「小さいころ車いすを速く漕ぐと、危ないと怒られた」車いすラグビーの若きエース、橋本勝也の競技との出会い「死ぬまでやれるとピンときた」
集英社オンライン / 2024年8月28日 11時46分
〈中学生時代イジメが原因で不登校に…そのとき出会った卓球でパリパラリンピックの頂点へ! まだデビュー1年、パラ卓球の超新星・和田なつき〉から続く
東京2020パラリンピックを機に品川区につくられた「日本財団パラアリーナ」。車いすラグビー日本代表の錚々たるメンバーが集まる体育館だ。チームメイトと切磋琢磨するガッツあふれるプレーを見せているのが橋本勝也選手。チームの核となることが期待される若き次世代エースだ。
車いすに乗れば、無我夢中でラグビーできる
先天性の四肢欠損で、左右の手指は2本ずつ。3歳で太腿から下を切断した。以後車いすでの生活が始まり、ラグビーとの出会いは中学2年の夏だった。
「だれがこんなスポーツ考えたんだろう!」激しいぶつかり合いに驚いた。「タックルがすごくて、比較的障害の重い選手ばかりやってるし、本当に大丈夫なのかなと」だが実際に乗ってみて、そんな気持ちは消し飛んだ。「あ、なんだ行けるじゃん、って」
「小学生のとき、みんな足で速く走っていて、なので自分も車いすを速く漕ぐと危ないって怒られました。もちろんぶつかるのもダメ。だけど競技用の車いすに乗っちゃえば、全速力で走ってもタックルしてもOK、っていう環境にすごく刺激されました。全員車いすに乗っているので、何も意識することなく無我夢中でラグビーに専念できる。その非日常感が味わえるのがよかったです」
死ぬまでやれると“ピンときた”
すぐに夢中になった車いすラグビー。始めた時から世界を意識していたという。「スポーツをするのであれば、やっぱ一番を狙いたいっていう思いはありますね。この競技が自分の障害に合ってることがわかってきたし、これなら僕も世界一になれるのかなと」
これほど没頭できたものはそれまでなかった。
「ラグ車に乗ったときにピンとは来てたんですよ。この競技だったら長く続けられそうだなって。今まで僕って、何をしても3日坊主だったんです。でも、あっこれは本当にたぶん、死ぬまでって言ったら大げさかもしれないですけど、長く続けられそうって感じたんです」そして笑顔を見せる。
「それにやっぱ、タックルしたときに『すっきりするなー』『ストレス発散になるなー』っていう快感もありますね」
自分を変えた東京での悔しさ
競技を始めてわずか2年で日本代表に選出された。その後19歳で迎えた2021年の東京パラリンピックでチームは銅メダルに沸いた。しかし出場時間はチームで一番短く、自分のプレーに納得できないまま終わった。
その時、同じハイポインターで主力として活躍した池崎大輔は橋本の胸のうちをわかっていた。「『お前、悔しかっただろう。俺らは勝也に期待をしている。勝也にはそれだけのポテンシャルがあるから、俺らは待ってるから這い上がって来いよ』って言われました」
「思い起こせば、自分がどういうふうに考えてプレーしてたかっていう記憶が、あんまりないんですよ。部活の経験もないし、まわりの選手は年上で、コミュニケーションも自分から取れなかった。観客の前で試合することも慣れていなくて、頭が真っ白になりながらずっと来たというか」
だが池崎のこの言葉は頭から離れない。「今も覚えてます。もうその言葉を思い浮かべただけで、すげえ涙が出てきそうになるんです」。当時の悔しさがよみがえる。「刺さりました。自分自身に対する甘さをすごい感じて。意識もトレーニングメニューも一新しました。あの言葉がなかったら、今の自分はいないんじゃないかな」
世界一のプレーヤーになりたい
世界一のプレーヤーになるために必要なことを改めて考え抜いた。「1つ1つの大会に対して、目標を持ってプレーをすること。大会後には、新たに生まれた課題や改善点を自分なりに考えて、新たにトレーニングに向き合うこと。その繰り返しです」
目標を掲げるのは競技面だけではない。「尊敬するキャプテンの池(透暢)さんのように、何かあったらいつでも頼れるような、コートの外でもみんながついてきてくれるような人間になりたい。いいところを学んでいきたいですね。いつか先輩たちに『安心して引退できるよ』、『勝也に日本を任せられるよ』と思ってもらえるようにがんばりたいです」
自分自身にやれることをやりきる
「最近では、自分の成長を1つ1つの試合で感じることが、増えてきました。競技を始めてから今に至るまで、辞めたいと思ったことも離れたいと思ったこともないんですよ。1回も」
次の大舞台への思いも強い。「パリ大会で金メダルを取りたいという思いはあります。ただ、それはチームとしての目標です。自分自身がやれることをやりきった上でついてくる結果だと思っています」
金メダルという結果だけではなく、そこに至るまでのプロセスを大切に考える。「今持っているすべてを磨き上げ、最高の舞台で最高のパフォーマンスを出す。そのためのコンディションやマインドの調整が大事です」
目前のパリ、そして世界一への道。22歳の若きエースの挑戦は、始まったばかりだ。「僕の名前は勝也です。負けが似合わない男なんだなって自分で思いながらプレーしてます」と笑った。
取材・撮影/越智貴雄[カンパラプレス]
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