子どもの学校選び「そこで誰と知り合うか」が最も重要!? AI時代に知っておきたい子育てのポイント
集英社オンライン / 2024年8月18日 9時0分
〈“VUCA”時代の今「成功している親」の子育てはリスクだらけ…子どもをミスリードしてしまう親の特徴とは〉から続く
新型コロナの流行により、リモートワークが進み、人と直接会うことなく成立する仕事が増えており、「会う」ことの価値が変化している。進学塾VAMOSを経営する富永雄輔氏は、子どもの学校選びにも影響が及んでいるというが、一体どういうことのなのか。
『AIに潰されない 「頭のいい子」の育て方』(幻冬舎新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
「学校選びのポイント」が明らかに変わってきた
人と会う機会が減る「クローズドの時代」には、その分、「たまに会うことの価値」が大きくなります。
たまにしか会わないのだから、つまらないものにしたくない。確実に実のある時間を過ごしたいし、それができる相手と会いたいと思います。
こうした欲求に応えるのが、「コミュニティ」です。とくに、似たような価値観を持ち、似たような環境に置かれた人同士の「閉じられたコミュニティ」が、これから大きな意味を持ってきます。
塾の経営をしていると、今首都圏でホットなのは中学受験です。が、今後、一部の親たちの間で、小学校受験がより重要視されるようになるでしょう。
たとえば、慶應の幼稚舎(小学校にあたります)受験がその最たるものです。
そこを「お受験」させる親の期待は、子どもが「慶應大学卒業」という学歴を持つことだけではありません。慶應幼稚舎という閉じられた世界で構築されるコミュニティの一員になること。つまり、将来の人脈を得ることを求めているのだと思います。
慶應の幼稚舎に限らず、学習院、青山学院、白百合……など閉じられたコミュニティを持つ小学校に子どもを通わせるため、親自身がその校風を研究し、必死で面接試験に臨みます。それはなぜでしょうか。
「小学校から通えばお金もかかるし、大学から進学しても結果は同じじゃないか」と思うでしょうが、違うのです。
もちろん、大学から進学しても、いい学友はたくさんできるでしょう。しかし、小学校からずっと育まれている関係は、社会人になってからも強い繫がりを持ち、他人には入り込めない世界をつくり出します。
そして、多くの大事な場面で、彼らはその人脈を生かし、たくさんの成果物を手にするのです。さらには、その繫がりは経済的なことに留まらず、趣味など人生における楽しみの共有という大きな財産をもたらします。
学校の授業自体は、オンライン化が進めば進むほど格差がなくなっていきます。そのため、理解が早い親たちは、「どんな授業を受けられるか」というよりは、「そこで誰と知り合うか」を学校選びのポイントにしつつあるのです。
「子どもに英語さえ習わせれば」と思ったあなたは危険!
日本の大学のレベルやそこでの研究レベルは、残念ながら、どんどん国際的地位を失っています。同様に、企業の競争力も落ちています。
加えて、日本は少子化が進み、マーケットが小さくなっていきます。そのため、なにかヒット商品を開発しても、国内で売れる絶対数が限られます。
こうした状況にあって、子どもたちの将来を「日本限定」で考えるのは、大きなリスクになり得ます。
人口がもともと少ない韓国では、「そもそも国内で頑張ってもたかが知れている」ことがわかっているために、最初から世界に出て行く若者が多く、政財界から芸能界までたくさんの人がグローバルに活躍しています。
これからは、日本でもそうした視点が求められることになるでしょう。というより、そうしないと未来が危うい!
