterstock

宗教と不条理 信仰心はなぜ暴走するのか(幻冬舎新書)

佐藤 優、本村 凌二

2024/1/31

1056円

232ページ

ISBN:

978-4344987197

なぜ宗教は争いを生むのか? ウクライナのNATO加盟を巡る対立の裏でキリスト教内の宗教問題を抱える露・ウクライナ戦争に加え、ユダヤ教とイスラム教の確執が背景にあるイスラエル・ハマス戦争が勃発。日本では安倍元総理銃撃事件が起こるなど、人々の宗教への不信感は増す一方だ。宗教は本来、人を救うために生まれたはずなのに、なぜ暴力を正当化しようとするのか? 古代ローマ史研究の大家と国際事情に精通した神学者が宗教に関する謎について徹底討論。宗教が人間を幸福にするのに何が必要かがわかる一冊。

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