日本で初めての「女性暴力団員」と認定された壮絶半生「男って血を見ると弱い。下手打った組の人間の指、私が数人飛ばしましたよ」
集英社オンライン / 2024年3月15日 16時1分
日本で初めて国に「女性暴力団員」と認定された女性がいる。その名は西村まこ。ケンカ、恐喝、拉致監禁、管理売春、シャブ屋(覚せい剤販売)など、ありとあらゆる悪事を重ねて刑務所に収監。出所後に組から破門され、一時は子育てに励むも、その後再び、40代前半でヤクザに戻った過去を持つ。そんな半生を振り返った自伝『「女ヤクザ」とよばれて ヤクザも恐れた「悪魔の子」の一代記』を上梓した西村まこさんに話を聞いた。
女ヤクザ、先手に負けなし
――「極道の妻」はこれまで耳にしてきましたが、女性でヤクザの構成員がいるなんて初めて知りました。
西村まこ(以下同) 私も刑務所内で暴力団からの脱退届を書かされたときに、刑務官に「あんたが日本初だから、こんなに時間かかるんよ」とイヤミを言われ、「女のヤクザっていないんだ」という事実を知りました。
ヤクザ映画でもよく見かけるシーンですが、私が出所したときに刑務所の門前に組員が2列に並び、一斉に「お疲れ様でした」と深々と頭を下げたんです。それを見た所長が「こんな光景、初めて見る」と驚いていました。というのも、女子刑務所にヤクザはいませんから。
――そもそもどういういきさつで、女ヤクザになったんですか?
中学2年くらいからグレはじめ、高校には行かず、地元(岐阜県)でヤクザや不良とケンカばかりしていて、負け知らずと噂になっていたんです。20歳のときに住吉会系の組の親分から「女でもいいからヤクザやれ」って誘われて、「やります」と即答して入りました。
その頃、別の組からもスカウトを受けていたんですが、なんかパッとしなかったので断った記憶があります。当時はヤクザをやるならイケイケのほうが格好がいいと思っていました。
ちなみに、私の親分は元ヤクザで作家の安部譲二と同じ刑務所にいたことがあり、映画『堀の中の懲りない面々』に「人差し指のないリョーちゃん」として登場しています。
――女ヤクザと聞くと、男勝りのプロレスラーのような体型を想像してしまうのですが、西村さんは体重50キロもないですよね。アウトロー系の男性とケンカしても平気だったんですか?
負けないですね。ケンカは日常茶飯事で。とにかく先に手を出す。手を出したもん勝ちですよ。
――「先手必勝」とは、大山倍達総裁(極真空手創設者)と同じことを言ってますね(笑)。
まず相手の脚を狙って立てなくして、上から攻撃をしていました。メリケンサックが効くんですよね。顔面にガーンっていくと裂けて血が出て。男って血を見ると弱い。女のほうがそういうことに関しては、図太いですよ。
――普通、「ボコボコにされたらどうしよう」って不安もよぎると思うんですけど……。
不安にならないように、自分は絶対に勝つんだって思うようにしていましたね。とにかく言い聞かせて、メンタルは鍛えていました。
ヤクザになってからは、キックボクシングに通っていましたし、負けてその噂がたったらヤクザとして終わりですから、ケンカの準備は怠らなかったですね。
――逆にやられたことはないんですか?
10代に2回ほど。生意気だってことで大勢に囲まれてやられました。中学校の先輩や暴走族の先輩ですよね、男も混ざっていて。全然痛くなかったですけど……。
女性はヤクザに向いている
――ヤクザといえばガチガチの男社会ですが、居心地はどうでしたか?
まるっと男扱いで、逆に苦労したことはないですね。男っぽい性格だったので、やりやすかったです。髪も短くしていましたし、ケンカのときにスカートだとパンツが見えて格好が悪いので、そもそもズボンばかり。だから抵抗はなかったですね。言葉も男言葉でした。
ふだんはトレーナーにジーンズといった格好でしたが、義理場(事務所の広間)では、黒い背広を着ることもありました。おかげで組員から「宝塚」と呼ばれたりもしました。
――男社会にいて、何か気づいたことはありますか?
