中学生時代イジメが原因で不登校に…そのとき出会った卓球でパリパラリンピックの頂点へ! まだデビュー1年、パラ卓球の超新星・和田なつき
集英社オンライン / 2024年8月21日 11時0分
〈【パリパラ】車いす女子バスケ 自力での出場権獲得は16年ぶり! チームを率いるキャプテン・北田千尋インタビュー〉から続く
明るい性格と人なつっこい笑顔の“愛されキャラ”。一方で、試合でも練習でも悔し涙を流す「負けん気」の強さを持つ。昨年、パラ卓球の知的障害クラスに彗星の如く現れた期待の新星。和田なつき選手だ。
ダイエット目的で始めた卓球
小学校でいじめを受けたことがきっかけで不登校になり、中学生になってからもほとんど登校できずにふさぎ込んだ生活を続けた。卓球との出会いはその頃だった。「きっかけはダイエットでした(笑)。お兄ちゃんの方が少し大きいのに、体重が同じくらいになって。『うわぁ、これやばい』って……」 そこで、大阪市長居障がい者スポーツセンターに行き、母親と共に始めたのが卓球だった。
「最初はおもしろくないし勝てないし…」と10分も続かなかったという。だが負けて悔しい気持ちが芽生えてきた。 「なんで勝たれへんのや」
悔しくて卓球サークルにも通った。それでも初めは障害者スポーツ大会の予選も勝つことができず、さらに泣いて練習したという。「泣きます、本当に。試合中でも練習でも泣きます。言われたことが体で表現できなかったり、思い描いたプレーができないことが続いたりすると”なんでー!って」
気持ちのままにあふれる涙は、負けん気と向上心の源泉でもあった。「最初教えてくれた人が、すごくボールタッチのいい人でした。それにチキータとか、カッコいい技をたくさん見せてくれて。自分もできるようになりたいな、次の試合で使いたいなって」
覚えたいと思ったことを次々と吸収し、それが成果につながっていく。 「勝てるようになって、次はこの試合で勝ちたいっていう目標ができて、それを1個ずつ達成してったら、もっといけるんじゃないかなって・・・それが続いてここまで止まらず来てます」
2023年に国内で初優勝をしてから、破竹の勢いで3つの国際大会を立て続けに制覇した。
覚醒のきっかけは「ボコボコにやられた」試合
短いキャリアの中では負け試合も重要な意味を持つ。負けた理由を分析し、強くなるための探究心を深め、技術を磨いていく。中でも2023年8月のタイオープンは大きな試練となった。香港のウォン・ティンティンに惨敗したのだ。
「自分のコンディション調整がうまくいかなかったこともあって、ここをこうすればいいとか、そんなことも感じられないほどボコボコにされました」 その後、落ち込みもした。
「このままじゃ勝てないと不安で、次どうやったらいいんだろう、何を変えたらいいのか」それくらい落ち込んだが、敗退して人の応援をするよりも、自分が勝ち残って応援されたいと強く思ったという。
「そのために頑張ろうと思って次のアジアパラに臨みました」
アジアパラでつかんだパリへの切符
そして2か月後、中国・杭州で開かれたアジアパラ競技大会(2023年10月)の舞台に立ち、圧巻のパフォーマンスを披露した。 「今までは攻撃をしなかったんですけど、攻撃を自分からする展開と、逆に攻撃はしないけどしっかり守り切る展開を、使い分けるようにしました」
研究は実を結んだ。 「動画を分析して、この子はこのサーブを出したらこう返してくるっていうのを考えながらやりました」
決勝戦の相手は、因縁のウォン選手。壮絶なラリーの応酬の結果勝利した。試合後、人目もはばからず涙を流し、そして自分に言った。「すごく、がんばった」
タイでの悔し涙とは違う、成長の証の涙だった。 「その子に勝つことだけを目標にやっていたので」 連戦の末、アジア王者となってつかんだパリへの切符。「もうパラリンピックの前に他の大会に行かなくていいんだ」とホッとした勝利でもあった。
「他の選手の方が私のことを怖がってる」
次に目指すものは、パラリンピックの金メダルだ。今年5月の国際大会では、最大のライバルである世界ランキング1位のエブル・エイサー(トルコ)に決勝で敗れた。
「世界ランキングの一桁台になると、実力差よりも、その日のコンディション、気候、湿気、温度、食事など、ベストなコンディションにもっていけた人が勝つんじゃないかと思っています。世界1位の選手がどんなレベルか知れたので、ここをこうすればしっかり点数取れるなっていうのはわかりました」
世界の頂点で戦う準備はできている。
「パリはまだ行ったことがない国で、規模も大きい大会だし、他の競技の選手もいるってのが楽しみですね」と初めてのパラリンピックを心待ちにする。 「“勝たないと”って気負わないで、一戦一戦を大事に挑みたい。急に出てきて、急成長しているっていう点では、他の選手の方が私のことを怖がってるぐらいかなと思うので、挑戦しに行くぞって気持ちでいます」
パラリンピック開幕翌日の8月29日が誕生日。負けず嫌いで泣き虫、恐れ知らずで笑顔がいっぱいの21歳が、世界の階段を軽やかに駆け上がっていくだろう。
取材・撮影/越智貴雄[カンパラプレス]
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