「えっ…これが運動会なの?」徒競走なし、応援団なし、順位づけも勝ち負けもなし…競技数も時間も“縮小”する令和の運動会。親たちのホンネは?
集英社オンライン / 2024年9月8日 9時0分
秋の運動会シーズンが始まる。年々深刻化する暑さの影響で、一学期ではなく秋の開催に変更する学校も増えた。コロナ禍前のように「全学年で一日がかり」の運動会に戻す学校がある一方、多くの学校で運動会の縮小が進む。「モンスターペアレントが、徒競走の順位づけにクレームしたから?」などという説も聞くが、実際は、どんな事情があるのだろうか。前編では、保護者の本音を取材した。
徒競走「教員が全員分を写真判定」
熱中症予防やコロナ禍による運動会の中止・縮小…。中学生の子を持つAさん(50代)は、毎年スタイルが変わる小学校の運動会に6年間、翻弄された。
1年生のときは、長年行われてきた「全学年で一日がかり」の運動会。大規模校で人数が多く、観覧ルールもわからなかった。児童はお弁当を持って登校し、冷房のきいた教室で食べる。来られない親もいるだろうから、昭和時代のように家族ごとで食べるより合理的だと思った。
Aさんは、自分の子がどこにいるか探すので精一杯だった。グラウンドの土煙の中、来賓席や本部のテントの間をぬって、望遠レンズで探す。事前に競技ごとの場所を知らされていても、同じ体操着で髪型も似た子ばかりで見つからない。
大人数の運動会の洗礼を受けた。それでもフォーメーションが変わり、一瞬だけ最前列に出てきた際に、笑顔で踊る我が子を見つけて感動したという。
2年生のときは、気候の変化による熱中症が問題になった。練習やリハーサルの時から、熱中症で倒れる子が相次いだ。当日も児童は炎天下で待たされた。
Aさんが気になったのは、徒競走の際に、ゴール地点の先生が1列ずつタブレットで撮影し、順位を写真判定していることだった。大変な手間と時間がかかる。他学年の先生も加わって判定にかかりきりになり、児童のことは見ていない。その間、具合が悪くなる児童が続出し、保健室は満員になった。
意見が割れる運動会のありかた
そして、コロナ禍に突入した。Aさんの子が3年生のとき、運動会はなかった。4年生になって、「体育授業の発表」という名目で、学年ごとに区切って開かれることに。競技は、順位をつけない徒競争とダンスのみで、団体競技はなし。
「この形式が、とても快適だったんです。遮るもののない校庭で、観客も保護者だけ。子どもたちの近くで見ることができました。進行は早すぎるぐらいで、子どもたちも体調を崩すことなく終えられました」
5年生のときも同様に、学年ごとの開催だった。徒競走は順位をつけないので、以前ならリレー選手に選ばれたような足の早い子がモチベーションをなくしたのか、ふざけているのが見られた。
6年生になると、新型コロナがインフルエンザと同じ5類になったこともあり、規模を拡大して2学年ずつ行なうことになった。団体競技や、組体操の手つなぎも一部、復活した。さらに、許可証を持っていれば祖父母や地域の人も入れるようになった。
「その結果、親以外の人が最前列をとってしまい、見づらかった。運動会は、保護者が主役である子どもたちの姿を楽しく見られる場であってほしいと思います」
「弁当を作らなくていいから楽」「PTA種目がなくなり手間が減ってよかった」「うちの子は毎年、運動会シーズンになると練習の疲れから体調不良になっていたけど、それがなくなった」といった運動会縮小に“肯定派”の声はAさん以外にも複数聞こえてきた。
一方で、運動会の縮小に、反対の意見も多くあった。小・中・高生の母・Bさん(40代)は、にぎやかな運動会に戻してほしいと願う。
「足の早いい子にとっては、1位になって尊敬される徒競走やリレーがなくなり、つまらない。それに上の子は、コロナ禍前に応援団に参加して楽しそうだった。順位づけや応援合戦を復活させないのであれば、運動会を縮小しないエリアに引っ越したい」と、真剣だ。
都内公立小5年生の母・Cさん(30代)も、縮小された運動会に寂しさを感じている。
「娘が小学校1、2年生のときはコロナの影響で運動会が中止に。小3のときに初めて運動会を経験しました。コロナ禍以前、娘の学校ではお弁当を持参して一日がかりで運動会を行なっていたみたいですが、コロナ禍以降は半日開催になりました。
娘の学校は児童数が多くないので、半日で全学年一斉に行います。種目は徒競走、リレー、ダンス、組体操の4つだけです。お弁当も作らなくてもいいから楽ですけど、『私たちが子どもの頃の運動会に比べて活気がなくなったなぁ』となんだか寂しい気持ちになります。やっぱり、いろいろな競技を通して娘の成長を見たいじゃないですか」
お祭りみたいな一大行事だったのに…
中でもCさんは、6年生が大トリで披露する組体操がなくならないでほしいという。
「毎年、楽しみにしています。最近、ケガの危険があるという理由から、組体操を種目から外す学校が増えてきていますが、昔からこの地域に住んでいるママ友は『学校の伝統だからなくさないでほしい』と言っています。
これは、ママ友の中でも意見が割れていて、『危ないし、もしケガをしたら勉強に差し支えるからやめてほしい』と言っている人もいます。私は残してほしいですね。もし、組体操をなくしたら『代わりに何をやるの?』という感じです。私の娘も来年6年生になるので、『早く私も組体操やりたい』と言っています」
長男が都内公立中2、長女が都内公立小2の母・Dさん(30代)も、コロナ禍以前の一日がかりの運動会が楽しみだった。
「小2の娘の運動会は、上の子のときとは大違いでびっくりですね。あまりの違いに戸惑いました。『え、これが運動会なの?』って。上の子が小学生のときは、コロナ禍前だったので、運動会は全校児童で行う一大行事でした。小学校の運動会って幼稚園や中学校にはない、お祭りみたいな感じがあったんですよ。
場所取りとか面倒なこともありましたけど、PTA種目や保護者同士の交流もあって楽しかったです。何より、子どもの様子を1日参観できる行事ってあまりないじゃないですか。だから、毎年家族みんなですごく楽しみにしていました」
それが今は、教室でお弁当を食べるし、2学年ずつに分けての開催なので時間も短いし、参観できるのは両親と祖父母のみになってしまった。学年によって集合時間と解散時間が違うので、兄弟がいる子は終わるまで教室で待たされるという。
“縮小化”が進む運動会に、親たちは「時代の流れで仕方ない」と一定の理解はしながらも賛否は割れていた。では教師たちはどうだろうか…後編では教師たちの“ホンネ”を聞いた。
取材・文/なかのかおり 集英社オンライン編集部ニュース班
〈〈モンペのクレームが原因じゃなかった〉「徒競走も順位づけもナシ」規模も縮小された令和の運動会…教師たちのホンネは「正直すごく助かってます」「他の授業を削る必要がなくなった」働き方改革の影響も〉へ続く
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