小4息子が不登校に…「心配より信頼を」追い詰められた母子を救ったカウンセラーの言葉に反響の声が続出の漫画『子どもが不登校になったのでいろんな人に頼ってみた。』作者インタビュー
集英社オンライン / 2024年8月31日 11時0分
小学4年生の息子が不登校になった際の経験を母親目線で綴った漫画『子どもが不登校になったのでいろんな人に頼ってみた。』。作中に登場するカウンセラーの言葉にSNS上では「目から鱗」と反響の声が続出した。文部科学省によると2022年度の小中学生の不登校児の推移が約30万人と過去最多に迫る中、母子がたどり着いた不登校克服の鍵とは何だったのか。作者の川口真目氏に話を聞いた。
【漫画】私たち親がやることは「学校に行かなきゃいけない」っていう価値観をブッ壊すこと!
コミュニティの不登校児の自殺未遂にショック受け 家から学校の概念を封印
――息子さんが不登校になった当時の心境をお聞かせください。
川口真目(以下同) 約2年前の小学4年生のとき、担任の先生と相性が合わず、1学期の5月の連休明けから急に学校に行けなくなってしまいました。学校で傷つく出来事があったことがきっかけで、どんどん元気がなくなっていく息子を傍で見ているのはすごく辛かったですね。
息子が「今日はがんばる」と言って学校に行こうとすると直前で頭やお腹が痛くなってしまって。
当時は本人も私自身も少なからず、「学校は行かなくてはいけないもの」と思っていました。息子は徐々に自信を失ってきてしまって、今まで当たり前にできていた一人の留守番や塾通いもできなくなってしまいました。どうしてこうなってしまったんだろうって私自身も相当追い詰められていました。
――息子さんが不登校の期間、お二人はどのように過ごされていたんですか。
息子はしばらく家に引きこもってゲームをするようになりました。私は知人に紹介されて地元の不登校の子どもを持つ親のコミュニティに参加したんですけど、そこで「子どもが自殺未遂しました」って話を聞いたのが衝撃的すぎて。自分が通っていたカウンセラーの先生に伝えたところ、「親が無理矢理連れて行くとそういうケースになるから今は休ませて」と言われました。
それがきっかけで、「学校は行かなくていいよ」とランドセルも上履きも教科書も全て倉庫にしまって、家から学校という概念を封印しました。息子の習いごとも全部休みにして、私も仕事をセーブして、「さっ、今日は何しようか」っていう毎日でしたね。
――子どもの自殺未遂の話はかなりショッキングですよね。
もうすごく怖くなってしまって。「学校なんて行かなくていい」って私自身が勝手に決めつけてしまいました。でも息子には「まだ答えが出てないから」とはっきり言われましたし、カウンセラーにも「お子さんは自分で答えを探しているし、迷って悩んでいるので待ってあげて」と諭されました。
私たち親は信じて待つというのがとても苦手なんですよね。復学を目的にしたビジネスが最近SNSで炎上してましたけど、復学もひとつの選択だし、私も意固地になっていたなと思います。それでフリースクールの見学に行ったり、不登校の子ども専門のカウンセラーを探したり、いろいろ調べたり、探していく中で「今は学校という概念を消して遊んだほうがいい」という選択が取れました。
提案し子どもに委ねる教育スタイルへ
――息子さんに変化が出たのはいつ頃だったのでしょうか。
不登校から2カ月経ったぐらいですね。徐々に外にも出かけられるようになったので、昔から好きだった科学館でプラネタリウムを見たりして一緒にたくさん遊びました。不登校ってよく「親のせいだ」とか言われて親御さん自身もふさぎ込むことが多いと思いますが、子どもって親のメンタルに左右されると思うんです。
だから、不安はあるんだろうけど、罪悪感を感じずに遊べるときは遊んで、楽しめるときは楽しんでほしいなって思いますね。
――そこからどのように不登校の状況を脱したんでしょうか。
外に遊びに行けるぐらい元気になったタイミングで、もともと通っていたフリースクールに通うようになりました。そこで大人と将棋で遊んだり、好きな算数の勉強をしたりして、大人が偏見なく寄り添ってくれたんですよね。そこから息子も自信を取り戻していきましたし、私と一緒に遊んだ期間も「学校に行かない僕でも、ママは嫌いにならないんだ」という安心感を感じていたらしく、徐々に大人への信頼を取り戻していきました。
――小学6年生の今では毎日学校に行かれているということですが、その後どのように復学されたんですか。
小学4年生のときは週1回、算数の先生のクラスだけ通っていたんですが、5年生で担任が変わったことがきっかけで、通えるようになりました。ただしばらくは「行けるときに行く」「しんどかったら帰る」という独自のルールのもとで登校してましたね。習いごとはすべてストップしてました。
