〈世界アルツハイマーデー〉新薬レカネマブが使用できる病院が増加、数年後にはさらなる光明も? それでも予防が一番大事…タバコ、お酒が好きな40、50代は要注意!
集英社オンライン / 2024年9月21日 10時0分
本日、9月21日は「世界アルツハイマーデー」である。これは1994年の同日に開催された第10回国際アルツハイマー病協会国際会議に由来し、認知症の啓発活動が行われている。全世界で5500万人以上が罹患しているといわれる認知症。昨年2月に人気映画俳優のブルース・ウィリスが前頭側頭型認知症を公表したことは、日本でも大きな話題となったが、今回は総合東京病院認知症疾患 研究センターのセンター長である羽生春夫氏に、アルツハイマー型認知症の治療の最新事情や対策について話を聞いた。
新薬は症状を遅らせることが可能
そもそも認知症とは、脳の病気により神経細胞の機能が低下または死滅し、記憶力や判断力が衰え、日常生活に支障をきたす状態を指す。
認知症の発症原因として最も多いのがアルツハイマー病で、全体の6割以上を占める。アルツハイマー病は「アミロイドβ」というタンパク質が脳に蓄積することで引き起こされる。
通常、アミロイドβは日々産生と分解を繰り返し均衡を保っているが、生活習慣などの要因により分解量よりも蓄積量が上回ってしまう。その結果、アミロイドβの毒性により神経細胞が死滅し、脳が萎縮して、さまざまな障害が発生するのだ。
認知症は長年「不治の病」とされてきたが近年、新薬「レカネマブ」と「ドナネマブ」の登場により、大きな転機を迎えている。これらの新薬は蓄積したアミロイドβを除去する効果があり、認知症の発症を遅らせることが可能だ。
「新薬による治療の効果は、アルツハイマー型認知症の発症前段階である軽度認知障害(MCI)や軽度の認知症に限られます。この段階で治療を開始し、症状の進行を2〜3年遅らせることができれば、医療費や介護費用、家族の介護負担をその分軽減できます。新薬の投与により、患者さんはより長く自立した状態を保つことができ、あるいは周囲からの最小限のサポートで生活を送ることが期待できるでしょう」(羽生春夫氏 以下同)
認知症によって引き起こされるBPSDと呼ばれる周辺症状には、徘徊、暴言、抑うつ、妄想、幻覚などがある。これらの症状が現れる前の段階で抑制できれば、ケアの負担は減少する。完治には至らないものの、新薬がもたらす医療効果は、患者とその家族にとって非常に大きいといえるだろう。
日本ではレカネマブは2023年12月に保険適用となり、ドナネマブは今年中に保険適用される見通しだ。薬価は高額だが、「高額療養費制度」を利用できれば、所得によっては月に数万円の負担で済む。
先に承認された「レカネマブ」は厚生労働省も周知に努めており、全国各地の病院でも少しずつ使用ができるようになってきている。
このように認知症の根本的な治療への兆しはわずかながら見えつつあるものの、新薬を投与しても一度失われた細胞は戻らないのが現状だ。適切な治療を行なうためには、認知症の初期症状を見逃さず、早期発見することが極めて重要であるといえる。
初期症状のチェックポイント
アルツハイマー病の主な兆候は記憶力の低下だ。加齢によるもの忘れとの違いは、日常生活に支障がでるかどうかである。加齢によるもの忘れの場合、昼食の内容や友人との待ち合わせ場所など、体験の一部を忘れる程度にとどまる。
一方、認知症によるもの忘れでは、食事をしたこと自体や友人との約束そのものを忘れてしまう。さらに、認知症の場合は忘れたこと自体を認識できないことが多い。
このように、加齢によるもの忘れと認知症によるもの忘れの違いは比較的明確である。ただし、アルツハイマー病の症状はゆっくりと進行するため、初期段階では加齢によるもの忘れと認知症によるもの忘れの判別は専門医による問診でも困難だ。
発見するには検査が必要になるため、以下のような症状が増えていく場合は、医療機関の受診を検討する必要がある。