……と言いましたが、我が事として実感できていないのはみなさん世代までで、実は、若者たちはとっくに変わっているようです。サッカー選手の場合も、「まずは日本で活躍してから」ではなく、いきなりヨーロッパのリーグを目指す人が増えています。
同様に、灘や開成といった有名校の優秀な生徒の多くが、東大や京大を目指さず、大学から海外に行ってしまいます。東大から有名企業に入ることが成功のモデルケースだったのは、もう過去の話なのです。
今、世界中の企業が「優秀な人材」を欲しがっており、そこに国境はありません。一方で、醬油や味噌、和菓子、日本酒などをつくっているような日本の伝統的な企業も、新たなマーケットを求めて海外進出を果たしています。これまでのような「日本で働く」「日本企業で働く」というスタンスを保ち続けることは、もはや難しい時代なのだと思います。
海外にわたってグローバル企業に入るのか、自分で起業して世界的なビジネスを展開していくのか……。方法はさまざまでも、世界的視野は絶対に必要になってきます。当然のことながら、親もそういう時代だと思って準備をしなくてはいけません。しかし、そこで「英語さえしっかり学ばせれば一歩リード」と思ったら、その時点で失敗です。
語学はAIが代替できる代表的な分野です。自動翻訳機能はめざましい進化を遂げています。そこに膨大な時間を使うのはもったいない。そんな時間があったら、ほかの特性を磨かせるべきです。
目の前に「原石が転がっている」ことに気づかないのは、大人の罪だ
今、アメリカのメジャーリーグで活躍する日本人選手が増えています。なかでも、大谷翔平選手はご存じのようにメジャーリーグ史上初めて、満票で2回目のMVPを受賞したり、ホームラン王を獲得したりするなど、群を抜いた成績を収めています。
この大谷選手の大活躍ぶりについて、多くの評論家や関係者は、彼が「天才であること」に加え「努力家であること」を理由に挙げています。
たしかに、大谷選手が希(まれ)に見る天才であることは間違いないでしょう。そして、健康管理なども含めストイックに努力を重ねていることも事実です。
ただ、そこには、重要な視点が欠けています。彼が今、二刀流としてメジャーリーグで
通用しているのは、それを認めてきた大人たちがいるからです。
そもそも高校卒業時に、アメリカにわたり二刀流を貫きたいという希望を述べる大谷選手に対し、野球界の大半の人間が「プロでやっていくなら打者か投手かを選ぶべきである」と述べました。「ましてや、アメリカで二刀流など無理だ」と決めつける声も多く聞かれました。
さらに、大谷選手が日本のプロ野球で二刀流として活躍してからも、「これは日本でだからできたことだ」と言っていたり、メジャーリーグにデビューしてからさえも、「早く二刀流はおしまいにしたほうがいい」と言い続けていたりする人もいました。
彼らはべつに、大谷選手をディスっているわけではありません。良かれと思ってアドバイスしているのです。とくに、野球選手として大成した人は、自分の成功体験と照らし合わせ、確信を持って意見しているのでしょう。しかし、こうした成功者の意見にしたがっていたら、今の大谷選手はいません。
一方、当時ドラフトで大谷選手を1位指名した日本ハムの栗山英樹監督は、大谷選手の意向を尊重し、二刀流で活躍する道を拓き、かつアメリカに送り出しました。
栗山監督自身は、野球選手として大成功したわけではありません。だからこそ、自分をモノサシにして選手たちを測ることはせず、大谷選手の可能性を無限大のものと認めることができたのかもしれないと、私は考えています。
それにしても、なかなか栗山監督のようにはできません。たいていの大人たちは、自分の成功法則で若い人を育てようとします。そして、それなりに育てば「ほら、これでいいのだ」と考えます。しかし、その成功法則で育てていなければ、もっと大化けした可能性があることに、思いを馳せようとしません。
あるいは、最初から「こいつはダメだ」と決めつけていた人は、その相手がダメなのではなく、自分が潰していただけだということに気づきもしないのです。
野球に限らず、またスポーツに限らず、大谷選手のような天才はあちこちにいます。原石としてごろごろ転がっています。それを「俺の経験からすれば、これはただのつまらない石ころだ」と判断し、正しく磨こうとしない大人たちがおり、素晴らしい原石を潰しているのではないでしょうか。
文/富永雄輔 写真/Shutterstock
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