――不登校の経験を通じて得たものはありますか。
息子自身は不登校の期間を通じていろんな大人と接したことで、決断力も付きましたし、「自分は他の子と違って大丈夫」と理解できたと思います。私自身は息子に提案はするけど、最後は自分で決めてねというスタンスに変わりました。不登校期間のカウンセラーの先生のアドバイスがなければ、今でもよかれと思ってアドバイスをし続けたり、待つということができなかったかもしれません。
不登校克服の鍵は「心配より信頼」
――ご自身の経験を漫画にしようと思ったきっかけを教えてください。
不登校児の自殺未遂の話にショックを受けたのがきっかけでした。真面目な親御さんほど、なにがなんでも学校に連れていこうとしてしまい、結果的に親が一番望んでいない方向へ行ってしまう。再登校するのも他の選択肢を取るのもすべて子どもが決めることで、子どもの本心を知ってほしいし、親や社会の「学校にいかない=悪」という価値観を少しでも緩めたいと思ったんです。
――作品の中で最もこだわったシーンがあれば教えてください。
カウンセラーの先生が話していた「心配は子どもの自信を奪う 信頼は子どもに自信を与える 心配より信頼をしてあげて」という言葉ですね。不登校期間を息子と過ごす中で最も心に響いた言葉です。これまで心配=愛情と思っていましたが、心配するほど子どもの自信を奪っていたんだなって。
――ただやはり心配してしまうのが親ですよね。
そうですね。でも心配って信じてないから出てくる感情なんですよ。学校に行くことを信じるのではなく、この子なら何があっても大丈夫って先に信じることで変わってくるんです。なぜ信じられないかっていうと「どうせ私の子どもだし」って親自身に自信がないからなんです。
信じるって本当に難しいけど、子どもを信じられるようになったら、自分自身も信じることができるようになったんです。日本人は知らぬ間に条件を付けて子どもを愛している人が多いと思います。学校に行く子ども、成績のいい子ども…そういう自分に気付くことができたのも大きな一歩でした。
――作品をSNSで公開されたところ、200万PVという大きな反響がありました。率直にどう思いましたか。
思っている以上に不登校で悩んでいる人は多いんだなという印象でしたね。不登校ってマイノリティっていわれてますけど、変わらない学校と変わり続ける人のズレが本質的な問題だと思うんで、マイノリティの問題ではないんですよ。大事なのは「学校に行く・行かない」ではなく、価値観をアップグレードしていくこと。そうしないと子どもも親も心を壊してしまいます。
私たち親がやるべきことは?
――変わらない学校と変わり続ける人のズレとは具体的にどういうことですか。
大企業に入ることが幸せ、組織に所属することが安泰という従来の価値観だったら、学校教育の中で、自主性よりも協調性を大事にしてみんなで同じことやるのは意味があると思うし、全然間違いではない。
でも今は大企業でも副業推奨されて給料カットされたり、フリーランスも増えてきている時代で、大事なのは自分で考えて自発的に行動していく人だと思うので、従来の教育スタイルでできるのかといわれたら難しいと思います。
――読者からの感想で特に印象に残ったものはありましたか。
不登校の経験者や親はもちろんですが、「不登校になりたかった」というコメントがとても多かったことですね。学校に行きたくなかったけど、無理矢理親に連れて行かされて、辛い思いを受け止めてもらえなかった心の傷は不登校児よりも深いのではないかなと感じました。あとは山口県の公立小学校の校長先生から「学校だよりで漫画を掲載したい」といわれたときはとてもうれしかったです。
――最後に現在不登校で悩む子どもや親御さんに伝えたいメッセージはありますか。
とてもしんどいと思うんです。ほとんどの親が「今が学校に行かせない方がいい状況だ」と分かっていても、「学校に行かせなきゃ」って思ってしまう。知らぬ間に人は「すべき」「しなくてはならない」という価値観に囚われてしまう。その最たるものが「学校には行かなくてはならない」という考えで、今までの価値観を変えることは仏の修行かってぐらい大変なことです。
でもそれを経験して条件なしで子どもを愛することができた時、世界が広がるし、自分自身も生きやすくなる。囚われていた「すべき」を崩せた時、親も子どももとても楽に生きられるんじゃないかなって思います。
取材・文/集英社オンライン編集部 イラスト/川口真目
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