“VUCA”時代の今「成功している親」の子育てはリスクだらけ…子どもをミスリードしてしまう親の特徴とは
集英社オンライン / 2024年8月17日 9時0分
生成AIの台頭により、5年後には今ある職業の2割が消えると言われている昨今、親は何を目指して子どもを育てたらいいのか。現在の親世代が陥りやすい思い込みを、都内有数の合格率を誇る進学塾VAMOSの経営をしながら、サッカーなどのスポーツ選手のマネジメントもしている富永雄輔氏が教えてくれた。
『AIに潰されない 「頭のいい子」の育て方』(幻冬舎新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
“VUCA”の時代。親の認識次第で、子どもに格差が生まれる
私が経営している塾の子どもたちを見ていると、幼いなりに彼らは「変わりゆく世界」にしっかりついて行っています。特別な説明を受けるまでもなく、彼らにとって世の中はどんどん変化するのが当たり前であって、確実なものなどありません。
現に、今の時代についてVUCA (ブーカ)という言葉で語られるのを聞いたことのある人も多いでしょう。
VUCAは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字。変化が目まぐるしく、未来の予測が困難で、「正解」の見えない時代であることを、一言で表しています。
問題は親世代です。
世の中は変化することを理解しつつも、「だからこそ、変化に負けない確実な職業を」などと考えている人が多いのです。
とくに、50歳近くともなると、弁護士だったり、公認会計士だったり、大企業の役員クラスに上り詰めているような人だったりは、同窓会に行けば「確実な仕事に就いている成功者」として扱われているはずです。
つまり、遠からずAIに淘汰されてしまう職業にもかかわらず、いまだに「価値のある仕事」と思っているし、思われているわけです。
しかし、確実な道を歩もうとすることは、これからの時代、崩れゆく崖を歩くのと同じで、リスク以外のなにものでもありません。
にもかかわらず、まだ30代であっても、そうした発想転換ができていない人がたくさん見受けられます。
彼らは、子どもたちが鋭い肌感覚で進もうとしているのに、その道を理解できず、自分の価値観の古さに気づかず、良かれと思って我が子をミスリードしてしまいます。
私の塾では、親子揃っての面談をよく行います。加えて、子ども本人とだけ話すこともあるし、親からの相談を受けることもあります。要するに、子どもたちの傾向と親たちの傾向の両方がわかっています。
そうした経験を通して強く感じるのは、「一部の〝わかっている親〞だけが、相当先を走っている」ということです。
大半の親は、我が子の将来どころか、今はそこそこ稼げている自分の数年後がとんでもないことになっている可能性についてさえも、大甘な認識しか持っていません。
一方で、かなり鋭い親はすでに動き始めており、結果的に、子どもたちに大きな格差がついてしまうだろうと思えるのです。
ユーチューバーという仕事を受け入れられない親が迎える末路とは?
ユーチューバーなる若者が登場し、「なんだそりゃ」と半分バカにして見ていたら、我が子が「将来はユーチューバーになりたい」と本気で言い出した。
今〝ちゃんと稼げている親〞としては、さぞかし心配なことでしょう。
みなさん親世代は、誰でも知っている職業や、誰でも知っている会社に大きな価値を見いだしてきました。そうでなくとも、小さな会社を選んだり独立したりしたことのある人は、その先にでっかい目標を掲げていたのではありませんか?
少なくとも、自分で撮影した映像をインターネット上で公開することなど、到底仕事とは捉えなかったはずです。もしかしたら、「そんなことは、まともに仕事に就けなかったやつが暇つぶしでやっているんだ」などと考えていたかもしれません。
しかし、子どもたちの頭の中にある仕事のイメージは、親世代とはすっかり異なっています。
20年くらい前までは、はっきりとした姿の見えないインターネットの世界はリスキーなものだと思われていました。ところが、GAFA(Google・Apple・Facebook〈現Meta〉・ Amazon)の存在が、そうしたイメージをすっかり変えました。子どもたちにとって、ユーチューバーは立派な仕事であり、非常にかっこいい憧れの存在なのです。
「ユーチューバーはかっこいい」と思っている子どもは、「なんだそりゃ」と思っている親より、遥かに時代に適応しています。とはいえ、ユーチューバーもいずれは化石になるでしょう。だから、親は「その先」を示してあげねばなりません。
子どもは感覚が鋭くても、どうしても計画性に欠けます。そこで、「わかっている親」が、一緒に考え導いてあげることによって、その子が大化けする可能性が生まれます。
自分の古い価値観に引きずられ、子どもを潰してしまうのか。
新しい子どもの道を一緒に探ることで、自分も生まれ変わるのか。
「今、成功している親」に、それが問われているのです。
学歴も社名も意味のない時代が、すぐそこに
1994年くらいをピークに、浪人する人が減っています。少子化で競争率が落ちたというだけでなく、若者が浪人する意味を見いだせなくなっているからです。
よほど東大にこだわるとか、医学部を目指すといった特殊なケースを除いて、多くの高校生が現役で合格した大学に進みます。もちろん大学入試制度のたびたびの変更も影響しています。
以前は、MARCH(明治大学・青山学院大学・立教大学・中央大学・法政大学)のどこかに受かった人が、浪人して早慶にチャレンジするというケースが多かったけれど、今はそうではありません。そのくらいの学歴の差のために、浪人することは選びません。
そもそも、大学名に執着するなら、社会人になってから学歴ロンダリング(自分の出た大学よりレベルの高い大学院に進学すること)をすればいい話です。それになにより、これほど変化の速い時代に、浪人している1年間はもったいない。早くどこかの会社に入ってなんらかのスキルを身につけたいと、今の若者たちは考えています。
もちろん、彼らにとって「どこかの会社」が終着点ではありません。たとえ有名企業であろうと、そこで出世していくことを考えている若者はほとんどおらず、最初から「3年で辞める」くらいのつもりで入ってきます。
要するに、学歴にも就職先にもたいして関心がない。親世代のように、そこに価値を見いだしてはいないのです。
では、なぜ大学に行くのかといったら、「人」との時間を持つためです。
デジタル化が進めば進むほど、人間関係は希薄になります。しかしながら、私たちは人との繫がりがなくては生きていけません。いくらAIネイティブの世代でも、それは同じです。
彼らは大学で、サークルに入り、友人をつくり、飲みに行って馬鹿話をしたいのであって、一生在籍する会社に入るために有利な条件を整えたいのではありません。
となれば、なおさら大学名は関係ないわけです。学生が大学名にも会社名にも頓着せず、就職しても3年で辞めるくらいのつもりであることに、企業も気づき始めています。だから、企業も学歴にこだわらなくなるでしょう。
実際、これからは学歴より職歴が問われるようになることも予想されます。最後までこだわっているのは、古い価値観の大人ばかりということです。
文/富永雄輔 写真/Shutterstock
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