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「就活うつ」「学生の学力低下」「東京一極集中」…先鋭化する“問題だらけの日本の就活”はどう解決したらよいのか?

集英社オンライン / 2024年8月4日 9時0分

大学生の大事なキャリアを決める就職活動。現状、経団連は就活解禁を大学3年の3月からとしているが、実際にはそれ以前から夏休みに“インターンシップ”と称した選考に直結する職場体験プログラムが本格化するなど、早期化・長期化が長らく問題になっている。それが原因で就活生の“就活うつ”が話題になるなか、これらの問題を解決する新たなサービスが注目されている。ABABA代表の久保駿貴さんに話を聞いた。

【画像】実際に企業からのスカウト文章ってどんな感じ?

 

これまで「就活の過程」は無駄とされてきた

久保さんが就活の過程が評価される新サービスを立ち上げたのは、親友が就活に失敗したことがきっかけだった。とある大手企業を志望し、エントリーから8次面接までを無事通過したのだが、最終面接で落とされてしまったという。



「彼は『積み上げたがんばりが一瞬で崩れ去った』とすごく落ち込み、うつ状態になってしまいました。入りたくて仕方なかった志望企業を嫌いになり、その会社の悪口をいうようになりました。そんな彼の様子を見て、『最終面接まで行った努力と実績を無駄にしない仕組みを作れないか』と思ったのが、サービスを始めたきっかけです」

商社や広告代理店、大手メーカーなど、人気の企業には数千〜数万のエントリーが来ることもあるため、企業は志望者をふるいにかけるべく、何度も面接やグループワークを行っている。

結果、選考フローの多さや機械的に送られてくるお祈り(不採用通知)メールに就活生は心を病み、「自分は必要とされていない」と就活うつになることも多い。

「内定を得るために就活生たちは多大な時間と労力をかけますが、落とされた時点ですべて水の泡になってしまいます。一方で、企業の最終面接まで残った人はそれだけの実力とポテンシャルを秘めているともいえます。

このような就活の課題解決を目指し、最終面接で落ちた学生に他社からのスカウトが届く仕組みを作りました」

久保さんが取り組むのは、就活の「過程と経験」を評価してほかの企業に優先的に再チャレンジできる機会の提供だ。それによって第1志望に落ちても類似企業や他業界の企業に、書類選考や1次選考などをパスしてエントリーすることができるようになった。

また、企業側は最終面接まで残った優秀な学生にピンポイントでオファーをかけられるようになり、双方にとって効率的な就活の場が実現した。

「サービスを通して、一定の結果を残している就活生の流動性を高めることができたと思っています。学生は就活の習熟度や理解が上がりきったうえでABABAを利用するので、逆にこれまで志望していなかった会社に目を向けられたり、『こんな企業に求められているんだ!』と可能性を広げたりもできます」

学業への悪影響に外資系への流出…就活は問題だらけ 

久保さんは「就活の過程」というこれまで“無駄”だと思われていた部分に注目し、お祈りメールを次の企業へのエントリーの機会にする仕組みを作り出した。しかし、就活にはまだまだたくさん解決すべき問題や課題が存在する。そのひとつが学業への悪影響だ。

「本来であれば4年生は大学生活の集大成となる学年です。しかし、就活のために3年生の3月から(早い人であれば夏休みから)、数カ月も時間を割かれてしまうので、満足に研究や卒論執筆に集中できないのが現状です。

東京大学の調査で、就活が日本の大学の学術レベルを下げているという検証データもあるほどです。卒論がある程度終わる4年の9〜12月に就活の時期をずらすといった対策をしないと、学術レベルはこのまま落ち続けてしまいます」

2023年10月、東京大学は2024年度大学卒業・修了予定者の就職・採用活動について、採用選考活動や内定後の研修などにより、学生の学修環境を損なうことのないよう要請する文章を掲載した。大学側が企業に就職・採用活動開始時期などの遵守や学業への配慮を求めるほど、就活が学生の大きな負担になっているのが現状だといえる。

また、近年ではコンサルティングやITといった業界の外資系企業に優秀な学生が流れる傾向があるという。こうした状況に、「日系の大企業は自然と大勢の応募者が集まることもあり、ネームバリューに慢心して魅力的なポジションや仕事、給与などをうまく提示できない。その結果、優秀な人材を外資系企業に取られている」と久保さんは分析する。

「日本で育って日本で学んだ学生が外資系企業に取られてしまい、外国の利益のために働いている構図は大きな損失です。私としては日本を支える日系企業に優秀な学生が就職してほしいです。日系企業が外資に人材を取られないためには、3年生の秋ごろに就活を始めるアクティブ層へのアプローチや、スキル重視の専門職ポジジョンを積極的に打ち出すといったプロモーションなどをすべきだと思います」

「今、日本に必要なのは地域活性化と高卒人材の評価だ」

学術レベルの低下や外資系への人材流出以外にも久保さんが懸念しているのは、「優秀な学生の東京一極集中」だ。

インターネットを活用した就活が一般化したことにより、地方からでも東京の大企業へのエントリーが容易になった。その結果、地方の優秀な学生が東京に集中するという事態となっている。

「地方の企業が優秀な学生を確保できないと、地域格差が広がってしまう一方です。また、大学進学の時点での、地方からの学生の流出も問題です。そこで、地元就職やUターン就職を支援するために、企業が学生の出身高校や所在地を確認し、オファーができる仕組みを整えています。『東京の企業に落ちたから地元の会社も見てみようかな』といった人が増えることを狙っています」

また、東京に本社があるような大企業であっても生産拠点や工場が地方にあるパターンは少なくなく、全国転勤可な就職希望者を集めるのに、企業は苦戦を強いられているという。

このような事態を解決すべく、地方の企業や拠点へのサービス導入にも力を入れていき、全国的な人材の循環を目指している。

「また、日本は『高卒人材』をもっと評価すべきです。工業・商業高校などの出身者は地元の会社に就職することが多く、彼らこそが日本の経済を支える大黒柱です。

一方で、日本の大学は学費も高すぎるうえに就職で有利になるために進学する場になっている側面があるので、大学数を減らして本気で学問をしたい人だけが進学できる仕組みにしたほうがよいです。4年間遊んですごして就活に苦戦するより、高校3年間で専門知識を磨いて就職するほうが効率的だともいえます」

久保さんは「最終面接に落ちた企業に再挑戦できる仕組みを作ったり、就活の経歴やがんばりをデータ化したりと、今後は就活の実績を将来のキャリアに生かせる形を整えたい」と展望を語る。若い世代が作り出す就活の新常識に注目していきたい。


取材・文・写真/越前与

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