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「何様?」超高級シニアマンション理事会がコロナ禍で独自ルール強要、新規入居可否に口出しも…その強すぎる“使命感”「管理会社におんぶに抱っこじゃ始まらない」

集英社オンライン / 2024年10月21日 8時0分

スタッフを電話で呼びつける姿はまるで“上司”…超高級シニアマンションで幅を利かせる理事会メンバーらが自画自賛する“施設への貢献度”〉から続く

全室オーシャンビューという抜群のロケーションが人気の超高級シニアマンション「熱海レジデンス」(仮名)。入居者による管理組合の理事会メンバー達は、施設内の様々な改革を主導してきたと満足げに語る。さらには、新規入居者の受け入れにまで口を出しているという…

〈画像〉徳川さんたち住人が、自画自賛する“功績”とは…

理事会の絶大な影響力を示す数々のエピソードを『ルポ 超高級老人ホーム』(ダイヤモンド社)より、一部抜粋、再構成してお届けする。

「理事長は“殿”」力を持ちすぎた理事会

徳川さん(仮名、管理組合の前理事長)は「私は5年間、(理事長に)居座ってて大したことしなかったけど」と謙遜しながら、「皆さんよく働いてくれた」と一同を労(ねぎら)った。

その話ぶりを見て、管理組合の理事長は、まさに“殿”的な立場なのだという印象を受けた。殿は言うまでもなく、徳川さんだ。

殿の周辺に数字が得意というような特殊技能に優れた重臣らが集まり機能しているのが、この施設の理事会である。

ここにはスペシャリストが揃っているのですね、と徳川さんに水を向けてみた。

「いえいえ、そうですね。酒井さん(仮名、管理組合の元副理事長)は、どっちかというと塩ビ(ポリ塩化ビニル)のスペシャリストで。温泉の管なんていったら、この方が一番詳しい」

ずいぶんとマニアックな話だと思った。徳川さんの話に相槌を打っていた私を見ながら、酒井さんは「そんな、感心するほどのことでも」と謙遜した。

徳川さんが続ける。

「酒井さんは、日東関係でしたっけね? 日東化学の子会社関係の、石油化学のプラスチックメーカーの」

「私は普通の技術者ですね」

「でも、工学部出身で助かってますよ。奥様は同じ会社にいたんですよね。で、井伊さん(仮名、〈メンバー会=居住者の会〉の監査役)のご主人はさっき話したように霞が関の官僚で森林関係の仕事。アマゾンを歩き回ってた人ですから、すごいですよ。奥さんは、そこにアルバイトに行って知り合いになったというね。私の家内もニューヨークが2年半。私と結婚してからロンドン、オランダと15年くらい外に出ていました」

彼らの話から、理事会が施設の諸問題について取り組んできたことはよくわかった。

A4用紙(取材のために用意された、理事会の“実績”を記した資料)に書かれていた次の一文を読んでも、理事会メンバーの使命感のようなものがひしひしと伝わってくる。

〈管理会社に「おんぶに抱っこ」では何もはかどらない〉
〈予算をケチって修繕を怠ったことはない〉
〈先行きの修繕費には不安は一切ない(28年の大規模修繕も25年度あたりで資金手当てのめどがついており、世間・マスコミを騒がせている修繕費不足の問題は当館にはない)〉

だが、こうした理事会が力を持ち過ぎたとしたらどうだろうか。管理会社や他の居住者との間で、軋轢(あつれき)や摩擦を生まないだろうか。そんな疑問が浮かんだ。

これまで高級老人ホームを取材してきて、これほどまでにパワフルな理事会は見たことがなかった。

そしてこの後、徳川さんらの話に耳を傾けると、理事会がただの理事会ではなくなっているのではないかという思いが確信に変わってきた―。

コロナ対策でも主導権「非常住者は入館禁止」

その一つが、理事会が進めてきたコロナ対策だ。

熱海レジデンスでは、常に拠点として生活をしている常住者が約130人。それ以外の非常住者は50名強いる。

そうした非常住者は同施設をリゾートマンション代わりに使っており、週に1度訪れる者いれば、滅多に姿を見せない者もいるという。

コロナ禍が始まった頃、日本中で不要不急の外出の自粛を求める騒ぎが起きた。お家の一大事である。当然、この施設で暮らす常住者は、コロナに警戒しながら生活を送っていた。

