東京都の火葬料金が一気に9万円に値上がりした深刻な理由…家族との別れで後悔しないためにも知っておくべき「火葬」のルール
集英社オンライン / 2024年8月14日 8時0分
ご先祖様を家へお迎えして供養する日本の夏の風習「お盆」。この時期に墓参りへ行く人も多いはずだ。ただし、普段、なかなか身近に「死」を意識することがなく、葬式、火葬などは、親族が亡くなるような状況になって初めて考えるという人も少なくないだろう。ここでは「火葬」について、改めて専門家に聞いてみた。
今年6月、東京23区内で行われる火葬の約7割を担う民営の火葬場の費用が、従来の5万9000円から9万円に値上がりしたことが話題になっている。
一方、公営の火葬場である「臨海斎場」(大田区)と「瑞江葬儀所」(江戸川区)においては、対象となる区民の場合、火葬費はそれぞれ4万4000円と5万9600円だ。
近年は、団塊世代が死亡年齢に近づいている影響などによる死者数の増加で、都市部の葬儀業者ではこうした費用の高騰だけでなく、「火葬待ち」や「遺体安置場所の不足」といった問題も深刻化していて、課題が山積みの状態なのだ。
日本でもっとも一般的な葬法である火葬。だからこそ、事前に知っておきたい費用のことや、亡くなってから火葬、収骨までの流れや必要な手続きなどについて、火葬問題について研究を行なう一般社団法人「火葬研」の武田至氏に解説してもらった。
火葬はいったいいくらかかる?
火葬に際して、やはりまず気になるのは費用だ。武田氏によると、東京と地方では料金の仕組みがかなり異なっているという。
「火葬場の運営元や地域によって差はありますが、火葬を行うのに必要な費用として平均して1体6万円から10万円かかります。ちなみに火葬料金には火葬場設備の修繕費や建設費などの料金が含まれることがありますが、この価格相場はそれらを含まない場合のものになります。
火葬は行政の福祉サービスの一環として行なうべきだという考えが全国的に広まっているので、地方自治体が住民の火葬費用を税金で補填するという形が主流になっています。
公営火葬場の対象地域の住民の場合は無料、かかったとしても全国平均では2万円程度で行なうことができます。
公営と民営が混在する場合は民営火葬場を利用するとなった場合でも、行政によっては補助金を出してくれるので、公営と同じ料金で利用できるようにもなっています。その結果、地方では民営火葬場の経営が成り立たなくなり、公営化が進みました。
一方、東京に関しては少し特殊で、明治時代に独立採算での運営とする政府の通達によって民営の火葬場が作られていきましたが、それが現在に至るまで続いています。つまり東京都はこれまで火葬業務の多くを民間に任せてきた結果、公営の火葬場が少なく、税金で火葬費用を補填するという意識も地方に比べるとはるかに低いんです。
それに加えて昨今では、葬儀を行なわずに、亡くなった遺体を病院から直接火葬場に搬送し火葬のみを行う直葬が増えているんです。
葬儀にお金をかけない傾向が強くなってきており、高い料金の火葬炉を使用しないだけでなく、火葬場の待合室で食事をすることなども減ってきていることもあり、火葬以外の収入が減っています。
そんななか民営の火葬場はなんとか経営を維持するために火葬炉の利用料金を値上げせざるを得ない状況なのです。民営火葬場が多い東京では、こうした背景からも火葬費用が高くなってしまうのです」(武田氏)
上記で解説した金額はあくまでも火葬炉で遺体を荼毘に付すだけの場合の料金であり、葬儀社に依頼してお通夜や告別式、そして火葬まですべてを行なうとなった場合の平均相場は161万9000円となっている。(一般財団法人日本消費者協会から発表された、第12回「葬儀についてのアンケート調査」報告書(2022)を参照)
火葬待ちの地域がある一方、積極的に火葬を受け入れる地域も…
次に武田氏に火葬料金の内訳やシステムについて聞いてみた。
「火葬場の料金には、火葬炉の利用料金だけでなく、火葬中の待合室の利用費、そして人件費や燃料費などが含まれています。
また火葬炉の形式にも違いがあって、公営に多い『台車式』は、火葬専用の台車の上に柩を乗せて燃やします。こちらは火葬時間が長くなりますが、遺骨の形が比較的そのままの状態で残りやすく、収骨の際にどこの部位の骨であるかが確認しやすいです。
民営火葬場で多く採用されているのが『ロストル式』というもので、これは燃えやすいように炉内の火格子(ロストル)上に柩を乗せて燃やします。遺骨はロストル下の骨受け皿に落ちます。火葬時間が速いのですが、台車式に比べると骨の形が若干崩れてしまうという難点があります」
ちなみに炉内の加熱については、台車式だとダイオキシン類対策のため5分間で800度近くまで上昇させる。反面、ロストル式の場合は、次々と遺体を荼毘に伏すことで炉内の温度を保ち、燃焼効率を上げて火葬炉の回転数を上げることでコストを抑える運営を行っているという。
だが、そもそも火葬する場所についてだが、都内在住の人が亡くなったとき、故郷で葬儀や火葬をしたいというケースなど、故人が住んでいた地域以外での火葬は可能なのだろうか。
「東京のように待ちの状態ではなく、火葬場に余裕のある地域なら住民以外の人々の火葬を受け入れてくれることがあります。例えば石川県小松市の『小松加賀斎場さざなみ』では、小松市にゆかりのある人々が故郷に戻って葬式をできるような取り組みを行なっています。
基本的に火葬場の利用対象地域に住んでいない人の場合、地元の住民よりも高い火葬料金を支払うことになりますが、なかには積極的に住民以外の火葬を受け入れて安価なプランを提案してくれる地域もあるのです」
また、地方へ遺体を搬送する場合は、葬儀社または遺体搬送を専門とする会社に依頼し、あらかじめ霊柩車の手配をする必要があるので注意が必要だ。
死後は基本的に病院から1日以内に搬送しなければならないという厳しい決まり
火葬にはどんな手続きが必要なのか。
「医師により亡くなったことが確認されると、死亡診断書が用意されます。それから役所に死亡届と火葬許可証を提出すると同時に、葬儀社に遺体安置、葬儀、火葬の依頼をします。また通夜や告別式をせず直葬を行なう場合でも、火葬までの間の遺体安置場所を用意する必要があります。
病院からは、なるべく早くご遺体を搬送するよう指示されるので、この流れは基本的に1日以内で行なわなければなりません。海外だと1週間ほど病院に安置することができるので、その間にさまざまな葬儀社を比較し、余裕を持って葬儀の準備を進めることができるのですが、日本の場合には考える間もなく、すぐに対応することが求められるため、慌ててしまう方も多くいらっしゃいます」
先に述べた東京都の民営の火葬料が9万と驚くべき値段になりつつあるが、今後の火葬料金の変化についてはどうなっていくのだろうか。最後に武田氏に予想してもらった。
「現在、税金で火葬料金を補助されている公営でさえ、受益者負担の考えがでてきており、値上がりの傾向を見せています。やはり少子高齢化が進んでいるということもあって、全国的に自治体の財政が今後厳しくなることは予想されますので、民営だけにとどまらず、公営の火葬場の料金の値上がりも避けられないのではないでしょうか」
――火葬料金の変化を追うことや、葬儀社の比較など、ふだんから少しずつ「死」を意識しておくことが、最愛の家族との別れを後悔なく迎えるために必要なのかもしれない。
取材・文/瑠璃光丸凪/A4studio 写真/Shutterstock
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