みんな会長にペコペコして、自分の意見を言えないっていう。よくないことかもしれませんが、私は思ったことをパッと言っちゃうもんで、おでこにチャカ(拳銃)を突きつけられたこともあります。結局、姐さんが止めてくれて、ことなきを得ましたが……。
あと、男はためらうんですよね。下手して指を詰めることになっても、なかなか覚悟が決まらない。それで経験者の私に落としてくれって回ってきて。結局、下手打った組の人間の指、数人飛ばしましたよ。
――まこさんも、小指がないですね……。
責任を取らされて落としました。組では覚せい剤は禁止だったんですけど、フタをあけたら、みんなシャブ中なんですよ。商売もしているし。
あるとき、みんながシャブを使っていることが親分にバレました。本部長が親分の怒りを鎮めるために、私だけに「指詰めろ」と言ってきたんです。理不尽にも感じましたが、私がポン中を代表して指を落とし、親分に謝罪する形で収まりました。
当時は「ヤクザなんだから、指が全部あっては格好がつかない」とも思ってもいたので、後悔はしていません。
――想像するだけで痛いですが、どうやって落としたのですか?
自分で日本刀を使い、切り落としました。1刀目では斜めに切れ、指がぶら下がってしまい、ガンガン切り直していたら、第1関節を超え第2関節までいってしまいました。やりすぎました。小指がやけに短いので、まわりから「2回も下手打ったんか」とよく聞かれましたよ(笑)。
幻覚・幻聴があっても、ヨレない私のヤクザ道
――覚せい剤を断ち切るのは大変でしたか?
私は簡単にやめられました。きっとそもそも体に合わなかったんですよね。覚せい剤を見ただけでゲロ吐いちゃうこともありましたし。
10代のときに、初めて覚せい剤をやって、髪の毛が逆立ったような感じがして、クスリが抜けたときに体がダルくて、何もやる気が起きなかったんですよ。だから、二度とやるもんじゃないとは思っていました。
ヤクザになってからは、ヤクザたるもの覚せい剤ぐらいやらないと格好がつかないと思い、常用していましたが……。結局、覚せい剤をやめると体が辛いので、それを消すためにやるって感じです。その繰り返しで、打つたびに後悔する、またやっちゃったって感じで。
幻覚や幻聴もバリバリで、中身はヨレヨレなんですけど、それもヤクザとして格好が悪いので、人前では出さないように努力していましたね。
――経験者として、街中で覚せい剤中毒者を見たらわかりますか?
すぐにわかりますよ。明らかに動きが変ですもん(笑)。それに絶対に目を合わせないし。
取材・文/集英社オンライン編集部
『「女ヤクザ」とよばれて ヤクザも恐れた「悪魔の子」の一代記』
西村まこ
2024年3月24日
¥1,870
240ページ
978-4909979605
国が初めて「女性暴力団員」と認定した女の“最強伝説”
――そして恋愛、結婚、育児、更生への道
“突破者”と呼ばれたワシ以上の“じゃじゃ馬”が、
本物の“侠客”になった! -竹垣悟(元山口組系組長、現NPO法人「五仁會」代表)
私はあるとき、「女のヤクザっていないんだ」という事実を知ります。
刑務所内で「ヤクザの脱退届」を書いたときのことです。
「あんたが日本初だから、こんなに時間かかるんよ」と、いやみを言われました。
ケンカ、恐喝、拉致監禁、管理売春、シャブ屋(覚せい剤販売)などなど、
ありとあらゆる悪事を重ね、更生不可能と思っていた私も、
「五仁會」に出会うことで、更生し、人の役に立ちたいという思いにいたりました。
本書を読んでくださった方が、更生への道を進んでくださることを願っております。(「はじめに」より)
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