なお、病院を受診する際は、いきなり専門の医療機関を受診するのではなく、まずはかかりつけ医に相談し、紹介状を得るのがよいという。
「紹介状なしで総合病院を受診すると、医療費とは別に選定療養費が加算されることがほとんど。そのため、まずは地域の診療所やクリニックを受診するのがおすすめです」
初診の段階では医師が問診や神経診察を行い、認知症が疑われる場合は画像診断を行う。患者や病院の方針によって、MRI、CTスキャン、脳血流SPECT(スペクト)といった検査が行われる。いずれも保険適用で3割負担時の費用の目安は以下の通りだ。これに加えて、その他診察料などが発生する。
最近は地域の自治体が「もの忘れ相談」を実施している機関を紹介していることが多く、かかりつけ医がいない場合も早期のもの忘れチェックができる。
認知症かどうか判断に迷った時に病院に行くのは大げさと感じる人も、もの忘れ相談なら気軽に利用しやすい。無料で相談できる場合も多いため、住んでいる自治体のホームページを確認してみるとよいだろう。
認知症は40〜50代の生活習慣が原因に
早期発見だけでなく、発症の原因を知り病気そのものを予防することも重要だ。
アルツハイマー型認知症は主に65歳以上で発症することが多いが、40〜50代の生活習慣が大きく影響するという。予防するには、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の対策が必須である。過度な喫煙や飲酒をしている人は特に注意が必要だ。
脂っこいものや炭水化物を過剰摂取するような偏った食生活を避け、適度な運動を行なうことで肥満を防ぐことも忘れてはいけない。また、慢性的な睡眠不足やストレス蓄積もリスクを高める。定期的に血圧や血糖値のチェックを行ないつつ、生活改善に努めることが推奨される。
「認知症予防の基本は、運動習慣、社会活動、余暇活動を充実させることです。運動習慣は、アミロイドβを分解する酵素の活性を高めるため、アミロイドβが蓄積しにくくなると言われています。さらに、コミュニケーションを取ることや脳に刺激を与えることが、脳内の保護物質を増やすのに役立ちます」
高齢で退職すると自由時間が増える反面、日常の刺激が減少する。家に一人で引きこもると、認知症発症のリスクが高まってしまう。そこで、趣味を通じて社会交流を積極的に行なうことが重要だ。
例えば、囲碁好きなら碁会所へ、麻雀なら雀荘へ、また社交ダンスやお花教室に通うのもよい。友人との談笑や散歩、カラオケも予防に効果的だ。身体機能が低下している場合は、デイサービスで体操などの運動やおしゃべりを楽しむのも一案だ。
両親が自発的に外出しない場合は、買い物や小さなイベントに誘い出すのもよいだろう。
今後もしばらくは認知症対策は、早期発見・早期治療、そして予防が最も重要だと言えそうだ。だが羽生氏によると、今後は更なる医療の進歩と規制の緩和が予想されているという。
「アルツハイマー病では、アミロイドβとともに『タウ』というタンパク質が蓄積して脳に問題を引き起こします。タウに対する抗体薬も近い将来登場する見通しがたっています。アミロイドβだけでなく、タウも抑制できれば、アルツハイマー病の予防効果は大きく向上するはずです。また、現在の治療対象は軽度認知障害に限られますが、数年後には、認知機能検査で異常が見られなくても、脳内にアミロイドβが蓄積していれば保険適用の上の治療が可能になると予想されています」
早期治療を実現できれば、認知症の進行をさらに遅らせることが期待できる。健康的な生活を心掛けつつ、認知症が完治する新薬の登場を待ち望みたい。
写真/shutterstock
取材・文/福永太郎
取材協力/羽生春夫(総合東京病院認知症疾患研究センター)
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