当時のことを徳川さんが回想する。

「コロナのときはね、非常住者を制限しちゃいましたからね。東京から来るなって言ってね」

都内だけではなく、熱海以外から戻ってくる非常住者の入館を理事会が禁止したというのである。もちろんシニア向け施設であるがゆえ、コロナ対策に特別な警戒心を持つのは当然だろう。

しかし一方で、この施設は所有権分譲方式であり、言うまでもなく購入した居室は区分所有者の持ち物である。コロナ禍のため、都会よりも安全な熱海へ避難しようと考えた人もいたはずだ。

徳川さんが中心となった理事会メンバーが、そうした人たちの立ち入りを禁じるというのも、少々強引ではないか。事実、「何で自分の部屋に帰ってはいけないのか」とクレームになったこともあるそうだ。 

こうした判断を、管理会社ではなく理事会主導で行っていることに驚かされたのだが、徳川さんは他にもコロナ禍でのルールを自分たちで決めたとし、こう胸を張った。

「それから常住者の子どもは(入館しても)いいけど孫はダメ。一親等までというのも我々が決めました。運営会社は何も決めないから」 

さらに驚いたのは、理事会が購入希望者の受け入れに関わっていることだった。

この施設を購入しメンバー登録ができるのは55歳以上という決まりがあることは前に触れた。高齢者向けの介護サービスを提供するにあたり、そうした年齢の下限を設けている施設はそう珍しくない。一方で、年齢の上限はない施設が大半だ。この施設でも、従来は何歳でも購入希望者を受け入れていた。

ところが去年、年齢に上限を設けたほうがいいという案が理事会で持ち上がったようだ。

理事会が新規購入者に突き付ける“条件”

徳川さんが続ける。

「ここでは、部屋の購入時は健康であることが条件になっています。ですから去年、上限の目途を80歳とか85歳くらいにしようという話が出て、85歳までとしました。まあ、元気そうだったらいいんだけど、85歳でここへ来て、10年経ったら95歳でしょ。うーん、やっぱり役に立ってもらわないといけない。こういう組織なんだから、理事やったりしてもらわないと。家内もメンバー会の会長をこの前までやっていましたし」

85歳で入居し、数年後には役員になるのが逆に可哀そうだと徳川さんは言った。施設に役立って、みんなで支え合わないといけないと強調しながら、こう続けた。

「役員をできない方は、協力金(を支払ってもらうこと)も考えなきゃいかんかなと。それはまだ導入はしてないですよ」

理事会の力が絶大だというエピソードは他にもある。

「今、我々でやっているのは、購入希望者との面談。面談というか説明ですね。こういう館(やかた)なんですよ、と。何か聞きたいことありますか、合わなければ(購入を)やめてください。合うんなら、どうぞということをやってます」

 徳川さんの話によれば、購入希望者はまず、運営会社側の施設責任者と面談を行うという。入館時は「健常者が条件で、杖をつく人も基本的にはダメ」だと話す。さらに螺旋(らせん)階段を昇降する“運動テスト”まで実施しているという。

また、面談では人となりを見たりしながら、「外観評価表」なるものを記入する。

それが終わると次に、徳川さんら理事会メンバー2名との面談があり、その面談結果は先の「外観評価表」に反映されるというのだ。

そうした面談結果を受けて入居を断るケースもあるのだろうか。再び徳川さんに聞いた。

「ええ、あります。我々に断る権利まではないんですけど、『あの方はちょっとまずいんじゃないの』と。見てくれとか、そんなんじゃないですよ。やっぱり物腰や態度。ちょっと特殊かもしれませんね。面談のときには『入ったら管理組合かメンバー会の役員をやってもらいますよ』とお願いします。そのときはみんないい顔をして『はいはい』って言うんですけど、逃げ回りますよね」

入居後、理事会やメンバー会の役員をやりたくない人も多いという。そうした新規購入者が最近は増えたそうだ。

「結構ね、私せっかちだから、週に3回くらい理事を集めるんですよね。自分も大変なんだけど、理事さん方も大変ですよ」

そう徳川さんが言うと、徳川さんの妻がこう続けた。

「ボケ防止というか頭の回転というか、何にもしないでサークル活動をしているだけというよりは、生き生きと暮らせるというのはあるかもしれませんね、皆さんの役に立つという意味でもね」

文/甚野博則
写真/PhotoAC

ルポ 超高級老人ホーム

甚野博則
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2024年8月7日発売
1,760円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4478119242

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